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ケモノテスト  作者: ヤタ
3章 暴走!騒動!修学旅行!!
36/39

時に男児(?)は決断をする

 席に戻ると、先程までの険悪な雰囲気はどこへやら、隼人とユキが寺荘さんに弄られていた。


「お、おい離せ! そうだ! 俺は宮を差し出す。しょうがない、涙を飲んであいつに犠牲になってもらうんだ。ならいいだろう?

「オ、オレもそうする! 口惜しいけど、命には代えられないからな!」


「む〜、ならしょうが〜ないな〜」


「勝手に僕を生贄にしないでくれるかな!? というか何の話?」


 あまりにも勝手に話が進んでいたため少し遠くから止めに入ると、隼人とユキはあからさまに舌打ちをした。

 なんなの? なんでそんな悪意に満ちた顔が出来るの?


「え〜とね〜。東野くんと〜ユキくんも〜意外と似合うんじゃ〜ないかって〜思ってね〜」


 あまりにものんびりとした口調過ぎて調子が狂う。しかし、それも寺荘さんが取り出したふわふわのワンピースを見るまでである。


「んじゃあ僕は用事があるから!」


 フィギアスケーターもびっくりのキレの良い回転で、回れ右をする。そしてそのまま部屋に、いや宿の外へダッシュし


「「逃がすわきゃあないだろ!!」」


「うぐえっ!」


 ようとした瞬間に襟首を掴まれ、喉から出ちゃいけない音が漏れる。

 追い詰められた獲物には気をつけろって言うけど、逃げようとした僕が捕まってちゃ世話ない気がする。


「さ〜さ〜、宮くんにはこれを是非是非〜」


 寺荘さんの、のんびり笑顔に何故か影が差して見える。心なしか目も赤く光っているような。


「いーやあぁぁ!! 修学旅行ぐらいなら機会はないと思ってたのにイィィイイ!?」


「貴様ら!! 騒がしいぞ! ここは食事をする場所であってお遊びの場じゃ……なにをやっているんだ?」


 僕らを怒鳴りつけにきた富田先生は、光景を見ると怒りよりも疑問の方が勝ってしまったようで、呆れた顔をしている。


「ちょうど良いところに先生! いじめです! 強制猥褻の現行犯です!!」


 あれ、強制猥褻って普通逆じゃないかとも思わなくもない。


「違う! これは素直になれない宮のことを思ってのこうどうなんだ! 断じて犠牲とかそういうことではない!」


 ユキも乗っかるようにそーだそーだと握りこぶしを掲げる。


「まあ……確かに人の趣味にあれこれを言うのは良くない。教師ならむしろ受け入れてやるというのが大事なのかもな……」


「何で遠い目してるんですか! 普通に僕は嫌がってるんですよ!?」


「分かったからそれ以上言うな、迦具土……」


 僕の必死の叫びも虚しく、あまり騒がないようにとだけ伝えて富田先生は帰っていってしまった。

 おのれあのクソゴリラめ、僕が辛いとかばっか優しくなりおって。


「よ〜し、これで〜邪魔者はいなくなった〜」


「くそ! なんだかんだで見逃されると思ってたのにっ」


 いよいよ僕の制服のボタンが外されかけ……あれ、これ年齢的にアウトなやつじゃないの? と思い、いよいよ人生の終わりを覚悟したその瞬間、天使が舞い降りた。


「あ、あの……宮くん……」


「今度こそ助かった! 結城さん、雲母の様子はど……」


「その、着たら一緒に写真お願いしますっ!」


「助かってなかった! あれ!? シリアスな空気はどこにいったの!?」


 僕の渾身のツッコミは、もじもじ顔を赤らめている結城さんには届かなかったのだった。


 ー


「……で、何があったんだ? なんか騒がしい声が聞こえたような聞こえなかったような……こっちもそれどころじゃなかったんでな」


「ねえ…………ちょっと待とうか?」


 僕の挙手には誰も反応してくれなかった。結城さんでさえ。


「えーとですね、まずは状況から話しますと……」


「だから……おかしいと思わないの?」


 軽くユキの方を睨むが、完全に無視の態度を取るらしい。


「ああ、それで頼む。やっぱりその場の空気から知ることこそ状況整理の大事なことだからな」


「だったらこの空気をどうにかしてよ! 状況整理したらおかしいって気付くから!!」


 やっとのことでみんなが僕の方を振り返ってくれる、が隼人とユキは笑いを堪えて結城さんと寺荘さんは目を輝かせている。

 何故こんな状況かっていうと、それは……


「似合ってるんだから、いいんじゃ……ないか? ププっ」


「ぶっ飛ばすぞてめえ!!」


 僕の格好は普段から見慣れた学生服……ではある、が、それはイコール僕に似合うとは限らない。


「いや〜やっぱり〜似合うね〜迦具土くん〜」


「はい! よく似合ってますよ!」


 結局ワンピースを着せられるのだけは拒んだが、じゃあ代わりにといって女子用の学生服を着せるのはどうかと思う。


「でもなんだかんだご主人3回目だよなあ、もうそっちでいいんじゃない?」


「良い訳あるか!! こんなの街行く人に奇異の

 目で見られちゃうじゃないか!」


「んー……それは大丈夫だと思うけどなー」


 ユキじゃ話にならない。いやそもそもこの場にまともな人がいないのだけど……

 ついでにどこから持ってきていたのか、僕の頭にはカツラが乗せられている。だからって僕の勇ましい姿が隠せるとは思わないけど。


「残念ながら、お前にピッタリすぎて違和感が働いてないから。安心しろ」


「何を!?」


 僕の心に被せるように発言をする隼人。心なしか、僕の方をチラチラ見ている人がいる。ほらみろ、何が安心だ。


「(な、なあ、あの子可愛くね?)」

「(うお! 本当だ……でも見たことないな……)」


「ほら見ろやっぱり安心だ」


 隼人が別の席を見て、ニタニタ気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 あ、しかも富田先生が遠くから暖かい目で見てくる。どうしようもうお婿にいけない。


「ほら、早く本題に戻るぞ。ったく宮が余計な時間を使うから」


「僕が1番その言葉を言いたいよ……というか本当にこのまま進めるんだね……」


 座っているからまだ誤魔化せているけど、立ったらスースーしそうでたまったもんじゃない。


「そもそも何があったんだ?」


 隼人は本当に何も知らないようで、周りにも自分と同じ考えか確認を取る。


「悠太も……ここで食ってたし何があったかしらないよな」


「あれ!? 悠太いたの!?」


 影の薄さで気づかなかった。

 ちなみにお皿の上の、大量山盛り和洋食はすっからかんになっていた。こんな短時間で、しかも食べきるなんて人間じゃない。


「いた、二週目食べてた」


 本当にもう人間じゃない。

 そうか、彼はブラックホールか何かなんだ。よくよく見て見れば、宿の食事スタッフが遠巻きに悠太を見張っている。


「そんで、雲母のあの雄叫びはなんだったんだ?」


 隼人が結城さんに聞く。何故僕に聞かないかと聞いたら、話が進まないからだそうだ。


「ええと、私と宮くんが雲母ちゃんを見つけた時からの話になりますけど……」


 結城さんはこほんと、可愛らしく咳払いをして話し始める。


「雲母ちゃんは3人の女子生徒とお話していました。確かあれは8組の人だったと思います」


 なるほど、8組といえば朝霧さんのクラスだ。しかし結城さんは他クラスの人のことももう覚えたのか。すごい記憶力である。


「雲母ちゃんは珍しくたじろいでいたので、一方的に何かを言われていた感じでした」


「柊がたじろぐ……? 確かに珍しいな。いつものあいつならいちゃもんつけられても笑顔で追い払うだろうし、最悪物理的な手段で追い払うな」


 なんてイメージなんだ、と言いたいが本当にその通りなのでなんとも言えない。


「あ、喧嘩というわけではないように見えましたが。むしろ3人は褒め称えるような感じでしたし」


「そ〜れだ〜と余計に分か〜らないね〜。なんで〜褒められて〜怒るの〜かな〜?」


 コーンは回収し終えたのか、寺荘さんはのんびりと話を聞いてのんびりと疑問を口にだす。


「そうなんです……でも最後にアイドルがどうとか言っていたような……」


「アイドル……か。俺も詳しいことは知らないな。それこそ昨晩も言った通り、柊が昔スカウトされたことがある、というぐらいでな」


 隼人も意味が分からないと完全にお手上げ状態だ。

 そして、何かに気づいたように僕に振り返る。


「というか宮子なら何か知ってるんじゃないか? そもそも忘れられがちだがおまえら幼馴染だろ」


「ふん、僕が話すと話が進まないから遠慮しとくよ! あと宮子つてなんなのさ」


 僕がそっぽを向くと、隼人はめんどくさそうにして懐からあるものを取り出す。


「ったくめんどくさいな。ほれ、これやるから機嫌なおして話せってば」


「そんな簡単に僕が物で釣られるとで……ってこれ今の僕の写真じゃん!!」


「全国にばら撒かれたくなければ……」


「まさかの脅し!?」


「あの、東野くんもしよかったらそれ後で私にも」


「わたしも〜」


「はい! 喜んで話させていただきます!!」


 結城さん→ご両親→近所の人、でもれなく僕はお引越しになることだろう。


「とは言ってもどこまで話していいやら……」


 あんまり他人の過去を話すのは好きじゃないのだ。やっぱり話されたくないこともあるだろうし。


「中学2年のころ、かな……雲母がアイドルにスカウトされたのは。それが学校に知れ渡ってからは、しばらく雲母の話題で持ちきりだったよ」


 それこそ先生を巻き込んでのことだ。


「でもほら、出る杭は間違えて指を打つっていうから」


「『出る杭は打たれる』な。なんだその痛々しい現実は」


 あれ、そうだっけ。なんとなくで覚えていたから間違えてしまった。


「まあ今ので何となくは分かったよ。あいつにも色々あんだな」


 隼人が納得したのと、昨晩のことで微妙な顔をしている。知らなかったとは言え、そのことを出汁に使ったことを悔やんでいるのだろうか。


「ところで結城さん、雲母の様子は……」


 そんなにあれから時間はかかっていないのだが、結城さんが戻ってきているのは何故だろう。


「あ、はい。あの、追いかけたのですが雲母ちゃん走っていってしまいまして……その物凄いスピードでビューワーっと」


 それを聞いて僕たちみんなが納得と頷く。そんなのはウサギとカメが競争するぐらい部が悪い。それに雲母がこんな状況で道で寝たとしたら、僕は彼女の心境がいよいよ理解できなくなる。


「その、申し訳ありません……任せろなんて言っておいて役立たずで……」


「そんな! 結城さんが謝ることじゃないよ。雲母が本気で逃げたら僕も追いつけるかどうか……ましてやカメじゃ……」


「あの、どうしてカメさんの話をしているのですか?」


 それはあれだ、その……顔を背けておこう。


「か〜め〜は意外と〜速いんだ〜よ〜?」


「寺荘さんのカメちゃんはクルクル回転するからでしょ!? なんで本人に似た動物なのにこんな違うの……」


 すると寺荘さんはちっちっち〜と舌打ちして指を振った。


「違うよ〜。最近は〜ジェット機みたいに〜」


「飛ぶの!? え? 昨日言ってたのって冗談じゃなかったの!?」


 なるほど、ならば無人島まで人を2人も高速で運ぶ力にも納得できる。


「そんなことはどうでもいい。そもそもなんでその女子生徒3人がアイドルのこと知ってるんだ? 」


「じゃあ逆に聞くけど、なんで隼人は雲母が中学のときのこと知ってるのさ」


「おまえそれはあれだぞ……ほら、この世には知らない方がいいこともある」


「誤魔化しきれよ! なんだよその子供騙しみたいなやつ!」


「え、ご主人ならそれで充分なんじゃ?」


「それは僕が子供並の知能って言いたいのかな!?」


 ユキが心底驚いたような顔をする。なんて心外な反応なんだ。


「お二人と同じ中学の方がいたとかではないですか?」


 結城さんが手を挙げて質問をする。


「それがこの学園に来たのは僕と雲母だけなんだよね……僕はともかくなんで雲母までここに来たのかは分からないけど」


「それはおまえがここに来たか「たまたまじゃないですか!?」……だそうだ」


 悪かったからそんなムキにならないでくれ、と隼人がむくれた結城さんに片手を挙げる。


「それにまあ、その場合時期がおかし過ぎる。1年経った今、ましてや修学旅行中に聞くことでもないだろう」


 確かに、元々知っていたとは考えにくい。

 それに全容を知っているなら、雲母の気持ちを顧みずあんな質問をしないだろう。彼女たちも、そんなことをするようには見えなかったし。


「……さっき結城は、確か8組の生徒、と言っていたな?」


「え、ええ。私も少ししか話したことがないのでアレですけど、確かにそうです」


 転校してきてまだ2、3ヶ月だというのに、結構な知り合いの多さだ。結城さんの人の良さがそうさせているのかもしれない。


「はあ……なら理由なんて1つしかないだろうよ……」


 そう言って隼人は、しわを寄せた眉間を摘んで渋そうな顔をしたのだった。


 ー


「え、うん。言ったの私だよ?」


 席を少し離れてここは窓際の席。なるほど先程の女子3人組も同じだ。

 何故ここが分かったかといえば話は簡単。


「なんで言っちゃったのさ朝霧さん!」


 そこには、ほぇ? となんの悪びれもない、いやそもそも自分が何をしたのか分かっていないアホの伝道師、朝霧さんがいた。……そんな伝道師やだなあ。


「え、なんかまずかったの? というかどちらさん」


 しまった、今僕だとバレたら大変なことになる。


「はぁ……そこの3人の顔見てみろよ。顔真っ青になってんじゃねえか」


 隼人が顔を覆いながら同席している彼女たちを指差す。


「あ、あの私たち……その何がなんだか分からなくて」

「う、うん、ごめんなさい。何か余計なこと言っちゃったのかな」

「雲母さん大丈夫? ここにはいないみたいだけど……」


 3人は口早にそれぞれの疑問を口に出す。

 朝霧さんは状況が読めていないのか、目に見て分かるほどオロオロしている。


「あー、現状よろしくはないが、あんたたちを責めるつもりはない。そこのアホヅラに用があるんだが……まあぶっとちゃけ朝霧も悪くないんだけど……」


「なんでさはや……東野くん! 元はと言えばですわ朝霧さんがですわ……」


「ですわって言えばオッケーだと思うなよ? あと口止めしていない上に、元はと言えばおまえの責任だ。ったく脱出計画なんて考えるから……」


「む……確かにそれはそう……じゃないよ! 口止めはそうだけど計画したの隼人じゃん! 何さらっと僕のせいにしようとしてるんだよ!!」


 本当のことと混ぜられたから一瞬信じちゃったじゃないか。僕? 隼人? と顔をしかめる朝霧さんから目をそらしておく。


「さりげなくわたしがアホヅラと呼ばれた件に関しては」


「「無視!!」」


 朝霧さんがそんなバカなと驚いた表情をするが、こっちはそんな分かりきったことを追求してる暇はないのだ。


「ところで、今は何の話をしているの? わたしはコーンを食べるのに忙しいんだけど」


 どうやらここの難敵はコーンが共通らしい。

 必死にフォークで掬うけど、なかなか上手くいかずポロポロこぼれていく。


「代表、スプーンを使えば良いのですよ。手元にあるでしょう?」


「あ、本当だ! なるほど、それは思いつかなかった」


 隣の机から悲壮感の強そうな男子生徒が、朝霧さんにアドバイスをする。確か獣修戦争の時に、そば付きのような物をしていた人だ。


「ああ! 代表、そっちはスプーンの裏側です。凹型の方で掬わないとっ」


 なんというか、まだ代表と呼んでるとことか凄く面倒見が良さそうだ。しかし悲しいかな、きっと報われないタイプである。


「はあ、詳細はそこの3人に聞いてくれ。んでそれでも意味が分からなかったら病院に行ってくれ。念のため耳と頭の2つな」


 隼人がめんどくさそうに言うと、朝霧さんは頭上にハテナマークを並べた。


「なんで頭の方もなの?」


「さあな、薄いからじゃないか?」


「経験が?」


「脳みそが……それも半分くらい」


 それはもう薄いなんてもんじゃない。

 右利きか左利きかと問われたら、右専門ですってなってしまうじゃないか。


 不満げにそっぽを向く朝霧さんを放っておいて、僕らはまた自分の席に戻る、と置手紙が1つ置いてあった。


「寺荘さんからかな? えっと……『迦具土くんの新しい門出を全世界通じてお祝いしてきます。その服は返さないでいいので毎日着てきてください』……ってこれこの格好のことだよね!? 何なの? 世界にアップロードされるの!?」


 ついでに着ないのでしっかり返しにいこう。


「んなことより」


 隼人が真剣な表情で僕の目を見つめる。そうか、今は自分の心配より雲母をどうするか考えろってことか。なるほど、確かに雲母を励ませるのなら僕のこの格好くらいどうってことな


「悠太、三週目は流石に腹壊すんじゃないか……?」


「寺荘さんを探しに行ってきます止めないでください」


 なんだよ、ちょっといい奴だなって思ってた僕がバカだったよ。

 でも本当に三週目はやめといた方が良いと思う。いよいよお腹が妊婦並になってきたし。


「満腹、満足」


 ゲプーと欠伸のようなげっぷをしてお腹を摩る悠太。なんでこれで普段は細いのかが分からない。これはどんなダイエット商品も勝てないんじゃないだろうか。


「まあまて宮、服を返しにはいつでも行けるだろ?」


「僕の写真が世界に流出するのと引き換えにだけどね!」


 折角結城さん経路の流出を防いだのにこれじゃあ、寺荘さん→世界……どうしよう、僕の残された引っ越し先は月くらいしか残ってないかもしれない。


「中学のときはどうやって解決したんだ?」


「(ふふ、宮くんが解決した前提ですからね。なんだかんだ東野くんも宮くんが大好きなんですね)」


「なんだ? 今ものすごく悪寒というか怖気が……」


 よく分からないが、結城さんが微笑んだと思ったら隼人が身震いした。なんだろう、サイコパワーか何かだろうか。


「えーと、あんまし覚えてないんだけど……」


「おいおいそんな大事なこと忘れるなよ」


「だってなんか恥ずかしいこと物凄く言ったような気もするし……」


「おいおい、言い訳するなよ。どうせ物覚えが悪いだけだろ?」


「そこまでじゃないからね!?」


 いや本当に今思い返すと顔から火が出そうである。完全に黒歴史だ。


「大丈夫だぞご主人。たぶん自覚のない普段の方がもっと恥ずかしいから」


「ユキにだけは言われたくないよこの非常食」


 非常食!? と改めて自分の立場を理解したユキは恐怖の目を……いやこれどっちかっていうと引いてるな。


「でもまあご主人なら、おまえの心は半分以上俺のもの俺の心も半分以上俺のもの、的な感じだと思う」


「何その有名なセリフの乱用! 僕は横暴でもなければ錬金もできないからね!? あとついでにこれただの最低な男じゃん!」


 半分以上て、なんて平等じゃないんだ。、強欲すぎる。


「んなの宮が、リュールストレミングのように臭くてグラブジャムンのように甘いセリフを吐いたことぐらい用意に想像できる」


「……なんでその2つで例えたかなあ……もう極端過ぎてただの害悪だよ」


 どちらも世界一臭いのと世界一甘い食べ物(だと思う)だ。


「そしてデスソースのような張り手でフラれたんだろ?」


「雲母のビンタが世界一レベルに!?」


 割と否定できない。少なくとも首の頑丈さは世界一だろう。


「思い出す術はないのでしょうか……?」


 結城さんが指を顎に当てて首をかしげる。どうやら本気で僕が忘れたと思って真剣に考えているようだ。


「あの、結城さん……一応ちゃんとおぼ……」


 と言いかけた瞬間、横から隼人の視線が突き刺さった。どうしよう、ここで本当の事を言えば黒歴史を明かすことになるし、言わなければ結城さんが永遠悩み続けることになる。


「なんですか、宮くん?」


 中途半端に固まった僕を不審に思ったのか、結城さんが不思議そうに聞いてくる。


「いちおう……ちゃんと恋におぼれたいって言ったんだよ!」


「一翁ちゃんですか? どう見ても男の、それもかなりご年配の渋い感じですね……」


 どうしよう、結城さんが困ったような顔をしている。そりゃあそうだ、同級生が同性愛までならともかく、ストライクゾーンまで急カーブだと打てる気がしないだろう。


「(どうしましょう、これだと宮くんの好みに合わせられません……)」


「なんでもいいけど、本当に宮は覚えてないんだな? 神に誓って?」


「う、うん……その通りだ……よ?」


 とりあえず誤魔化しておこう。あんな恥ずかしいこと言う訳にはいかない。


「あ、ならこうしましょう」


 結城さんがそうだと言わんばかりに明るい顔をすると


「そもそも記憶障害には様々な症状がありこれとは断言できませんが例えば交通事故などの外傷性脳梗塞などの内因性の場合があります他にも色々とありますがおそらく宮くんのものは健忘症候群と呼ばれる記憶の中でもエピソード記憶が障害されかつ全校生健忘が…………」


「あれはまだ暖かい春の時期だったかな……」


「あれ!? 宮くん覚えてるじゃないですか!」


 残念ながらこれ以上結城さんの呪詛を聞いていると、僕の頭ん中は熱で焼き切れてしまう。ある意味自己防衛反応の結果だ。

 死ぬくらいなら黒歴史などなんのその、という苦渋の決断で僕はあの時のことを思い出していったのだった。

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