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ケモノテスト  作者: ヤタ
1章 ケモノ達の学園
6/39

テスト返却と点取り合戦

 テスト返却。

 それはあまりにも残酷だ。

 まるで人の価値を、こんな薄っぺらい紙で決められているかのような、そんな気分になる。なぜ、この世はテストなんていうシステム……いや拷問を創ってしまったのだろう。

 今日は生徒会の人たちとケモノテストをするのだから、ここで点数を取らないとまずい。

 テストは一気に分けられているが、もうすぐ僕の番だ。クラスメイトは今のところ誰一人として、その用紙を机の中にしまえていない。見た瞬間破り捨てているのだ。地球の環境の為にも、テストなんて是非なくしてほしいと思う。


「迦具土」


 そしてついに僕の名前が呼ばれる。席を立つとき、一瞬だけ隼人と目が合った。流石にこれでも、出会って一年は立つ腐れ縁だ。言わんとすることが分かる。


「(もし結果が酷かったら、おまえで解体ショーを開いてやる)」


 やはり腐れ縁だ。友情も何もかもが腐ってやがる。

 早く来いという東野先生の声で我に返った僕は、改めてその一歩を死地へと向かわせる。


「先生、今回の僕の出来はどうですか?」


 先に結果をある程度知っておこう。

 そうすることで、心へのダメージを幾分か減らせるかもしれない。


「ん、ああ。今回はまあまあ出来てたんじゃないか?」


 ん?なんだ、そんなに心配する必要はなかったんじゃないか。


 結果

 国語総合 12点

 数学ⅰ 14点

 英語 3点


「全然ダメじゃん!!」


「おいおい、いくら俺でも、目の前でテスト破り捨てるのは叱るぞ」


 ならそんな期待を持たせることを言うんじゃない。


「先生嘘はつかないぞー」


「嘘だ! さっそく今ついたじゃないか!」


「今回、宮にしてはいい出来だと言ったんだ。0点が無かっただけで先生嬉しいぞ」


「どんだけ僕を下に見てるんだよあんたは!!」


「そうだなあ、ブラジルくらい?」


「それ地球の反対側に出ちゃってるよ!!」


 しかしまあ、我ながら本当に酷い。

 英語の3点なんて特になんなんだよ。


「はやとおぉう、どうだった?」


「気持ち悪い呼び方するなよ。結果? ま、まあマレードだな」


 あ、ダメだったみたいだ。

 人に、悪い出来だったら解体ショーするとか言っておきながら、自分もダメだったとは片腹痛い。


「しかし、宮は数学だけ14か。ならスピードで勝負するしかないな」


「スピード?」


「おまえ……そんなことも知らんのか。国語は攻撃、英語は防御といった具合に、科目のテストによってステータスが変わるんだよ」


「へー知らなかった」


「ちなみに、合計点がポイントに換算されてポーションとかが買えたりする」


「まって、それ頭悪い人すごく不利じゃないか!」


「あたりまえだろ。そのためのシステムだ。勝ちたきゃ勉強しろということだな」


 う、なんか納得させられてしまった。

 確かにこのステータス割り振りが無ければ、ここはただの変わった動物園だ。


「まあもうこれで対決するしかないからねえ。もし負けたら宮は覚えときなサイヨ?」


 雲母の顔は笑っていたが、何故か僕の膝はガクガクに笑っていた。

 雲母から曇天が見える、そう雲だけに。


 メキャっ


「ぐぎゃああああぁぁ!!!」


「あんたには一度教育が必要のようね」


 教育とは、人に大事な事を教え育むことである。決して、指を手の甲に触れるまで捻じ曲げる事ではない。


「……馬鹿なことしてる間に時間になった」


 悠太がそう告げた瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。これで残る授業はあと二つである。


「うわわ!ちょっと待ってよ。まだ心の準備……いや身体の形が整ってないよ」


「ご主人、それ人として認められるセリフか?」


「迦具土くんって丈夫なんですね」


「違うよ結城さん……人は酷すぎる怪我を追うと痛みが感じられなくなるんだ」


 実際、痛みと共に手の感触すら消え去ってしまった。治ってくれることを切に願う。


「でもどうしよっか、この点数だと流石にまずいよね。まあ課題テストが終わった今じゃどうしようも無いけどさ」


 こればっかりは、先生にお願いしても受けさせてはくれないだろう。


「いや、どうしようもないことはない」


 隼人はそう言って手を顎に添える。


「それって東野先生を脅迫するとか?」


「迷いなくそういう答えが出てくるあんたは危ないわね……」


「それもいいが、今回はそうじゃない。もっと正規の方法だ」


 つまり緊急時は、非正規な方法を使うらしい。


「でもじゃあどうやって……」


「ケモノテストだ。あれは確か、お互いに掛け合う物ならなんでも受理されるらしいな」


 そう言われて納得した。

 そもそも今回の騒動も、そのケモノテストで解決しようとしていたじゃないか。


「そしてこのクラスには、おあつらえ向きに餌……同レベルの仲間がいるじゃないか」


 今完全に餌って言ったよな。


「つまりテストの点数を掛ける訳ね。だったら早くしないと時間になっちゃうわよ」


「ああ、まずは放課後までに点数を上げれるだけ上げるしかない。急がないとな……それで結城、テストの結果を詳しくは知らないんだが、受け取った時の表情を見るにそんな悪そうでは無かったな」


「あ、はい。あの……言い辛いんですが今見せて貰った迦具土くんと比べたら……その」


 まあ、言われなくともなんとなくは察していたからいいけどね。


「そうか、雲泥の差だったか。でもそれはみんなも同じだぞ」


「勝手に決め付けないでよ!! どうせ隼人はドングリの背比べでしょ!」


「おまえと同程度だと? そんな人格を否定するような卑屈よく思いついたな」


「それって僕と同じレベルだと人として認められないってこと!? そのセリフの方が人格否定だよちくしょう!」


「うるせえヘタ野郎」


「それはもはや、ドングリの本体ですらないっ!」


 僕がヘタなら隼人はきっと腐葉土だ。


「話が逸れた……それでいい出来だったらしい結城は強化を控えてくれ。このクラスにある養ぶ……資源も限りがあるからな」


 あぁ、言い直したのに扱いがそんなに変わっていない。


「あ、はい! 分かりました」


「では各々点数補充を開始!」


 散! の合図で僕、ユキ、隼人、悠太、雲母は四方へ散らばる。

 結城さんは手持ちぶたさなのか、イケメンな僕と共に来るようだ。はい、嘘です、正確には僕の頭の上のユキが目当てです。


「おい、あまりオレの頬を突っつくなよ」


「あ、あー、もうちょっとだけお願いします」


 結城さんは、頑張って背伸びしてまでユキの頬を人差し指でぷにぷにと突っついていた。

 背中を伸ばした影響で、胸元が強調されているため目のやり場に困ってしまう。


「あはは、ユキ、僕にも突かせてよ」


「ご主人!? それは爪楊枝だよな!? やるならせめて人差し指でっ!」


「やだなあ、たかが爪楊枝くらいで」


「サイズの比率的にご主人から見たらボールペンくらいだからな!?」


 さてと、学年最低クラスの9組とはいえど、僕より点数の低い相手じゃなければ勝つのは楽でない筈。そして、気持ち的に女の子を相手にするのは気が引ける。なにより結城さんが隣で見ているのだ。弱い者イジメのようなことはしたくない。

 ついでに不良も相手にはしたくない。特にあそこのリーゼント。

 となると、残りの男子となる訳だけど、そもそも僕は何を賭けたらいいんだろう。


「あのごめん結城さん、もしよければ消しゴムを一つくれないかな。無ければ使ってないシャーペンとかでも良いんだけど」


「あ、はい、良いですよ。でも何に使うんですか?」


 結城さんは、ピンク色で可愛らしい使いかけの消しゴムをくれた。

 ほわほわしたイメージの結城さんにぴったりだ。

 ついでに結構な使いかけとは都合がいいぞ。


「いや、まあちょっと見てて。あ、お金は後で渡すね」


「え、良いですよそんな。その消しゴムもう小さくなっちゃってますし」


 そういう訳にもいかない。なにせ私情で使ってしまうのだから。


「あ、そこの君」


 比較的馬鹿そうな男子生徒……確か名前は高林くん、に声をかける。


「んあ? なんだよ迦具つ……学年成績最下位でネーミングセンス0、さらにはいいかっこ見せようとして空回ってる人じゃないか。俺に何かようか?」


 なんて不名誉な覚えられ方だろう。


「今ちゃんと名前覚えてたよね!? ついでにそれは誤解だから! ……じゃなくて、突然だけど君交際経験は?」


「本当に突然だな……んなの決まってるだろ? もちろん年齢=彼女持ちさ!」


「うん、よおく分かったよ」


 高林くんの誇らしげな顔が、悲しく虚しい。なぜなら、彼女が出来るのはどんなに早く見積もっても、幼稚園であり、しかも完全なお遊びだろうから。


「そこでだ、君に僕とケモノテストをしてほしい。こちらが勝ったら君のステータスを貰う」


「は? ケモノテスト? なんだそれ」


 なぜみんなこの学園のメインイベントを忘れているのだろう。


「ほら、あれだよ! こう短パン小僧に勝つとお小遣い貰えるゲームみたいな」


「ああ、あれか。……つうか嫌だよ。なんでそんな面倒くさいことをしなくちゃいけないんだ」


 ごもっともな意見である。しかし、僕の商談術はここからが本番だ。


「ふふふ、じゃあこれを見てもそれが言えるかな?」


 僕は、もったいぶるようにその握った手を徐々に開いていく。


「なんと、結城さんの使用積み消しゴ……」


「その勝負のった!!!」


 なんだろう、まだ言い終えてもないのにこの反応スピード。何かで世界を狙えるかもしれない。


「……じゃあ結城さん、悪いけど審判の役をお願いしてもいいかな?」


「わ、分かりました……あの、ところで消しゴム忘れちゃったのなら他のをお譲りしますけ……」


「さ、さあ! 早く始めようじゃないか!!」


 危ない、無条件て渡してしまったら、僕のステータスがいなくなってしまう。

 しかし、忘れちゃったと勘違いしてる結城さんは、自分の消しゴムの価値に気付いてないらしい。女性にとっての宝石が、枯れた生活を送る僕たちにとってはそれになるというのに。

 高林君の携帯に、ケモノテスト申し込みを申請すると、向こうもそれに応じるためyesのボタンを押す。


「じゃ、じゃあケモノテスト開始です!」


「召喚!!」


 高林くんがそう叫んだ瞬間、軽いライトエフェクトが迸る。そして中から現れたのはー


「これは、雀?」


 チュンチュンと、軽く小突いただけで倒れそうな小さな(すずめ)だ。


「カスだ、ここにカスがいるっ!」


「う、うるせえ! おまえのネズミと大差ねえだろ!!」


「なんだと、ご主人のことならいい……いくらでも馬鹿にしろよ。でも、でもな……オレの事をバカにするのは絶対に許さない!!」


 普通は逆じゃなかろうか。


「ふ、ふん、とにかくいくよ! ユキ、とりあえずワンパン!」


 嫌々そうにしながらユキは雀に向かって、猫パンチ顔負けな弱々しいパンチを繰り出す。

 ピヨーと鳴きながら雀は後方に飛ばされた。


「く、くそ! やり返せ!」


 高林くんの指示により、今度は雀がユキに対して鋭そうな(くちばし)で突く。

 なんとか両手でガードするも、その一撃でユキの頬に軽く傷がついた。

 その後、ユキのカウンターパンチが雀の頬を掠め、代わりに翼で叩かれるのをなんとか避ける。


「ふふ、なかなかやるじゃねえか。正直侮っていたぜ。……認めてやるよ、おまえは……強いっ!←(ケモノはスズメ)」


「そっちだって……でも戦いはこれからさ。僕は……僕はっ!どうしても負ける訳にはいかないんだああぁぁ!!←(ケモノはネズミ)」


「(……なぜでしょう。セリフは熱い戦いの筈なのに、愛らしさが漂ってます……)」


 なぜだろう、熱い戦いの筈なのに結城さんの頬が緩んでいる。

 流石スライムと栗坊の戦闘レベルなためか、攻撃力などが低くてもHPがどんどん減っていく。と言ってる間に、両者の体力が残り僅かとなった。おそらく次の一撃を加えた方が勝つ。


「ふふ、迦具土よぉ……おまえ忘れてないか?」


「な、何がだい高林くん……」


「まだ俺は真の力を出していないっ! なぜなら……」


 過去、これを言って負けなかった奴はいないだろう。


「ま、まさか……それは!」


 雀が、両の翼を広げ、今にもその最終奥義を繰り出そうとする。その姿はまるで、大型の猛禽類のような迫力を見せつける。


「そう、雀は飛べるんだ!!」


 そして、畑の雀がまるでカラスに睨まれたように飛んだ。


「………………そう、だね?」


 思いの外当たり前だったことに肩透かしを食らうも、正直これは武が悪い。くそ、まさか奴が羽根つき栗坊だったなんて。踏み辛いじゃないか!


「ふはは! そう! こっちは羽根つき栗坊! スライムは地べたを這ってだな……ちょっ痛い痛い! 雀よ、なぜ俺をつつく!?」


 たぶん栗坊呼ばわりが気に入らなかったんだと。

 というか、お互いに自分のケモノをカスだと思っていたらしい。


「と、とにかく! この空からの一撃を喰らいやがれ!!」


 雀は最後のとどめとばかりに上昇、上昇、上昇を繰り返し……


 ゴン!


「「あ…………」」


 天井にぶつかって落ちてきた。

 そして残念ながら、そのHPは底を尽きていた。


「あー……、これは事故だし、このケモノテストはどっちかっていうと無効じゃ」


 高林くんが正論を投げかけてくる。

 まずい、このままだとステータスが……


「ふ、ははは! 高林くん、この僕の周到な罠に見事掛かったな!」


「いや迦具土、さっき完全に『あ……』って聞こえたからな?」


「そう、これが僕の秘儀、話術による策略(ブラックラビリンス)!!」


「あのそれ『暗黒の迷宮』なんだが……厨二病以前に頭の病治したらどうなんだ?」


 まあ、なにはともあれこれで勝ちさ。


「結城さん、終了宣言を」


「はっ……えーと、迦具土くんとユキちゃんの勝利? です!!」


 状況に対処しきれてなかった結城さんが、困惑しながらも勝者宣言をする。決して、この困惑は勝利への疑いではない。状況整理に追いつかなかっただけだ。そうに決まってる。


「さてと、じゃあ君の点数もといステータスを貰おうかな」


「くそ、まさか現実に、俺点数悪かったしお前の点数半分くれよーが成立するなんて……しかも全部」


 お互いの携帯をかざして通信を行うと、愉快なレベルアップ音とともにユキのレベルが2に上がった。

 さてと、ステータスはどのくらい貰えたのかな。


 《現在のステータス》

 国語総合 25点(+13)

 数学ⅰ 29点(+13)

 英語 13点(+10)


「あんまり変わんねえ!!?」


「うるせえ! てめえの点数よか良いだろうが!」


 今回のテストは課題テストだったためか、上限は控えめの各教科100点満点だ。王充学園では、このケモノテストのシステムがあるせいか配点が普通とは異なる。例えば今回の課題テストや小テストは満点が例外を除き100点。中間や期末ならば多い時は500点くらいの上限である。

 もちろん満点の上限が変わっただけで問題1問ずつの配点は変わらない。つまり問題数がやたらと増えたり、莫大な配点を持つかわりに無理難題に近い問題があったりする。

 つまり今回は、唯一僕らに勝ち目があるときだと言えよう。ステータスとなる点数は、テストごとに蓄積されていくが、今はまだ課題テスト分だけ。しかも上限が100点ならば、この作戦でまだ追いつける筈だ。


「そういえば高林くんの雀はどうなったの?」


「ああ、なんか全てのステータスが1になってるな」


 流石に全部といっても今回のテスト分だけ、しかも最低点だけは残しているようだ。

 さてと、みんなの方はどうだろう。


「隼人、どう調子は?」


「ああ、結構順調だな。何故だか分からないが、笑顔で話すとみんな有無も言わずに点数をくれるよ」


「せんせーい! ここに気弱な生徒から巻き上げてる強奪犯がいます!!」


「おい待て! 俺は強奪なんかしていない! ちょっと頼んだだけだ……低い声で」


 それを世間一般では恐喝ということをこいつは知らないんだろうか。

 まあ、隼人の人相の悪さをみれば怖がってしまうのもしょうがない。本当は甲斐性なしのドブ臭ボロ雑巾野郎なんだけどな。


「宮、なんでか急におまえをボロ雑巾にしてやりたくなってきた」


「あはは、何をトチ狂った冗談言ってるのさ、ボロ雑巾」


「心の声が若干漏れてるぞ」


 まあなんにせよ、隼人は順調に点数を上げているらしい。他の2人はどうだろうか。

 なんて考えていると、雲母が点数上げにひと段落ついたようで、こちらに近づいてきた。


「あら、2人も点数狩りにひと段落ついたの?」


「そのセリフ聞くだけだと特殊な不良みたいだね。」


「まあ、こっちは順調だな。柊の方はどうなんだ?」


「私も大丈夫そう。何故だか分からないけど、笑顔で話すとみんな有無も言わずに点数をくれるの」


 僕のあの頑張りってなんだったんだろう。


「くそう! そのなんでだろうとか本気でキョトンとした顔してるから、自分達ばっかり楽してズルいって文句が言えないじゃないか!!」


「お、柊()そうなのか」


「貴様には『も』っていう資格はない!!」


 雲母は「本当みんな優しいねえ」なんて言っているが、勘違いしてはいけない。クラスメイトは女子にしか優しくない。

 しかし、ここまでは僕もなんとか予想できる。問題は悠太だ。彼は、残虐的な顔でなければ女子でもない。天才の僕と違ってどう点数を稼いでいるのか。


「……………………。」


「あ、あれどうしたの君!?」


「……………………。」


「え、え? ずっと話しかけてたって……ご、ごめん気付かなかった!」


「……………………。」


「うわあ! 分かった謝るから泣きそうな顔しないで!! え? 点数が欲しい? いいよ、あげるあげる! だから許して……ね?」


 ズルイ。


「流石、みんなご主人と違って人望があるな」


 認めない、僕はこんな結果は認めないぞ。

 だいたい悠太が話しているのは、数少ない内のクラスの女子じゃないか。呪い殺してしまいそうだ。


「それで宮はどんだけ上がったんだ?」


「だいたい全部で倍くらいかな」


「おい、ダメダメな点数の倍って全然だめじゃないか。やっぱりおまえはだめだなあ」


 く、そんなだめだめ言わなくてもいいじゃないか。流石にへこむぞ。

 するとそこで、キーンコーンカーンコーンとお決まりのチャイムが鳴ってしまった。

 放課後までに時間はあまりない。今日は変則的な日程であり、午前中3時間と昼休みを挟んで4時間目を行い放課後となる。つまり、残された時間は次の休み時間と昼休みのみとなる。


「おい、授業だぞ席に着け」


 次も、担任である東野先生が受け持つようだ。


「とにかく、おまえは次も点数をできる限り上げとけよ」


 隼人はそう耳打ちして、そそくさと自分の席へと戻っていった。


 ー


「んじゃあ連絡は以上だが、なんか質問のあるやつはいるかー?」


 1人の生徒が手を挙げる。


「お、じゃあそこの……えーと、アレ……あーアレだ、アレくん」


 生徒をアレ呼ばわりするとはなんて先生だ。


「先生、彼女はどうやったら出来ますか」


 いや、この生徒もなんてどうでもいい質問をしているんだ。

 それなのに、東野先生は顎に手を添えて真剣に考える。


「まずはアレくんから普通の名前になることからだと思うぞ」


 それはあんたのせいだろうが、とクラスのみんなが、言いたいのを飲み込む。


「他には」


 またも1人の生徒が手を挙げる。


「はい、ソレくん」


 もう突っ込む気力もなくなったよ。


「好きな子に振られたんですが、忘れられません。どうしたらいいですか」


 このクラスの男子はなんなのだろう。思春期か? 思春期真っ只中なのか?


「まずは鏡を見て、自分が本当にその子に相応しいか考えてみろ。んで相応しいと思ったら先生のとこに来なさい。良い精神科医を紹介してやろう。……とチャイムが鳴ったな。とりあえず休み時間だ、起立、礼」


 ありがとうございました、という号令の中にくたばれクソ野郎と混じっていたのはきっと気のせいじゃないだろう。


「ふわー……さてと、また点数集めするかな」


 授業中に寝ていたらしい隼人が、欠伸をしながら近づいてくる。


「あ、そういえばご主人、オレ結構ダメージ受けてるぞ」


「ん、そっか。ステータスアップしただけでダメージは残るんだっけ」


「ん、なら購買に行こうぜ。ちょうど俺も喉が渇いていたとこだ」


「着いてく」


 と、どこから現れたのか、悠太も着いてくるようだ。


「えーと、総合点が経験値と購入ポイントだっけ?」


「そうだ、ちなみに完全回復するだけなら、そんなにポイントはかからんぞ。持ち歩き用のポーションはそれなりにするがな」


「なんか隼人、やけに詳しいね」


「まあ兄貴がここの教師だからなあ。ほらさっさと行こうぜ」


 3人と1匹でもう慣れた道を歩く。

 窓から射す穏やかな光が、僕らを包み込む。悠太はそんなに好きじゃないのか、嫌そうに手をサンバイザー代わりにして光を防いでいる。


「そういえば、そもそもなんで俺たちまで補修なんだ?」


「ん、さあ……そういえばおかしな話だよね。佐々木さんの言いようだと、僕だけが補修対象なのに、みんなも巻き込むのはおかしい」


「ああ、そもそも補修は先生の管轄だろ。生徒会が受け負うことじゃない……これはなんかあるな……」


 隼人がそう呟いて何かを考え始めた。

 まあおかしな点もあるけど、結局のところ考え過ぎじゃないだろうか。

 そして、そんな事を話している間に購買へと着いた。

 隼人はカウンターへと行き、おばちゃんにコーヒー牛乳を頼んでいる。

 悠太は、まだ昼でもないのにパンを買い漁っている。よくもまあそんな細身で入るものだ。


「えーと、回復はどこですればいいんだろう」


「お、ご主人あれじゃないか?」


 ユキの指差す方を見ると、ゲームセンターに置いてありそうな四角い機械が置いてあった。

 箱型で、斜めになった上面には液晶画面が付いている。


「ああ、これだったんだ。てっきりATMだと思ってたよ」


「ご主人……去年も在学してたんだよな?」


 なんだかんだで初めてだ。

 画面はタッチ式のようで、試しに軽く触れるとピコンと景気の良い音を出した。

 画面には学生証を翳して下さいと出ており、よく見ると側面にそれらしき物が付いていた。

 そこに学生証を翳すと、またもピコンという音が鳴り、画面にはロード中と表示された。


『ピピっ……ロード完了シマシタ。迦具土 宮さん、何かご用でショウカ』


「わ、音声が流れるんだ。すごいなあ」


『ハイ、このようなコト朝メシ前デス。そんなコトヨリ、その惚けたアホヅラヲどうにかした方ガ、ヨイと思イマス』


 そして無駄に毒舌だ。


「えと、回復をお願いしたいんだけど」


『…………その必要はナイカト』


「え、なんで?」


『全回復してモ、どうせ一撃でヤラレマス』


「お、確かにこの機械の言う通りかもしれん」


「「隼人も失礼な!! もしかしたらかすり傷の具合で必要になるかもしれないじゃん!!」」


 ユキと一緒になって反論するが、隼人も機械もやれやれといった顔をしてくる。


「んで、回復は何ポイントなの?」


『普通の回復だけナラ、5ポイントとなります。安いでショウ? ……ア! あなたにとっては高級品でしたネ』


「別にそれくらい高くないよ!! 全く……さっさとやっちゃって」


『了解シマシタ』


 画面に、ロード中の文字と段々溜まっていくゲージ、さらにその下にはパーセントが表示された。

 その間、不思議なことにユキの身体が青緑の淡い光に包まれている。

 そして100パーセントとなった時、その光も消え去った。


「おお、なんか身体が楽になった。さっきまでダルかったのに」


 そう言ってユキは肩をグルグル回す。

 元気そうに見えて一応ダメージは残ってたらしい。


『回復完了シマシタ』


「他にはどんな物売ってるのかな」


 適当に画面を操作すると、他にもポイントで買える色々な物が表示された。


「ポーション、ハイポーション、フルポーション……ここら辺は回復用の消耗品だね」


「お、こっちには装備出来る道具なんかもあるぞ」


「ん! ご主人これ買って!!」


「えっと、なになに? 聖騎士団の鎧……5万ポイント…………買えるわけあるか!!」


 5万ポイントって何回テストで満点取らなきゃいけないんだよ。今の合計点67点だぞ。


「まあ何にせよお前の貧相なポイントじゃ何も買えねえなあ」


「ぐ、しょうがないだろ。たまたま調子が悪かったんだ」


「たまたまねえ……」


 隼人がニヤニヤと下衆な笑いを向けてくる。無視だ無視。


「お、そういえばお前どうなってんだ?」


 そういって、箱型機械をコンコンと手の甲で叩く。


『私は一応、ケモノテストサポート用AIデス。質問等があればお受け答えしますヨ?』


「そうか、じゃあ生徒会が最近企んでるアレ(・・)について教えてくれ」


 アレって補習のことだよね。

 でも流石にそれは分からないんじゃ……


『ハイ、了解しまシタ』


「って分かるんかい!」


 なんて便利な機械だろうか。


『えーとデスネ……』


 そう言って、サポートAIは話し始めた。

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