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ケモノテスト  作者: ヤタ
3章 暴走!騒動!修学旅行!!
28/39

亀を虐めたら無人島に漂流させられました

「ねえ隼人どこいくんだよお」


「うるせえ、とりあえず待ってても助けが来ないのは明白じゃねえか。だったらとりあえずこの島を散策するしかねえだろ」


 僕と隼人とユキの三人は無人島に来ていた。いやこういうと簡単なように聞こえるけどたまったもんじゃない。有名なサバイバル番組だって人の権利として最低限の衣食住は確保されているのだから。その点僕らの装備と言えば、釣竿二本(餌なし)非常食一匹(ユキ)という始末だ。

 もう正直この世から去る未来しか見えない。ああ、せめて女の子とキスでもしてみたかった。


「大丈夫だご主人、たぶん変わらないから」


「ねえそれって僕が女の子と付き合えないってこと言ってる?」


 頭の上でユキが伸びをしている。こいつは最悪召還すれば良いとか考えているのだろう。そうはさせないぞ、どうせなら道づれだ。


「おい、あれ見てみろ」


 前方で隼人がさらに前を指差す。隼人の背に隠れて見えないため、僕は上半身を横に折り曲げながらその先を見た。


「これって……木屑(きくず)?」


「ああ、恐らく船の残骸だな」


 そこには、何かにぶつかって大破したと思われる船の残骸の山があった。山といっても三、四人が乗れる程度の船だが。今時珍しいが、エンジンではなくて帆で進む船のようだ。風が止んでしまったときのためなのか、オールらしき物も一緒に積まれている。


「残念だね、船が無傷なら良かったんだけど」


 水平線のように見えたが、よくよく見ると向こう岸が薄く見える。これならば沈まない船があれば帰ることも出来ただろうに。


「まあそれは最終手段だな。でも考えてもみろ、まだここが無人島と決まったわけじゃないんだ。『ケモノ』って言っても所詮は亀だ、そんな遠くまで人を運べる訳がないだろ。案外ここは無人島に見えて沖縄の一部ってこともありえる。むしろ向こう岸に行って国外だったらどうすんだよ、そっちの方が悲惨だ」


 確かに、実は岸に沿って沖縄の外れに持ってかれただけかもしれない。だがそんな楽観思考で大丈夫なのだろうか。まあ隼人の冷静さがあれば大丈夫だと思うが。


「そう大丈夫大丈夫大丈夫。戻れるそうこの世は案外簡単に出来てるんだそうつまり俺らが助かるのなんて必然むしろ必然じゃないことなんてありえないありえないありえないこんな所で俺の人生が終わるなんてきっとありえない、なんだかんだ言って助けがくるんだそう世界はそう出来ている大丈夫ダイジョウブダイジョウブ………………」


 …………ダメそうだなこりゃ。


「現実を見ろこのどバカ!」


 僕は思いっきり隼人の背中にドロップキックを決めてやった。隼人はその衝撃でアイスホッケーのように砂の上を滑っていく。


「は! 助かった宮」


 冷静さを取り戻したらしき隼人が僕にお礼を言ってくる。ふっなんだかんだ言っても僕がいなきゃダメだな。


「バカにバカって言われるという矛盾に一回頭をショートさせて気を確かにさせるなんてやるじゃないか!」


「うんさりげなく僕をバカって言ってるよね」


 こいつには僕の必要性が理解出来ないバカらしい。


「まあ岸に沿って歩いて行けば分かるだろ。ほら行くぞ」


 そう言ってスタスタ歩き始める。結局何も考えはないらしいが、かと言って僕も何かあるわけではないので黙ってついていくしかない。

 辺りを見回すと、面白いほど何もなく砂浜が続いている。よく考えてみればこれがネズミ返しのようになった岩場じゃないだけマシだろう。これなら最悪、土でも掘ってミミズを捕まえて釣りをしたり、潜って貝でも取って帰ってくることも出来る。

 そうポジティブに考えながら先を歩くと、少し変わった場所に出てきた。いや砂浜が岩場に変わっただけなのだが。


「こっちから先は岩ばっかだな、滑ってこけて頭を打つなよ。これ以上おかしくなったら医者が可哀想だ」


「僕を頭に異常があるみたいに言わないでくれるかな!?」


「そうだぞご主人、頭を打たれるとオレが困る」


「むしろ積極的にぶつけてやろうか!!?」


 まあまあ落ち着けよとユキがなだめてくる。余計ムカつく……


「おい見ろよ、あそこにヒトデがへばりついてやがる」


 隼人の指差す先には小さな窪みがあり、そこには海水がいくらか溜まっていた。その側、まるで暑さから逃げてきたかのようにヒトデが一匹岩に張り付いていた。


「ヒトデなんて海なら何処でもいるでしょ」


「なあ、あれって食べれるのか?」


 ユキが頭の上から聞いてくる。食い意地の張ったやつめ。


「逆に聞くけどユキはあれが食べれそうに見える?というか食べたいと思う?」


「おいおいご主人、ナマコだって食べれるだろう?ならこれもぶつ切りにしたら案外……」


「食えるわけねえだろこの食い意地バカ!」


「いや、こいつは食えるぞ」


 隼人の発言にユキと二人して目を丸くしてしまった。は、何言ってるんだこいつは、ヒトデが食べれるわけ


「まあ食べれるっつっても身じゃないけどな。卵巣だかを沖縄では食べるって聞いたことがあるぞ」


「え、隼人の妄想想像虚像幻想とかじゃなくて?」


「ああ、変なこと考えてる訳でもましてやあれがタコとかに見えてる訳でもないぞ」


 隼人の目は真剣だった。これはもしかすると本当に本当の本当かもしれない。


「まあ調理の仕方とか知らないからどちらにしろ無理……ちょい待てチビ! 無理やり開けようと……てかむしろ飲まれそうになってんじゃねえ!!!」


 ぼくが未だにえ、食べれるの?と放心している内にユキが食べられかけていたらしい。へー、ヒトデってああやって捕食するんだ。


「ご主人! あんた相棒がこんなんになってる時に夏休みの自由研究的なことしてんなよ!!」


 隼人に助けて貰ったらしいユキが頭にかじりついてくる。


「痛い痛い!! というか隼人が人助け、いやネズミ助けなんてするなんて意外だね」


 てっきり動画撮影でもして動画サイトの殿堂入りでも目指すのかと思ってた。


「意外でもないだろ」


「そうだぞご主人、これが普通


「食料は限られているんだ。万が一ってこともあるだろ」


「………………。というか目がマジなんだけどこの人!?」


 なにやらユキが喚いているが僕は納得している最中なんだ、黙っていて欲しい。


「ほらさっさと次行くぞ」


 隼人が再び歩き出す。今度は僕も隣に並んで歩く。段々と岩場が平らになってきて歩きやすくなってきた。


「うおあ!?」


 と突然隣の隼人が滑ってこけた。


「ありゃりゃ、歩きやすくなって油断したね」


「くそっ、海水とかのせいでヌルヌルしてるな」


 隼人は腰を手でさすりながら立ち上がった。

 間抜けな奴め、僕はスマートに決めて


 すっテーーン!


「間抜けな奴だな」


 くそ! こんな奴に間抜けって言われた。

 僕も腰をさすりながら立ち上がると、ユキも振り落とされそうになったのか頭をバシバシ叩いてきた。


「お、あれ見てみろよ。もう転ぶ心配がなくなりそうだ」


 結構な距離を歩いていたのか、いつの間にか岩場ゾーンが終わり砂浜ゾーンへと戻ってきていた。


「でもこれって砂場ってより貝殻だらけだね」


 貝の死骸、要するに貝殻が散乱していた。一歩踏みしめるたびにシャギシャギジャラジャラと音が鳴る。


「一匹くらい中身入ってるのいないかなあ」


 お腹が空いてきたらしいユキが、ぐぎゅるると音を立てながら呟いた。


「チビ考えてもみろよ。お前がネズミの死体の山の中に居たらどう思う?」


「そりゃあ身震いどころか悪寒がするぞ」


「だろ、だからこいつらも同じことはしないだろうよ」


 確かに、自分と同種族の死体の山に喜んで住んでいたら僕はそれを同じ星の生物だと思いたくない。

 そんな軽口を叩いている内に貝殻の量も減ってきて、普通の砂浜に戻っていた。しかしたまに海で見るあの貝殻ゾーンは何がどうなってああなんるんだろう。


「また砂浜ではに戻ってきちゃったね」


「ああ、けっこうな距離歩いたからな。体感で言えば一時間は歩いた気がする」


 実際それくらい歩いていた気がする。しかしいくら海パン一枚でクールビズしていたってこの炎天下、そろそろ喉が干上がりそうだ。

 すると突然隼人が立ち止まった。どうしたのかと背中を蹴ってもビクともしない。ついに暑さにやられてしまったかと思い、祈りをしようと前を見ると……


「………………あが」


 自分でも意味の分からない間抜けな声を上げてしまった。しかしそれも仕方がないはずだ、誰だってこの状況は目を瞑りたくなるだろう。


「あれ…………」


 そうそこにあったのは


「……………………さっきの船の残骸?」


 そこには、波に攫われたのか今時珍しいエンジンではなく帆で動くタイプの船が、壊れかけのオールを乗せて落ちていたという。


 ー


「ねえ、まだ?」


「………………」


「もう結構経ったと思うんだけど?」


「………………」


「のーどーかーわーいーたー」


「うるせえ!!」


 隼人の絶叫が僕とユキの鼓膜を直撃した。だって仕方がないじゃないか、こっちは今にも脱水症状になりそうなのだから。

 ユキも今は定位置の頭の上ではなく、砂の上に大の字になって焼かれている。たまにくる波にも反応を示さず、そのまま流されていってしまいそうだ。


「んなこといったってこれは時間がかかるんだよ」


 元の位置までもどってきてしまった僕たちは、この島が無人島だと認めるまでかなりの時間を使った。が、いつまでも放心していられる訳ではなく、喉の渇きに無理やり実感させられた。そう、命の危機を。

 そこでまずは目前の目標を叶えるべく、水の確保をしようとしたのだが、妙な鳴き声が響く内陸へとは行けず、とりあえず船の中を散策した。


「いやあ、でも助かったね。たまたま船から海水を真水に戻せる装置が見つかって」


「ああ、この船も遭難を想定して積んでいたんだろうな」


 そこで見つけ出したのが、フライパンの端を無理やり曲げて沸騰させた海水の蒸気を貯めて真水を作るというものだった。どこでもいくらでも作れるこの装置、しかし欠点が一つ…………そう、時間がかかる。


「二人と一匹分だと結構な量必要だね」


「ああ、しかも火も自分で起こさなきゃいけないからな。余計に水が欲しくなっちまったぜ」


 真冬なら心地よく感じる薪の火も、炎天が身を焦がしかねない今の状況では火に油を注いだようなものだ。


「お、やっとコップ一杯分出来たぞ」


 こちらも装置同様、船の中中で見つけ出したコップである。たまたま新品がしまわれていたらしく目立った汚れもないため使っていた。ほんとは一応洗いたいが、今はそんな贅沢を言える場合ではないため我慢だ。


「そっか隼人、ありがとう僕のために水を作ってくれて」


 僕は隼人に心から感謝しながらコップをつかむ。


「いやいや、てめえの分はてめえで作りやがれ」


 と隼人も反対側からコップを掴む。


「ははは、隼人は冗談が上手いなあ」


「おまえこそ、今世紀最大のボケなんじゃねえのか今の」


「これは渡さん!」


「こっちのセリフじゃあぁ!!!」


 二人して摑み合いを始める。くそ、ただでさえ暑いのにさらに熱気が……

 手に汗握る死闘を繰り広げていたとき、まさに握っていた汗が頂点へと達した。簡単に言うと手からコップが滑り落ちて……


 バッシャーン


 大の字に伸びていたユキの頭に全てがぶっかかったのだ。


「なんだなんだ!? あ、なんか気持ちいい」


 わなわなと震える僕たちを他所に爽快そうなユキ。正直このときほど、涙を流したことはなかったかもしれない。


 数分後


「さて、いよいよどうするかだが」


 隼人は地面を見つめながら呟く。


「うん、そろそろ限界かも」


 そういう僕も地面を見つめていた。


「あれ……入るしかないよなあ」


 そう隼人が見つめる方向は生い茂る森々。グギャーだのゴゲバーだの叫び声のような鳴き声のようなはたまた泣き声のような物まで聞こえる。


「でもこのままだと生きたミイラになっちゃうよ」


「ああ、即身仏なんてごめんだ」


 そう決意をして立ち上がる。

 そして迷宮の始まりのように、そこだけポッカリと口の開いた所へ足を踏み入れる。

 その瞬間、今まで心地よく鳴っていた波の音が嘘のように静まっていた。代わりになんの虫だろうか、リンリンジージーと小さな合唱団を繰り広げている。

 木々もヤシの木のような直立しているものから、不気味な顔を連想させる曲がりくねった大木まで様々だ。

 ユキは木にまとわりついたツタが蛇のように見えたのか、たまにビクッと背中を揺らしている。


「なんていうか、さっきまでの暑さが嘘のようだね」


「ああ、嫌な寒さがする」


 平気そうな顔をしているのかと思いきや、少し苦虫を噛み潰したような表情をしている。


「さっきから口の中に虫が飛びこんでくるんだが……」


 僕の表現は的を得ていたらしい。


「しかし案外何もいないな、俺はてっきりイノシシくらい出るもんだと」


「あはは、隼人。いくらなんでもそれは


『ブヒイー!』


「「ブヒイ?」」


 音源を見るとやっぱりというかなんというか、豚を野生化させたらあんな感じかなあという生物が鼻息荒くこちらを見据えていた。イノシシの特徴一、獰猛……


『ブヒイいぃ!!!』


「「「ぶひぶひいいぃぃ!!?」」」


 身の危険を感じたらしいイノシシが僕たち目掛けて突進してくる。人の腰ぐらいまである、大きなイノシシが。


「隼人おぉぉ! なにフラグ回収してんだよおぉ!!?」


「俺だってこんな分かりやすくくるとは思ってるなかったんだあぁぁ! 喋ってるヒマあったら走れええぇ!」


「ご主人!! 食われる食われる急げえ!!!」


「イノシシは肉食じゃない!」


 僕らは帰り道すら分からなくなるほど走った。


 ー


「ハアハア……ハア……なんとか撒いたか」


 僕らはイノシシを振り切って走りまくっていた。とにかく走ることに集中して軽い迷子状態である。


「しっかし、本当に居るとは……」


「イノシシ恐るべき……」


「でも肉食獣がいないだけいいだろ、ライオンなんかはいない訳だしはははは」


「「バっ! ユキなんて事を!!」」


『ガルルルルル…………』


 見事に回収しました。


「なんで!? もう嫌! なんでライオンとかいるの!?」


「知るか! チビてめえ後で覚えとけよ!!? てかてめえが撒いた種なんだから『ケモノ』らしく勝負してこいや!!」


「いやあオレはネコ科はちょっと……」


「「あれはもうネコ科なだけのネコとは別生物だばかやろう!!」」


 僕たちは走った。人間が食物連鎖の頂点なんて嘘だと叫びながら。


 ー


「ねえ、僕たちライオンの走る速度を越えたって人類最速なんじゃないかな」


「さあな、人間火事場の馬鹿力って言うだろうよ」


 僕たちは軽い迷子から完全な迷子に昇進していました。


「これからどうしよっか……」


「はあ、たぶん中央付近だな。まあ徒歩で外周できる距離なんだ、真っ直ぐ直進すれば出口に出るだろ」


 そう言った隼人は余裕そうな顔をしている。


「それより水だ水。今走ったせいで余計喉乾いちまった。見てみろチビなんかおまえの頭の上で溶けてんじゃねえか」


 当然自分の頭の上を見ることは出来ないため、触って確かめる。


「うわ! なんかベタベタしてる……スライムかおまえは!」


 なんだろう、水溶き片栗粉を頭にぶっかけられたらこんな感じかもしれない。料理とかしなくて分かりにくい人にはこう説明しよう、鳥の糞を頭に落とされた感じだ!


「ご主人……人のことを糞で例えるのは良くない……」


 どこに口があるのか形容できなくなったユキは小さな声でぼやいた。

 そのとき僕はある事に気付いた、隼人が両目を見開いて地面を見つめている。アリでも見つけたのだろうか。


「どうしたの隼人、アリはちょっと喉の潤いにはならないと思うけど」


「ちげえよ馬鹿、少しそこの岩とキスの練習でもしてろ」


「うん、素直に黙れって言おうか」


 誰が悲しくて岩にキスの練習なんかするか。

 今度は両目をギュッと瞑り、ある一点の方向に耳を傾ける。ついでに片手をメガホンの代わりのように耳に当てている。


「……聞こえる」


「死神の呼ぶ声が?」


「水だよ水、川っぽいな」


「ああ、三途の川ね」


「…………おまえはどんだけ俺をあの世に送りたいんだ?」


 何を言ってるのか見当つかないが、確かに水の流れるような音がする。海の波の小豆をざるで揺らしたような音とは違う、せせらぎの音だ。

 音が聞こえなくならないよう慎重に歩を進める。まるでどこかの城に潜り込んだ忍者のように差し足忍び足でしばらく進むと、今まで木々で覆われていた太陽が急に乱反射された。


「まぶしっ」


 ユキも眩しそうに目を隠す、がどこにあるのか形容できないため、本当に覆えているかは知らない。


「おい見ろ」


 隼人の指差した方向には鮎も住み着いていそうな程綺麗に澄んだ川があった。幻覚だろうか、少し虹掛かったようにも見える。


「助かった……でもここそんなに大きくない無人島だよね。なんで川が流れてるの」


「さあ、超常現象か天変地異か、まあ俺たちにとっては神の与えたオアシスだがな」


 勝手に納得した隼人は小走りして川の水を覗き込む。少し嗅いだり舐めたりして「大丈夫そうだ」と一言かけてから両手ですくってそれを飲んだ。

 ユキもはやくはやくと急かすため、僕も最後の力を振り絞って川にたどり着く。そして隣の隼人同様すくって一口飲んでみる。


「冷た! うま!」


 その感想は最高の一言で表せれる。砂漠に投げ出されて湧き水を見つけた人はきっとこういう気分なんだろう。

 ユキも頭からずり落ちてボチャンと川にダイブした。その途端、まるでカピカピのスポンジを水に入れたようにすごい勢いで吸収して仰向けに浮いてきた。


「はあぁ、生き返るぜえぇ」


「なんだっけ、こんなカメレオンだかトカゲだかがアフリカにいた気がする……少なくとも鼠ではないけど……」


「おい、やっぱりおかしいぞこの島」


「何さ急に、川は超常現象かなんかなんじゃないの?」


 隼人が神妙な顔つきで手を銃の形にして顎に付ける。ガリレオかなんかの真似だろうか。


「だってよ、俺らこの島一周したよな」


「うん、一時間だか二時間かけてね」


「だったらよ、見たか? この川の出口を」


「え…………?」


 僕も少し真剣に思い出してみる。確か、島を回っているとき……覚えているのは


「あれ、ない」


「だろ」


 確かにこの川が海に流れるのを見ていない。というか見ていたら、こんなにならずに水分補給を済ませていただろう。


「こりゃ辿ってみるしかねえな、どっちにしろ一方通行にあるかなきゃ行けないんだし」


 隼人はどこか楽しそうに言った。冗談じゃない、何かが起きるのは見え見えじゃないか。

 かといって気にならない訳でもない。結局僕も知的好奇心に負けて川を下ることにした。

 未だに川に浮いて、気持ちよさそうにしているユキの尻尾を掴んむ。と、ユキは不服そうに鼻をこすった。

 川を下ること数分。

 途中本当に鮎が泳いでいるのが見えて、食事の心配は無さそうだなと安心していると、川の終わりが見えてきた。


「あれは、洞窟?」


「ああ、というか神殿だなこりゃ」


 煌びやかに乱反射している川はある洞窟のような神殿に続いていた。暗い闇に光を奪われるその様は、まるで何かに食われているようにも見えた。

 段々近づくにつれて、洞窟の全貌が見えるようになってきた。隼人が神殿と言ったのも納得できる。絶壁にぽっかり空いた、地面からなる半円の洞穴の周りには、白い絵の具の様な物で、どこかの国の民族衣装を思わせる模様が描かれている。


「まるで魔法陣だね」


「ああ、ここから悪魔がおいでなすっても納得出来そうだ」


 二人してかおを見合わせると隼人も中に入るつもりだったのか、お互いにうなづいて足を踏み入れる。

 僕たち二人共が横に並んで歩けるだけの広さと、屈まずにむしろ余裕を持って歩けるだけの高さはある。

 しかし、ユキは変に圧を感じるのか、僕の頭の上で少し身を縮めている。


「思ったより暗くないね」


「ご主人、きっとあれのおかげだ」


「ああ、俺もそう思う。なんなんだあの苔は」


 上を見上げると青白く光る苔が所々に生えていた。例えるなら、子供部屋に貼られる暗くすると光るウォールステッカーだ。


「それにしたって明るいけどね」


 一つ一つの苔が抜群に明るい訳でも、壁一面張り付いている訳でもないのに、不思議と遠くの先まで見える程明るい。

 しばらく一本道を歩いていると、急に広い空間に出た。流石に広すぎたためか苔の明るさが弱まる。


「今度はあんまりよく見えないね」


「あまり離れるとまずいかもな」


「これが女の子だったら手でも繋げるのに」


「同感だな、誰がお前みたいなバカで甲斐性なしと手を繋ぎたいか」


 スネを蹴ってやろうとしたが暗くて良く見えないため外してしまった。

 段々目が暗さに慣れてきて、ようやくここの空間になにがあるのかが見えてきた。光源の少ない中、必死に目を凝らすとそこにあるのは


「神殿……いや祭壇か」


 隼人の息を飲む音に僕も同調してしまう。

 そこにあるのは、石で造られた祭壇のような物だった。なぜ、のような物かと言えばほとんどの部分が崩壊していて、原型をほとんど留めていないからだ。数本ある内の柱は、半分弱が半ばから折れて氷柱(つらら)のように突き出ている。また突き上げている物もある。何を祀っていたのか、もしくは生贄なのか、考えたくもないが辛うじて祭壇だけは登れそうなぐらい残っている。


「なんていうか、不気味だね……」


 僕の浅い言葉は、大ホールのように反響しながら響いた。そして次の瞬間にはシーンという音が聞こえる程静まり返る。その余波が、さらに不気味さを増強していた。

 いつもなら騒がしい、頭の上のユキも今だけは震えた子犬のようにその身を丸めて


「……ご主人、あそこにスイッチがある」


「………………」


 違う意味で静かになる空間。


「ポチッとな、お、明かりが点いた」


「……………………」


 僕は息を飲んだ。それはもう爆発寸前のツッコミ爆弾のように。


「なんじゃそりゃああぁぁ!!?」


「落ち着け宮、それは前回もやっただろう」


「そういう問題じゃないよ! てか前回ってなに!? さっきまでのシリアスどこ行ったんだよ電気ってなんだよなんで生活感溢れてんだよおぉ!!?」


 うぎゃああぁという僕の叫びに洞窟が揺れる。

 というか崩れてきている。


「馬鹿野郎、なんかやばい空気じゃねえか!!」


「人の叫びで崩れる洞窟ってありえないと思うんだけど!?」


 ゴゴゴゴと地響きを唸らせながら洞窟が震える。天井からは砂埃や軽い石がが落ちてくる。

 するとそのとき、より大きな響きとともに祭壇が完全に崩れ落ちた。


「「「………………」」」


 僕ら三人はもう慌てることは無くただその光景を白い目で見ていた。


「なあおい、なんか通路が出来てるんだが」


「うん、もういいよ行こうか」


 口を結びながら淡々と歩く僕たち三人は、もうもはや何も言えなかった。

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