ピンチ、そしてピンチの始まり
ヘリ・クラスレスは可能な限りのスピードを出し、フォーククローをパージしバラトゥースを地面へとたたきつける。
しっかり食い込んだクローを重しにしてダメ押しにカウルもパージしてぶつける。
そして4連装のミサイルポッドを両腰に装備、同時に全弾発射した。
爆炎に包まれるバラトゥースだが、ケレスは嫌な予感がしていた。
「いける訳がない! いつ来る!?」
油断できなかった。
相手の経験は豊富で、こちらは素人故にうまく当たらなかった可能性がある。
上空でホバリングをしながら、様子をうかがう。
案の定立ち上がるバラトゥース。
大きく損傷しているものの、その動きはしっかりしている。
リペアシルクを纏いながら放たれた雷撃は、的確に右肩のヘリを破壊した。
すぐさまパージし再度生み出そうとケレスは魔力を込めたが、発動しない。
「やばい! 同じ物はすぐに生み出せないのか!?」
左肩のヘリのみでバランスを取りなんとか着陸。
ローターをシールドにすることも考えたが、やはり重さで動きが鈍るためパージする。
今ある武器はあらかじめ生成した拳銃型キャノン二丁、下手に生成を試せばその隙を狙われるだろう。
「素人が、侮るんじゃ無いよ。その声、あの桃髪の小僧だね。
邪魔するのならあんたも同じ目に遭わせてやる!」
猛スピードで向かってくるバラトゥース。
その無駄の少ない動きは、バーニアも無しにそれに匹敵するスピードを生み出していた。
「マジか! この!」
牽制として、キャノンを乱射するクラスレス。
リロードにより魔力が減っていく。
全て狙い通りの軌道だったのだろうが、ことごとくリペアシルクの材料と化す。
30発は撃っただろうかと言うときに、距離を詰められ血塗られたロッドが振り下ろされる。
それは避けられたものの、蹴りがクラスレスを襲いキャノンを取りこぼす。
「動きがでかすぎるのさぁ!」
ロッドの猛攻を避けるだけで精一杯だった。
それもすぐに力尽き突き刺さるだろうが、ケレスは限られた時間、思考を止めなかった。
バラトゥースのロッドを持つ腕めがけ掴みかかる。
一番の脅威であるロッドの突きであれば、これで防げると考えたのだ。
「小細工はやめな!」
重心移動により、振りほどかんとするバラトゥース。
思考のさらなる時間を稼ぐため、必死でしがみつくクラスレス。
同じクラスレスのJOBだが、魔力はコンフィよりケレスが上だろう。
しかし早いペースでケレスは魔力を失いつつあった。
JOBを無駄なく動かせるのはコンフィだ。
そしてバラトゥースのリペアシルクはケレスのクラスレスを取り込まんとしている。
なにゆえか武装が出てこない今は、不味い状況のままであった。
そのときケレスは気づいた。
一度に生み出せる武装の量に制限があるのではないか?
既に生成した物は、パージされたらずっとそこに置かれたままなのか?
もしかしたら戻すことはできないか?
ケレスはこの3つに気がついた。
ここまでパージしてきた物が、今この機体の周りにあるイメージを浮かべる。
それで来た物は、最初のバーニアのみだった。
距離が離れていないと転送はできないようだ。
「えぇい! 今はこれで!」
次に還元を試す。
これはすぐに効果がでて、バーニアが光になってクラスレスに戻る。
そして数を2発に減らして威力を大きくしたミサイルを両肩に1機ずつ生成に成功した。
「ゼロ距離だ! 食らえ!」
クラスレスごと爆炎がバラトゥースを包んで吹き飛ばした。
こちらも大ダメージではあるが隙はできた。
すぐに転がっている位置を把握し、武装を回収して対物ライフルを生成し、煙が晴れた後バラトゥースを確認出来た瞬間に連射を開始する。
着弾後すぐに還元しているため、何十発もの直径12cmはあろう弾丸がバラトゥースを襲い、鎧を剥がされたフレームをへこませていく。
「なっ・・・・・・この桃髪がぁ!」
胸部に着弾したその瞬間。
綿毛のような物がはじけるような音と共に、バラトゥースのあちこちから飛び出たのを見て撃つのを止めた。
コンフィが驚愕と絶望の声をあげる。
「バラトゥース!?」
これも聞いたことではあるが、リペアシルクの塊が出たら強制的にシェムジェムに帰るそうだ。
つまりケレスは無力化に成功したのだと思った。
「いや。なんだ。・・・・・・良い子だバラトゥース!」
しかしコンフィは笑みを浮かべ、ケレスに通信を入れる。
「桃髪坊主! 良い物見せてやるよ。
『我答えたり! 汝、司るは紫電!
その位階は魔道士! 数多の知識を持って我と共にあれ!
変われ! 凄まじき骸よ! バラトゥース!』」
周囲の地面をリペアシルクが吸い取っていく。
やがて増えたそれは繭を作り出す。
そして繭が破かれたとき、底には先ほどとは別のJOBが存在していた。
JOBの具体的な大きさはまだ決めていません。