閑話 道中にて
その日、彼女は浮かれていた。
いつも浮かべる笑みが深く、足取り軽くなるくらいに。
少女から女に変わっていく微妙な時期、十七歳の彼女はけして気の緩みを他人に見せない。
わかりづらい浮かれ方だったが、護衛騎士、オレルには分かった。
オレルは身分が低い。平民の騎士はいるもののかなり少なく珍しい。平民騎士は真面目か変人と言われる。オレルは真面目なパターンだった。毎日の修練と幼き日の憧れ、幸いにあった剣の才で彼は騎士、それも上手くいけばエリート街道の護衛騎士になった。それからも彼は日々の細やかな努力を忘れてはいない。
だから分かる。2年前から仕える少女の機嫌がかなりよろしいことを。
融通の効かぬ、日々の鍛錬を忘れない愚直な青年。それがオレルだ。そしてオレルは艷やかな自分の主を敬愛し、忠誠を誓っていた。ちなみに、仲間内の彼のあだ名は『主人バカ』である。
「ラビサ様。今日もあそこへ?」
「ええ。オレル、頑張って」
悪戯っ子のように笑う主に苦笑する。
彼の主は人をからかうことを好く。オレルは大抵その餌食になっていた。が、慕う人間が絶えないのは、主がどれ程高潔で慈悲深いか知っているからだろう。と彼は思っている。
「あら?」
突如ラビサは目的地を見た所で突然立ち止まった。目的地、魔窟。見た目だけはまともなそれをラビサはじっと見つめる。
オレルは主を注視した。
「【風槍】」
予備動作一切なく放たれた魔法に、オレルは関心した。第一詠唱のみでAクラスの魔法を発動することが出来る人間は数少ない。
「行くわよオレル。【風翼】」
浮き上がりながら彼は思った。やはり、自分の主は凄い。もっと精進しなければ。
『主人バカ』オレル。平民騎士の中の変人ではない貴重な人材だが、変人の友人に囲まれ、規格外の人間に囲まれすぎて常識が瓦解している残念好青年である。
オレルには主フィルターがかかっています。