きっと牛の上の鼠の上に乗っている僕らは最強だと思う
本当に遅れましたすみません!
『おいおいまじで読んじゃったの? そりゃやばいってまじまじ本当やべえから。やばすぎてもう禿げそう! ワシやばいぐらい禿げそう!! やばやばでもうもはやばやばやだよ。あれ? 何回やばいって言ったっけ?』
「「さっさと本題にはいりやがれくされやば野郎!!!」」
ー
「てことで、島の各地にあるらしい宝玉を探しに行くぞ」
「うん、何がどうなってそうなったのかな」
「知るか、そこに書いてあったんだからしょうがないだろ」
現在絶賛漂流中(&ママもびっくり縮小中)の僕達一行は、とある小さな洞窟から外に出ていた。あいにくというかなんというか、こっちでは白い空間からダッシュなんていうオマケはついていない。
僕らから見て洞窟だが、これは窪みと言った方がある意味妥当かもしれない。
中には一直線の道と光る苔、そして文字が書いてある壁がある。そこに書かれている内容ーちなみに本題は全体の1割ーは無人島に存在する四つの遺跡から、それぞれ四つの宝石を集めろということが書いてある。
ちなみにうち一つはこの洞窟のようで、壁のすぐ側に置いてあった宝箱を開けると、中から赤色の大きなビー玉のような物が出てきた。
「でも残りの遺跡はどこなのさ。今の僕達じゃ、自力で探し終える間には日が暮れるどころか最悪一生を終えるよ?」
「ん、その巨大ビー玉をよく見てみろ」
僕は、隼人に手のひらサイズの宝玉を見せながら自分もまた覗き見る。赤く色付いているが、地面を赤色に染めているぐらい透明だ。
「あれ、なんか書いてあるね。これは数字の四?」
「それに左右上下に文字が一文字ずつ書いてあるだろ。東西南北、つまり地図とかに書いてあるあれだな」
つまり、これをその方向に合わせろということなのだろうか。しかしそれで何が分かるのだろう。光の道筋が伸びるとか?
「ご主人、なんか三つだけ不自然に凹凸があるぞ」
「本当だ。一目見ただけじゃ汚れか劣化による破損にしか見えないね」
「三という数字に覚えはないか?」
「……あ! 残りの宝玉数!!」
「つまりそういうことだな。詳しい場所は分からんが、その方向に向かってっていう大まかな道筋はたつからな」
真上から覗くと、三つの場所はちようど逆方向になるようにY字になっている。その内の一つが北の直線上。つまり北に真っ直ぐ行けば着くということだろう。
「でも北なんて分かる?」
「太陽の位置を見てみろよ、例えば太陽はどっちに沈む?」
「北」
「……おまえそれだと地球はたぶん年がら年中天変地異に苛まれているからな……?」
「ああ、ごめん南か」
「おう、なんで反対側を言っちゃうかな? 最悪東って言ってくれよ」
「あ! そっかそっかそうだよね! 僕がバカだったよ」
「おお、やっと分かってくれ……」
「それは月の動きだね」
「月は太陽と同じ動きだろうがあぁ!!? バカを通り越して何になる気だおまえは!!!」
隼人が呆れた顔で絶叫して下手な曲芸のようになっている。全く、馬鹿みたいな顔だなあ。
「もういい! 西だ、に・し!!……ほら今の太陽の位置を考えるとあっちが北だな」
今まで僕達がいた洞窟を越えるように一直線だ。
岩壁が立ち塞がるが、ちょうどスロープのように凸凹しているため、キツイが登れそうではある。
「ほらさっさと集めて帰ろうぜ」
隼人がそう言ってさっさと歩き出す。
僕とユキも、それに吊られるように歩き出した。
岸壁といっても、実際の大きさならまたげる程度だ。普段僕の頭まで駆け上っているユキは、結構余裕だろう。現に、先に登って頂上からこちらを見下ろしている。
スロープのようになった道は決して幅が広いわけではなく、僕と隼人は背中を壁に付けながらカニのように横歩きしている。
時折、崩れた小石が落ちていくのを見送って身震いする。
「…………っ」
なんとか登りきったときは、安堵で思わず地面に寝転がってしまった。
疲れてはいない筈なのに、何故か荒い息が出てきてしまう。
「お疲れ様、二人とも」
「ハァ……ハァ……くそ、チビは楽しやがって……」
「……というかユキに乗せてって貰えば良かったんじゃ……」
「………………」
静かな沈黙が走るなか、カラスがアホーと鳴いている気がした。
「おまえが悪い…………」
「へ?」
「先に言わないおまえが悪い!!!」
「えぇ…………」
全く宮のせいで疲れちまったぜと言わんばかりにため息を吐く隼人。僕は内心「理不尽だ!」と叫んでいたが、まあ言ったところでどうこうならないと悟りを開いて諦めた。
僕の事情を無視して隼人は巨大ビー玉を懐からだした。
「まだ先みたいだな」
登ってみた所で周囲には何もない。あるとすれば森のように深い草原だろうか。今の状況だと、草原が大きすぎて語感が狂ってしまいそうだ。
「こりゃあ入った途端に迷っちまいそうだな。言ってみりゃ第一の関門か?」
「でも進む以外に道は無いよ」
「名言っぽくなってるが、生憎今の状況じゃ進んでも道はねえよ……といっても行くしかないんだが……」
特に打開案が浮かぶ訳でもなく、結局勘に頼るしかない。草の根をかき分けながら進むと、やはりというかなんというか、早速迷った。まあ、ですよねえという感じだ。
「だあぁもう!! 無理だろこれ!?」
隼人は髪の毛を掻きむしりながら叫んだ。
ドスンという音がしたと思うと隣でユキが前のめりに倒れている。
「ご主人、オレ腹が減ったぞ……」
もう突っ込む気力もない。
とりあえず草でも食ってろこの野郎。
「くっそこうなったらあれを使うしかないな」
「え、なんかあるの隼人?」
「行き当たりばったり作戦だ!!」
「「ほぼノープランじゃねえか!!」」
数十分後、ようやく出口が見えてきた。
といっても、方向も何もかもを適当に歩いたため目的の方角とは限らない。さっきから何度も出ては違う出ては違うを繰り返していた。
「もう無理、これで違ったら心が折れる……」
そう項垂れながら逆光指す草を掻き分けると、そこには開けた場所であった。その一角だけ不自然な程に円形に草が生えていない。てっきりジャングルを抜けたと思っていた僕達は肩透かしを食らった。が、それを越える不自然な物がそこにはあった。
「倉?」
木で作られた簡素な倉がそこにはあった。
一見、お供え物でも入っていそうな作りである。
近づいてみると引き戸のようでドアノブがついていた。真ん中から別けられてある二枚扉だ。
全長は僕達の身長とほぼ変わらず、人どころか鳩が降り立ったくらいで壊れてしまうだろう。
しかし何故かそんな事になるとは思えない不思議な圧があった。そう、ここは絶対に壊れないという無言の圧が。
「くっさ! 何これ臭い! おげえぇぇ……」
「これは酷いな……鼻が曲がりそうだ」
どうやら無言なだけで有害ではあったらしい。
「おい宮良くそんな平気そうな顔してられるな。ああ、そうかおまえの体臭とそう変わりないからか」
「鼻詰まりなだけだよ!」
というか今まで普通にしてたじゃないか……
ユキは相当参ったらしく、床に突っ伏している。
「そりゃここまで強力な結界張ってたら壊されねえわな」
隼人は片手で鼻を摘みながらさっさと扉を開けた。片手を使っているため、右の扉だけ開けると中は何もない空洞であった。
少し落胆しつつも、そんな簡単に行くわけないと諦めていると。
「あ、二つ目みっけ」
「あんのかい! こんな簡単に見つかっていいの!?」
左寄りに偏ってただけのようでそこには緑色に輝く巨大ビー玉、もとい宝玉があった。
「第一の関門どころかこりゃ最後の関門だったな……ほらチビ起きろ」
隼人は片手の掌に乗っけた宝玉をユキに向かって投げつける。……結構本気で。
見事目に当たったせいか、うぎゃっと言葉にならないような声を上げる。
「まあなんにせよこれで二つ目だ。残りも二つだしこの調子で行くぞ!」
絶対何かある、これは良くて失恋最悪死亡なフラグだろ、と思うため僕の右腕は力の入らない拳を握っていた。
ー
「ちょっと!? これは明らかにイジメだよね!!?」
「何を言う、これはれっきとした作戦だぞ?」
隼人はニヤッと口角を上げた。
その口から覗く犬歯を叩き折りたいと切に願う。
今の僕の状態を説明しよう。
まず体にはロープが巻き付けられてある。もちろん手足も含めてだ。そして僕にはこんなことされて喜ぶような趣味はない、絶対に。
次に身体は宙を浮いている。下は、地形の関係でー元々流れのおとなしかった筈のー激しくなった川が流れている。その幅は、あくまで体感なら黄河をも凌駕しそうである。
そして最後に、川に潜む巨大な影。
ザッパーン! という音と共に現れたのは、巨大なハサミを手に持ち、その皮膚は硬い甲殻で覆われた、ザ・さわがに……
「人を餌に釣り上げようとか本格的なスパイの拷問より酷い仕打ちだと思うんだけどおぉぉぉ!!」
「しょうがないだろ。ほらチビは大っきくて俺が投げられないし、俺は死にたくないし」
「き、きさま!! 殺す! 絶対ぶちころしてやるうぅ!!!」
きしゃああぁ! と本来鳴く筈のないサワガニから発せられる声に、僕の顔は青を通り越して真っ暗に染まる。
ギロチンを感じさせるハサミは、僕を捕まえようと金属同士を叩きつけたような音で迫ってくる。
僕はなんとか身を捻って避けたが、その拍子に髪の毛が二、三本引き裂かれた。
そろそろ涙腺がギリギリだ……
くそ……そもそも何でこんなことになったんだよ……
数十分前
「いやあ、これは無理だわあ」
「うん、見事に川……というか海だねこりゃ」
僕らは緑の宝玉を手に入れてから真っ直ぐ東に向かっていた。最初の洞窟で見つけた赤色の玉は方角、今回の玉には距離が窪みによって示されており(隼人曰く)、そして向かった先で黄河をも凌駕するであろう川の上流に来ていた。流れは速く、底も到底足のつかない深さだ。
「それで、どこにあるのか分かるのか?」
ユキが、背中に乗せた僕達を鬱陶しそうにして聞いた。
「んー、そもそも距離が曖昧なんだよな。なんつうか範囲が広いというか、まあこの辺りで間違いはないぞ」
僕はそのセリフを聞いて辺りをキョロキョロしてみたが、これといって蔵のような物はない。
そもそも緑がそうだっただけで、ここにも同じように置かれているとは限らない。
しかしあの川の中ということもないだろう。というかあって欲しくない。
段々傾き始めた太陽の光を受けても、荒れ狂う波が反射を許さない。そしてそんな中に飛び込みたいとは思わない。
「困ったなこりゃ、先に西に行くべきだったか?」
くそ、と唾を道端に吐きだす隼人。
そろそろイライラが高まってきているのかもしれない。
こんな時は大人な僕が励まそうじゃないか。
「まあまあ、ほら大人になろうよ」
「うるせえクソガキ」
「んだとお!?」
「……どっちもどっちだな」
ユキが呆れたようにため息を吐く。
どっちもどっちとは失礼な。僕はあくまで大人な対応だ。
しかし本当に玉どころか蔵も何もない。
これは本当に川の中かもしれないと感じた僕らは川の側まで来る。
「あ、見てあそこ。あゆが泳いで……」
ザッパーン!!
そとのき、僕は何が起きたか一瞬分からなかった。
優雅に泳いでいた筈の鮎が、何かによって吹き飛ばされたのだ。文字通り、僕らの頭上を越えて。
「あが……あががあ」
「落ち着け宮、そんな原始的な言葉使われても俺には分からん」
「いや、鮎が……なんか今チラッと硬そうな何かが見えたんだけど……」
そう、鋼鉄とは違ったもっとこう自然的な物。
「ひゃっほおおい!飯だ飯だあ!!」
そんな中ユキは背後に跳ねる鮎をがんじがらめにしていた。目がマジである。
正直刺身で食べるような魚じゃないと思うのだけど、ユキはそこまで頭が回っていないのか、跳ねる抱き枕を抱きしめているようだ。
「でも本当に今のはいったい……」
そうして僕が川の中を覗き込んだ瞬間、僕の頭先数センチの所を一本の鋏が通り過ぎた。
「…………」
鋏は僕の身長の半分はありそうだ。それが明確な殺意を持って僕の頭を掠めたのだ。気を失わなかったのを褒めてほしい。
正直、声にならない叫びが僕の口から漏れた。
あまりの突然さに頭がエマージェンシーを発生させられずにいた。未だに茶を飲んで縁側に腰を据えている感じだ。
「今のって………………」
「ああ、サワガニだな」
「なんでそんなのんびりしてんのさ!? サワガニってこんなデカくないでしょう!!?」
「そりゃおまえ、俺たちが小さくなってんだからそう見えるのはあたりま……」
「エターナルシャラップ!!!!」
分かったことがある。こいつのアタマは空っぽだちくしょう。
「そしてそこもシャラ……ええ!? なんか魚の骨が積まれてんだけど……」
「ゲプっ」
そこには、仰向けに倒れてお腹をさすっているユキがいた。隣には山積みにされた魚の骨が漫画のように落ちている。
「とりあえずあいつの鋏見てみろ」
「え……?」
いつの間にか岩に登っている巨蟹。隼人の刺された顎の先はそこに向いていた。見えるのは巨大なただの鋏……いやあれは……
「宝玉…………?」
よく見ると二つのギロチンの間、そこにはまるように青い宝玉が挟まっていた。
「みたいだな。くそ、こういうパターンもあるのかよ。あんな怪獣からどうやって毟れってんだよ」
「ダイナマイトは」
「もうねえよ、あれ一本だけだ。というかあってもあの甲殻じゃ歯が立たなそうだがな」
僕達の手には、武器になるものどころかサバイバルナイフ一本もない。もちろん川を渡ることも出来ない。
「宮、なんか良い案はあるか?」
「ないけど?」
「そうか、実は俺には一つだけ作戦がある。おまえが思いつかないなら俺のを採用させてもらう」
とてつもなく嫌な予感がする。こう俺、この戦いが終わったら結婚するんだ、レベルの。
「一応聞くけどそれって安全なんだよね?信じて良いんだよね??」
「もちろんだ、宮! 俺を信じてくれ!」
そして現在にいたる。
「こんのクソ嘘つきがあぁぁぁ!!!」
少しでも信じた僕のピュアな心を返せ!
「人聞きの悪いことを言うなよな。まだこれは無茶じゃない。ほら、おまえまだ生きてんじゃん」
「ああ生きてるよこんちくしょおぉ!だいたい、おまえまだ生きてんじゃん、なんて言葉は平和な日常ではでてこないから!! 現在進行形で命の危険が及んでんのが無茶じゃないならこの世界は滅ぶべきだと思う!!!」
「ああ……騒ぐと魚が逃げる」
「釣りか!! これ以上増えてたまるか!!!」
と叫んでいる時も、サワガニの鋭利な鋏は僕を目掛けて突き出されている。なんとかミノムシのようにされた身体を左右に揺らして交わす。サワガニは単調な動きしかしない。サワガニが馬鹿で本当に良かった……
プツン
「え………? あ? アギャアアァァァ!!?」
油断したその一瞬、僕の体重に耐え切れなかったロープが切れた。イコール、紐なしバンジー……
「隼人おぉ化けて出てやるからなアァァアア!!?」
しかし、ここで思い出したことがある。さて、僕の下には何がいたでしょうか?
ゴチン!!
「よし、計算通りだ」
「ふざけんなよこんにゃろう!!」
幸い頭から落下していなかった僕は、サワガニを良い具合にクッションにして助かった。(が、その後地面への着地に失敗し頭から突っ込んだ)その拍子にサワガニは後ろえ倒れてしまい、動かなくなった。
最初僕達は、セミですら死んだフリかますんだよなあ、と警戒していたが、目にひよこが飛んでいるのを見て肩の力を抜いた。
そして鋏の間からこぼれ落ちたらしい青く輝く宝玉を手に入れた訳である。
「さてと、残りは一つ。さっさと行くぞ」
「おう!」
「おい待てこら!! 僕の縄を解け!! いや本当に解いてねえ!? ちょっと笑顔で談笑してないで! ちょっ! 待って待ってなんかこの蟹動いてる!! もう起きちゃうからほんと……ぎゃああぁぁ!!」
ー
青色の宝玉、それにはこう書かれていた。
「南が赤、北が緑、東が青にそして西は黄……?」
僕が復唱すると、隼人は蔦を払い潜りながら答えた。
「ああ、おそらくこの玉の色を指してんだろうな。南が最初の洞窟、スタートであるそれを除けばある程度玉のあった場所の環境と色は合致している。大草原が緑、沢が青。つまり次がどういうダンジョンなのか分かるってことだな」
僕らの前を4足歩行で歩くユキは、怪訝そうな顔をして
「黄色って何があるんだ? カレーの湖とか?」
「ユキはさっき鮎を丸ごと食べたでしょ。だいたいあれどうやって食べたの?」
「え? それはもう皮をバリャっと剥が
「やっぱ聞きたくない」
とにかく食欲盛んなユキは、カレーの湖とやらを想像してヨダレを垂らしている。
「方向は分かるし距離も緑玉でだいたい分かるからな。んで黄色か、なんせよ問題なのは時間だ。みろ、日が傾いてやがる」
空を見上げると、太陽は夕日へとジョブチェンジしようとしていた。もう1時間もしない内に夕日は沈み始めるだろう。
僕らは焦りと共に早足になる。
はっきり言って、こんな何もない無人島で一晩過ごすのは嫌だ。それに何故か嫌な予感がするのだ。
しかしそうは言っても、今の僕らはネズミに跨がれるぐらいに小さい。歩いても歩いても元のサイズの一歩がやっとである。
途中、蟻が一匹で闊歩してるのを見ては身震いする。あんなのに追いかけられたらひとたまりもない。
「それにしてもツタっていうか雑草が多いね……」
僕もまた、頭に掛かる細い葉の先を振り払いながら前へ進む。
「オレは平気だけどなあ」
「そりゃあユキは通常サイズだからね。それに僕らよりは大きいし」
元々小さい動物にとっての世界観は、小さくなってしまった僕らのそれとは大きく異なるだろう。
「まだ根をあげてる場合じゃねえぞ、先は長い……かもしれないしもう少しかもしれない」
「なんだか曖昧だね、距離は分かるんじゃなかったの?」
「それが、東西南北それぞれに小さく数字が書いてあんだよ。恐らく色と照合わせて、その場所からの半径の数字だと思う。つまり黄色い場所に着かない限り模索も不可能って訳だ」
なんだか適当というかアバウトである。
「方向は洞窟を起点に各方角へ真っ直ぐ直進だからな。まだ黄色くないが、たぶんこのままで合ってる」
つまり勝負は黄色くなってから、という訳である。
今思えば確かにそうだ。緑は大草原、青は沢の上流、それぞれそこからが大変だった。散策に巨大モンスター、さて次も何かあるのかと思うと嫌気がさしてきた。
「うぎゃっ!」
考え事をしていた僕は、いつの間にか止まっていたらしい隼人に激突してしまった。
「ちょっと、何急に止まって……え?」
「おい、こりゃどういうことだ?」
僕もそうだが、隼人も開いた口が塞がらないらしい。
先に歩いていたユキが一番に立ち直ったらしく、その口をゆっくりと開けた。
「道がない………………」
断崖絶壁。
まさにこの言葉が似合うようだった。
その壁はあまりにも高くそして平すぎた。今まではウォータースライダーのように滑ったり、出っ張った凹凸を進んで来たが、これは無理だ。断言できる。
苔の覆われたそれはそれだけで滑ってしまいそうだ。
しかも、これは僕が元のサイズでも果てしなく高い。一種の山のようである。
「なんじゃこりゃ、どうやって進むのさ」
「道を間違えた? いやそれは無いはずだ……それにこの山不自然すぎる」
ブツブツ呟いた後、隼人は何かないか探し始める。
僕もユキもそれに続いて壁のあちこちを触ったり、地面になにか無いかを探った。
「ご主人、これ」
ユキが何かを見つけたらしく僕は横から覗いた。
「穴?」
そこには平たく角の丸い空洞があった。
それはローマの真実の口のようである。
「おい、こっちにもなんか書いてあるぞ」
隼人も何か見つけたらしく、へばり付いた苔を擦っている。
「ふむふむ、なるほどな。おい宮、ちょっとそこに手を突っ込んでみてくれ」
「え? うん分かったよ」
手を突っ込んでみると、それの中は予想以上に広かった。が、それに反して何もない。
「何もないけどこれが何か………」
ゴゴゴゴ
僕が言いかけた後、地面が揺れた。いや、これは壁自体からだろうか。
慌てて手を引っ込めて、遠くに後ずさる。
「ちょっと! 何先に隠れてるのさ!」
「んなことよりあれ見てみろよ」
僕の話は完全無視らしい。
しょうがなく、僕は改めて前を見た。そして息を飲んだ。言葉を失った。
地響きが止んだと思ったら、先ほどの空洞を中心にして、徐々に壁が苔を引き裂くように左右に分かれ始めたのだ。
「なんじゃこりゃ………」
僕がようやく言葉を発すると、ユキが隼人に向けて眉を八の字にした。
「なんて書いてあっんだ?」
「ああ、それは真性の馬鹿の手を突っ込むべし。さもなくば手は岩によって挟み千切られるだろうって」
「おいい!? なんで貴様は僕を躊躇いもせずに選んだんだよ!」
「いや、おまえなら大丈夫だろうと信じたからだよ」
「それは手が丈夫ってこと!? それとも馬鹿だって言いたいの!!?」
「後者だな。現に扉は開いた訳だし」
「ムキイイィィ!!」
「ほら行くぞ真性の馬鹿」
「ムキャアアァァ!!!」
僕のことは気にも留めずに隼人はさっさと奥へ行ってしまった。
というかあいつでもきっとこの扉は開いた筈だ、きっとそうだ。
「おい! これ見てみろよ!!」
隼人が慌てたように叫ぶ。
はて、これ以上の驚きとは何かあるだろうか。
「うわぁ…………」
僕はまたも息を飲んでしまった。先ほどと違うのは、この目の前の現象が感動という意味での驚きだというところだろう。
「なるほどね……これが黄色なのか」
隼人が呟く。
そこは黄色……いや金色で埋め尽くされていた。見渡す限り金金金……
ドーム状で出来ていたらしいこの内側には至るところが金で出来ていた。金閣寺などという規模でない。そこだけ空いている天井から差し込む光を、様々な宝石やアクセサリー、どこの国の物かも分からない貨幣が妖しく反射している。
「うわ、総額にしたらいくらなんだろうな」
こいつは感動というものを知らないらしい。なんていうか色々残念だ。
「うわ、カレーの湖じゃないのかあ……」
こいつは本気で信じていたのかよ。
「二人ともお金にがめついよ!! もっとこう、こみ上げてくる感動はないの!?」
「「ないな」」
「……まあいいや。というかあれ、なんていうか祭壇?というかまた祭壇なのか……あそこの頂上で一際輝いてるのって」
「ああ、最後の一つだな」
これもまたキンピカピンな祭壇の頂上には、サイズそのものは大したことがないのにも関わらず、最後の宝玉が異様な光量を持ってして僕らを待ち構えている。
僕らはそこだけ何もない、ゴールドロードを歩く。一直線に伸びたその道は祭壇の階段へと続いている。
頂上に登った時、それはあった。
「よし、これで全部揃ったな。ということで、何か起き……ないな」
「とりあえず並べてみようよ」
「いや待て、その前にお前その腹の膨らみはなんだ?」
「え、いやちょっと食べ過ぎで」
「その割には服の下がゴツゴツしてるんだが?お前は何か? 鋼鉄でも食す趣味があるのか」
「あはは、何言ってるんだい隼人。僕はそんな人外生物じゃないよ」
「はあ、もういい。お前がお金にがめついのは理解できたから」
「今月ピンチなの!!!」
「お前は年中頭がピンチだろうが!」
そんな言い合いが不毛と思ったのか、隼人はため息一つ吐いて言った。
「とりあえずここから出るぞ」
ドームから出た僕らは島を一望できそうな丘まで来て、改めて宝玉を並べた。
そして4つ目が並び終わったとき、宝玉は各色の光を放ち始めた。
「「「………………」」」
僕達がそれを黙って見ているとそれらは一つの光の束となり、辺り一体を閃光で包んだ。
「うわ!!」
慌てて目を腕で隠す。
そしてゆっくり目を開けると……
「あ! 戻ってる!!!」
目の前に広がるのは小さな草や花、そして足元には手のひらサイズのユキがこちらを見上げていた。
「ふう、なんとか一件落着だな」
隼人も隣で安堵の息を漏らしていた。
しかし、光の束は未だその光を失わない。しばらく見ていると、それは空中に文字を紡ぎ始めた。
「『よくぞここまで辿り着いた。伝説の宝玉、その光を持ってして、あなた達は元の身体に戻れたことでしょう』」
僕の頭の上まで登ってきたユキが読めない僕らの代わりにケモノ文字とも言えるこれを読み上げる。
今度こそしっかりとした文章だ。
「『ちなみにこの島は後ちょっとで崩壊しますので頑張ってちょんまげ♪』」
「「…………………は?」」
ゴゴゴゴ!!
その瞬間大地が物凄い揺れ方をした。
「おいおいおいおいおい!!!!?」
「なんか揺れてるんだけど!!?」
しかもこの島にいた筈の生き物の気配がしない。まるで何もかもが幻影だったかのように。
「なんかすげえ、あの岩崩れてんだけど!!」
ユキも涙目で叫ぶ。
「ね、ねえとりあえず……」
「ああ……」
「…………」
僕らはこのときだけ息があった。
「「「脱出するぞおおぉ!!!!」」」
僕らは辺りを見回した。
「おい! あれ見てみろ!! あの亀野郎あんなトコにいやがった!!」
遠くを見てみると、砂浜の岩の上で首を伸ばしたカメちゃんが欠伸をしていた。
「ってあれ僕達が最初にいたとこじゃん!!」
「灯台元暗しじゃん!!」
ユキも叫ぶ。
どうやら岩に紛れて気がつかなかったらしい。
「ちくしょう!!! とにかく走れえぇぇ!!!」
隼人の野太い声と共に僕らは丘を一直線に下る。森を抜け川を越え、そしてついに砂浜へと到着する。
亀ちゃんまであと残り10メートル、というところで急に地面が浮き始めた。
「んなああぁ!!?」
亀ちゃんは危険を察知したのか海で浮いている。
この島はいよいよ終わりなのか宙に浮いている。
「くそ!こんなところで死んでたまるか!!」
隼人は無視して亀に飛び移る。
よく見るとユキも隼人にくっついている。
僕も続こうと意を決して飛び移ろうとしたところで、
「ばっきゃろう! そんな重たい金塊持ってりゃ亀が保たねえよ!」
「えー……うーん……」
僕が逡巡している間にも海と地面の差は高くなっている。僕はものすごく悩んだ結果、金塊を砂浜に放り捨てる。
「とう!!」
僕が飛び降りた瞬間背中で爆発が起きたように閃光が走る。
「むおぉぉ!!?」
僕が結構な高さから飛び降りたせいか、島の消滅の衝撃のせいか、亀ちゃんはまたも驚きの声を上げ泳ぎだした。
「え、これなんかデジャ……」
僕の声は最後まで響かなかった。亀ちゃんがまたもジェット機のような高速で飛び出したのだ。
「「「あががががががが!!!!!」」」
僕は気を失いそうな中、ふと後ろを見ると……そこには、あったはずの大きな大きな島の面影が、一片も無かったのだ。
ー
『アホーアホーアホーアホー』
カラスが鳴いている、僕らを嘲笑うように。
「んで、お前たち」
「「「…………」」」
僕らは3人仲良く砂に倒れていた。
目の前には仁王立ちの富田先生。
「どこで何をやってたかは知らんが……飯の時間はとっくに終わったぞ」
「「「うがあぁぁぁぁぁあああ!!!」」」
夕日の中、僕ら3人の絶叫とお腹の鳴る音だけが、響いたという。
修学旅行編の一部完結です。




