始まり、一方到着
今からおよそ300年以上前のこと。
ギムカ大陸は大魔女『ヴァイクティーマ』によって混沌の中にあった。
『ゴトゥリー』王『グリティス・グランディオ・ゴトゥリウス』は、タイムラグの解消のため、繰り手が中に入る特殊なゴーレムを作らせた。
そしてそれに魔力増幅グラフを組み込み騎士団に運用させたのだ。
解析されないよう根幹のシステムをブラックボックス化し、「その全てが正義の刃となれ」という祈りを以て運用された。
この新たなゴーレムは、Blade Of Justiceから取られ『ボージェ』と呼ばれた。
第一王子『グレドス』と第三王女『マリシア』率いるボージェ騎士団は、大魔女の討伐に成功し大陸は平和になったと思われた。
しかし騎士団帰還間後まもなくゴトゥリーは滅亡し、大量のボージェは賊や武力を求める国の手に渡り、やがて最終戦争が起きた。
長い年月がたった今でも『シェムジェム』が見つかることがある。
暴虐を振るうこともあれば、それらから守るための戦力となることもある。
正義のための刃とは言えなくなったそれらはやがてこう呼ばれるようになった。
否定された祈り、『JOB』と。
「どうしたもんかなぁ。な、『アンダルス』」
森の中、灰色の馬に騎手の少年が話しかける。
もう荷は無くなった荷車を牽きながら、返事をするようにブルルと鳴く。
彼は転生者であり、その名は『ケレス』。
彼が溺れ死んだとき『常闇の塊』なる存在の滋養にされそうな所、『神を任されし者』と名乗る者の力でこの世界に生まれ変わったのだ。
だが奴がまた襲ってきた故、つけると言われた力の説明を受けられなかった。
未だどんな物か、わからない。
「何か成果がないと、とても『バルトネ』には帰れないからなぁ」
彼の生まれたバルトネは最終戦争の混乱から復活しつつあるこの時代、貴族制を持って統治を成功させた場所だ。
といっても他人に対し優しいだけの乱暴者達が、まねごとをしているだけだが。
彼は貴族の一門の五男に産まれ、現在当主となるための旅をしている。
良い馬は兄たちに持って行かれてしまったので、体力に疑問は残るが幼い頃から一緒だったアンダルスを選んだ。
父の顔と性格を考えてみれば、あえてケレスを後継者から外すことにより自由を与えんとしたのではないかとも思える。
ケレス自身も政が解ってそうな三男に任せた方が良いとも思っている。
本当ならこのまま帰っても良いのだが、男の子の意地がそれを許さなかった。
腕っ節には自信があり、魔力もチートの一環なのか沢山ある。
しかしカリスマ性には疑問が残る。
桃髪且つペールオレンジのちょいタレ目で、鍛えてはいるが膨れ上がらない体。
さらに魔法使いがバルトネには居なかったため、習うことはできなかった。
覇気のかけらも感じられない者が上に立っても付いてくる者はいないだろう。
前世の知識もはっきりと活かせる物は無く、ただ器用さだけはあった。
「鉄砲とか機銃とか、そういう物を作れたらなぁ。後おまえの上からババババーってなぁ」
そう思った途端、魔方陣がアンダルスを包み機銃が生えてきた。
「は、お、あ、え、ええぇー!?」
突然発覚した能力を見て、なぜ自分はこんなことを試さなかったのかと涙が出た。
乗り物を武装させる。それが彼の力だ。
今回は機銃を思い浮かべた故、アンダルスに機銃が装備されたのだ。
詳しい構造など知るよしも無いので、イメージでなんとかなるようだ。
ケレスは気を取り直して、皮算用を始めた。
「これなら、武勲をあげて帰れるかもな。選ばれなくても、少しはなぁ?」
先の希望を思い浮かべ愛馬に話しかけたそのとき、村・・・・・・嫌大きさからして『ワファタート』と町の名前が大きく書かれた門が見えた。