グルメと食材庫
煌々たる硝子細工灯、マホガニーの晩餐卓、絹の赤いテーブルクロス、金装飾の白磁器、そこに盛られた肉料理。待ちわびたるは一人の男。曇りなく磨かれたカトラリー両手に頬をたゆます。蝋燭の火が揺れて、男の影が揺れる。さあ、食むのだ、冷めぬうちに、その肉塊を。
夢見心地、夢心地。やや筋っぽく硬めの肉も、一度虜になれば止められぬ。ああ、美味い。
そこに、小間使いとはいえかなり幼少の、しかしまた世にも珍しく凛と目の据わった、涼しく美しい少年が男の耳に言葉を打つ。曰く、かの食材庫が狙われていると。
なんと由々しき忌まわしき事態。あれほど良い食材庫などないというのに。
しかし、と少年は言葉を続ける。曰く、食材庫破壊の邪魔を企てる者もまた居ると。
それは好い、それは何者か。問いかけた主の問いに、少年は答える。食材庫を狙う者の娘です。
食い終わった男は、口周りに残ったソースを拭いた。食事の跡のなくなった口には、笑み。デザートがまだ、と確認する少年に、かの美食家は犬にでもくれてやれと席を立った。少年が礼を取り、素早くつぶやくには、かしこまりました、リヨン県治安管理部長官様と。
男は自宅の廊下を歩みながら思考した。あの高校とは名ばかりの、馬鹿の門。門の中の犬たちは、社会に、親に、隣人に、運命に、己に、怒り、あるいは絶望し、狂い、そして容易に犯罪に手を染める。一歩立ち止まるという判断ができるほどの頭も情緒も、犬たちは持ち合わせていない。犬を捕らえても疑われず、拘留が永久となっても世間はむしろ喜ぶばかり。こんなに都合の良い食材庫を失うことなど、あってはならぬ。
県議会は何度も学校の存亡を悩み、議論をしてきた。男は裏から根を回し金を回し、存続へと舵を取らせてきた。そして今回は実力行使に出るときた。さて、どうしたものか。
そこへ、女中というにはかなり幼少の、しかしまた世にも珍しくそよと目の凪いだ、瑞々しく愛らしい少女が男のそばで礼をする。曰く、お客様がお見えですと。誰か、と尋ねれば、とある県議会議員の娘――そう、件の娘ですと答える。男の口角が持ち上がる。
姪をかの門の犬に殺された後でさえ、この甘美たる生活を変えるという選択肢は、男の中には生まれなかった。今もまた、男の頭の中には、食材庫を確保した後の食卓の画と香りが渦巻くばかりである。さあ、次の晩餐会は、いつにしようか。