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ケモノテスト  作者: ヤタ
3章 暴走!騒動!修学旅行!!
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謝罪の断罪

『ドゴンバゴングチャドカンズドン』


 目の前で、巨大だった筈のぬりかべが唸りを挙げて吹っ飛んでいく。


「というか今鳴っちゃいけない音混じってたよね!? 村人くん巻き込まれてない!!?」


 慌てて立ち上がりクレーターへと目線を向ける……クレーターって嘘だろおい。


「うん、大丈夫みたいだわ。ちょっと気絶してるだけかしらね」


 大城さんの確認にほっと安堵の息をこぼす。

 僕もまた様子を見にいくと、砂煙に混じって村人(略)くんが白眼をむいて痙攣していた。


「全然大丈夫に見えないんだけど……」


「大丈夫っしょ。むしろ宮っちゃんがいつも暴力うさぎにされてるほっが酷いっしな」


 そうか、そう言われてみればこの人まだ泡吹いてるだけだ。うん、血の一滴も流れてないなら大丈夫だな…………何故だろう涙が止まらない。


「というか天野くん今までどこにいたのさ! また主人公みたいに遅れてきて活躍する! これで3回目だよ!?」


 これじゃあ僕の立場が無くなっちゃうじゃあないか。

 すると天野くんは反省がなさそうに手を振ると、腰を下ろした。


「ちょ、流石に疲れたからってそんな余裕はないと思うんだけど……」


 なんせ後ろから教師(鬼)が迫ってきているのだから。


「あー、それっなら大丈夫だわ。おい、そこの委員長も能力解除していっぞ」


 天野くんの指差しに、大城さんが「いいんちょっ……」と怒りマークを付けた。

 何でと聞くと天野くんはプリン色の尖った髪を揺らして


「んっ? せんせっのケモノぶっとばしてきたからねっ」


 とはにかんで言った。


「教師のケモノを倒したああ!?」


「まっさすがっに全損どころか1ダメージも加えれなかったっけどね。ありゃそういうプログラムだね、麻痺状態にはなるよっだけと」


 なんて奴なんだ。いくら小ダメージでもいいからって教師の成績なら俊敏性とかどれだけ高いか分からない。実際に東野先生のクマは、隼人と二人掛かりでも歯が立たなかった。

 天野くん、まさしく戦闘のプロ。


「あ、これどうしよっか」


 僕が村人くんを指差すと、天野くんはニヤッとしたかと思うと懐からワイヤーを取り出した。


「もはや縄のレベルじゃないなんて……」


 僕の呟きも無視して、泡を吹いた村人くんを太めの木に括り付ける。ぬりかべは麻痺状態で……というか生命線ギリギリだ……ヒビ入ってるよ……。


「さてと、んじゃあ俺らっも動きますか」


「え? どういうこと」


 聞き返すと、天野くんの代わりを引き継ぐように大城さんが答えた。


「迦具土くん、このゲームの本当の趣旨って分かってるかしら?」


 大城さんは、人指し指を上に立てながら解説モードへと入る。


「んー、鬼ごっこって言うくらいだし逃げること……かな」


「ぶーっ、違うよ宮っちゃん」


 天野くんが隣で、指でバッテンを作った。


「ええ、それも大切だけど、一番は違います。東野先生がおっしゃっていたでしょう、最後まで残っていたのがひとり(・・・)ならば賞品を貰えると」


 なるほど、つまり全員が鬼というのは協力的な意味ではなく、敵となれという意味。


「麻痺状態にしておけば動けない、要するにほぼゲームオーバーだわ。このゲーム、普通は個人戦だから私たちはかなり有利かしら」


 なるほど、確かに賞品がなんでも貰えるという代わりにめちゃくちゃ難しい条件だ。僕以外にひとりでも残ってしまえば逃げ延びても賞品は貰えない。

 いや……まてよ?


「これってどう考えても先生側が有利なんじゃ……さては東野先生賞品を渡す気がないな!?」


「まあ飲み代に使ったって言ってたかっね」


 なんて先生としてあるまじき行為!!


「あ、そろっそろせんせっのケモノの拘束が解けるね」


 そうか、もうなんだかんだで30分経つのか。このままだと見つかってしまう。村人くんは……ご愁傷様です。


「あら、確かに少し足音がするかしらね」


「じゃあ本当に急がなきゃ。今ならまだ姿を見られずに逃げられそうだからね」


 言うが早いが早速行動に出る。天野くんの先行について行こうとすると、妙なピリピリ感を感じる。嫌な予感がして後ろを見ると白ネズミが一言。


「動けない……てへ」


 ー


「もう! なんでユキはこんなにもカスなの!?」


「ご主人に言われたくないな! そもそもオレの強さってご主人の勉強力に比例してるからね!?」


 僕たちは商店街のような場所を、人をなんとか避けつつ走っていた。

 ユキはというと、麻痺状態で30分動けないらしいので、しょうがなく鷲掴みしている。


「うぇっぷ……ご主人、振り回されるとリバースしちゃう」


「じゃあ蹴っていくよ」


「そんな小学生の帰り道みたいな感覚で言わないで!?」


「冗談だよ。流石に蹴りながらだと遅くなるし」


「心配するのそっちなの!?」


 白ネズミがなんかほざいているが知ったこっちゃないのだ。蹴りを当てる筈が、距離感を間違えて逆に小指を打つとか話にならない。


「さってと、とりあえずどっしよっか」


 人がまだ多い中で天野くんが突然止まって話し出した。満員電車規模の詰まり具合ではないため、渋滞が起きるなんていうことはないが、それでも僕らの側を通る人たちは邪魔そうに睨みつけてきた。

 僕は何もこんなところで止まらなくてもと天野くんを見つめると、彼はわーってるわーってるとでも言いたそうに手を振った。


「んっでも宮っちゃん、これっが最善なんだよ」


 そう言うと天野くんは学生ズボンのポケットからゴソゴソとある物を取り出した。見た目は……も何もそのまんまバッジなのだが、僕らの制服に付けてある校章とほぼ同じものだ。色はあえてなのだろう、金色が少し色褪せたように光っている。


「そういえばそれ、肌身離さず持っていろって東野先生が言ってたやつだよね……なんのためかは分からないけど」


「そっそ、この王充バッジのみが先生に見つかった場合不正と見なされって即ゲームオーバー……つまっり探知機って訳だね」


「なるほど、人混みで少しでも紛れるようにするためってことか。確かに良いアイデアだね……そのライオンさえいなければ」


 さっきの邪魔そうに見ていた人が、今度は物凄い表情で携帯で写真を撮っている。それはもうパシャパシャ連写で。


「あはは、私のククのようにストラップに化ければ……ああそうだった、あなたのライオンは能力がないんだったわね」


 大城さんが豊満な胸の下に腕を通して笑う。その黒い笑顔に僕は思わず顔をそらしてしまった。


「ねえ宮っちゃん、こっの女置いてっていい? ねえ、まっじで」


 そらした先も天野くんの暗い笑顔……どうしよう逃げ場がない。


「うおらあぁぁ!」


 とそのとき盛大な掛け声とともに、地面が波打った。


「う、ああぁぁ!?」


 天野くんと大城さんの板挟みから助かった代わりに地割れが僕を襲う。

 流石に地の果てまで落っこちることはなく、数センチの窪みに足を引っ掛け転ぶ程度で済んだが、周りの人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「ぶはっ、なんなの急に!」


 地面に突っ伏した顔面を引っこ抜くと、そこにいたのは斧を持つ大柄なミノタウロスと、それに負けない大柄な筋骨隆々な男……確か西郷くんだった筈。


「おっと、すまねえな迦具土。こんな人混みじゃあ勝負もできねえからついな」


 ニカッと焼けたように少し黒い顔で笑う西郷くん。不意打ちもしないで堂々と勝負を申し込む。どっかの目付きの悪い馬鹿に見習わせやりたい。


「ってあれ? どうして僕の名を」


 2組の代表として獣修決戦を戦った西郷くんは有名だから分かるけど、僕なんてたいして知られた名じゃ……


「おめえら俺たちの後で会長副会長と熱い闘いをしてたじゃねえか。あれは燃えたぜ、男らしい勝負だった!」


 どうしよう、逃げ隠れて弱った1組を襲う。まるでハイエナの所業を今更打ち明けられない。


「ということで、俺といざ尋常に……」


「あっ、えとごめん、今内のユキが麻痺してて……」


 正直勝てる気がししないしここは逃げ一択。あの斧とか凄く怖いし。


「むっ、そうか。じゃあ天野! 俺はおまえとも拳を交わしてみたかったのだ!」


 そう言って拳をパキポキ鳴らす西郷くん。あれ?今からやるのって鬼ごっこバージョンケモノテストだよね?


「……めんどいっしいいわ」


 天野くんは本当に面倒くさそうに西郷くんの誘いを断った。

 いやまって、これって僕と拳を交わすことになるんじゃあ……


「あ、天野くんの実力見てみたいなあ! いや本当ここで逃げたら男じゃないっ! そうだよこのヘッポコー!!」


「なんか宮っちゃんに言われっても全然悔しくない……けどまあしゃっない、いっちょやりますっか!」


 ふう、これでなんとか死は免れた。


「おう、じゃあ迦具土は2番目だな!」


 ああ、僕もうヘッポコでいいや。

 周りは元々人が大勢いたため、今度は何事かとと自然と人によるリングが完成した。

 その圧に全く動じない喧嘩上等の2人……まあ西郷くんは試合って感じだけど。


 そしてそのまま、特に合図もなしに2人のケモノは走り出した。ついでに本人たちも。


「うおら!」

「おいっしょ!!」


 ミノタウロスの振り下ろした斧にたいしてライオンは爪で押さえつける。ジャリジャリと音がしながら火花が散る。

 2人はというと全く同じ動き。右手のストレートを左手で押さえている。2人の間でも目線の火花が散っていた。


「ふん!」


 西郷くんがその掴んだ手を身体ごとぶん投げる。天野くんは空中で身体をひねり、ズザザザと引きずりながら着地する。

 なんというか……人間離れだ。


「あの人達……猿かゴリラかしら」


 大城さんの呆れた呟きに僕も頷くしかない。

 そのまま2人と2匹の攻防は続き、周りの観客は大いに盛り上がっていった。ちなみに先生も混じっている。


「軽いな、天野……おまえは素早いが拳が軽い!」


 西郷くんのいう通り、天野くんの拳は全て腕で防御されている。それに比べて


「オォラアァア!!」


 バンという空気の響きと共に、西郷くんの重い一撃が飛ぶ。天野くんはギリギリの所で回避する……それをずっと繰り返していた。

 しかし、素早い回避も続けていれば意味がない。先を読まれ、天野くんの隙を西郷くん渾身の拳が捉える。


「終わりだあぁ!!!」


 西郷くんの勝利を確信した雄叫びが聞こえた瞬間、ドゴンという音が響き渡る。そして一つの影が吹っ飛んだ。…………筋骨隆々とした大きな影が。


「誰っの拳が軽いって?」


 僕は見た、西郷くんの重い一撃に対して、天野くんが合わせて拳を放ったのを。

 そのとき、ケモノの方も勝負が決したようで、ミノタウロスが地面に崩れ落ち麻痺したようで動かなくなる。


「うっ……俺の負けか。やるな……天野、本当の実力を隠していたとは、してやられたぜ。これで2度目だ」


 西郷くんは言い訳をするもなく堂々と負けを宣告した。その潔さに周りの観客は拍手を搔き鳴らした。


「迦具土、悪いがおまえとの対決はまたになっちまいそうだ……すまねえ」


「う、うんそうだね。いや本当残念だなあはははは」


 僕は冷や汗タラタラになりながら頭をかく。大城さんの冷めた目がとても痛い。


「ふっ先生方、見ていた通り俺の負けだ。相棒は麻痺で動けない、さあひと思いにやってください!」


「は、はあ……」


 まるで切腹をするように胡座で目を瞑る西郷くん。本来は麻痺で動けない筈のミノタウロスもが胡座でその終わりを待つ。

 先生はよく分からない罪悪感にかられながら、返事をした。そして動けない西郷くんのミノタウロスをHPゼロになるまで棍棒で殴り続ける姿は、とても教育者とは思えない。周囲の目線がかなり痛そうだ。


「さてと、今の内に……」

「……逃げますか」


 僕とユキはハイエナの如く静かさでその場を離れていったのだった。


 ー


 あれから軽い戦闘5回、休憩兼作戦会議6回、先生から逃げることが30回とあった。


「先生から追われすぎでしょ!! なんなの!? 僕になんの恨みがあるの!!?」


 大城さんと天野くんは隣でげんなりしている様子だ。天野くんだって何度も先生相手に攻撃を仕掛けられる訳ではないのだ。ほとんどを鬼ごっこよろしく、逃げ回っていた。


「もうこれ私たちが代わりに優勝して、賞品だけ迦具土くんに渡したらいいんじゃないかしら……」


「それだと僕がしょうもない人間になっちゃうよ! 他人の賞品で雲母にごめんねって!!」


「もう元かっらしょうもないっしょ……」


 なんとか2人の気持ちを持ち直させる。

 ここは、公園だ。平日なせいか、幼児を連れた母親くらいしかいないため静かだ。


「ほら、ちょっと飲み物買ってくるから待ってて」


 後ろからオーダーが聞こえるから、軽く手を振って受け答える。

 公園はそんなに広い訳ではないが、それでも自販機の所に行くまでには2人の姿が見えなくなる。注文された物があるのを確認して小銭を入れようとしたそのとき


「もう、いいわよ別に。そんなにやる気じゃなかったし、このゲーム」


 不意にそんな声が近くから聞こえてきた。


「部屋にいたら東野先生から無理やり引きずられてきたんだから、むしろさっさと終わらせて帰りたいのよ」


「でもいいのか? 成績を貰おうってみんな躍起になってるぜ、こう言っちゃなんだが……も頭がいい訳じゃないだろ」


 話が途切れ途切れに聞こえてくる。少し聞こえない部分があったけど間違いない。鬼ごっこの話をしている王充学園の生徒だ。


「流石に無抵抗の兎を攻撃するのは気がすすまないし」


「うーん、確かにママさん達の前だと警察呼ばれてもおかしくないわね」


 どうやら男女のようだ。雰囲気的にデートって訳じゃなさそうだ。ここはひとつ殺気は抑えておこう、気付かれると嫌だし。


「でもそんなに辞めたいなら普通に先生に捕まれば良いんじゃないか?」


「それが、なんでか誰も来てくれないの。探しても見つからないし……いったい何のためのバッジよ」


 どうやら原因は僕にありそうだけど、ここはそっと胸に閉まっておこう。わざわざ言っても良いことない気がする。


「あ、ちょうどママさん達いなくなったわ」


 なんとなく聞き覚えのある声に誘われて、その音源へと近づく。小銭を握りしめたまま、茂みの先を見る。そして目に入ったのは、違うクラスと思われる、話したこともない男と


「ほら、はやく」


 機嫌が悪そうに腕を組んでいる雲母だった。

 思わず助けようとして足が止まる、確かあの男3組だ。傍にいるケモノも相当強そうに見える。しかも今雲母と対面するのは避けたい。

 いや何を考えているんだ僕は、ここで見捨てて何になる。


「ご主人! 何考えてるんだよ、あんなのに勝てる訳がない。今は生き残ることを優先しろ!」


 僕が言うことを聞かずに飛び出ようとするのを見て、ユキがさらに言葉を重ねる。


「むしろ雲母はそんなにやる気がある訳じゃないみたいだし」


「でも……だけど……雲母がこのゲームを楽しめないのは元々僕のせいなんだ」


 そう、僕があの時馬鹿なこと言わなければ。いや、そもそもシュシュのことさえ覚えていれば、雲母はみんなと同じように修学旅行のイベントとして楽しんでいた筈なんだ。

 そんな雲母をこのまま退場させる訳にはいかない。

 ユキにそんな願いが伝わったのか、いや伝わったのだろうペンダント越しに。しょうがないとため息を吐くと条件をつけた。


「……分かった。気づかない内に一撃入れる。もしバレたらすぐ逃げる、これが約束な」


 軽く頷いて約束をする。僕にとっても第一目標は生き残ること。そして賞品の『aria』のシュシュを手に入れて、堂々と雲母に謝ること。

 小声でやりとりしながら一歩ずつ近く、男はまだ気づいていない。

 もう少し……あと数メートル。

 しかしそこで、雲母の綺麗な瞳がじっと僕を捉えた。雲母のおどろきの表情に僕は思わずたじろいでしまい、靴が石を蹴飛ばした。コツンという僅かな音に、男が振り返る。


「ご主人!!」


 ユキの声に我に帰ると、僕は思わず逃げていた。男がこちらを追ってきている気配はない。

 ああ、囮にすら僕はなれないのか……


「あんたは! こんな時でも私を…………そうなのね。そんなに成績が欲しいのね。私なんかよりも……成績を」


 逃げる直前にチラリと見えた雲母の絶望した顔と、後ろから聞こえる雲母の悲痛の声が妙にマッチするが、無視して走る。止まりたい衝動を抑えて。後半のセリフは風に溶けて聞こえなくなった。


「でも今はごめん、まだ会えないよ。まだ、謝る資格すら僕にはない」


 僕の言葉も風に溶けていったような気がした。

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