3話「顔に合わない毒舌」
「ふぁ〜・・・・・・」
まだか。
かれこれ着替えだけに30分以上かかってるぞ。
俺が暇そうに着替え室のドアの前をうろついてると後ろからドアの開く音が聞こえた。
「おま・・・たせ」
振り返ってみると、お・・・おぉ。
赤いウェディングドレス、長い髪のツインテール。両腕には手のひらサイズの金色のバングル。
やっぱこの人はちゃんとすれば凄い綺麗な人だ。
「似合いますね。アングリーナ王」
俺がこの言葉を発した途端、彼女の頬が少し赤くなった。
「べっ・・・別にあんたのためとかじゃないし・・・で・・・でも・・・」
どんどん声のボリュームが下がっていく。最後はものすごい小声で
「ありが・・・と」
周りのヤツらには聞こえなかったらしいが俺にはちゃんと聞こえた。
「どういたしまして」
感謝されるとこっちも嬉しくなるな。
こんな可愛い女性に感謝されれば誰だってイチコロだろう。普段はツンツンしてるが、褒められたりすればこうなるのがまた良い。
そう、彼女はツンデレだ。
王会室の前に俺らは今立っている。
さて、ドアを開けますか。
ドアを開けようとドアノブに手をかけた瞬間、パチン!と叩く音とともに手に激痛が走った。
「礼儀を知らんのか小僧。入る前にはノックをしろと教わらなかったのか?」
・・・ってぇ〜。このクソジジィ。
俺は手を叩いたグリアン男爵を睨みつけた。
しかしここは会議室の前。無駄な喧嘩をしてる暇はない。
俺がドアをノックしようとすると、パチン!
「・・・ッ!てめぇ!おかしいとこなんもねぇだろうがァ!」
小声で怒鳴りつけた。しかしなんもおかしくないはずだ。ドアをちゃんとノックしようとしたのだぞ。
「一回存在自体をやり直したらどうだ最下級小僧。貴様今、2回ドアノックしようとしたな。それはお手水に行かれる時だけだ。目上の人のドアノックは4回だぞ。」
そ、そうだったのか。
疑問に思ったかもしれんがこのクソジジィは3秒先までの未来予知ができる。だから俺の行動も読めたのであろう。厄介なジジィだ。
俺はドアを4回軽くノックしドアノブを回し押した。
この無駄に広いスペース、椅子がたくさん並べられているこの場所でこちらから見て左側にマイルス王は紅茶を飲んで座っていた。
「ごきげんよう。アングリーナ王」
丁寧な言葉遣いどうも。酷くご機嫌なように見えるのがまた不気味だ。
肩甲骨まであるであろうレモン色の髪の毛と透き通るような目。
服装は肩を出した白色のワンピースと言ったところか。
頭には上品なスマイル顔のバッジと桃色のキョウチクトウの花と白いデイジーの花飾りを付けている。
「ご、ごきげんよう。マイルス王」
こちらの王は王らしくない緊張っぷりだ。
俺がアングリーナ王のために椅子を引くと彼女はそこに腰掛けた。
するとマイルス王から予想外の言葉が飛んできた。
「おや?まだ謝られてない気がするのですが、1時間以上この居心地の悪い部屋で待たせておいて平然としていられるのは正気の沙汰でございまして?」
いや、当たり前か。不機嫌なのが普通か。しかしこの人は本当に不気味だ。笑いながらこういうことを普通に言ってくる。
「申し訳ございません。マイルス王、我々の準備が遅れてしまいこのようなことになってしまいました」
アングリーナ王が謝るなら俺が謝る。そう思った俺は彼女が口を開く前にこう言ったのだ。
「どうかお許しを」
するとマイルス王は
「別に貴方様の謝罪など不要ですのよ。私が欲しいのはアングリーナ王本人の謝罪ですので」
アングリーナ王はその威圧にやられたのか震えながら
「ご・・・ごめんなさい」
するとマイルス王は笑顔で
「えぇ。良いですのよ。本当は土下座して欲しかったのですがね」
この毒舌っぷり。そしてこの不気味さ。
アングリーナ王が嫌うのも分かる。