桃髪、褐色少女と出会う
ワファタートは、もはや谷と言っても良いほどの大きな乾ききった堀に囲まれていた。
村の北から東にかけては草原が広がっており、南側にある山から、水路橋を使って生活用水を運んでいるようだ。
村の西にある門を抜けると、そこだけ掘られていない長い一本道の先にもう一つ門が見えた。
あり合わせで作った鎧の門番がいる。
簡単な荷物検査の後、とりあえず宿を目指しながら道中手伝いや修理をして物資を稼ぐ。
収穫した野菜が、山のように積み重なっている様子を見る限り、幸いここは復興が進み玩具で遊べる余裕があるようだ。
玩具と交換したり壊れた荷台や農具を直してあげたりで、修理用のガラクタや食料は十分な量が集まった。
夕方になり、宿に着いた途端、騒動が起きた。
年老いた女主人が、ケレス自身と同じくらいの群青の髪に紫の瞳をした背の低い褐色の少女をたたき出したのだ。
周りには20人ほどの人だかりが、今にも袋だたきにしそうな雰囲気で女主人と同じ表情を彼女に向けている。
いくら何でも異常なのでケレスは少女に駆け寄った。
「ちょっと待って! いくら何でも大勢に過ぎる!
彼女が何をしたか、教えてくれ!」
「あの小娘はねぇ! いらんことばっかり起こしやがんだ!
もう我慢できない! 最初っから嫌な雰囲気を出してたと思ったら、
この10日間は出会う奴とトラブルばっかり起こして!
そのたびに喧嘩が起きて、その場がめちゃくちゃになるんだ!
こんな事が続いて良いわけがないよ! だからこの町から追い出したかったのさ!」
少女はすでに歩き去っている。
そのときの顔は精悍で、被害者であるという悲壮感は全く感じられなかった。
「彼女から近づいていったのか?」
「いや、男どもが、ナンパ目的で近づくのがほとんどさ。
どうせ、あいつが喧嘩をふっかけたんだろうさ!
美人だからってお高くとまっちゃってさ!」
「証拠はある?」
「必要ないよ! あんな気持ちの悪い奴に!
そもそも気取らず了承してれば、トラブルなんて起きなかったんだよ!」
忌々しげに女主人が言う。
どっちが悪いか考えず彼女のせいだと決めつけている様子なので、ケレスはとりあえず落ち着かせようとした。
たとえコミュニケーションがうまくなくとも、誤解や決めつけを解いて和解に持ち込み、この場にいる誰もが気持ちよくあるようにしたかった。
「気持ち悪い?」
「そうさ! 口調も男みたいだし、失礼なこと言ったに違いないよ!
全く、娘らしくしてりゃ良いんだ!」
「いや、気持ち悪さとそれは関係ないような・・・・・・」
「うるさいねぇ! あんたあいつに惚れたのかい!?
だったら一緒にどっかいきな!」
「いや、まだ話は・・・・・・」
と、突然後ろから殴られた。
ひるんだ隙に押し飛ばされる。
女主人を含めた人だかりは、にらみつけながら黙っている。
これ以上自分と話すことはないという意思表示だ。
ナンパに応じなかったから暴力沙汰が起きたのであれば、そこに彼女の責任はない。
彼女が失礼なことを言った証拠もなく、何より相手に対話の意思がない。
彼は決して我が身を試みない聖人君子ではないので、こちらに責任がないのでと諦めた。
(少し時間をおけば、頭が冷えてくれるかもしれない。)
ケレスは野菜をたっぷり頂き元気になったアンダルスと共に少女を追いかけた。