#0プロローグ
俺、矢野孝徳は生まれてこのかた誰かと触れ合うなんてしてこなかった。……というか、関わりを持てなかったのだ、何も知らなかったから……
俺の両親は共働きで幼少期は専ら保育園にいた。俺という人間は本が好きで本棚の端から端まで読み耽っているような奴。いわば本の世界が俺の全てだった。
小学校に上がると勉強の楽しさに目覚め、次々と問題を解いていた。そんなことに取り憑かれた俺は知識は蓄積されたものの校庭を駆け回る時間は無駄だとさえ思うようになってしまった。そのツケで体育が結構辛くなってる。それに加えて、当然家では夜まで親は帰ってこない。
ここまで俺が生きてきた中で大事なことを学び忘れていたことに今更気づいてしまった。
それは、人に対する「甘え方」。自分の興味に囚われて、他人という存在を無き者として扱ったが為にそれを知らないまま、学ぶ機会を潰して育ってしまった。
……でも、もう学べないし、学ぶつもりもない。
それでも、心の中に後悔と淋しさが入り混じった感情を宿らせて、その出し方さえ知らない俺はなんとかそれを押し殺して生きてきたんだ。
もしも、心を塗れる絵の具が幸福しかないのなら俺の心はずっと白のままだと思ってた……アイツに出会うまでは……
日が昇り少し眩しい窓際の席に座る俺に抱擁を求めるコイツが竪川悠次郎。クラスの中心的人物の超がつく
お調子者でアホである。
「おはよう、目隠れの貴公子よ!」
「うっせぇ……このドアホ……」
「なんだ〜?今日はヤノくんご機嫌斜めか?」
付け加えるように「せっかく親友になったのに〜」と不満げな表情を浮かべる彼に対し、いつもと同じような舌打ちだけを返しておく。
「必殺!頬ずり〜!」
「バカ!学校でやんなって言っただろ!それに、恥ずかしい……」
「そんなことねぇって!それに世界で唯一の親友には身体を預けるっていうだろ?おれ以外とはろくに会話出来ねぇのに強がっちゃって〜!」
「っ……!大体お前距離感おかしいんだよ……」
「そっかなぁ?てへっ☆」
どうして、他人に興味ない俺と完全に日向のコイツが
こんな関係にまで発展したのか……
それは数ヶ月前まで遡る。
俺とどうしても【親友】になりたかったらしいアイツはまるで子供のように俺の後についてきた。毎日欠かさず。
そんなストーカーじみた行動にとうとう俺の堪忍袋の尾も……いや、人と関わったことがない俺にはそんなもん初めっからなかったが、無視しきれなくなりついに激昂してしまった。
「……鬱陶しいんだよ!なんでそう何食わぬ顔して俺のこと付け回すかな⁈」
「ん?だってお前『嫌だ』って言ってねぇだろ?おれはヤノと友達になりたいってずっと言ってっけど。」
「察せよ!雰囲気見たらなぁ、誰だってんなもんわかるだろ!」
「いんにゃ、おれ頭悪りぃからわかんねえ!」
逆に清しくなるような顔と、交点を見出さないコイツとの会話に俺の理性が削がれていく。ついに叫んでしまうのだ。
「大体お前なんなんだよ!俺の心中も察せないくせに何が親友だ!目障りなんだよ、早く俺の前から消えてくれ!」
そこまで言い放った後の彼の言葉に身震いしたのを覚えている。その至極真っ当な意見に。
「……わかんねーよ……」
「……?」
「言ってくんなきゃわかんねぇに決まってんだろ!お前こそ苦情の一つ二つも言わないで一人でキレやがって……それで察せよってさぁ……そういうのが【傲慢】って言うんじゃねぇの⁈」
これは俺が始めて否定された瞬間だった。……とはいえ、今まで肯定もされていなかったのだが。自分でも薄々気づいていた【間違い】を指摘してくれた瞬間だった。
「……」
「それにぃ!お前のこと知らないから友達になりたいんだ!いや、友達にはなりたくない!大親友にならなきゃこの気持ちが抑えらんねぇんだよ!知らないこと知りたがって何が悪い!」
嗚呼、なんで綺麗な目なんだろう……どこまでも澄んで濁りがない。知らない間に身も心も廃れてった俺とは大違いだ。……ふと、コイツなら…この人なら俺の心を塗ってくれる、俺の言えなかった言葉を全て受け止めて見るべきだった世界を教えてくれるかもしれない、そう思った途端になんだが気が楽になった。
「寂しい……」
気付いたらそうこぼしていた。今まで十数年間言わなかった、言えなかった言葉を。
「寂しかった……今までずっと、甘えられなくて……甘え方を知らなくて……抱え込んでた…それを受け止めてくれんのか……?」
「頑張ってみる!……ってつまり、どゆこと?」
「友達の件、俺からもよろしくお願いします……」
そう伝えると、彼の瞳が瞬きを見せて「もちのロンだぜ!孝徳!」とはにかんだ。
それからの1ヶ月間はなんだが形容しがたいものになった。自分の心が少しずつ色づいていくのが目に見えてわかった。
それを悠次郎は無意識のうちにやってるんだろうか。
でもその無意識になんとなく救われてる……気がする。
「なぁ……」
「ん?何、孝徳?」
「メシ……食いに行こうか、一緒に。」
「へ?……うっそ、孝徳から直々にデートの誘い⁈よっしゃあ!」
「デートじゃねぇ!」
今日もなんとか学校乗り切れそうだ。そんなことを思いながら、さっきの言葉に小さく「今はな……」と付け加えておいた。
矢野孝徳
年齢18歳
身長179cm
体重65kg
趣味空想
一人称俺
黒の長髪で右眼が隠れている。
昔から頭は良かったものの人と関わるのを極端に拒んでいたため、友達もいない。本人曰く「俺が興味ないことを延々とくっちゃべってるだけのやつなら合わせるの億劫だし何より時間の無駄』らしい。両親も共働きでほぼ帰宅しないため、公私ともに完全に孤立した生活を送っていて、大人に甘えるという機会を徹底的に潰して、典型的な「一匹狼」になってしまった。
性格はさっぱりし過ぎていていつも気怠げな雰囲気を醸していて、好き好んで近づく同級生もいない。
とはいえ、道理に合わないことは大嫌いで、それに準ずることを察知すると「お前、矛盾してんの気づかないの?」とたとえ年長者であろうと徹底的に糾弾する癖がある。それも彼の孤独を加速させている一要因。
自分が他人と「ズレている」のは承知しているが特段直そうとは思っていない、いや直し方を知らないので諦めている。
最近無自覚に泣いていることがよくあり、そんな日は特に寝つきが悪い。
自分が一番本心と矛盾した行動をとっていることに腹が立っている。
試したことはないが多分超コミュ症な気がしている。
台詞見本
「はぁ、またあの教室の中に監禁されなきゃいけないのか……怠いし、気乗りしないし……最悪だ……」
「どうせ、俺と絡もうとしてるやつは頭しか見てない奴がほとんどだって。脳みそのどっかでは必ず知識奪おうとしてる。……そうじゃなかったとしても、俺トレンドとか知らないし、合わせるのめんどいからさ。結論:独りが一番気楽。」
「なぁ、お前……この世で一番重い罪って知ってっか?それは……それが罪だと嫌なほど理解ってて、それでもなお、貪欲に求めることなんだよ……!」
「……俺、悪いことしてねぇのに、なんでこんなに廃れてんだ……?なんで勝手に泣いてんだよ……!こういうの一番怠いってわかってんのに……」
「ネットを見てる時だけは年相応になれるんだ……文明の利器は偉大だなぁ……」
「俺は助けの求め方を忘れたんじゃない、生まれた時から『知らない』んだよ。知らないことを考えるのにエネルギーを使いたくない。だからもうこれでいいんだ……」
竪川悠次郎
年齢18歳
身長178cm
体重60kg
趣味ゲーム
一人称おれ
孝徳のクラスメート。人生は努力とノリのハーフ&ハーフでできていると語るほど超自由奔放な性格。……当たり前のように深く考えてないというか、考える頭もない。『後悔?したことないな、だってそうしないように毎日生きてんだもん。』という基本理念のもと活動していて、ネガティブな思考はあえて停止しているらしい。入学当初から同じクラスでなんとか話しかけたかったらしい毎日のように猛アタックしていたら自然と何も言われなくなった。(普通なら避けられていると感じざるを得ないが本人が無言=苦情ナシ=OK!というスタンスなので疑問には思っていない。)
そばにいるのが許可(?)されてから結構ベタついている。
孝徳に対してアッチ方向の感情があるが、本人は気づいていない。
中学校教諭の姉がいる。
台詞見本
「人生一回きりなんだから悩まず気楽にやってこうぜ!」
「お前とは友達になりたくない、大っ親友にならなきゃ満足しないんだよ!」
「なんか……目ぇ隠れてんのかっけぇよな!めっちゃ痺れるぜ!」
「わからないから……!矢野のこと全然知らないから!だから、今は無神経なことしか言えなくても、親友になったらきっと100点取れるから……頼む!合格するまで追試させてください!」
「……なんかな?お前といると楽しいとっくに通り越して終わりたくないって思ってんだ。……変だよな、おれ。」
「なぁ、姉ちゃん……好きな人に好きですって伝えちゃいけない時ってあるのかな……?」




