友、思う
「まだかねぇ。あの坊主と小娘は」
すでにかなりの『厄介者』が縛られ転がされているのを見ながら、一つめの門の前にて女主人はつぶやく。
ワファタートが村だった頃からの付き合いの、老いた門番が話しかけてきた。
「コンフィ。なぜあの少女をそこまで目の敵に?
私はそこまで彼女が悪いとは・・・・・・」
「アラードォ! ふざけんじゃ無いよ!」
まるで鉄砲水のごとき勢いで怒り出す。
「あのガキはこの村の平穏を乱したんだ!
私、魅了しますって体して、お高くとまったからこうなったのさ!
あんたも縛ってやろうか!?」
アラードは戸惑っていた。
これまで彼女はこんな脅しをする人では無かったからだ。
ここは土も水も空気も、全て過剰魔力汚染されていない。
故にここを手に入れるために、屈強な男だろうとふくよかな女だろうと、誰もが血で血を洗った。
平定を目指す豪傑同士の真っ向勝負もあれば、今を生きることしか考えられなくなった幼い子ども達が闇討ちを行うこともあった。
そんな状況をJOBをもって平定したのがコンフィである。
だが彼女は愛機をイコンにした支配者になることは無く、むしろJOBを使い農地を広げていった。
切り株や岩も、JOBを使えば簡単に取り除ける。
大事なことは同じ意見を持つ者同士で集まった後、その中の代表者同士の会議で決めた。
一度コンフィ自身も話し合いに参加したが、自分の意見が通り過ぎるのであえて身を退いた。
「これじゃ話し合いにした意味が無いじゃないか。
やっぱり私は黙っておくよ。ここは皆の村だからねぇ」
以降20年間彼女が町のための話し合いに参加した事は無い。
その姿勢を皆尊敬した。
だがこの10日間の彼女はおかしい。
最初にあの少女に関する状況を聞いた皆は、少女の方もひどいのだろうと思った。
しかし少なくともアラード自身は、少女が言われるほどひどい人だとは思わなかった。
口調はぶっきらぼうではあるが、自分の美貌に鼻をかけている様子は無かった。
町のパトロールをしている際皆にこっそり聞いてみると、自分と同じ考えが約3割いた。
それでも敬愛するコンフィがあれほど怒っているのだから、何かあったのだろうと少女に対する警戒を緩めなかった。
5日後町の4割がおかしいと気づいた。
あれほど町の取り決めに参加しなかったコンフィが、脅しも交えて口を出してきたのだ。
「あの娘に味方してる奴は、この町の敵だ!
そんな奴はいないだろうね!」
JOBを唯一所持している、かつ自身も腕が立っていた彼女に逆らえる者などまずいなかった。
(あれほど権力の集中を嫌った君が、なぜこんな真似を・・・・・・)
アラードは何かに取り憑かれたかの如く変貌したコンフィを見て、悲しくなってしまった。
この10日間でワファタートでの暮らしを捨ててしまおうかと考える者も出てきたので、アラードはこの町の黄昏を感じていた。
アンダルスに乗ったリーシュは手綱を引いて止めた。
怪訝な泣き声を出スアンダルス。
「もう大丈夫だ。おまえはご主人様のところに戻れ」
真剣な瞳で見つめるリーシュと、理解したのか戻っていくアンダルス。
「これでいい。・・・・・・彼の好意はありがたい。
だが、私はこうやって来たんだ。」
そう言うと懐から青い宝石を取り出した。