JOB召喚、戦闘開始
リーシュは逃げる事しかできなかった。
家を砕き、畑を踏み荒らし、同じく自分を追う同士までも踏みにじってまで追ってくるのでは、切り札を切る時間など無い。
できる事は動けない人が多い入り口付近から遠ざかる事。
自分しか追ってこないためそれ自体は簡単だった。
「これが一番ましだ。結局原因は私のようだから。
しかし、その後はどうした物か。」
町は堀に囲まれていて、出入り口は一つ。
つまりこのままだと追い詰められ、町の中で捕まる。
そうなれば逃げた人達に、あの脅威の怒りの矛先が向かうかもしれない。
水路橋からも出ようと思えば可能だが、今の状態では間違いなく破壊されるので絶対に避けなければならない。
『どうにか捕まらず』『できるだけ町に損害を与えず』『安全に切り札を切る』今の彼女には難しかった。
JOBに乗っていた男の遺体を漁るケレス。
収穫の季節といえどもすでに死臭があたりに漂っていた。
この時勢に旅をしていればすぐなれる匂いだったので、血で真っ赤に染まり保護色となっていたシェムジェムを見つけ出すのに時間はいらなかった。
「JOBはよく解らないが、これに賭ける!」
すぐさま開けたところへ移動し故郷で旅人に習った詠唱を始めた。
「よし!詠唱は確か・・・・・・『我、汝の繰り手なり! 答えよ!』」
手で包んだシェムジェムが激しく発光、ケレスの右手に契約の証が浮かび上がる。
呪文が頭に入り込み、すぐさまケレスは召喚する。
『汝、司りしもの、位階、名、全て無し! 出でよ、凄まじき骸!』
ケレスがジェムに吸い込まれ、クラスレスのJOBが姿を表す。
傷は全て塞がり大地をしっかりと踏みしめる。
その表面にはハードポイントのような物がいくつも付いていた。
繰者死亡による契約抹消の後、再契約で作り直されたが故に名は無い。
「いいぞ! こういうこともできるのか、試してみよう」
ケレスはバーニアを思い浮かべた。
JOBが乗り物に含まれるのか、殺傷武器以外も対応するのかを確認するためだ。
可能であれば、早くたどり着ける。
アンダルスの時のように魔方陣がクラスレスを包む。
魔力の消費は馬の比ではなかったが、背後に戦闘機の後ろ3分の1が縦に4つほど並んだような物が装備される。
「点火! いけぇ!」
青白い炎を吹き出しながら高速で吹き飛んでいくクラスレス。
制御不能故すぐに切りパージする。
「これじゃダメだ! 早さより確実に飛べる事を考えないと!」
今度はヘリコプターを両肩に一機ずつ。
運ぶために足にはフォーククローを。
そして可能な限り抵抗を減らすため、胸部にカウルを装着した。
空いている手には拳銃型のキャノンを二丁持っている。
魔力はさらに減ったが構うことはないと言わんばかりにローターを回転させ、クラスレスは飛び立った。
「さぁ、ここまでだよ小娘! まずは尻から腑絞り出してやる!」
ついにリーシュは明らかに正気を失ったコンフィに堀まで追い詰められた。
降りても良いのだが、バラトゥースも収まるほど大きな堀なので、逃げ場が無いのに変わりは無い。
「詠唱は許さないだろうな。だが、町にいるよりはましか」
覚悟を決めて底まで行こうとしたそのとき、ばたつかせるようなと共にJOBが空から現れた。
高速で礫のような物をバラトゥースへと放ち、そして足に備え付けられた爪のような物で運んでいった。
JOBは地を駆ける物だと思い込んでいたリーシュは、信じられないという表情をした。
しかしすぐに正気に戻り、次に備える。
「何だあれは? ・・・・・・しかし今が好機だ」
懐から青い宝石を出し詠唱を開始する。
『汝、司るは激流! その位階は戦士!
その剣と盾を振るい、我と共にあれ!
出でよ、凄まじき骸! 『ボルティーダ』!』
シェムジェムを掲げたリーシュを中心に大渦が巻き起こる。
すぐに繭のような形にまとまり、リーシュごと上空へ飛んでいった。