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ケモノテスト  作者: ヤタ
3章 暴走!騒動!修学旅行!!
31/39

大脱出計画ミッション1

 夜も更けてきた頃、僕こと迦具土 宮と東野 隼人、佐伯 悠太は宿屋の部屋に集まっていた。ちなみに僕の哀棒である白ねずみのユキも一緒だ。


「ご主人、今ちょっと悪意を感じたんだけど……?」


 哀棒である白ねずみのユキも一緒だ。


「死亡者3人」


 目が前髪で隠れたせいもあって、普段影の薄い悠太が話かけてきた。


「いやだってお前、こっちは昼食林檎一個を3人で分けて、夜飯は抜きだぞ!?」


 床に突っ伏しながら腹を抱えている隼人がぼやく。一見お腹を壊した哀れなゴミのように見える。


「ゴミのようだ……」


「おまえ心に思ってること全部漏れてるからな?」


「宮もブーメラン」


 別に僕はお腹など抱えていないぞ。ただうずくまっているだけだ。

 時計を見てみると、午後8時を指していた。


「さてと、そろそろか。やっと風呂の時間だ」


 隼人が芋虫のようにもぞもぞ動く。

 僕らの通う充一学園は生徒数がとても多い。

 そりゃ1学年で9クラスもあれば、1クラスの人数を絞っても多くなっていまう。

 それはやはりケモノの存在が大きいのだろう。

 僕は全くもって興味がなかったが、世界的に見ても異例な学校である。自分のキャリア的に考えてもお得と言っていい。

 話が逸れたが、そんな理由もあり、尚且つ9クラスの僕らは風呂の時間が最後である。つまり当然入るのも遅くなる。


「おら、さったと行くぞ宮」


「ご主人、早く早く!!」


 僕はそんな友人達に急かされて立ち上がった。


 ー


『カポーン』


 宿は(僕らの泊まる離れのみ)は汚かったが、大浴場は普通に綺麗だった。湯気の立ち上る浴場には、もう既に9組のメンツがほぼ揃っていた。


「斉藤くん、いくら演出だからって洗面器を床で叩かなくても……」


「ばか、斉藤のささやかな和みの気遣いだぞ。察しろ、すまんな斉藤」


 クラスメイトの斉藤くんは無言で手の形をグッドにした。

 ちなみに何の共感なのか、悠太がグッドハンドを返している。


「仲間」


 なんか涙が出そうだ。

 また新たに数人が入ってきたとき、斉藤くんは洗面器を床に叩きつけていた。

 まるで演劇で木の役になった子供が動かないように必死な姿でいるような情景が浮かぶ。


「先に身体洗っちまおうぜ」


 隼人が手拭いを肩に回しながら、浴槽と反対方向に歩き出す。

 シャワーで適当に髪を濡らし、シャンプーを手の平にプッシュする。そのまま頭を擦ると泡が出てきた。

 ある程度シャカシャカした後は、シャワーで再び髪を濡らす。


『シャアーー』


 泡が消え切らない。


『シャアーーーー』


 まだ無くならない。


「ってちょっと! シャンプー頭にかけてるでしょ!いたずらがガキか!!」


「高等な(トラップ)と言って欲しいな」


「ただのシャンプーの無駄使いだよ」


「おまえだってずっとシャワーで頭流してたじゃん」


「隼人がシャンプー掛けてたからでしょ!!?」


 なんて論もクソもない言い訳だろうか。

 あまり叫ぶと富田先生がやって来そうなため、おふざけはここまでにしておく。

 あ、シャンプーの無駄使いはマナー的にダメだからね?


『チャプン』


「はあ〜、くそう自然と声が漏れちまうな」


「日本人ならしょうがないよお」


 またも二人揃ってはあ〜と息を吐く。

 ちなみにユキは、しっかり丁寧に洗浄した後、お湯を満たした洗面器(こちらも丁寧に洗った)に入っている。抜け毛の心配があったため毟ろうとしたらそれは拒否されたが。


「はあ〜極楽極楽。オレ大きい風呂入るの初めてだ」


 口元まで潜った悠太が、洗面器をぐるぐる回しているが、ユキは三半規管が強いのか意にも返さない。

 その時、僕の背後から湯気に紛れて声がかけられた。


「あれ、宮っちゃんに隼っちゃんじゃん。もう先に入ってたのかー」


 その声の主は、2の9クラスの約3分の1を占める不良を全てまとめ上げている天野であった。

 天野は、普段尖っているプリン色の髪を湿りによってさらに尖らせていた。

 隣には青少年風な優男と、高校生にはとても見えない巨体でガッチガチな男が立っている。

 隼人はそんな彼達を見て、何故か感謝する仕草で軽く頷いた。


「天野くん、なんだか久しぶりな感じだね」


「んー、まあ俺たちそもそも学校毎日行ってないからなあ」


 確かに、週に1、2回は休んでいる気がする。

 まあそれでも一応来てはいるのだし、不良にしては真面目な方かもしれない。


「お、それもしかして温泉卵?」


 天野くんが指差すのは未だに悠太がクルクル回している桶。


「あーもしよかったら食べる?」


「オレは温泉卵じゃないぞ!!? 中に入ってるのは黄身じゃなくて赤身だからな!!?」


 ユキが焦ったように叫ぶ。

 冗談だよ、と天野くん達が浴場に入る。

 若干1名のせいでお湯が滝のように外へ溢れていく。


「しかし天野達も律儀に風呂の時間守るんだな」


「んー、まあねー。流石に閉められっと入れねえし」


 確かに僕らが入った後は誰も入らないんのだし、意気揚々と裸で来たら掃除されて空っぽでしたは悲しすぎる。


「就寝時間は守らないけどな」


「ってことは晩酌?」


「おいおい宮っちゃん。俺たちまだ20歳前だぞ」


 いや、まあそれはそうなのだけど、こう、イメージ的にね。


「じゃあ何するのさ」


「そりゃあもちろんー枕投げだよ」


 僕は思わず肩を落とした。

 たしかに楽しいけどさ、枕投げ。


「天野、俺は外行ってっから」


「あ、俺も行くっす!」


 側付きの二人は露天風呂の方へ行くらしく、天野くんもそれについていった。

 水面が穏やかに揺れるだけでとても静かだ。


「ふむ、俺たちも露天風呂に行ってみるか」


 そう言って、隼人は浴槽から出てタオルを腰に巻いた。僕と悠太も釣られて上がる。ユキは一寸法師の如く必死に桶を漕いでいる。

 露天風呂に続く扉を開けると、冷気が身体を突き刺した。先程まであったまっていたとはいえ、夜の冷え込みは遠慮なく僕らを震えさせる。昼の暑さも嘘のようだ。


「うわあ、なんか豪華だね」


 そこに広がるのは大きくて太い杉の樹をふんだんにに使って作られた小屋だった。高さも僕らの身長の4倍はあろうかという程でかく、一見お寺を半分に割ったように見えた。浴槽は風情のある天然岩を敷き詰められていて、絶え間なく透明なお湯が流れている。


「そりゃあ俺たちの泊まっているこの宿屋は温泉で有名だからな」


 地元のパンフレットだけでなく、本土の旅行誌にも載っていた程だ。確かに立派だと頷ける。


「あれ、天野くん達が見当たらないね」


 お寺風呂に入っているのは1人か2人くらいなもの。しかもそのどちらも天野くん達ではない。


「神隠し?」


「そんな訳ないだろ……だいたい寺に見えるのに神って。ほらあそこ見てみろよ、まだ続きがあるみたいだ」


 悠太の発言に隼人が呆れている。

 岩や緑の生い茂る木々の中、一箇所だけ不自然に空いている。なるほど、ここは1つづつ順番に回る構造なのか。


「くそ、ゆっくり浸かってたら時間が無くなっちまう。どんどん進もうぜ」


 人工に川まで作られているのか、綺麗なせせらぎの音の演奏の上に造られた、控えめな橋を渡る。

 次に現れたのは、岩壁から1本ずつ、滝のようにお湯が流れ落ちているお風呂だ。おそらく肩に当てて凝りをほぐすのだろう。

 しかし、隼人はこれもお気に召さないのかさらに先へ進む。そして、そろそろ終わりだろうと思えてくるころ、1つの小屋を見つけた。


「見た感じサウナだな」


 ユキが僕の頭の上から中の様子を確認する。


「お、ここにするか」


「ここまで来て風呂じゃないんかい!!」


 隼人は話を聞くつもりはないらしく、とっとと入ってしまう。


「うお、サウナなんて久しぶりだよ」


 入った瞬間、今までの冷え込みが嘘のようにかき消された。湿度の高い熱風が僕の身体を撫で回す。

 僕の頭の上でも、サウナが初体験らしいユキが、未知の感覚といった具合に身をよじらせていた。


「隼人はサウナ好きなのか?」


「ん、ああ、温泉とか来たら絶対入るな。なんでかは分からんけど」


 ユキの質問に隼人は腰を下ろしながら答える。


「さてと、んじゃ我慢大会といきましょうか」


「唐突だね。まあそれなら僕は負けないかな、寒いより暑い方が得意だし」


「ほお、じゃあその小枝のような自信を叩き折るとするかな」


 数分後


「そ、そろそろ隼人は限界じゃない?」


「抜かせ。それよりもお前の頭の上のそれは毛皮暑そうだな、脱いでしまえ」


「死ぬわ!!」


 ユキは必死で叫ぶが、またすぐに暑さに負けたようでへたり込む。どうやらユキもなかなか負けず嫌いらしい。

 ちなみに悠太はサウナが苦手らしく、そもそも側の風呂で待機している。


「ふふ、全然熱くないよ……」


「そうかそうか、ならもっと熱源へ近づけ!」


「うおわ!?」


 隼人に押されて熱源である炭に近づく。

 息のしずらさやサウナ独特の匂いが強くなり、一瞬くらっとくる。


「ははは、隼人こそ遠慮してないでほら!」


「うあづ!!?」


 僕は手元にあった(恐らく係員さんが忘れた)トングで炭を掴み隼人に投げつける。


「そうかそうか、ならてめえも遠慮なく突っ込みやがれ!」


「いたあつ!!?」


 隼人は僕の後頭部を鷲掴みして、熱源が囲われている柵に突っ込んだ。


「さっさと出てしまえ!!」


「てめえこそここで炭にでも生まれ変われ!」


「なあ、ただでさえ暑いのにそんな動き回って大丈夫なのか?」


 ぐう……確かにユキの言う通りだ。


「ちっ、しょうがねえ。決着は別で付けるとして、ここはとりあえず上がろうぜ」


「そうだね」


 2人で押し合うように出口を抜けると


『ブクブク』


「「ゆうたあぁ!?」」


 何故か悠太が溺れていた。


 ー


「ったく、のぼせて風呂で溺れるとか子供か」


 僕らは慌てて悠太を二人で運び、風呂から上がってすぐの所にある休憩所に来ていた。

 自動販売機の横にあるベンチに、浴衣を着せた悠太を寝かせる。

 僕は念のために冷たいスポーツ飲料を勝って悠太に渡す。


「まあしょうがないんじゃない? 悠太細いし白いし炒めたら美味しそうだし」


「遠回しに罵倒……」


 悠太は軽く唸ってスポーツ飲料を受け取った。

 側には流石というかなんというか、お馴染みであろう卓球台が置かれていた。


「宮、自販機のジュース一本でどうだ?」


「その勝負乗った!」


 備え付けられたラケットとボールを持ってセットアップ。


「勝負は3点マッチでデュース無しな。ただの卓球じゃつまんないしそうだな……お題を言い合いながらってのはどうだ?」


「面白い、僕の博識っぷりを見せてあげようじゃないか」


「おまえは博識っつうか薄識だな」


「んな、その言葉そっくりそのまま返してあげるよ!」


「言葉というか字面だけどな。寧ろよく言葉のニュアンスで嫌味が分かったな」


 そりゃあ嫌でも分かるさ。なんてったって隼人の顔が嫌らしい顔つきになっていたから。

 軽いジョブも終わり、お互いの間に変な沈黙が走る。

 そして、死に絶えかけてる悠太が審判を務める。

 消え入りそうな声で始め、と言われて少し苦笑してしまう。


「まずは俺からお題を出させてもらおう。元素名だ」


 窒素!と言いながら隼人がサーブを打つ。


「…………」


 僕の横をボールが駆けて行く。


「いやおまえ、流石に一つくらいは分かれよ」


「うるさい! ちょっと調子が悪いだけだよ!!」


 僕は息を整えて頭の中で『すいへいりべい』と思い出す。よし、大丈夫だ。有名な覚え方ならばいける。


「しゃあ行くぞ! 元素名!」


 水素! と今度は僕からのサーブだ。


「おい、お題同じじゃねえか」


「ダメなんてルールないよ?」


「っクソ! ……ヘリウム!」


 毒づきながら隼人はなんとか打ち返す。


「リチウム!」


「ベリリウム!!」


「………ぼ、ボリウム!!」


「アウト」


 悠太が旗を上げる。


「ボリウムってなんだよ。お前は新しい元素でも見つけてノーベル賞受賞する気か……」


 くそ、なんとなく有りそうな気はするんだけれど、どうやら無かったようだ。


「ちょっとしたド忘れだよ!」


「いやおまえ……ド忘れにしたって『すいへいりべ』までしか覚えてないやつ初めて見たんだが…… ちなみに『ぼ』はホウ素な」


 だって『ぼ』がホウ素とか逆に分かんないじゃん……


「はは、まあなんにせよこれで俺が2点先取だ。こりゃ勝ちは貰ったな」


 確かに、まずい事態となった。

 これは精神力が求められるゲームだ。相手の精神力を削る方法は……今の隼人の弱点は……そうか!


「お題! 『食べ物』!」


「まじかおまえ………確かに俺は今猛烈に腹が減っている。だがそれは宮も同じことだろう……」


「ふ、僕はそんな欲には負けない。オムライス!」


 僕のスイングした玉が卓上を駆ける。


「焼きそば!」


「ハンバーグ!」


「カレー!」


「天ぷら!」


『『ぐぎゅるるる……』』


「「………………」」


「不毛」


 悠太の呟きに僕らは崩れ落ちる。

 くそ、何なんだよ。何で僕らがこんな目に合わなくちゃいけないんだ。


「ちょっとあんた達今度は何やってるのよ」


 声のする方を見ると、ちょうど今出てきたとこらしい雲母が、髪を拭きながら白い目でこちらを見ていた。


「うわあ、卓球台ですか!」


 結城さんもいたらしく、横から目を輝かせて頭を覗かせた。


「私あんまりやったことないんですよ」


 結城さんもまた浴衣でいた。

 二人の浴衣からは肩や鎖骨辺りが見え隠れしている。そこから覗く肌は湯上りのせいか、少し赤く火照っていてとにかく魅了的だ。


「ふぇーー……」


 何だか見惚れてしまい返事も曖昧になる。


「……私も卓球初めて」


「うわあ! 何ていうか卓球って感じだね!」


 ちょっと何を言ってるのか分からない。


「ってなに? 何故巴里も一緒なんだ」


「それに朝霧さんも……」


 隼人が驚きの声を上げる。

 それもそうだろう、巴里さんは確か3組で朝霧さんは8組だ。つまり僕らよりもっと早く入っていたはずなのだから。


「なんか寝て起きたらみんな入った後だったんだって。んで先生に相談したところ、女子の少ない9組に一緒に入れてもらえって」


 雲母が巴里さんの代わりに説明する。

 なるほど、恐らく部屋の友達は起こすのを悪いと思ってそっとしておいたのだろう。


「ちなみに私は行く途中で迷っちゃって、着いたらもう9組の時間だったんだよ!」


 うん、何ていうかそんな気がしてた。

 しかしまた巴里さんも白髪が似合って美人だ。朝霧さんも控えめな胸が浴衣とよく似合っている。


「……………………」


「隼人、目がぼーっとしてるよ」


「!!? は、はあ!? 何言ってんだ宮! 巴里を見惚れてたとかそんなわけないだろ!!」


「僕は巴里さんがなんて一言も言ってないけど?」


「っ!!??!」


 隼人が珍しくわたわたしている。なるほど、これは面白い情報を得た。


「ところで迦具土くん? 今物凄く失礼なこと考えなかった?」


 僕は朝霧さんのセリフを無視することにした。冷や汗ダラダラで。


「あれ、こんな所に可愛らしいストラップが」


「雲母、それユキだから」


「あ、本当だ間違えちゃった。テヘっ」


「いや今なんか見えたんだけど!? ストラップの頭とかに刺さってる杭みたいなの見えたんだけど!!?」


 ユキが叫ぶ。

 そんなの刺したら可愛らしいから一転、グロテスクな剥製ストラップの完成だ。……まあ雲母はそれでも可愛がるだろうけど。


「そういえば迦具土くん達は結局夕飯は何を食べたんですか?ちなみに私達は大漁でしたので結構豪華に……ってちょっと大丈夫ですか!!?」


 僕と隼人はまたも崩れ落ちた。


「いや、大丈夫だよ。ちょっとマッチ売りの少女みたいな気分になってるだけだから……ほら、こんなにも美味しそうなミートボール」


「落ち着いてください!? それはピンポン玉です!」


 滴る肉汁がおいしそうだ。←(幻想)


「こっちにはこんなにも美味しそうな野菜スティック」


「それはラケットです! というかもう全然似てないじゃないですか!?」


 瑞々しい張りがおいしそうだ。←(虚像)


「グオォォォ!! くそ!こんなもんやってられっか! 教師(そっち)が飯をよこさねえって言うなら自分でありついてやる!!」


 隼人が叫びながら拳を天に突き出した。


「でもどうするのさ。ここの売店はもうとっくに閉まっちゃってるし外はもう出ちゃだめだよ?」


「俺に考えがある! ついて来い!!」


 僕は嫌な予感しかしないと悟りながらも、空腹には勝てないのであった。


 ー


 結局僕達は隼人に先導されるまま僕ら3人の部屋に来ていた。元々3人用の部屋だが、広いおかげか7人でもそこまで窮屈はしなかった。


「うわ、なんか私達の部屋よりボロいわね」


 雲母が入って開口一番そんなことを言った。

 まあ、離れだからしょうがないと言えばしょうがない。


「いや、まて雲母。確かおまえと結城も同じ離れだよな。なんせクラスが同じだし」


「ええ、でもなんていうか、ここまでじゃないわね」


「じゃあなんで僕らの部屋の方がこんなに汚いのさ……」


「……さっき先生が話してた。一つだけあるボロい部屋をどうしよっかって」


 巴里さんが無表情で言った。


「あんのクソアニキが!!」


 たぶん東野先生が「まあこいつらでいっか」って決めたのだろう。


「まあまあ隼人、それは怒ると余計に腹が減るよ」


「くそ、腹が立つだけで膨らみはしない……か」


「あの、それでどうして私達は呼ばれたのでしょうか?」


 結城さんがおどおどしながら聞く。

 怒鳴った隼人に萎縮しているのだろうか。


「あはは、結城さん。流石に隼人だって実の兄に向かって酷いことはしな……」


「帰ったら晒し首(ボソっ)


「いとも言えないっ……!」


 なんなんだこいつは、実の兄に向かって何をするつもりなんだ。


「ん、ああ、すまんな結城。まあなんだ、それはだな。この宿屋から脱走作戦しようと思う!!」


 は、何を言っているのだろうか。


「だから先生とか見回ってるだろうし無理だって」


 先生による夜の巡回は、お泊りにおける生徒の『おまえ誰が好きなんだよ』と同じくらい定番だ。


「その為の作戦だ」


「というかそれ私達関係ないんじゃ……」


 雲母がつぶやく。

 確かに僕と隼人以外の人達はそこまでリスクを負って外に出る意味がない。


「(おい、二人共これを見るんだ)」


「(な、なによ)」


「(チラシ……いやパンフレットですか?)」


 隼人が雲母と結城さんに向かって何かを見せている。


「(えーと、『デートならここが最適。夜の景色を彼氏彼女と見てみませんか?』……)」


「(これは………)」


「(なーんか宮がここに誰かと行きたいなんて言ってた気がするんだがなー)」


「「一緒に行(きます)く!!!」」


 なんで級にやる気になったのだろう……

 なんか二人からまるでこれから戦争にでも向かうようなオーラが漂っている。


「悠太、よく聞け。やはりイケイケのナウなヤングは夜の徘徊が基本、鉄則だ。つまりこれを体験することによっておまえは輝けると俺は思う」


「…………ビシっ! (一生おまえについて行くぜ的な)」


「後は朝霧。これをちょっと見てみろ」


「ん? こっちはコンビニのチラシだね……うわあすごくおいしそう!!」


「ここをよく見てみろ」


 隼人がニヤッと笑いながらチラシの一部分を指差す。


「今日が最終日だ」


「んな! なんかそんなこと言われると食べなくちゃいけない気になるじゃん!!」


 ちょろいよ……


「………隼人が行くなら私も行く」


 巴里さんも付いてくるようだ。


「よし、これで人数は集まった! 今から作戦ZDKを行う!!」


「なんなのさZDKって」


「人海戦術・脱走・計画だ!」


 裏切ること見え見えだよ。


「なあ、オレも行くのか?」


「よし、各自作戦を言い渡す!」


「はいはい決定的だよな分かってたよ!!」


 ユキは涙目で叫んでいる。

 まあ今更感が半端ないが。


「まずはこれを見てくれ」


 そう言って隼人が懐から取り出したのは1枚の地図であった。書かれているのはもちろんこの宿屋である。


「まずこの場所を見てくれ」


「僕たちのいる離れだね」


 僕たちのいる離れはこの宿屋の元本館。つまり古くなって新たに増築したがとり壊すのももったいないため安く提供されているのだ。

 獣修決戦において9位、つまりビリになった僕ら9クラスは修学旅行において差別を受けている。先生達曰く区別だそうだが……。新しく出来た本館は8クラスまでの人数しか入れないらしく、この本館8人用だからなんていうどこかの坊っちゃまみたいだ。

 ちなみに費用は平等に搾取してるため、僕らが格安にしている分1位の1組はスイートルームだそうだ。

 納得がいかなすぎるが、せこい真似してまで負けた僕たちに何かを言う資格はない。


「そしてこれが悠太に探って貰った先生たちの今夜の担当表だ」


「いやいや、いつの間に持って来たのさ」


 流石影の薄さナンバーワンである。きっと堂々と職員の部屋から頂戴してきたに違いない。


「引率の先生たちは全員で15人」


「随分と多いんですね……」


 各クラスの担任と学年主任、後は保健の先生など諸々合わせると結構な人数だ。


「俺たちが目指す目標はここから1番近いコンビニだ。まあこの旅館の敷地さえ脱出できれば後は問題はない」


 流石に旅館の外まで見張りをたてる事はないだろうと隼人は言う。


「そして先生の編成だが、5人が寝てその間に他の10人が見回るそうだ」


 先生たちも寝ることには寝る、がそれは交替しながらである。


「というか、これを朝まで繰り返すって随分と警戒してるのね。普通夜も更けたら全員寝るでしょ……」


 雲母がそう言って苦笑した。


「まあそりゃ不良も沢山いて、学園を誇るバカもいるんだし先生たちも気にかかるだろうよ」


「ちょっと待って、学園を誇るバカって誰のこと言ってる?」


「「「…………」」」


 全員の視線が、愚問とばかりに無言で僕に集中する。

 正直涙が出そうだ。


「まあとにかく、俺らがまず最も避けなきゃいけないかつ最も早い頃合で動ける時間はここだ」


「構成班B……? なんでさ隼人、こっちのCの方が僕らの離れに来る先生は少ないのに」


「いや、俺が危惧してるのは量じゃない、質だ」


 言っている意味が分からない。


「具体的に言うとな、このCの時間は富田の野郎が見回っている時間だ」


「あ…………」


 やっと納得出来た、他の先生なら最悪全力疾走で逃れられるかもしれないが、富田先生だけは無理だ。きっとリアル鬼ごっこ開始3秒で僕はあの世に行くことになる。


「あのさ、行きは良いけど帰りはどうするのかな?」


 朝霧さんが最もな質問をしてくる。


「体調悪いの……?」


「なんで私が普通の質問して身体を心配されなきゃいけないのかな?」


 アホだから、とは言えなかった。


「それは心配ない。この布陣を見るに、大体出られることを防ぐための配置だ。その逆は窓とか駆使すれば簡単に部屋に戻れる」


 よく分からないがそういうものなのだろうか。


「やっぱり……その、怖いですね……」


 話を聞いていた結城さんが迷っている素振りを見せている。

 それはそうだ。なんてったってこれは校則違反のようなものなのだから。結城さんはそんなことをするタイプではない、真面目な生徒なのだから。


「結城さん……もしあれだったら無理に参加しなくてもいいんだよ? その、僕らに絶対合わせなきゃいけないことは無いんだから」


「迦具土くん……ありがとうございます。でも大丈夫です、私もみんなと楽しい思い出作りたいですから」


 そう言って結城さんはほんのり笑う。

 仲間想いで優しい子だ。こんな女の子を巻き込むのは正直心が痛い。


「まあ、最悪何かあってもナイト様が助けてくれるさ」


 隼人がこっちに向かって片目を瞑って笑った。


「あはは、僕で良ければ守らせて貰うよ」


「もちろん俺だって、時に宮を囮に使い、時に宮を餌に使い、時に宮を生贄に使い捨て駆使することでみんなを守るさ」


「そこは自分の身を呈してろよクソ野郎!!」


 なんて爽やかな笑顔で恐ろしい事を言うのだろう。


「とにかく、作戦開始は2200だ! 各自それまでは待機して英気を養うように!」


「「「おおー!!」」」


 こうして僕らの脱出計画は幕を開けた。

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