アンチノミー(アンチのみ)
「
——わたしは嘘しかつきません——
そんな嘘を不合理奈は周囲に言いふらしていた。もしくは、それは嘘ではなく真実かもしれないが。だが意味のない嘘をついたと彼女は後悔した。虚言癖のせいで、これまで色んな人間を幻滅させてきた、と思っているのだ。その報復だろうか。さっきから背後にだれかが尾行している気がした。
」そこにいるのはわかっているのですよ? なーんて。電柱の影に隠れるわけないよねー「
彼女は笑った。
」もしかして、私って有名人? なーんて。そんなのあるわけないじゃん。ねえ。いつまで付いてくるつもり? もう、やめようよ。こんなか弱い女の子を尾け回して、警察を呼ばれても知らないからね。なんて「
それすらも嘘かもしれないが。虚実入り混じる言動は、消える魔球のように捉えるのが難しい。ミートポイントがどこなのかさえ、わからなかった。それは、もしかすると、本人にも、わかっていないのかもしれない。
嘘をつくような人間に、ろくな奴はいないという言葉があるが、それは、彼女に当てはめるには、少し、語弊があるかもしれない。この世に不変で普遍な正しさがあるならの話しだが。
不合理奈は、悪い嘘もいい嘘もつく。だれかを傷つけないための嘘。だれかを傷つける嘘。だれがが迷惑する嘘。だれかの役に立つ嘘。両方をごちゃ混ぜにして、つくのだ。
」あ! そうだ、お巡りさんに電話しよう「
そう言って電話した番号は彼氏のだった。
」あ。もしもし。元気にしてた? 久しぶり。いま、ちょっと話ししてもいい? 家に帰るまでの間だけ。うん。それでね。今日実習大変だったんだー「」
「」そう「」
「」うん「」
「」そうなんだ「」
「」へえ「」
「」うん「」
「」あー「」
「」うんうん「」
「」それで?「」
「」うん「」
「」え。それって「」
「」あー、まあね「」
「」う、うん「」
「」うん。そっか「」
「」うん「」
「」うん「」
「」うん「」
「」あー「」
「」うん「」
「」うん「」
「」う、うん「」
「」あ、うん「」
「」うんうん「」
「」うん「」
「」うん「」
「」いや、そんなことは「」
「」そうだと思う「」
「」うん「」
「」うん「」
「」うん。そうだね「」
「」ん゛「」
「」うん「
受入太郎は電話越しに頷いた。
」いまどこにいるの?「」
「」ここだよ「」
「」どこ?「」
「」お前の後ろ「
そこで通話が切られた。
」嘘つき「
相手はなにも言わなかった。
」これでも私の方が嘘つきだっていうの?「
相手はなにも言わなかった。
」あなたはだれなの?「
相手はなにも言わなかった。
」




