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ケモノテスト  作者: ヤタ
2.5章 小さな物語
23/39

白と出会い

3章開幕!…にしたいですけど今回の章はサイドストーリーみたいな感じです

 獣修決戦を終えて数日。

 俺、東野(ひがしの) 隼人(はやと)は修学旅行のための買い物に来ていた。

 街は、言うほど華美ではなく、かといって(さび)れているわけでもない。

 見回してみると、絶対ちょくちょく交通事故を起こしているだろう、という数の車が行き交っている。

 ふと裏通りを見てみると電線はクモの巣のように張り巡らされ、よくある青いゴミ箱が置いてある。

 街がそこまで華やかにならないのは、おそらくとある企業がこの辺りの結構な店を独占しているからだろう。ふと見上げればその企業特有のマークがデパートに書いてある。

 かという俺も、そのデパートに行こうとしているのだから、企業の思惑にはまっているのだろう。

 しばらく歩いていると、良くある普通のサイズの橋があった。石で出来た簡素な橋は、所々黒ずんでいた。手すりはなく、代わりに人が余裕で立てるほどの幅の塀がある。

 しかし普段はそんな橋になど全く興味がない俺が、なぜその橋を意識したかというと……


「っおい! 早まるな!!」


 1人の少女が丁寧に靴を脱いで塀の上に立っていたからだ。

 先に叫んだ通り、これから飛び降りようとしそうなその姿勢に俺は慌てて駆け寄り、腕を引っ張って強引にそこから引きずり降ろした。


「ったくなにしてんだよ!」


 受け止められる形で上乗りになった少女は、何が起こったのか分かっていない……いやそもそも興味がなさげに俺の顔を見た。

 少女は、白いフリルのついたスカートに薄ピンクのブラウスを着ていた。そしてきれいな純白の髪を、めんどくさいのか腰までストレートにしていた。


「……巴里(ともえざと)


「帽子……」


「んあ?」


 助けてやっての第一声があまりにも行動とかけ離れていたため、思わず変な声を出してしまったが、川をよく見ると岩と岩の間に麦わら帽子が引っかかっている。


「おまえ……あれを取ろうとしてたのか……?」


「うん」


 変な思い違いをして恥ずかしいような、でも流石に飛び降りて取ろうという考えに呆れているような、微妙な気持ちだ。


「あのなあ……何もそこから飛び降りなくても……てか死ぬだろ」


「身体は丈夫」


 巴里はどこかキリッとした顔で答えた。


「丈夫でもそれは大丈夫じゃねえよ。せめて少丈夫だ」


 自分でも何言ってるかよく分からないが、何故か巴里はコクっと頷いて納得したようだ。


「まったく、しょうがないな。靴履いて待ってろ」


「……?」


 俺は川の横、橋の側の草の生い茂っている河川敷と呼ぶのかいささか分からない斜面を下った。

 行動の意味は単純明白。帽子をとりに行くべく、岩と岩の間で挟まっている帽子めがけて手を伸ばした。


「あと……ちょい……ってうわ!?」


 ドボンっ!


 ギリギリ届かないため、手を伸ばしまくった結果、バランスを崩して川にダイブしてしまった。


「大丈夫……?」


 巴里が心配そうにこっちを見ている。


「……小丈夫だ」


 俺は結局川に入って帽子を拾い、来た道を戻って巴里にそれを投げた。


「ありがと」


「……どういたしまして」


 帽子を受け取った巴里はお礼を言い、それを被った。

 どう考えても水に、しかも川のに濡れていて、被ってはいけないのだろうけど、巴里は気にせず被った。

 その顔はむしろ嬉しそうである。


「そんなに大事なのか?」


「うん、気に入ってる」


「ふーん……」


 俺は自分から聞いといて興味なさげに腕を組んだ。


「お礼したい」


「いやいいって……」


 別にお礼をされるほどでもない。

 大事な帽子が戻ってきたなら、俺が濡れるのなんて安いだろう。


「……でも……」


「あーじゃあ、そうだ。買い物に付き合ってくれないか?」


「分かった」


 俺は買い物に来ていることを思い出し、買い物について来てもらうことにした。


 最近の流行りとか俺分かんないんだよなあ……


 その点、巴里ならおっとりぼーっとしてても女の子。

 こういうことなら詳しいだろう、と勝手に解釈したのだった。


 ー


 デパートに行く途中、歩きながら俺はすごく恥ずかしい思いをした。

 理由は簡単、臭いからだ。

 溝ではなく川とはいえ、それでも綺麗とは言えない。

 匂いは結構するのだ。実際すれ違った人には鼻をつままれ、道歩く女子高生集団には、なんか臭くない?とひそひそ話される始末だ。

 隣の巴里は何を考えているか分からないが、表情を見たところ、気にしてなさそうだ。

 さて、そもそもなんで俺と巴里がこんなに親しげかと言うと、まあ単に中学のとき同じクラスだったということだ。


「そういえば最近めっきり会わなくなったな」


「うん」


「最後にまともに話したのって確か……中学かよ」


「うん」


「そっかあ……時が経つのは早いなあ」


「うん」


 一見、俺は嫌われてるのか、とか話聞いてるのか、と感じるのだが、巴里はいつもこのペースなのである。

 中学のときもそうだ。ぼーっとしてて話しても一つか二つ返事だ。

 でも俺はこの関係性が嫌いじゃない。話はしっかり聞いてくれてるみたいだし、なにより気を使わなくて良い。

 気を使わなくて良い……これは結局、親しいと感じていないのかもしれない。

 人ってのは嘘だらけ、蹴落としあい、苦しみの象形。そんなことをいつも考えてた。

 まあ今は、宮とか雲母に出会ってそんな考えは変わってきている。

 でもこんな俺がこんな俺のときに唯一「気を使わなくて良い」と感じさせたのは、巴里が初めてだ。

 そういう点で考えれば、巴里は俺にとって特別な親しい間柄かもしれない。


「しかしお前が3組代表か、よくその役割をしたな」


「みんなにお願いされて」


「あーなるほど、またお願い(・・・)な」


 普段巴里はぼーっとしている。

 常にぼーっとしている。

 その性格のためかあまり他の人としゃべらないのだ。

 これは本人からしてみれば偏見かもしれないが、コミュニケーション障害。まあこう呼ぶとなにか悪いように聞こえるかもしれない。あえて簡略して冗談めかした言い方にしてコミュ障だ。

 簡単に言えば人と話したり接したりすることが苦手、ということだ。

 まあそもそも普段からそんなのだから、頼みごとをされると嬉しくなってついつい引き受けてしまう癖がある。


「どうせ3組で1番頭が良かったからとかそんな理由だろ」


「なんで分かるの?」


「そりゃあ、3組の雰囲気をみれば分かるよ」


 1組のように秀才がガリガリ勉強しているわけでもなく、2組のように統制する(かしら)的存在がいない3組は、中途半端に浮いたやつらの集まりだ。

 めんどくさいとかやる気がない。そんなのは聞かなくても分かる。

 ……まあ9組は逆に馬鹿しかいなくて変な統制が取れているんだが……


「……」


「……」


 ……話が続かない。

 先述の通りそんな空気も好きだから構わないけど、何故か携帯を弄ろうとしてしまう。

 これはおそらく人間の(さが)だろう。


「……なあ……臭わないか?」


「気になんないよ?」


 巴里は、首を少しかしげて言った。

 嘘をつけるタイプではないので、たぶん本当だろう。

 まあ確かに帽子を取ってもらった手前言いにくいのは分かるが、逆にここまで純情(どんかん)だとかえって心苦しい。


「隼人が取ってくれたから……」


 うぐ!


 その横顔は少しだけ笑っていて、不覚にも少しだけドキっとしてしまった。

 こんなのは俺のキャラじゃない。平常心平常心。

 しかし今時麦わら帽子か、高校生にしても珍しいのではないか。


「帽子……相当気に入ってるみたいだが?」


「子供のとき……おじいちゃんに貰った」


「そっか、そういうのは結構大事だよな。俺も何か取ってた気がするよ」


 昔の事だから良く覚えてはいないが、確かあれはばあちゃんだった気がする。父がよく宿直(しゅくちょく)になると、母親に連れていって貰ったのを覚えている。ばあちゃんと言っても俺はひ孫だ。本当のばあちゃんは死んでしまったらしい。らしいっていうのは俺はばあちゃんと面識がなく、つまり生まれてくる前だったという話だ。今はもうかなりボケちゃってるが昔は良くお手玉で遊んでもらったなあ。


「そっか、ありゃお手玉か……」


「?」


「いや、なんでもない」


 巴里が不思議そうにこちらを見てくる。

 白い髪が風になびくたびに、頭の帽子を押さえつけて飛ばないようにしてる姿がなんとも可愛らしい。


「いや! 落ち着け俺!! そんなのは俺のキャラじゃない!!」


「??」


 巴里の顔が不思議から(いぶか)しむに変わってきた。

 しょうがないとはいえ、突然叫び始めたのは間違いだったか。さっきのと笑顔と合わせて顔が火照ってきた。


「おじいちゃん……死んじゃったの……」


 巴里はなんとも言えない声色で話してきた。

 人の過去を知る……それは簡単なことのようで実はすごく難しい。楽しいことならなんら問題ないが、こういった悲しい話だと、言葉を選ばなきゃいけない。からかうのは人としてダメだ、問題外だ。だからといってただ哀れむのも違う。過去の話はあくまで過去。いつまでも引きづってはダメだし、忘れてもダメだ。本人でさえこの有様だ、他人の俺がとやかく言える訳がない。だから俺はあえてこういった。


「そりゃあ……大事にしなきゃな……」


 思い出にしろ貰った宝物にしろ、大事にすればただそれだけでいい。それは誰に踏みにじられても良いわけないし、踏み込んでもダメだ。


「隼人は……笑わない?」


「なんで俺が笑うんだ?」


「高校生が……麦わら帽子」


「なんだよそりゃ、笑うわけねえだろ。まあ……その……似合ってるし……」


「……嬉しい」


 巴里は普段からは想像できないほど、満面の笑みであった。誰もこいつを知ろうとはしない。だからこれは俺だけが……


 ガシッガシッガシッ!!


「……なんで頭を打ち付けるの?」


 俺は無心になろうと必死になった。どうもこいつの前だと調子が狂う。いつもの俺はどうした! 宮を侮辱しまくる傍若無人の俺は!

 血だらけになりながらもなんとか無心になることに成功。今の俺ならどんなハプニングだって眉ひとつ動かさず……


 ビュオォォ!


 ピラっ


 ブシュウゥゥゥ!


「ウゲフ!」


 スカートが強風で煽られるのは反則だろ……

 俺は頭からも鼻からも血を撒き散らして、その場に倒れた。


 ー



 いつつ、なんだったか?俺は確か巴里と会ってそれで……

 そのとき俺の中の何かが何かを思い起こした。風に煽られるスカート。それを必死に抑える巴里……あれは良い夢だった。


「あ……大丈夫?」


「ぶっ!!?」


 俺が走馬灯のように見ていた夢が今現実となった。

 巴里が上からこちらを覗き込んでいる。なんだこれ…どういう状態だ?

 ああそうか……確か鼻血を撒き散らして気絶したのか。

 なんとも情けない。宮に見られてたら、宮を殺すしか無かった。ちなみに自殺の選択はない。

 ……おいまて……巴里が上から覗き込む(・・・・)


「よかった……意識がある」


「んな、な、ななな!」


 なんということでしょう。この俺が、この傍若無人の鬼の俺が、膝枕だと!!?


 がくっ


「あ……また」


 これを後、3回は繰り返すのでした。


 ー


「おっ……そろそろだな」


 目的地のデパートが段々近付くにつれ、俺はこれからどうするかを考えてた。


 とりあえず服を買うか。ちょうど着替えたいしな


 ショッピングモールのウィンドウをを抜けて、まず最初に目に飛び込んで来たのは、人、人、人。


「なんだあ……こりゃ? ここってこんなに人がいたかあ?」


「……」


「ん?」


 巴里が無言で裾を引っ張ってきた。気になって振り向き、さらに指を指している方向に目をやると。


「10周年感謝day?」


 なるほど、そういうことか。今日は色んなものがお得に買えるのか。それはラッキーだ。


「ねえ、なんか匂わない?」


「ああ、思ったー」


「ねえママなんかくさ」


「しーっ大きな声で言わないの」


 ……ラッキーでは無かった。

 むしろ厄日かと思えてくる。

 人が多いということは、それだけこの悪臭の恥ずかしさが倍増するだけじゃないか。

 羞恥と安売りを天秤にかけるなら、間違いなく安売りを捨てる。


「巴里……やっぱり最初は服屋に行こう」


「うん」


 俺はすぐ近くにあった掲示板を確認する。

 普段ゲームセンター、ゲームコーナーなどにしかこないため、いざ服を買うとなるとこれだけ服屋があるのに逆に分からない。


「とりあえずここでいいか」


 俺は一番近い服屋を早々に選び出し、そこに即決した。別にどこがとか興味がないし、そもそも何より早くこの状況を破棄したかった。


「いらっしゃい…………ばせ」


 絶対今見えないとこで鼻つまんだだろ。

 俺が悪い、確かに俺が悪い。お客様は神様だ、なんて客の立場から言うつもりはないが、それにしたってもう少し気遣ってくれてもいいだろう……


「さてと……どんなものがあるのか」


 流石に商品に泥を付けるのは気がひけるので、先に公園で手は洗っておいた。

 適当に服を見ていて思ったことがある。


「違いが分からねえ……」


 せいぜい分かるのは色とサイズぐらいだ。

 元々俺にセンスなんてものは一欠片もない。微粒子レベルでない。そんな俺が、一番と言えるほどセンスを使う行事に参加できるのか?いや、人数カウントですら無理だろう。

 そしてこんなときに役に立つのが。


「さあ巴里! おまえの出番だ、適当でいいから選んでくれ!」


「………無理」


「へっ?……」


「……服選び、分かんない」


 ズキャアァァン!


 俺のバックにすごい勢いで雷が落ちたような気がした。


「あれは……帽子?」


「それは靴下だ!」


「じゃあこれ?」


「それは下着だあぁぁぁ!!」


 何処に下着を頭にかぶれという酔狂な娘がいるだろう。そうだ、今ここにいる。


「わ、分かった。お前が服選びどころか常識すら怪しいのがよく分かったよ……」


 さてと困った。なんの為に来てもらったかというとこのためだ。なのにもうあてが外れた。まあそもそも最初に確認しておかなかった自分の責任なんだが…

 宮に電話で聞く? いやそれは俺のプライドが許さん。

 こうなったら実力で……


「ママーなんか変なかっこうしてる人が……」


「だめよ!知らない人に指差しちゃ!」


 ……ダメだ、実力ではダメだった。

 なんだろう、手元に置いてあるのは全部迷彩だ。

 俺は軍隊にでも入る気なのか?


「似合ってる」


「あ、ありがとよ」


 正直もう巴里はあてにしない。

 なぜ巴里がこんなに立派に着こなしているのか、不思議に思うくらいだ。きっと両親のたゆまぬ努力なんだろう。


 もうこうなったら最後の手段しかない。


「あの服選びを手伝って欲しいんですけど……」


「あ、はいかしこまり……げました」


 今完全にげって聞こえたぞ。げましたってなんだよ。

 しかもなんか本当に鼻が曲がっているぞ!大丈夫か!?


「お、お客様はどういった物がお好みで?」


「え、ああ、特に好みは……」


「お色とかは?」


「えーと……」


「どちらの服を?」


「あ、それは全身で」


「かしこまりました!」


 店員が急いで探しに行った。

 その行動は分かりやすく正直傷ついた。

 しかしどんな服になるんだろうか。

 ただの店員と言ってもプロはプロだ。

 服のことを知り、服を愛し、服に情熱を抱えているはずなのだ。

 色や好みも聞いてきたことだし、さも立派な物が用意されるんだろうな。


「ではお客様、こちらを……」


 戻ってきた店員が、試着室に案内して選んできてくれた服を渡してくれた。


「ん、ありがとうございます」


 何故か色は統一されていて不自然だが、自分のセンスはあてにならないのは分かっているため、素直に着てみた。

 鏡を見てみると、そこには色合いも形状もシンプルで、ワンピースのように上下がくっ付きそして……


「ちょっとまて!! これ全身タイツじゃねえか!!」


 カーテンを勢いよく開けると同時に叫んだ。

 俺は自分の姿を見て流石に確信した。俺は騙されている。


「お客様、おにあいでございます」


「似合ってる」


「いや嬉しくないから!! 全身タイツ似合うって言われて喜ぶのは格闘バカの忍者ぐらいなもんだろ!! あとこれ匂いを漏らさないことを考慮してるな!? 絶対勘違いされてる!」


「……ちっ」


 店員は小さく舌打ちをした。これはダメでしょ。許容を大きく右旋回してつき破ってるよ。


「分かりました……普通の持ってきます」


「今普通って言ったな!? 悪意を持って普通じゃないの持って来たなこんちくしょおお!!」


 そして巴里は、それじゃないの? と不思議な顔をしている。こっちとしては、その感性が不思議でたまらない。


 ー


 12時ちょっと過ぎ。

 本当に疲れた。もう疲れた。

 なにが1番疲れたかと言えばやはり服選びだろう。

 結局あのあと普通の服を持ってこられ、それにすると決めたらお店の人に、ええつまんないという顔をされて、思わず殴りそうになる衝動を抑えるのに必死だった。


 もう絶対川なんか近付かない……


 そんなことを考えていた俺は、今フードコートにいて机に突っ伏している。

 向かいの席ではどうしたのかと巴里の顔に書いている。しかし、巴里にも呆れたものだ。全身タイツが似合うと言ったときは珍しくバカにしてきた、と思ったが、まさか本当に似合うと思っていたとは。

 今は少しだけ空いている。お昼時をみんながみんな避けようとして、返って空いてしまったのだろうか。お昼を食べるなら今が一番いいだろう。


「さて、飯どうする?買い物付き合ってくれたしなんかおごるよ」


「……悪いよ、むしろ私が」


「いや、気持ちはありがたいが、おまえが何を持ってくるかが不安で仕方がない」


「……心外」


 と言われても、下着とか持ってこられても困るのだ。

 フードコートで下着を机に並べる図……俺だったら通報してる。


「じゃあマスドナルド」


「マッスな、分かった」


 俺は世界的に有名なチェーン店に、巴里の注文を聞いてから突入した。


「いらっしゃいませ!」


 店員はすごく気さくな笑顔で迎えてくれた。

 メニュー表を見ると笑顔が無料(ただ)と書いてある。

 接客業として大切な笑顔を、先ほどまでの俺は強制的に崩していたのか、と思うと少し辛くなってきた。


「こんな俺にも笑顔をくれるんですか……?」


 涙ぐんで呟いてしまった俺にも、引かずにもちろんですと笑顔で答えてくれた。

 その背にはもはや光輪さえも見えてくる。


(マッスは世界だけでなく天界までもを取り入れたのか……)


 俺が眩しそうに光を遮っていると後ろの客からの痛い視線を感じた。


「ベリーバーガーのセット2つで」


「かしこまりました!」


 ベリーバーガーのセットとは、ベリーグッドな肉と野菜にポテトまでもを取り込んでさらにベリー系の果物のミックスジュースが付いてくるというベリー人気な商品だ。


「ベリーバーガーのセット2つお待ちどうさまです。ありがとうございましたー!」


 気持ちの良いあいさつを背に席へと戻ると、そこには何故か両手でじゃんけんをしている巴里の姿があった。


「……なにしてんだ?」


「暇だったから」


 いやあ、暇にしてもそれは楽しくないだろうと考えていると。


「左右交互に同じ手で勝っちゃいけない」


「べつにそんなもん簡単すぎてつまらないだろ」


 席に着いてなんとなく自分もやってみると初手一発目から失敗してしまった。

 そこをじーっと巴里に見られていることに気付き俺はあわててごまかした。


「ま、まあ楽しいかも……な?」


 じーっと巴里の視線が止まらない。


「さ、さあ早く食べようぜ。せっかくのベリーバーガーが冷めちまうよ」


 お腹が減っていたのか、すぐに包装紙を外し、先ほどまでのことを忘れたかのようにいただきますとハンバーガーを頬張り始めた。

 その姿にほっとしつつ俺もハンバーガーにかぶりついた。何度も食べたことがあるがこの味は結構飽きない。ファーストフードとは思えないほど肉質がジューシーで後味サッパリ、レタスもシャキシャキと新鮮そのものだ。


 しばらく食べているとふいに巴里が質問をしてきた。


「このあとどうするの?」


「うーんそうだなあ、あらかた買い物は終わったしなにかしたいことでもあるか?」


「隼人は?……」


 うーむ、ゲームセンターは普段から行くが、たぶんあまり巴里の得意とする場所ではないだろう。だとするとショッピング?服は見たし食事も済ませた。買い食いにしても少し満腹度が高いだろう。


「だめだ、思いつかん」


 俺がエスコートの無さを痛感していると、巴里が意外な頼みを言ってきた。


「映画見たい」


「あ、分かったぞ。今流行ってるあれか、確かこの前宮と柊と結城が行ったって言ってたな。いいぞ、それ行くか」


 巴里がこくっと頷いたので俺たちは映画を観に行くことにした。携帯で上映時間を調べると、次にやるのが1時で今が12時半を少し過ぎたところだ。


「急いだ方が良さそうだな」


「うん」


 俺たちは2人で頷くと食べるスピードを速めるのであった。


 ー


「おい! 巴里急げ! 早くしないと始まっちまうぞ!」


 俺たちは今走っている。

 何故かと言えば、上映時間が迫ってきているからだ。

 結局ベリーグッドなバーガーは、量が多くて急ぐのには適していなかったのだ。


「ハァハァ……」


 後ろから巴里の荒い息が聞こえる。

 見た目通り、運動にはそんなに強くないようだ。


「そうだ……召か……」


「おい待て!? ここであの馬を呼び出すきか!?」


 冗談じゃない、間に合うどころか即ご退場だ。


「ああもう、しょうがねえな!」


「……!」


 俺はしょうがなく、本当にどうしようもなく手を引いてやった。手を引かれる巴里は、なんだか嬉しそうだ。こっちが勘違いしてしまう。


「チケットありますか!?」


 なんとかチケット売り場までたどり着いた俺たちは、息も整えず売り員に注文した。売り員はすっごく分かりやすく嫌そうな顔をしている。何かしただろうか。


「お客様、ただいまペアで見られる席がございません」


 上映時間を見るとあと5分もないというところか。


「それで構わん! いくらだ!?」


 巴里が少し残念そうな顔をしている。

 が背に腹は変えられん。


「二人で2160円になります、あ……お客様申し訳ございません。うっかりペアで空いてる席を見つけてしまいました」


「見つけて悪いこともないだろう? じゃあそこに変えてくれ」


「はい、二人で…………6480円になります」


「たっか!!? あんたそれはぼったくりだろ! あんたの私情が見え見えてるよ!!」


 おそらくこいつは彼女がいないのだ。

 そこで手を繋いできた俺たち。誤解されてもしょうがないが、3倍は高すぎる。


「はは、冗談ですよ。二人であわせて21600円です」


「桁!! 桁!!!」


「ああ失礼、無意識の内に憎悪が」


 こいつあぶねえ……

 結局通常料金を払って、チケットを奪取。

 無駄な時間をつかっちまった……


「あ、ついでにポップコーンなどいかがですか?」


 うむ、映画鑑賞にポップコーンは必須だろう。


「巴里! 何味がいい?」


「……? キャラメル」


 なるほど巴里はキャラメルが好きなのか。

 まあ定番といえば定番だ。やはり女の子は甘い方が好きなのだろうか。

 俺は塩が良いなあ……


 少し思案していると。


「あ、お悩みでしたらハーフお作りしますよ?」


 おお神よ! さっきのくされ売り員に見せてやりたいこの輝き。


「それで! お願いします」


 ポップコーンを片手にダッシュダッシュダッシュ!


 上映時間まで1分を切った。


「やばいぞ! 早く!!」


 もう2人で全力ダッシュした。

 確かこの映画はシアター5番だったはず……

 2番…3番…4番………あった!

 もうそこからは無我夢中で中に飛び込んだ。

 時計の針は今ちょうど1時を指し示したところだ……

 間に合ったあ。


「ねえ」


「どうした?巴里……ハァハァ」


「……こういうのって、宣伝があるんじゃないの?」


「…………」


 俺は一瞬で凍りついた。

 スクリーン見てみると、そこには前の席を蹴ってはダメ〜と音楽が一緒に流れている。

 結局、俺たちが映画を見始めたのは、その数分後だった。

巴里のぼーっとしてる設定は表現が難しいですね…


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