第二話 ここは?
樋口美月は自他共に認める平凡な少女だ。
クラス委員長という面倒臭い役割に就いてはいるが、一緒にやる子が推薦したからであって、美月の意志はない。雑用係なんてやりたい物好きそうそういない。
だいたい、美月にはこれといった技能がある訳でもなく、目標がある訳でもない。
自分はモブで充分なのだ。
趣味だって敢えて言えば美形観察、少女漫画展開考察位なものである。
特技も人を見る目はあると自負しているぐらいだ。
美月の通う夜鷹高校は、かなり人気の高校であり、美形が集まりやすい高校でもある。夜鷹高校は地元で一番の歴史があり、名家のご子息が多く集まるからだといわれている。
そんな中、美月の顔は平凡だ。和風的な顔立ち、つまりあまり彫りが深くないのが特徴といえば特徴か。そして貧乳。
美月は主人公には成り得ない少女だ。そう思ってきたし、傍観で巻き込まれちゃった♪など、どこの小説、乙女ゲームだと思っている。
否、思っていた。
見覚えのない広い部屋。
積み上がったたくさんの本。
床に描かれた美しい形の紋様。
少し開いて、光が差し込む窓辺。
周りを囲むようにしておかれた燭台。
ふんわりと香る薬草と、古い本の香り。
自動的にこめかみに浮かんだ、冷たい汗。
息を呑んだ様な自分かもわからない小さい声。
そしてーー宵闇のローブを纒った少年。
「☆♪★▼♪○▼†∀@♦♡♬★☆♥」
美月は本能で知った。この場所が夜鷹高校ではない事を。更に言えば自分の居るべき場所ではない事を。
美しい歌の様な言葉で理解した。せずにはいられなかった。
少年が何かをいった時に美月の呆然自失状態は終了している。
何故、ここにいるかは知らないが、後ろで倒れている三人は守らなければ。
妙に冷静な自分に疑問を抱きつつ、彼女は少年が味方かどうか分からないことに気づいた。
美月の思案は一瞬。
意識のない三人を庇うように、美月は近くにあった委員長(雑用係)必須アイテム、書類の束をかまえ、少年に鋭く誰何した。