第一話 召喚
赤色に染まる世界。
緑の大地を照らす赤い太陽。
どこまでも細長く伸びた建物の影。小さな子供達がはしゃぎながら帰っていく。
ここは、神に愛されし土地。神が見守る世界。
その中でも類を見ない、白竜と天上の乙女が創国した美しい国。危ない時もあったが、戦火に包まれたこともないこの国には失われつつある民族達が大勢住まう。
アーネ王国。
古き言葉で『平和』を意味するその国は、今まで一度たりとも戦を起こさずにいられるように願いが込められたそれは、民の心に染み渡っている。
誇りと自由、安寧の民達。
その王国の象徴とも言える白亜の城、そこには『魔窟』と呼ばれる塔がある。
その塔は、魔法具によって中がとてつもなく広くなっており、たくさんの魔法師が巣食う。
魔法師はある意味素晴らしいまでの研究バカであり、研究の為ならば自分で死地に行くことも辞さない。国に忠誠を尽くしてはいるが、無意識に研究の為に情報をうっかり売ってしまうこともある。とは言ってもそんなうっかりをするのはごく一部ではあるのだが。
その馬鹿共のトップであり、一番の実力者である魔法師長、クラウス-S-アザールは非常識を率いる事のできる唯一であり、魔法師にはとても珍しい真っ当な常識人でもあった。
ーーとは言っても、常識人の皮を被った非常識人。というのが彼の友人達の見解なのだが。
その彼は、今現在進行形で、魔法師長の仕事に励んでいた。
魔窟の一番上のその部屋に少クラウスは立っていた。美しいというより、可愛らしいという言葉が似合いそうな彼は萌黄色の長い髪から滴る汗を拭いもせずに、一心不乱に魔力を練り上げていた。
今までこの魔法に使ったことのない程の魔力を注いでいることに彼は気づいてはいたが、手を止めなかった。
そしてーークラウスは眼を開く。
【我が名はクラウス。時と空間を繋げし者我が魔力に惹かれし者よ、我の元に来たれよ】
紡がれるのは彼の言霊がこもった言葉。
目の前に広がる魔法陣が高速に回転する。
【アークラスト】
そして、クラウスは素早く臨戦態勢で黄龍の杖を構えた。
油断なく前を見据える琥珀色の瞳には、高い集中力と警戒心が垣間見える。
その表情は凛々しく、美しい。
ーー魔法陣が一際強く光る。
すぐに落ち着いた光から現れたのはーー四人の男女。
「!?」
アーネ王国初めての異世界召喚(事故)であった。