そうだね(素直だ!)
「
耳無陽一は話しを聞かない人間だった。聞いても、聞いたふりをするのだ。
」ねえ。聞いてる?「」
「」うん。それで?「
と合いの手を入れることばかりだ。聞いていないことを、聞いてるように装うことで、生きてきた。彼のことを悪く言う人間は少ない。そして、彼のことを人の話しをよく聞く素直な人だという他者評価が大多数を占めていた。別に、それは彼、耳無陽一が望んだことではなかった。ただ、その場の空気感に流されていった結果そうなったのだ。
——空気の流れを予測するのでなく。
——空気を受け入れ流される。
そんなことを、続けてきた。あらゆる人間にも、彼は聞いていたふりをした。わかっていないことも、わかったふりをする。それは、彼にとっては優しさだった。しかし、話し手にとっては、全然、優しさではない行為だった。裏切られたと、感じる人もいるだろう。わからない奴だと、思われることもあるだろう。
それでも、彼は持ち前の根気で、聞いているふりを続けてきた。それは高校三年生になっても、まだ、続いていた。あるとき、声が聞こえた。
」ちょっと、邪魔「
だが、耳の遠い耳無陽一は聞き取れなかった。
」うん。どうもいたしまして「」
「」は?「」
「」うん。ありがとう「
……全く、会話が成り立っていなかった。しかし、どうしてほしいかは伝わったようで、身体をそらして、道を譲った。ある意味、幸せな奴だった。これは強さかもしれなかった。聞きたいことをいとも簡単に捻じ曲げることのできる才能。そして、相手に同調の意思を伝える才能。両方が備わっていて、初めて、完成する人の話しを聞かない人間。耳無陽一は、人の話しを聞かない天才だったのだ。それは、素直と呼ばれることを、正しさとして重きにおいている彼にとって、ある意味、幸せな才能だったのかもしれない。
……全然、真実が伝わらない相手というのも、かなりの異常者ではあるのだろうが……。
いつか、耳無陽一が極悪人に化けることを予言できそうな感すらあるその特性には、色々な人が困ることになるだろう。いずれ、彼は、新世界の神となるだろう。そして、だれの話しも聞かないで、独善的な笑みを浮かべ続けるに違いない。
——ぼくは、こんなにも素直なのだ、と——
」