ブレイクスルー(ブレイクする)
わたしのお兄ちゃんは、小説を書いています。小っ恥ずかしい小説です。稚拙で、底の浅いモノガタリです。よくこんな文章が書けるなあ、と感心します。わたしだったら、恥ずかしさのあまりこの二階の部屋のベランダから飛び降りていることでしょう。
お兄ちゃんは社会人で、仕事をしています。実家から、車で通勤していて、帰宅後、暇な時間に小説を書いてるみたいです。
ある日、お兄ちゃんの部屋に爪切りをとりにいったことがあって。デスクの上のノートパソコンの画面を覗いてしまいました。題名『ひねくれサイコパラドックス「』と書いてありました。
文末に『「』があることに違和感を覚えました。どうせ、ひねくれもののお兄ちゃんのことです。奇をてらうつもりで付け足したのでしょう。そう思いながら、画面を下にスライドします。本文を読んで、つい、わたしは二階のベランダから飛び降りそうになりました。
なんということでしょう。この世に、こんな稚拙な文章が存在することが、悪の根源だと、そう思わせてしまう出来でした。これはひどい。思わずミートハンマーでそのパソコンを粉砕しそうになりました。危ういところでした。ミートハンマーはこの家にはありませんが。
しかも、第12部分でわたしと兄のドラえもんの会話(実話)が、そのまま書かれてるではありませんか。勉強ができるようになりたいって言っただけなのに、変なもの食わせやがって。いや、あの兄は、そういうやつなので、仕方ありませんがね……。警察の厄介になったことは、幾度かありましたし。そういうやつなんです。
諦めてます。
あれから兄は社会人になって、勤め先で働くようになりました。そして、念願の彼女ができたそうなのです。いやーめでたい。あのお兄ちゃんに、スイートハートができるとは。いやー長年生きてると、こんな予測不能なことが起こるものなんですね。
あの!! お兄ちゃんが!! 彼女とデートしてるなんて!! 世界が狂ってるとしか!!
ええ。今日は、お兄ちゃんはデートの日です。隣町のショッピングセンターでお買い物らしいです。その彼女さんは、高校生からの知り合いなのです。お兄ちゃんは、屋上で佇む彼女のことが気になって気になって仕方なかったらしいのです。家にいるとき、食事中に静寂を破るように気が触れて「哩川笑美さんは、ぼくのアイドルなんだ!!」とか叫び出す、頭のおかしいお兄ちゃん。
きっと、この小説もそんな頭のおかしいお兄ちゃんの脳内が具現化したせいで出来上がったのかも……。そう思うと、なんだか、その稚拙な文節のひとつひとつが、愛おしく感じてきます。まじで、頭おかしいなお兄ちゃん。カギカッコの向きが逆だよ。戻せよ読みづらい。
あと、お兄ちゃんの名前は『受入太郎』です。
嘘です。わたしの名前は不合里奈。嘘です。私の名前は受入花子。お兄ちゃんの妹です。
わたしは、死んでなんていません。




