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ケモノテスト  作者: ヤタ
2.5章 小さな物語
24/39

そして今を知る

巴里と隼人……

個人的には好きな組み合わせです!

 ある日の昼下がり。

 その日は、梅雨なのに珍しく晴れた日だった。

 グラウンドでは、久しぶりと言わんばかりに三年生がサッカーをしてはしゃいでいる。

 そんな中俺は、教室の窓で日光よくしながらイチゴ牛乳を飲んでいた。


「宮」


「なんだい隼人」


 現在、学年底辺疾走中であり、去年からの腐れ縁である迦具土(かぐつち) (みや)が応えた。


「いや、そういえば結局この前はどうなったんだ?」


「ああ、生徒会の件のときの約束?」


 生徒会のときの件とは、結城にペンダントを貰った宮が、お礼に土曜日買い物をしに行ったという話だ。


「ああ、それそれ」


「……なんでニヤついてるの? 別に面白いことなんてないよ?」


 おっといかん。ついつい宮の、辛くて苦しくて、不幸のどん底に落ちた話を聞けると思って笑みが溢れてしまった。


「まあ別にただ服屋行ったり……」


 急に宮が、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「あとは映画……とか?」


 ふむ、なんだか普通に楽しいデートみたいだ。

 実につまらない。

 しかし映画か、女子と見ると言われれば、定番なのは恋愛ものだろうか。


「その映画は面白かったか?」


 別に見に行く訳ではないが、なんとなくで聞いてみた。


「う、うん……[孤独な愛]ってタイトルですごく楽しかったよ」


 楽しかったよー楽しかったよーしかったよーよかったよーかったよー………

 宮の声が、エコーのように響いて耳からだんだんと離れていった。走馬灯のように流れたいつかの記憶。

 そう、走馬灯だ。


「あんの野郎お゛ぉぉ殺す!! 絶対ぶち殺す!!!」


 それはほんの2時間前。人生においては光の速さのように感じるこの短い時間が、俺にとっては最も長く、最も気まずく感じた時間だろう。

 ……俺は今死に目に遭ってました。


 ー


 2時間前。

 俺と巴里は駆け込み乗車よろしく、シアターに派手に駆け込みを果たした。

 結局、予告だなんだので、全力疾走する必要はミジンコほどもなかったが、まあこれも運動とでも考えれば無駄でもなかったと思える……いや、思いたい。

 まあ心の底で少し落胆しながらも、俺と巴里(ともえざと)は自分の席を探していた。


「むっ!? 殺気……」


 思わず構えてしまったが、よく考えたらここは映画館だ。知り合いとかちあったとしても、ただ映画見に来ただけで殺しにかかるとは思えない。

 さっきのチケット売り員じゃあるまいし……


「……あそこ」


 隣の巴里が怪訝そうな顔をしながらも、チケットに書かれた席番号を見つけてしらせてくれた。

 両手で持ったポップコーンをこぼさないように気をつけながら、俺たちは席まで前を通して貰った。


「さてさて、恋愛ものだそうだからな。俺は普段見ないし結構楽しみだな」


「私も」


「ああうん、予想つくよ……」


 服のセンスを見た辺り女子としての概念はあまりないかもしれない。まあだからといって、完全肉食の恋愛にぐいぐいくるタイプは苦手なので構わないが。


「しっかしまあ告知っての? 予告とか多いなあ」


 さっきから告知ばかりをしている。

 色とりどりにテロップが吹き出て、もうすぐやる映画が目白押しだ。恋愛物語というのもあるのだろうか、妙に恋だ愛だのが多く見られる。するとまた一つやり始めた。


「[今春! 青い春が赤く染まる!]」


 ……これは学園物なの? ミステリーなの? それともアクションなの? もう意味も趣旨も分からんくなってきた……というか春もう過ぎてるよ。どんだけ早くから宣伝してんだよ。


「[今年秋、期待の上映!!]」


「テロップと不釣り合いだろ!!」


 いかにも青春というものを嫌っていそうな告知だが、案外面白そうと周りの客は話している。そしてその告知が終わると同時に少し空気が変わった。


 ヴウウウン……


 映画上映の開始の合図が鳴り響き、徐々に辺りも暗くなってきた。少し騒がしかった館内も、だんだん静まり返っていった。


「お、やっと始まったな」


「コクッ」


 巴里は黙って頷いた。

 相当楽しみなのか頬が少し紅葉している。

 そして、スクリーンの映像が徐々に映り始める。

 最初のシーンは桜並木の通学路。


「ほお、学園物なのか」


 恋愛という設定には絶対欠かせない内の一つ、なるほど、巴里の趣味も、なかなか乙女チックなところがあるじゃないか。

 桜並木を歩く生徒たち。

 はて、主人公やヒロインは誰だろう。あそこのイケメンかそれともこっちの美少女か?


「パチンっ!!」


 !!?


 いきなり通学路のかなり端の方で、一人の男子生徒が女子生徒に頬を(はた)かれた。その音と共にその場面がズームされていく。

 いや、ちょっと待て?こう言っちゃ悪いけどその人、見た目全然パッとしないぞ?まさか主人公その人なのか!?


「やめてって言ってるでしょ! タケシくん!!」


 ズガアァァン! というBGMと共にパッとしない男子生徒……タケシはその場に打ちひしがれた。


「主人公お前かよ……」


 これはどう見てもまともな青春を送れそうにない。

 俺には分かる、この後タケシがどうなるか。


「あ、あれタケシくんでしょ? 入学初日から撃沈してた……」


「そうそう、しかも無理矢理なんですって。友達がやめてって叫んでるのを聞いたらしいの」


「えーサイテー」


「だよねえ」


 かわいそうなタケシくん。

 希望を失ってはいかんぞ。頑張れ。

 しばらくいると、その場にいにくくなったのか、タケシは廊下をでてトイレに向かった。


「や、やめろ! そこに行ったら……そこに行ったらお前は戻ってこれなくなる! そこがお前の定位置になってしまう!」


 俺は耐えきれず、他人に呟かれない程度の小声で訴えた。するとその思いが通じたのか、曲がり角で荷物を持った小柄な少女に……


 ドン!


 見事ぶつかった、ついでに紙束も撒き散らした。

 よおし! これでフラグゲット! なるほど、こいつがヒロインか。


「あ、ごめんなさい」


「あ、いや僕こそごめん」


 紙束を拾い集める二人。

 お互いに頬を赤らめる二人。

 視線が合うたび慌てて背ける二人。

 そして誤って手が触れ合う二人。

 もうこれ決定じゃね? エンディングじゃね?

 いや、落ち着けよタケシ……まだここからが勝負だぞ、まずはうまく喋って、仲を深め「好きです。付き合ってください」るん……え?

 ってちょっとおぉ!!? 何してんのタケシ! まだ早い、早いぞおぉ!!


「あ、あの……」


「はい!」


「ご、ごめんなさい!!」


 ズガアァァン!


 二度目の雷がタケシを襲った。

 そりゃそうだよ、出会って五分も経っていない相手と誰が付き合うかっての……

 女の子は慌ててその場から逃げ去った。

 教室にとぼとぼ帰るとまた女子生徒に噂されるタケシ。


「ねえ、また告白したんですって! しかも出会って五分!!」


「今日二回目!? ちょっとはしゃぎすぎじゃないかなあ……」


 どうでもいいけどお前ら情報早いな……

 出会って五分て振られてからまだ一分も経ってないぞ……

 この調子だと学校内での噂が光速を叩きだしそうだ。タケシの噂で時間旅行が出来てしまう。

 そうしてまた居場所の無くなったタケシは、廊下へ躍り出る。そうしてまたトイレへ……


「ちょっとそこの君?」


 おお! 少しお姉さん風の三年生!

 腕には生徒会長と書かれた腕章。

 これは、さっきのはフェイントと見せかけてこの人がヒロイ……


「付き合ってください」


「なに急に。付き合えるわけないでしょ」


 ズガアァァン!

 三度目の雷がタケシを襲う。

 ……うん、もうそのまま焦がされてしまえ。


「あなたに興味があったけど、冷めたわ。さよなら」


 そう告げてさっさと身を翻す生徒会長。

 タケシはきっと人生最大のチャンスを、十分で二度も無くしただろう。

 そしてタケシは歩く。


「付き合って下さい!」


「ごめんなさい」


「好きです!」


「無理です」


「愛してる!!」


「溝に溜まったゴミが話しかけないでくれる?」


 ……これは、分かった気がする。

 なぜさっき殺気を感じたのか。

 なぜ恋愛物なのに、周りを見ると男だらけなのか。

 そして、なぜさっきから頭の上にポップコーンが食べても食べても生えてくるのか。


(こいつら……タケシを見て自分を励ましてやがる!!!)


 そんな慰め合いの場に一人、彼女と思わしき少女を連れて入ったらどうなるか。

 このままじゃまずい! そう思った俺は、すぐにこの場から出ようと巴里に訴えた。


「……キラキラ(集中してる目)」


「想像以上に没頭してらっしゃる!?」


 巴里を起こせない以上、この場で何とか耐えるしかない。幸い頭の上のポップコーンだけで、事が済んでいる。ならばここは黙って耐えるんだ。

 そう信じ込み、頭のポップコーンを食べようとしたとき……


 シュパンっ!!


 手に持っていたポップコーンごと、カッターナイフが座席に突き刺さっていた。


「ぬおぉぉお!?」


 ここが映画館だから、最大限小さく叫んだ俺を褒めてほしい。


(待て! 落ち着け俺! まずはカッターナイフが銃刀法違反かを考えて……違うこれは立派な傷害罪だ!!)


 というか殺人未遂だ。


「………っち」


 闇に紛れて聞こえる舌打ち。

 何だこれは、どうしてこうなった。

 確かに巴里に映画には誘われたが、こんな話なら流石に断っただろ。じゃあなんでここに来た?それは楽しそうだと聞いたから……


 ……(「う、うん……[孤独(・・)な愛]ってタイトルですごく楽しかったよ」)


 …………。


「あんの野郎お゛ぉぉ殺す!! 絶対ぶち殺す!!!」


 孤独ってそういう意味かあぁぁぁ!!! と叫びながら、俺は映画が終わるまでずっと臨戦態勢に入っているのだった。


 ー


「面白かった」


「ああ……」


「特に最後が」


「そうだな……」


「感動」


「うん……」


「隼人は変態?」


「その通りだな……」


「……」


「……ってちょっとまて! 流石に今のは間違いだからな!? そんなそそくさ離れるなよ!?」


 あまりの気力の無さについつい肯定してしまった。

 これは罠だ、そう、言うなれば生徒会の件のときの直後から綿密に計画されたトラップなのだ。


「まあ確かに内容は面白かったな」


 結局タケシは最後の最後で告白でオーケーをもらえるのだが、その過程がなんとも厳しい、というかいっそ悲しい。

 一ヶ月の間、常に告白して振られるという、俺だったらもうとっくに真冬の海にダイブしているだろう。しかもほぼ告白と振られるの繰り返しに、二時間の尺を使うという豪胆さ。吹っ切れて最後は感動してしまった。

 がしかし、最後にオーケーをくれた相手はあからさまになにか不穏な空気を纏っていたが、タケシは大丈夫なのだろうか。


「ねえ」


「どした?」


「……ありがとう」


 その一言で俺は浄化されかけた。

 そういえば最近感謝される事があっただろうか。

 俺の褒められるべき獣修決戦での活躍は、最後の最後で裏切った。あのときは本当に大変だった。東へ逃げ西へ逃げ、逃げ場がなくなったら窓を飛び。

 そんな色んな苦労がこの笑顔一つで癒されるとは、もうこれは、科学なんてものが無くても人は救えるという神の助言なのではないか。


「ふう……」


 ところで、俺たちは今公園のベンチに座っている。

 修学旅行に必要な物は全て買い揃えたし、じゃあとりあえずここを出よう、となって歩いていた俺たちは、一息つくためにこの鼻血と因縁(いんねん)ある公園に立ち寄っていた。


「飲み物でも買ってくるわ、何か飲めないのあるか?」


「特に」


「あいよ」


 そう言って俺はベンチを立った。

 お昼過ぎということもあってか、結構子供たちが遊んでいる。約1キロ平方メートルの規模を誇るこの公園は、近所のママさんが子供を連れてきたり、高校生がバスケットボールをしにきたりと、結構有名である。そんな中にもやはり人気のないところはある訳で、そこに俺たちは腰を置いていた。

 俺は数百メートル先にある自販機に行こうと、歩を進めた。四、五台並ぶ自販機の横では、予約制のテニスコートで高校生が部活の練習のようなものに打ち込んでいた。


「俺は……コーラでいいか」


 日本で最も有名なジュースの内の一つを選んでボタンを押す。いたつも思うんだが、炭酸系はこれで振られてしまうんじゃないだろうか……


「巴里は……分かんないし紅茶でも…」


 一応飲めない物は無いと言っていたが、実は炭酸が飲めないとかあったら困るだろうし、誰でも飲みやすい物を選んでおいた。


 ガコンっ


 ペットボトルの落ちる音が妙に落ち着く。

 思えば先ほどまで常に周りを警戒していた。

 カッターナイフとか謎のハンカチ、瞬間冷凍スプレーなんてものまであった。

 そう考えると、今のこの時間がすごく大事に思えてくる。

 ……ああ、俺は生きているんだ、と。


 サアァァ…………


 少し吹く風に、木々がざわめきをたてている。

 遠くにある、遊具がたくさんあるところには、子供達が元気よく騒いでいる姿が見える。

 基本的に広大なグラウンドしかないこの場所は静かだ。


「……っとぐらい……じゃん……」


 風と共に運ばれてきた音に、俺は何故が急に意識を持っていかれた。

 あれは……ベンチの方向?

 ベンチからそれほど近くないこの自販機に、俺は聞こえるはずのない声を拾った。

 その音は、まるで何かを汚される錯覚を起こさせるような、粘っこい気持ちの悪い声だ。


「……っ巴里!!」


 俺は最悪の想像をして小さく叫び、そして同時に走り出した。

 さっきまであんなに静かだった筈の俺の頭を、嫌な妄想が駆け巡る。頭の喧騒が絶えない俺は、もうひたすら走った。

 段々先程までいたベンチが見えてくる。

 そこには、普段ぼーっとしている少女とは思えない、イカつく髪を染めた、数人の姿が見えた。


「ねえ? ちょーっとぐらいいいじゃん? 俺たちと遊ぼうよー」


「こう見えても金はあるんだぜ??」


 ゲハゲハと汚らしい笑い声をするゲス野郎共。

 その中心には、一見普段と変わらない表情、しかし確かにほんの(わず)かに怯えた目をした巴里の姿があった。


「ごめんなさい」


「さーっきからそれしか言ってないじゃん?もうちょっと他にお喋りしてよー」


 どうやら巴里は何度も断っているらしい。

 があの手の人間は、それくらいで諦めるほど高尚(こうしょう)な頭をしていない。

 俺はもう何も考えられず、後先のことも無視して間に入った。


「すみません。俺の連れなんで」


「あぁ? ……うっ」


 相当睨んでいたんだろうか、あまりの剣幕に不良共が一歩引いた。

 ……この人数相手は無理だな。

 そう確信した俺は、すぐにその場を出てった。

 巴里の手を引いてとにかく走る、走る、走る…走る。

 ふと周りを見ると、公園の遊具がたくさん置いてある場所にいた。ハッとなって振り返ると巴里が肩で息をしている。

 しまった、全力で走りすぎた。


「す、すまん!」


「……ハァ、ハァ……なん……で?」


 呼吸を整えながら何故謝るのか?と聞いてきた。


「え、いや…………っ!!?」


 つい夢中になって忘れてたが、俺と巴里は手を繋いでいた。俺は急に恥ずかしくなりてをバッと離した。

 耳が熱い……


「っ!!」


「どうしたの?」


 巴里は、急に赤くなって挙動不審になった俺に、首を傾げた。俺は顔を覗き込まれてまた赤くなると、またそっぽを向いた。


「あらあら……」


「若いわねえ」


 周りのママさん達が微笑ましそうにこっちを見てくる。なんとも恥ずかしい。

 俺らはそんな関係じゃない! と叫びそうになるのを、必死に抑える。

 先程も言ったがここは遊具やどんぐり山、といった比較的子供が集まる場所で、この公園では一番人口密度が高い。昔は俺もどんぐり山に流れる小川で遊んだり、どんぐりを意味もなく集めたりしたものだ。

 ここなら人も多いし、脳みそがスポンジで出来てるあいつらでも流石に追ってこないだろう。


「まあ、無事でなによりだ」


「ありがとう」


「ほれっ」


 俺は片手で抱えてた二本の飲み物の内、紅茶を差し出した。巴里は、それを嬉しそうに受け取るとまたお礼を言ってきた。


「紅茶で大丈夫だったか?」


「うん」


 それだけ言うと、巴里は美味しそうに紅茶を飲み始めた。俺もコーラの蓋を開け、シュワシュワの感覚を楽しむ。一走りした後のせいか、余計においしく感じる。しかし、何故巴里は急に絡まれたのだろうか。


「でもなんでまた急に」


「分からない……座ってたら急に」


 聞いた話によると、座って空をぼーっと見上げてたら、いつの間にか囲まれていたらしい。まあ単なるナンパといったところか。


「んー、まああの手の連中にははっきり断った方がいいぞ」


「断ってた」


 うーむ、覇気が足りない気がするが、まあ巴里には無理そうだし。あっそうだ……


「溝に溜まったゴミが話しかけてこないでくれる?って言えばいいだろ」


「それ、さっきの」


 まあ現実にやったらただじゃ済まないだろうけど。


「そうする」


「いやまて! 冗談だ冗談! 言ったら何されるか分からんからやめろよ!?」


 なんて恐ろしい発想をしているんだ。

 これじゃあ断るなんて無理に決まってる。

 それにしても、ママさんの視線がさっきから気まずい……

 用事も済んだし、時間も頃合いか。


「さて、そろそろ帰るか」


「……コクッ」


「同じ中学なんだしどうせ家も近いだろ、送ってくよ」


「ありがとう」


 そうして俺たちは公園を後にした。

 聞いた話によると、巴里の家は商店街を抜けた先にあるらしい。

 数分程一直線に進むと、景色がガラッと変わって賑やかな声が聞こえてくる。

 この商店街は、今時珍しくまだ結構の賑わいがある。

 右を向けば八百屋があり、左を向けば調理器具が売っている店もある。一角では唐揚げなんかも売っており、そのいい匂いは俺の腹を刺激した。


「くっ、いい匂い」


 あまりのいい匂いに、よだれを垂らしかけて思いとどまる。ふとみればあちらにはコロッケも売っている。

 まさに食の遊園地。これだけで俺は幸せを請うことができる。


「我慢できん!」


 俺は空腹に負けて、唐揚げ屋に駆け寄った。


「おっちゃん、二人分くれ」


「お、あいよ! なんだいデートかい?」


 相変わらずそういう目で見られる。

 そろそろしょうがないか、なんて思えてもくる。


「違うっつの……」


「へーへーそうかい? はいお待ち!」


 店主はまだ納得していないようだ。

 めんどくさいので追求はせず、さっさとお金と唐揚げを交換した。

 待っていた巴里を見ると、なんだか欲しそうな顔でこっちを見てきた。

 見た感じはかなり細いが、実は案外食いしん坊なのかもしれない。


「ん」


「くれるの?」


 唐揚げを頬張りながら渡すと、巴里はありがとうと言って受け取った。

 噛むたびジュワーっと脂が噴き出てきて、熱々の唐揚げは肉質がぷりっぷりでなんとも上手い。

 隣で唐揚げを頬張っている巴里は、なんだか小動物みたいでかわい……


 はあ……だめだ。俺が俺じゃなくなる……


「………」


 ふと横を…正確には斜め下を見てみると、一人の少年がこちらを見上げていた。明らかにこの場に一人で来ていないだろう歳の少年の周りには、親と思わしき人物がいない。


「坊主、迷ったのか?」


「コクッ」


 少年の背丈に合わせるようかがみながらそう話すと、少年は静かに頷いた。ふむ、泣き出していないところを見ると、まだ離れてそう経っていないな。


「巴里、この子の親探してくるからそっちの隅でちょっと待っててくれ」


「うん」


 少年に負けじ劣らずと静かに頷く彼女。

 あまり長く待たせても悪いし、早いとこ見つけよう。


「おい坊主肩車してやる。あとこれでも食え」


 残ってた唐揚げを少年に渡してから、俺は人生初の肩車に挑戦した。


「うおっとと……案外難しいな。大丈夫か?」


「うん」


 最初はバランスが取れず右往左往してしまったが、一度コツを掴むとピタッと重心が止まった。


「よし……この子のお母さんいますかあぁ!!?」


 俺は商店街の喧騒に負けないよう、大きくこの少年の母を呼んだ。しかし、なかなか現れないため、少し別のところに行って何度も叫んでみる。それを何度か繰り返したとき。


「あ、ケンタ!」


「お母さん!!」


 ようやく見つかったようだ。少年を肩車から降ろすと、実は結構心細かったのか母親に抱きつきに駆けていった。

 それを見て母親は一通り安心したのか、そのあと俺に何度もお礼を言ってきた。別に大したことでもないため、大丈夫ですよ、と一声かけてその場を後にした。ケンタと呼ばれた少年がありがとう!と手を振ってきたので、俺もそれに応える。

 さて、少し時間がかかってしまった。巴里が待っているし、急ごう。

 そうしてきた道を戻ると、その場に巴里はいなかった。


 帰っちゃったか?……


 いや、帰ったという可能性は少ない。

 彼女の性格上、黙って帰るなんてことはしない筈だ。むしろ何時間でも黙って待っててくれそうだ。

 ということはトイレか、それとも俺と入れ違いになったか。様々な考えを繰り広げていると、道端に光っている物を見つけた。


「高校の……ボタン?」


 底には学ランの腕に付けるべき、校章の入った小さなボタンだ。何かを留めるためにある訳ではないため、気づかずに落とす、という事が中学のときよくあった。他にも無いかと辺りを見回してみると、ボタンの落ちていた近くに色のついた糸が落ちている。


「いやまて……これは……髪か!!?」


 その糸の正体は髪の毛だった。

 髪の毛には日本人の通常である黒ではなく、派手な緑色をしていた。そして、俺はこの髪色の人物を知っている。というかさっき会ったばかりだ。


「あん……のゲス野郎!!」


 公園で会った不良共、俺がいないことをいい事に、巴里をさらっていきやがった!

 頭が沸騰しそうになるのを、どうにか落ち着ける。

 まずは冷静になれ。奴らが巴里を連れて行ったとして間違いはないだろう。なら何処に行った?ここの辺りにある隠れられる場所は?


「っくそ!!!」


 俺は数箇所に当たりを付けて走り回った。

 まずは路地裏。近くの細道を通って、そのまま裏道に出た。ここはそんな広くないため、裏道が色んな場所に繋がってはいない。


「なら別の場所……」


 そう呟きながら次の細道に入る。


「ここも違う!!」


 そうして走ってはハズレ、走ってはハズレを繰り返す。流石に商店街の路地裏全てを駆け抜けていれば、息も上がる。


「ハァ……ハァ……」


 闇雲に探してはダメだ…まずは考えろ。奴らが考えそうな場所は? 廃工場、人気のない道、人気の場所……ダメだこの辺りに廃工場なんてない。人気のない道までは走っても20分はかかる……そんなとこまで人を一人抱えては走れない。仮にそれが可能でもそんなことする筈がない。


 頭がパンクしそうだ。

 俺の知識はとっくにキャパオーバーを迎えている。

 思いつく所は全て考えた。

 そもそも俺に不良共の心理は分からない。


「ん? 不良の心理………そうか!!」


 俺は咄嗟に携帯電話を掴んだ。

 連絡帳を見て、ある所をタップする。


 プルプルプルプル


「はーい、もしもしー? どしたの急に」


「ああ……すまんな…………天野」


「んー、はやっちゃんから電話なんて珍しいねー」


 電話の相手は天野(あまの) 亮介(りょうすけ)だ。

 歯には歯を、不良には不良だ。

 天野ならここら一帯の不良グループは知っているだろう。例えば行動パターンとかグループの規模、他には……アジトとか。

 俺はここまてまのいきさつを、なるべく簡潔に伝えた。


「んー、緑や赤のカラフル頭ねー……多分そりゃ十干(じっかん)高校の連中だな」


「十干高校……」


「まあそこはどうでもいいっしょ、多分奴らならそこの商店街を抜けた先にある廃工場かな」


「廃工場があるのか!?」


「んーさあ? 俺は知らないよ。でもまあ、内の連中が言ってたし」


「分かった! サンキューな!」


「ってかだいじょ……ツーツー」


 何かを言いかけていたが、構っている暇は無い。


「商店街の先か……っくそ! もうかなり時間が経っていやがる!」


 時計を見ると、先程から既に20分は経っている。

 連れ去られてかなりの時間が経っている。

 人一人を抱えてたって、もう充分な時間だろう。


「間に合え!!」


 そう言って俺は走り出した。


(ああ……なんか前にもこんな事あったっけな……)


 走っている途中、俺は過去の……巴里と出会ったときのことを思い出していた。

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