危機、訪れる
(少し肩入れしすぎだったかもな。あの場で旅に誘うなんて不審者だこりゃ)
冷静になればいろいろと強引にすぎて、彼女に怪しまれていることだろう。
(でもな、不公平に過ぎると思うんだよな。
それにどうやらこんなことしょっちゅうみたいだし。
でもなんかほっとけないんだよな。
・・・・・・まさかあの子に惹かれている?)
甘酸っぱい疑惑を感じる。
(いやいや、公正じゃないから! だから味方した!
そういうことさ! しょっちゅうみたいだし!)
紳士的でありたいので、姿目当てである事を一生懸命に否定する。
初対面であることは解っていたので、性格で判断したとは思っていなかった。
日がちょうど落ちきった頃、広場では女主人を中心に多くの人が集まっていた。
「本当かい? こっちに盗賊が迫ってるって」
門番達のパトロールが、怪しいキャンプを見つけたのだ。
数が多いので、中心人物である女主人を呼んだ。
「えぇ、遠耳で聞いてみたら、
奴隷を調達しにやってきたみたいで」
「そういう手合いかい。ちょうど良い。
この10日間で、『厄介者』が出てきたからね。
あまり気が進まないが、そうしないとワファタートの平穏が守れなさそうだ。
なりそうな奴も含めて処分する良い機会だ。受け渡そう。
その1回で終わらせるために、私も出るけどね」
あの褐色の娘はこの町の害にしかならないのに、味方する者が少なくない。
追放という手段は好きでは無いが『良い奴ら』に害が及ぶのであればそうせざるを得ない。
女主人はこの町が生まれてから初めて、人を追い出そうとしていた。
「そういや、今日来た桃髪、あいつはあの小娘の味方をしたね。
どっちも面は良いから『良い奴ら』に害がより及びにくくなるかもねぇ。
あたしが勝ったのなら土産として渡しゃ良いだけさ」
その言葉に多くは賛同した。
その中にそこまでしなくてもと思っている者や、むしろ守ってやらないとダメだと思っている者が少なくないことを、恐怖で縛り付けているだけだという事を彼らは気がつかない。
「珍妙なもん作ってんな。」
荷台に鳥の羽などふわふわした物と、金属板を折り曲げた感的なバネを詰めた即席ソファを取り付けている際に、突然声をかけられケレスは振り向いた。
口元に白いひげが生えた老人に、後ろには若い女性と筋肉質な男性がいる。
「なにか?」
襲撃ならもっと人数が多いはずと解っていても警戒してしまった。
「安心しな。ほとんどが嬢ちゃんを嫌ってるが、皆が皆ってわけじゃねぇよ。」
「・・・・・・そうなんですか?」
「あぁ。あの女将はこの村の『守護者』でな」
守護者とはJOBや友好的なミュータント等、強大な力で町を守る者のことだ。
「逆らったら追い出されかねん。
だからナンパ野郎どもの方が悪いなんて言い出せねぇんだ。
俺たち見てぇな小心者にはきついよ。ほれ、娘の料理だ。
俺と同意見だから安心しな。こっちの野郎は婿殿だ」
そう言って、若い女性は葉野菜と羊の干し肉のサンドイッチをくれた。
「女将もさ、普段ならどんな美人が相手だろうと、ああじゃないんだよ。
他の奴もそうだけど、何でこの嬢ちゃんには厳しいのかね」
老人はリーシュを一目見てそう言った。
そのとき男が駆けてきた。
気配を感じ、リーシュは起き上がる。
「大変だ『ロドマー』さん! 人狩りが始まる!」
「急じゃないか!」
「盗賊がやってくるから、褐色の嬢ちゃんの味方する奴を受け渡すって!」
ケレスはとっさにアンダルスに無理矢理リーシュを乗せる。
「なにをする!? 君も追われる側だろう!?」
「ほっとけるわけ無いだろ? アンダルス、解ってくれるな?」
返答するかのように静かに鳴く。
「二手に分かれる!
あなたたちは見つけたけど逃げられたってことにしておいてくれ!」
そう言ってケレスはアンダルスが駆けていった方向と逆の方向へ走って行った。