褐色少女、驚かされる
しばらくして日暮れになり、村の外れにたどり着く。
彼女は雨風をしのげそうな廃屋・・・・・・いや屋根が付いた壁を見つけもたれかかり、毛布すら無い地面に座り込んで目をつぶったのだった。
「乙女のすることかぁ―! せめて下に何か敷けぇー!」
アンダルスを置き去りにし猛ダッシュするケレス。
驚き飛び上がる少女の目の前で急ブレーキ。
キョトン、パチクリと少女は不思議な物を見るような目でケルスを見た。
「あなたはさっきの。あまり私にかまわない方が良い。
狭い町なら悪評はあっという間に広がる。得など無いぞ。」
彼女はかばったケレスを覚えていた。
ぶっきらぼうな口調で精悍な顔つきもあり、中性的な印象を受けるが体付きは完全に女性と主張している。
「いや、かまう! 得がどうこうじゃないんだ! 俺はまず君の味方をする!」
そう宣言した後、なぜ騒動になったか聞いてみた。
「何時ものことだ。言い寄ってくる奴は多い。だが、よく私は嫌われる。
だから、こう言ったんだ。私はややこしい星の下にいる。
初対面の人間を巻き込むのは嫌だから、かまわないでくれ。と」
「それだけなら、怒るほどじゃないな。その後は?」
「殴りかかってきてな」
「!? 大丈夫!?」
とっさに肩をつかんでしまい、赤くなりつつすぐさま手を離す。
彼女は一瞬キョトンとしたが、すぐさま表情を戻し話し始めた。
「腕力任せの、振り回すような拳だ。そうそう当たらん。
だが、しつこく追ってきてな。
迷惑になるので宿の外へ出て、そこで組み伏せたんだ。」
「へぇ~、強いんだな。」
「一人旅だ。自信が無ければやっていけんよ。
しかし今考えればそれがまずかったのだろう。
その場は引き下がってくれたのだが、翌日からナンパしてきた奴やその仲間が、
ひっきりなしに挑んできてな。
やがて住民の中からも私に対し敵意を向ける者が出てきた。
それが積み重なってさっきのようになったのさ。」
「・・・・・・君から挑んだことは?」
「意図的にはない。男との喧嘩が挑戦状になったかもしれんが。」
被害者が損をしているのだとおもったケレスは、完全に彼女の味方になった。
「いや、君は悪くない。ナンパし損ねたからって、暴力を振るう奴らが悪いんだ。
あの人も頭を冷やせば解ってくれるかもよ。」
「・・・・・・本当にそう思うのか?」
「あぁ!」
三度少女がキョトンとした表情になった。
自身が会ってきた相手は、恐れるか、襲うか、無視するかの3種であった。
そして口をそろえて「おまえが悪い」というのだ。
ケレスのように悪くないと言われるのは、もうどのくらい前だろうか。
「・・・・・・私を嫌わないのか?」
「理由がない。君は俺に害を与えたかい?
そう思っているなら、間違い。君の責任ではないよ」
「・・・・・・そうか」
「そうさ。・・・・・・名前、聞いてもいいかい?俺はケレスだ。」
「・・・・・・『リーシュ』だ」
「リーシュ。一緒に旅をしよう。味方のいない旅なんてきついだけだ。
1人より2人。横を通るも縁の内。どうだい?」
「聞いていたのか? 私の味方なんて、面倒なだけだ」
「俺は理由が無い限り、君の味方をするって決めたんだ。
とりあえず、板と毛布ぐらいは敷きなよ。ほら」
「・・・・・・今は世話になる。それ以降は知らん」
どうせ行き先なんて決めていないし、襲われそうならいつも通り股ぐらを蹴り上げて鳩尾に一発食らわせれば、男女問わずそれで逃げられる。
少しは楽になるのなら利用させて貰おうとリーシュは思った。