巨兵、女主人の僕なり
「いたぞ!捕まえろ!」
ケレスの後方で声が上がり、それを合図大勢の人が近づいてくる。
「えぇい! 正当防衛!」
掴みかかってきた男の手を振り払い、鳩尾に蹴りを入れる。
すでに取り囲まれているので、襲いかかる者達に反撃を食らわせる。
目潰し、金的、延髄蹴り、シャイニングウィザードに巻き込みフランケンシュタイナー。
だが老若男女問わず群衆の中にやけにタフな、頭部から大量に血を流しながらも猛烈に襲い来る者達がいたので、ケレスは押さえ込まれてしまった。
「へぇ、心がけが良いじゃねぇか。それ、とっととよこせ。」
押さえ込まれつつ連れてこられたケレスは少なくない人々が転がされているのを見た。
その中にはロドマー達と、知らせてくれた男もいた。
その向こうでは盗賊の親分が引き渡しを要求する。
「あぁ、渡してやるさ。でもね、言いなりになるなんて思われたくないからね。
ちょっとだけ、怖い目に遭って貰うよ。」
コンフィが懐から紫の宝石を取り出した。
「汝、司るは紫電! 汝、位階無し!
出でよ凄まじき骸! 『バラトゥース』!」
上空に投げられた宝石に、コンフィが吸い込まれていく。
宝石を核に燐光のラインが走り、膝から足が、肘から手が、胸から腰が生えた頭でっかちの奇妙な巨人の姿を作り出す。
光が収まり水色の巨兵、バラトゥースが姿を現した。
そのフォルムはシンプルで、鉢金のような所にはJOBの位階がクラスレスである証として半球状の宝玉が着いている。
「甘ぇなぁ。・・・・・・おい!」
そう言うと生気の無い男が子分達に連れられてきた。
「汝、司りし物、位階無し。
出でよ凄まじき骸。『レイバス』」
男もJOBを召喚する。
宝玉の形状と腹と前腕とすねが無い事は同じではあるが、所々に白い鎧のような物が追加されていた。
同じ位階でも、人により形が変わるのだ。
「洗脳した奴隷を繰者にするのかい。ずいぶんと無駄使いだね」
「違ぇよ婆ぁ! こいつはこれで正気だ!
同じ名持ちの『クラスレス』! 同条件だ! 威張ってんじゃ・・・・・・」
言い終わらないうちにバラトゥースのロッドがレイバスの胸と腰のつなぎ目を貫く。
ちょうどそこに繰者がいるのだ。
無力化されたレイバスは、自己修復用の『リペアシルク』をまき散らし倒れる。
突然の事で、多くの盗賊が倒れるレイバスに潰された。
そしてレイバスはシェムジェムに格納され、その場所にはもはや四肢と頭しか残っていない男と、潰された盗賊達の遺体が散らばっていた。
「『アセンション』もしてないって、ほんと無駄遣いだねぇ。
どうする? 今回きりにするかい? そうするならおまけも考えてやるよ。」
次に手を出したら承知しないという意味だ。
生き残った数人は戦意を喪失。言う事を聞くしか無かった。
コンフィがバラトゥース越しに盗賊達とケレスを含めた『厄介者』達を見張る。
アンダルスは、男達に押さえつけられているケレスの横に帰ってきている。
彼らの表情はあまり乗り気では無いようだが、押さえつける力は強い。
盗賊達も減っているので今なら1人でもなんとかなると見たが、巻き込むことによる怪我人を減らすためにおとなしくしていた。
引き渡された後暴れれば良い。
「小娘はまだかい!」
「すみません!」
若者に当たり散らすコンフィ。
彼女から見えないところでは、ほとんどの人がひそひそ話をしている。
ただの嫉妬で動いていないか? 何で盗賊を追い返さない? あんな人じゃ無かったのに。偽物か悪霊憑きじゃないか?
皆、豹変に対し戸惑っていた。
当たられた若者が、全て顔が憎しみにゆがんでいる大勢に連れられていく。
中には血塗れのままの、襲撃してきた者もいる。
「来たぞ!」
憎悪の面をした1人が叫び、あたりがざわつき始める。
ケレスは組み伏せられたままなんとか振り向くと、夜明けを背にリーシュが現れた。