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ケモノテスト  作者: ヤタ
3章 暴走!騒動!修学旅行!!
38/39

鬼ごっこの開催

「………………」

「………………」


「あのさ……」


 うん? と天野くんは僕の顔を見つめる。なんだろう、この状況、と思いながらもやっぱり聞かずにはいられなかった。


「僕のことって気づいてたんだね?」


「まああんな会話してたら流石に分かるっよなー」


 そう、確か僕はこの格好で天野くんを散々騙していた筈なのだ。例えば道の先でわざとぶつかって天野くんをドキッとさせたり、写真を餌に勉強させたり、体育館で甘々な声で声援したり……なんだろう、罪悪感よりも僕いったいなにしてるんだ感の方が強い。


「でもまさか自分の憧れの人が女装した宮っちゃんとは……………………やっぱもう一発殴っていい?」


「ごめんなさい! 心の底からごめんなさバゴバルっ!!」


 頬骨が曲がったように痛い。どのくらいかと言うと比喩表現がおかしくなるくらいだ。

 吹っ飛びながらも、やっぱり僕が悪いので土下座をしておく。空中でこの姿勢になるのはきっとシルクドゥソレイユでも無理だろう……プライド的な意味で。

 そして着地(?)とともに額を地面に擦り付けると、遠くから大股で歩くような音がした。


「ちよ、ちょっとあなた何してるの!? 見たわよ、女の子に暴力して土下座させるなんて最低よ!!」


 顔を上げるとそこには、ふんわり大人なスパイスを激怒のトマトソースで完全にとばした見たことのある女の子がいた。


「んー? なんでもいいけどあんた誰?」


 うわあ、聞き方が物凄い不良っぽい。不良か。


「わたしの名前は大城(おおしろ) 璃音(りお)! ほら、あなたもこんなことしないで」


 大城さんに庇われるようにして立ち上がると、左腕にとても形容しがたい感触が。あえて例えるならそう、ましゅまろ。


「や、あの大城さ」


 あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、怒れる女神をなだめようとして僕は気付いてしまった。今の僕の格好はあまり、いや絶対に人目についてはいけないものだ。

 まだ大城さんは僕だって気付いてないけれど、これが分かったら色々と終わる。頬骨がいよいよ割れる。

 かと言って天野くんの誤解を解かないのは申し訳ないしどうしたら……そうか!


「大城さん! ぼ、わたしが頼んだの!!」


「ええ!?」


 どうしよう、なんかこれはこれでとんでもない誤解を招いたような。なんだか少し、大城さんが暖かい目をしているような気がする。

 でもここで否定するわけもいかないし、しょうがない、僕だってバレてないならここは殴られて喜ぶ性癖の人って思われておけばい


「何言ってんのさ宮っちゃん」


 何ぬかしてくれるんじゃこのクソ野郎。


「え、宮……ってことは迦具土くん? え、何その格好、あと殴るのお願いしたって……あ」


「なんだか分からないけど察した、みたいな顔しないで!? 誤解だからね!!?」


 このままじゃ僕が、女装癖のドM野郎という取り返しのつかない噂が流れてしまう。


「違うんだよ大城さん! これには深い訳があって……」


「そうそう、宮っちゃんが女の子泣かせてっからケジメも含めてのだからな」


「さらに女の子を泣かせることまで……」


 駄目だ、もはやドMとドSという矛盾極まりない新たなタイプが完成してしまった。なんだこれ、僕が何したっていうんだ。


「まあ、その……私はいいと思うわよ? 生き物はみんな違うんだし」


「それ完全に僕を人として扱ってないセリフだよね!? 普通、人はみんな違うって言うところだから!」


 メスに成り切って、殴り殴られるのを楽しむ生物はきっと自然界で淘汰されると思う。それも真っ先に。


 どんなに否定しても分かった分かった、と絶対分かってない空返事をする大城さんを、なんとか説得すると、渋々というように納得してくれた。


「なるほどね。つまり柊さんを迦具土くんは泣かせてしまったと。しかも身に覚えのないことで」


「そうなんだよね。何か釈に触ったのかな。天野くんはどうなの?」


 なんか覗いてたみたいだし天野くんの客観的な意見は大事だろう。


「不良に頼むなんて迦具土くんどうかと思うよ」


 なんだか大城さんは天野くんに対して、冷たいような気がする。さっきの印象のせいだろうか。


「あー、なに宮っちゃん。このしつれっな女は」


 普段女の子にだけは甘い、チャラ天野くんもこの反応である。あんまり相性が良くないのかもしれない。


「ほほほ、なんでだか無性に掃除がしたくなったな。ゴミを見たせいかも」

「奇遇だな。俺もなんだか潰したくなってきたよ、羽音のうるっさい虫けらを」


 2人がお互いを睨んで火花を散らす。とりあえず僕を挟むのをやめてほしい、なんだか熱いし。


「何よ!」

「んっだよ!」


「はいはいそこまで! ほら、天野くんなんか覚えない?」


 2人はやっとのことでお互いの顔を背けると、それでもまだ不満そうに口を尖らせた。


「んーそっだな。暴力うさぎ……改め柊はなんか髪触ってたっしょ」


「天野くんに暴力呼ばわれするなんて雲母はいったい……じゃなくて髪に触れてた?」


 そういえばそんな気がする。髪留めがうんたらかんたら。


「そういえば柊さん、いつも同じシュシュしてるよね」


 大城さんも顎に手を触れて思い出しているようだ。


「そもそも雰囲気的にそれが原因っぽかったな。宮っちゃんなんかあれについって覚えてないの?」


 んー、確か小学校のときはつけてなかった気がする。となると中学の時だけど……そういえばあの事件のとき以来じゃなかったっけ……えーとあれは……


「あっ!!」


「どうしたの迦具土くん!? そんなまるで自分の顔が潰れたトマトのようだと気付いたような叫び声を上げて」


「それって完全に血まみれだよね!? 僕のイメージってどうなってるのかな!?」


 大城さんの中での僕のイメージがだんだん悪い方向に向かっていってる気がする。


「そうじゃなくて思い出したよ、あのシュシュ僕があげたやつだ……」


 その瞬間、あんなに仲が悪かった2人がうわあ、というような顔になった。


「「うわあぁ……」」


 口でも言われた。


「そりゃないよ宮っちゃん……くれたもの大事にしてくれてっのに渡した本人がそれを忘れてるなんて」


「うん、最低だよね」


「「うん、全くその通り」」


 なんでこんなときばっかり息が合うんだちくしょう。


「まあ原因が分かったからこれで……」


「解決だなんて思ってないわよね?」


 もちろんそんなこと思ってないさ。別に大城さんの黒い笑顔が怖いとかそういうことでは断じてないぞ。


「柊さんのシュシュ……思えばかなりボロボロだったかしら」


 それは中学のときから使っていればそうもなる。


「あと、あれってブランド物だったわよね? 確か『aria』って女子高生向けのやつ。よく迦具土くん知ってたわね」


「え、そうなの? 確かあのときは姉さんから貰って……」


「宮っちゃん、そのときっからそういう趣味があったんだね」


「ないよ!? 思えば何故姉さんはあれを僕に寄越したんだ!!」


 そういえば、なんかくれたときうっとりしたような目で見てたような。あ、静姉さんじゃない人ね。


「まあこれでなんとかなるんじゃないかしら? 同じものとまではいかなくても、同じブランドのシュシュをプレゼントすれば喜ぶと思うわよ」


「でもどうやって手に入れるのさ。言っちゃなんだけど、ここ海のそばだよ? 結構な田舎だよ?」


「……迦具土くんだけ先に帰るとかかしら?」


「流石にそれはお詫びの限度超えてるんじゃないかな!?」


 何が悲しくて、修学旅行抜け出して帰らなければいけないんだ。

 とそこでカーンカーンカーンコーンとお決まりの放送チャイムが鳴った……いやまて、思えばここ学校じゃないような。


『おーい、おまえら宿屋の前まで集合なー。こなかった奴は……まああれだあれ、とにかく酷いことになる』


 これの何が脅しになるのか逆に知りたい。


「これって東野先生よね。何かしら急に」


「まあこれなら行かなくても良さそうだね。さて、作戦会議の続きを」


『主に富田先生による何かだとだけ伝えておこう』


 さて、集合場所はどこだっけなっ。


 ー


「だーかーらー! 俺とそこらっのクズどもと一緒にしんねーでくれっかなっ!!」


「何よ、そんな言葉遣いしているあなたと他の方達の何が違うのかしら?」


「グアァァ!! なあ宮っちもなんとか言ってくれっよこの物分かりの分からんバカチンに!」


「迦具土くん、あなたもこのプリン頭とおんなじ考えなの? とても幻滅物だわ。即刻咲の半径100キロメートルから出て行ってちょうだい」


「もう僕の負けでいいから黙っててくれないかな……」


 宿屋の玄関へ行く道中、天野くんと大城さんの喧嘩が絶え間なく続いていた。主にお嬢様でお姉様な風の大城さんが見下す感じで、それを天野くんが頭いっぱいの怒りマークを付けて食ってかかってる感じだ。

 ……正直どうでもいいよ。


「あ、ほらほらもうすぐ着くよ」


「「うるせえ(さい)このヘタレ女装馬鹿!!」」


「よし、僕もこの話し合いに参加といこうじゃないか」


 というかなんで僕を馬鹿にするときだけ息ぴったりなの? 本当は仲良いんじゃないの?


 昨日僕たちが死闘を繰り広げた宿屋の玄関先には、もうすでに結構な人の数が居た。僕はあまり見られたくない格好のため自然的に下を向いて歩く。


「おー、天野がちゃんと来るなんて珍しいな。他の連中は……まあいいや」


 やる気のない点呼をしている東野先生が、僕らの元へ来て生徒(処刑)リストから大城さんと天野くんを除外する。……あれ、僕は?


「あー、他の連中にも後で参加させっよ」


「そうか、じゃあ除外しとく。よし、じゃあ時間だし始めるか」


 あれ、僕は?


「おーい、突然だが今からとあるゲームをする!」


 本当に突然な物言いに、ほとんどの生徒がざわざわとしだす。


「不運にもクジで当たってしまった俺が夜な夜な酒盛りしながら必死に考えたレクリエーションだ。心して励むように」


 今酒盛りって言わなかった?


「渡された資金を費やしてまで考え抜いた。その名も………………『鬼ごっこだ』」


 さっきまで騒がしかった空間が、嘘のように静まり


「「「絶対適当だろ!!!」」」


 波のように押し帰ってきた。

 中には俺たちの学費を返せと叫ぶ生徒もいた。

 東野先生は、まあ落ち着けとサインすると、怒れる生徒達に向かって言った。


「普通の鬼ごっこじゃないぞ。なんと……鬼しかいない鬼ごっこだ」


 今度は困惑の渦が広がった。

 それもそうだ、鬼しかいない鬼ごっこなど最早おままごとだ。


「ルールは簡単。お前らのケモノが俺ら教師陣のケモノにHPをゼロにされたらゲームオーバー。時間は5時まで。それまで捕まらず尚且つ逃げ延びた者が一人だったとき、その者を優勝とする」


 東野先生がめんどくさそうに説明を終えると、辺りはまたもブーイングの嵐となった。


「そんなの無理に決まってんだろ!」

「そんな長い時間拘束されるとかふざけんな!!」


 しかしそこでおっと言い忘れてた、と東野先生が呟く。


「優勝者には何でも一つ好きな物をくれてやろう」


 その瞬間辺りが静かになり誰かが、何でも……と呟いて唾を飲み込んだ。


「何でもだ。寿命とか無茶な物じゃなければ、例えば成績で最高評価でもくれてやろう」


 東野先生が以上と声を掛けると、1組以外の全てのクラスがやる気に満ち溢れた雄叫びを上げた。


「ふむ、じゃあ色々な権限を持つ生徒会長の座っていうのもアリなのよね」


 何処かにいたらしい佐々木さんがニヤリと発言すると、東野先生は勿論だと答えた。

 すると、1組の中にもやる気になったらしい人たちがざわめき始める。どうやらこの学校の生徒会長という役職はかなりの意味を持つらしい。


「あと一つ。鬼はお前ら生徒でもある」


 そう、まだこれでは全てが鬼だという意味が通じない。


「もし仮に、誰かのケモノに少しでも攻撃されたら、そいつは麻痺状態となりその場に30分間拘束される」


「つまり、実質ゲームセットって訳か」


 なるほど、それで全ての人が鬼だ、と。


 二学年全ての人が浮き足立っている。成績だの生徒会長だの笑顔で話し合っているけど、僕が欲しいのは成績でも生徒会長の座でもない。


「まあ完全にご都合展開だけれど、これでどうするかは決まったかしらね」


「宮っちゃんのために一肌脱ぐとしまっすか」


 2人の協力を得たらなんとも心強いだろうか。

 狙うはもちろんただ一つ。『aria』のシュシュだ。


 ー


 改めて会場を見て回るが、どこにも雲母の姿は無かった。その代わり、ユキが寺荘さんに捕まっていたので見捨てた。

 すると、ユキが僕の名前を叫びそうになったので慌てて口を塞ぐ。ついでにユキをいつでも可愛く仕立て上げていい代わりに服を返してもらう。

「いやあ、助かったよ。これでやっと大手を振って歩ける」

「このやろうご主人!! 人を売っといてなんていい笑顔をしやがる!!」

 そんなユキの叫びが聞こえたが完全に無視しよう。


 そして今は宿屋の外。海沿いの道を3人と3匹で走っていた。


「ちょっとちょっと! まだ始まって5分しか経ってないのになんでこんなに追われてるの!」


「そりゃ宮っちゃんの普段の行いがせんせっに目を付けられてるからじゃね?」


「不良に言われるとか納得いかないっ!!」


 東野先生の開始の合図直後から、僕達は大体の先生に追われていた。理由は皆目見当が付かないがとにかく追われていた。


「それで、どうするのよこれ。私はともかくあなた達一撃でも食らったら終わりじゃないの」


 大城さんの傍らには、九つの尾を持つ狐……九尾がいた。全長は天野くんが召喚したライオンより少し小さいだけだ。首には大きな鈴が三つついており、走る度にシャランと音を奏でている。


「む、オレをあんまり舐めてると……」


「どうしようね天野くん」


「おいこらご主人! 少しは擁護しろよ!」


 ユキの定位置となりつつある僕の頭の上でユキが地団駄を踏む。


「んっ、たぶん俺のは余裕っで耐えるっしょ」


 確かに、天野くんのケモノ……ライオンは何故か鳥居くんと渡り合っていた。鳥居くんは学年次席、正直結城さんの方が上な気がするが、それでも9組がタメを張れるわけがないのだ。


「まあそれはそれとして、あれ(・・)なんなの?」


「せんせってケモノいないっし代わりなんじゃね?」


 僕らを追う数人の教師が引き連れているのは『鬼』だ。鬼ごっこの鬼という意味ではなく、本当の意味での鬼。二本の角が生えた例のアレだ。


「こら! 今までの問題行動の罰を喰らえ!!」


「どれだけ迷惑掛かってると思ってるんだ!!」


「これまでの恨み覚悟オオォォォ!!!」


 隣でやっぱり宮っちゃんじゃん、と天野くんが迷惑そうな顔をする。逆隣の大城さんも擁護してくれそうにない。

 いや、まだ僕の名前が呼ばれた訳じゃないし分からな


「「「迦具土!!!」」」


「いやだ! 僕はなんも聞こえてないぞ! 怨嗟の篭った叫びなんて聞こえない!!」


 そのまま両耳を塞いでスピードを上げると、大城さんがしょうがないわね、といった様子で


「クク、あれやってくれるかしら」


 と一言。

 するとククと呼ばれた九尾は軽く頷くと、九つの尾を振り上げた。そして尾の先が光ったと思うと、それぞれの尾先に紫色の炎が灯った。


「おお!!」


 紫炎は勢いを増すと、道の幅いっぱいに広がった。

 先生達はその光景を見ると慌てて止まり、恨めしそうな目でこちらを見る。

 ……いや、それやったの大城さんです。


「というか凄いね、大城さん。あんなの鳥居くんのスキルの上位互換じゃないか」


 鳳凰はあくまで火を吐くだけだった。威力は知らないが、見た感じククは炎を操れるようだしその方がよっぽど良い。


「あれ、唯の幻惑よ」


 すると大城さんは悔しそうに唸った。


「触れたって火傷どころか熱くすらない。よく言うわよね? 狐に化かされたって」


 確かに、よく考えてみれば道いっぱいに広がる勢いの炎に、数メートルしか離れてなくて暑さを感じない訳がない。


「人はほとんどを視力に頼ってるから少しは騙せると思うけど、それも時間の問題かしら」


 しかも、これで2度と同じ手は使えない。大城さんはそれを承知でやってくれたのだ。無駄には出来ない。


「あそこから右に入ろう。ここからなら先生達も分からない筈」


 この先も何個か右へと曲がれる道がある。先生達も僕たちが行く道をピッタリ当てることは出来ないだろう。

 2人が頷いてくれたので、勢いを出来るだけ殺さないように道を曲がる、と


「お、ちょうどいいカモ発見」


 見たことある自意識過剰そうなクソ前髪の長い村人がそこにいた。


「…………だれだっけ?」


「はぁ!? 俺の名前は×××(ピー)……ってなんだこれ! なんで自主規制が掛かってるんだよ!!」


「えーと村人くん、ごめん僕急いでいるから……」


「おーっとそうはいかないぜ、この前の仮今ここで返させてもらう」


 自意識過剰クソ前髪村人がフレミング左手の法則を顔に当てる。後ろでは道を通さないと言わんばかりにぬりかべが立っていた。

 正直その格好にイラっとしたが、追手が来ているためここは我慢する。


「あーもう、なんでこうなるかな。ごめん2人ともちょっと手伝ってくれないかな」


「ごめんなさい。ククは能力(スキル)の使用中別の能力が使えないのよ。とても力になれそうにないわ」


 と大城さんが申し訳なさそうに両手をモジモジさせた。そういうことならしょうがない、ならばって


「あれ? 天野くんは?」


 大城さんも知らないようで顔を左右に振った。


「おい! 何をゴチャゴチャ言ってるんだ! こないならこっちから行くぞ!」


「うっ、もうこんなときに天野くんは! ユキとりあえずってああもう避けてるか」


 ユキは僕の言葉を待たずして頭から飛び降りていた。ただ、何がいけないかってそれは今まで僕の頭の上にいたユキが避けてるそれはつまりぬりかべの落下地点は


「死ぬ! まじで死ぬ!!」


 土埃の舞う中、どうにか避けることに成功したが、その振動で尻餅をついてしまった。


「はっは! 隙を見せたな。今だやってしまえぬりかべ」


「く、まずいっ!」


 僕は思わず顔を覆うと、倒れたままのぬりかべが起き上がるまで約10秒、その後攻撃モーションに入るまでもう10秒……


「あ、しまった攻撃するの遅い!」

「あ、しまった今の完全に隙だった」


「何やってるの迦具土くん!?」


 僕と村人はお互いに気まずそうに目をそらすと、すかさず戦闘態勢に戻った。


「今度は僕の番だ! ユキ、やっておしまい」


「うおぉ、とりゃあ!!」


 僕が指を指すと、ユキは全速力で走り動きの遅いぬりかべに飛び蹴りをかました。


「どうだ、これで麻痺で動けないだ……ろ?」


 何故だろう、小指が痛い。


「ご主人、オレ、動けない」


 ユキは麻痺状態になったらしく、髭がギザギザの形になって固まっていた。


「ねえ攻撃した側が小指打ってダメージ負うとかなんなの!? というか遅れて痛い痛い!!」


 タンスで小指を打ったような痛さだ。


「これって能力使えない私以下なのではないかしら……」


 なんだか大城さんからの視線が痛い、どうしよう。


「ふっ、まあこんなものだろうな! よし、今度こそチャンスだ、いけぬりかべ!」


 ヌオオオォ、と鳴きながらぬりかべがユキの側へ立つと、これでもかという程しっかりと狙いを定める。

 そしてその巨体が一瞬飛んだかと思うと、傾き始める。


「うおぉぉぉ!」


 とにかく無我夢中で走る。間に合え、間に合ってくれ!


「いたあ!? あっぶなかったあ!!?」


 間一髪でユキをすくいあげてそのままローリングの後木にぶつかって止まる。


「ご主人、そんなにまでしてオレのこと……」


「あっぶない……あんなのに押し潰された痛みなんて味わいたくないからね……」


「そんなことかと思ったよちくしょう!!」


 そんなことどころではない。最悪ショック死だ。


「くっ、まだしても粘るか。ならこれでどうだ、新技ぬりかべパンチ!」


「はは、そんな短いリーチであたるわけ……ちょっ伸びるとか反則!?」


 動けないユキを抱えて横滑りで避ける。その衝撃がユキにも伝わったようでしかめ面をされる。


「元はと言えばユキのせいなんだからね!」


 ぬりかべの追撃をなんとか避けながら叫ぶ。


「あ、やばい」


 ついに木々の間に挟まれ、要するに袋小路まで追い込まれてしまった。


「ふっふ、観念したか。あばよ迦具土っ!!」


 目の前でぬりかべが腕を振り上げる。

 くっ、これまでか……

 そう考えてゆっくりと目を閉じる。


「ちょーっちその辺でストップね」


 ……目を開けると巨大なぬりかべが吹っ飛んでいた。

自意識過剰クソ前髪村人が分からない人は第9話を見てみよう。きっと大した意味はなかったって後悔する筈だっ!!


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