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ケモノテスト  作者: ヤタ
2章 獣修決戦!!
21/39

獣修決戦4

今回で終わろうと思っていたんですが。

……終われませんでした。

「「「うおぉぉ!!」」」


 体育館の裏、喧騒の絶えない中、僕たちは背の高い草の中に隠れていた。

 空からの奇襲を成功した鳥井 和利くん、圧倒的な力の差を示した生徒会長である佐々木 奈々さん。

 この最強を倒さなければいけないのかと、正直なところ肩を落としていた。

 しかし、それよりもやっかいなことが……


「ねえ、隼人」


「なんだ? 宮」


「こんな優勝ムードの中 最弱(・・)の僕らが挑むの?……」


 僕たちの顔は真っ暗に染まっていた。


 ー


「くっ、お前最初は手を抜いていたのか?」


 西郷くんは、片膝片手を地面に付いて言葉を吐いた。

 額にはじんわりと汗が付いている。


「別に、全力のつもりだったわよ。本気で来る相手に、手を抜くほど失礼な行為は無いと思ってるわ」


 一方、佐々木さんは少しも疲弊していないのか、依然とした態度だ。


「ただ……様子見はしていたけどね」


 下手に動いて返り討ちにあってはいけないから、と後に続けた。


「ふ、強えな……」


 西郷くんは潔く負けを認めた。

 少し乱暴な口調だったり、いや実際乱暴だったりするが、こういう男らしい所を見るとどうも嫌いになれない。


「西郷! 大丈夫か!?」


 2組であろう生徒たちが、西郷くんを心配して集まってきた。

 やはりクラスでも頭領みたいな存在なのだろう。


「ああ、少し疲れただけだ。それよりも皆、その……済まねえ、負けちまった」


「なあに気にすんな! 別に修学旅行が最高ランクじゃなくたって楽しめばいいんだ」


 そうだそうだと、周りの人も騒ぎ立てた。

 一人一人がクラスメイトを想える良いクラスだ。


「おほん、じゃあそこの隠れてるネズミ達を片付けて終わりましょうか」


 !!?


 バレていた。

 どうやって登場しようとかいう考えも虚しく、普通にバレていた。


「ほ、ほらネズミ達だって! ユキ呼んでるよ!?」


「いやまてご主人。それは無理がある」


「宮?ネズミ達っていうのは、隠れてる人のことを比喩して言ったことなのよ?あ、比喩っていうのは……」


「しっかり教授しないでくれるかな雲母!? それくらい分かってるよ! 馬鹿みたいに言わないで!?」


「いやおまえは馬鹿だろ……」


「むきいぃ!」


 隼人の嘆息に僕は、息を荒げた。

 がしかし誰も取り合ってはくれないし、唯一反応していた結城さんも苦笑いを浮かべていた。


「まあバレてるんだし隠れててもしょうがないか。ほら行くぞ」


「へーい」


 僕の覇気のない返事と共に、僕達は体育館の中へ入って行った。


「さてと、これが事実上最終決戦ということでいいのかしらね」


 仁王立した佐々木さんを筆頭に、1組の人たちがこちらに向けて構えていた。

 流石は1組というだけあってラスボス感がハンパない。

 まあこれが2戦目なんだけどね……


「じゃあ、行くわよ!」


 佐々木さんの掛け声と共に1組が動いた。

 先の戦いで消耗した人の数が多いようで、ざっと見ても10人くらいしかいない。

 こっちの人数は5人。

 クラスレベルを考えても勝敗は一目瞭然だ。

 ……しかし。


「召喚します!」


 可愛らしい掛け声と共に召喚された、これまた可愛いケモノ。

 結城さんのタマが召喚された。


「ふしゃあぁぁ!!」


 ひゅん! ズザザザザ!


 空を切るような音がしたかと思うと、今度は何かを引っ掻くような音がした。

 否、何かは敵のケモノだ。

 僕がそう認識したときには、既に鳥居くんと佐々木さん以外のHPが底をついていた。


「ひっ! 模範解答(パーフェクトアンサー)!」


 誰かが悲鳴と共に呟いた。


「ねえ隼人。こんな簡単にいっていいのかな……」


「気にするな。結城はチートだからな」


 学年のトップに入るであろう1組の生徒を、こうも簡単に倒してしまうとは……


「ふふ、やはりあなたは規格外ね」


 規格外といえば佐々木さんと鳥居くんは白虎と鳳凰(ほうおう)なわけで、それに比べたら結城さんは猫と控えめな気がする。


 ズドーン!!


 僕たちが結城さんの華麗な駆除を呆然と見ていた時、ユキの隣数センチを(かす)めるとこに羽が突き刺さった。


「うみゃぁぁぁ! 羽の刺さる音じゃねえよ!?」


 ユキが情けのない悲鳴を上げた。


「迦具土くん、君を待っていたよ。待ちきれなくて少し先走ってしまったけど、今からはじっくりと攻めて攻めて攻めてあげるよ」


「なに!? なんなの! 鳥居くんから黒いオーラが溢れ出てるよ!?」


 僕なんかしたっけという言葉を投げかけたとき、隼人はなぜか笑いを堪えていた。


「まあ、とりあえず当初の予定通りだな」


「……そうだねなぜか鳥居くんの殺意が僕に向けられているから」


「おい宮それは殺意じゃなくてこいむぎゅ!?」


 珍しく隼人がすっとんきょうな声を上げたと思ったら雲母に口を押さえられていた。


「(だめでしょ、宮に言っちゃ)」


「(お、おうすまん。危ないところだった)」


 雲母が隼人にゴニョゴニョ何かを言っている。


「こい何?」


「こ、小池くんどうしてるかな〜?」


「(いやそれは無理があるんじゃ!?)」


「あ〜小池くんはたぶんさきいかをしゃぶってるんじゃない?」


「(いけた!? てか誰なのよ小池くんて!!?)」


「話を戻すぞ。当初の予定通り勇気が佐々木とタイマンだ。あいつなら佐々木にも充分勝てる実力だ。その間俺たちだけで鳥居を押さえておく!」


 いつだったかお昼ご飯の作戦会議のとき、立てた……と言えば聞こえはいいが要するに隼人の考えだ。

 模範解答(パーフェクトアンサー)の異名を持つ結城さんなら実力の謎めいたあの佐々木さんにも勝てる可能性がある。

 ただそれは一対一の話である。

 だからその間僕たちが、鳥居くんを何としてでも食い止めるということなのだ。


「「召喚!」」


 隼人と雲母がほぼ同時に掛け声を出した瞬間、もうおなじみのエフェクトが掛かった。

 ユキにも勝る純白の毛、赤い瞳。

 そして隼人の方は……


「狼?」


「いや、こいつは犬だ」


 分からない……

 狼と犬のハーフの様なとにかく分かりにくいのだ。


「そんじゃあ私から行くわよ!」


 雲母が威勢良く飛び出した。

 うさぎのうーちゃんは草食動物とは思えないようなギラギラした瞳を放っている。


 ぴょーん!!


 流石というか何なのか、うーちゃんは普通のうさぎでは無理だろう大跳躍をした。

 やはり普通の(どうぶつ)とケモノは違うらしい。


 まあそれを言ったらユキなんて喋るしね……


「正面激突では勝てないわ。でも、背後ならどうかしら?」


 うーちゃんは鳳凰の頭上を超えその数メートル後ろに着地した。

 そして、そのまも屈伸をしたと思うと……


 びゅんっ!


「速い!……」


「なるほど、あれだけの大跳躍の力を全て前に注いだ訳か」


 隼人も賞賛の声を挙げている……が。


「鳳凰、インパクトの瞬間羽を広げるんだ」


「!!?」


 まさに、うーちゃんのロケット頭突きが決まろうとした瞬間、鳳凰は翼をヤマアラシよろしく開いたのだ。

 ……地面に突き刺さるほどの強度を持つ。


 ズドン!


「きゅぅぅ!」


「うーちゃん!!」


 付け根の方でなかったのが幸いしたのか、地面のように羽は突き刺さっていない。

 だとしてもだ、数メートルの大跳躍全ての衝撃を返されてしまったのだ、かなりのダメージだろう。


「おいおいまじかよ…あの鳳凰防御力も半端ないぞ……」


 空を飛べて火を吹き、なおかつ背中に鉄壁の羽を持つ。

 向こうもなかなかチートである。


「うーちゃん……これ飲んで……」


 雲母は、総合点であらかじめ買っておいたのであろうポーションを飲ませている……がおそらくリタイアだろう。


「余所見してていいの?」


 ズババババ!


「うっ……たま!」


 結城さんも苦戦している。

 というかこちらに意識を持っていかれてたようだ。


(るな)!こっちは大丈夫よ!」


「……!!」


 雲母の掛け声に結城さんは意識を佐々木さんに集中した。


「たまちゃん!」


 びゅん!


 たまのスピードが上がった。

 それはもはや目で追えることの出来ない領域だ。


「宮! こっちも来るぞ!」


 僕も鳥居くんに意識を戻すと、羽をユキに打ち込む瞬間だった。


 誰もが思った。

 終わった……と。

 あの羽を喰らったら、例え学年ビリじゃなくたって一撃で沈められる。


 シュッ!


 何枚もの羽による空を割く音が聞こえ、羽がユキを直撃……しなかった。


「おっしゃあぁぁ! 見たかこの鳥め!」


 ユキが雄叫びを挙げている。

 周りの観戦者は何が起こったのか分からず口をポカンと開けている。

 どうして無傷なのかと、なぜHPが尽きていないのか…と。

 しかし事実なんて簡単なもので、ユキはただ避けただけである。


「宮! やったな」


「そりゃね! 苦労して鍛えたかいがあったよ」


 またまたいつかのお昼のご飯のとき、隼人は結城さんの警護(ただの足手まとい)以外にもう一つやってほしいことがあると言った。

 それがこの絶対回避である。

 ネックレスを付けて意思疎通ができ、しかも常に外の世界で生きているユキだからこそできた芸当だ。

 簡単に言うと、自前のスピードで攻撃を二次的に捉えて回避するという、前回やったことの強化版だ。


「代表者がまず第一に優先しなければいけないこと…それはみんなをまとめるリーダー性でも敵を葬る圧倒的ステータスでもない」


 事実それなら僕ではなく、リーダー性のある隼人、圧倒的ステータスの結城さんであるべきだ。


「生き残ることだ!」


 隼人の叫びに周りも、おお……と感嘆の声を漏らした。


「でも絶対回避なんてかっこよく思ったけどいつまでも続けられないよ?」


 僕は鳥居くんに聞こえないようヒソヒソと隼人に耳打ちした。


「そうだなだから俺が出来るだけ盾になる。それまでに結城が佐々木を倒せば勝ちだ」


「危ない賭けだね」


 結城さんの方を見てみると集中しているのか多少押しているように見える。


「見ろ、あのままいけばおそらくあと10分でケリがつく。そこまで耐えるぞ!」


「確かにこれは厳しいわね……」


 佐々木さんは自分の実力をちゃんと理解しているのか、あっさり厳しい状況を認めた。


「とりあえず俺が相手だ鳥居!」


「迦具土くん、もう一つで君の番だね……」


 ゾワッと背筋が凍った気がした。

 なんだろう……新しい恐怖だ……


「ぐうぅぅぅうわん!!」


 隼人の犬が吠えて威嚇しているが、あんまり鳳凰は相手にしていないようだ。


「いけ! 嚙みつけ!」


 隼人は雲母やユキとは違ってただシンプルに噛めと指示した。

 一片適当な、作戦なしに聞こえるが、これは犬にとって唯一無二の攻撃だろう。

 シンプルだから弱い、そんなのは人間のただの偏見だ。

 むしろ、シンプルだから強い、それが自然界にとっての常識だと思う。


「うわん!!」


「グゲエェェ!」


 鳳凰は翼を打つ構えをした。


「危ないよ! 隼人!」


 しかし隼人は落ち着いている。

 まるで何が起こるか分かっているかのように。


 グオォォォ!!


 鳳凰が羽を打つ……ことは無かった。

 代わりに莫大な炎が吐き出された。


 サッ!


 犬もまた炎が来ることが分かっていたかのように落ち着いて避けた。


「なぜ分かったんだい?僕がフェイクを入れたことを」


「なぜもなにも犬は気持ちが分かっちまうんだよ、人の。鳥居だって経験したことあるだろ?怖がっていると噛みついてくる犬を」


 僕も経験がある。

 犬を撫でようとするとき、少しでも怖がると何かを察したのか、噛みついてくる犬を。

 隼人の真骨頂、リーダー性はただ見た目だけで備わるものではない。

 むしろ作戦の立て方、相手の出方の未来を見通す力、暴力とは真逆のこの能力が隼人を構成している。

 おそらく粗暴とかもあるが、そういうところが表に出て、隼人のケモノは犬となったのだろう。


 だがしかし、あくまで未来を見通すだけ…つまり…。


「その犬では逃げ切れない広範囲高威力の攻撃はどうしようもないということだね。」


「ちっ! ばれたか……」


 言うが速いか、早速鳳凰は今までになく大きく羽を広げた。

 というかこの方向僕たちも危ないんじゃ……


「やばい! 犬! ユキを守れ!」


 おお、ユキを守ってくれるのか優しいところもあ……


「ミヤガード!!」


 瞬間鳳凰から羽が前方向全てに放たれた。

 犬はユキを守って打たれ、衝撃波は僕たちを飲んだ。

 ……正確には僕を直撃する形で。


「うぎやあぁぁ!!」


「危ないところだった……」


「ちょっと! 僕にも優しくしてよ!?」


「あれを受けて生きてるあたりお前は盾が似合ってるよ」


 酷い言いようだ。


「流石に痛かったよ!」


「うん、痛いだけな」


 隼人はこれ以上取り合うつもりはないらしく、犬にポーションを飲ませにいった。


「今ので2分くらいか。厳しいな……」


 確かにあと僕だけで避け続けるのは厳しい……というか無理だろう。

 今度こそ終わりかと思ったとき。


 シュルルルル……


「グゲ!?」


 鳳凰に縄が……いや違う。

 あれは蛇だ。


「悠太!!」


「……少しなら耐える」


 完全に忘れてた……


 最高にかっこいい場面で出て来たのに、もはや誰もが、あっいたっけ……というムードである。


「こんなの読者ですら忘れてただろうに……」


「宮、読者ってなんだ?」


 僕達はそれ以上は語らず、悠太の蛇の方へ目を向けた。


「グゲエェェグゲエェェ!!」


 鳳凰は苦しさのせいなのか悶え叫んでいる。

 鋼鉄並みの強度を誇るであろう羽を持ってしても関節技には勝てないらしい。

 いやむしろ鋼鉄だからこそ余計に効くのだろうか。


「落ち着くんだ鳳凰。おまえの力なら無理にでも解けるだろう」


 ミシミシっ!


 鳳凰は、鳥居くんの言う通り羽を力強く広げ始めた。


「……!?」


 嫌な音は鳳凰からではなく、蛇の方からだった。

 関節を決めていてもなおこのパワー。

 それだめ9組と1組の差は開きすぎている。


 ミシメシ!!


 一段とすごい音がしたが、それでも蛇は絶えぬこうとしている。

 きっとそれは蛇の異様な程のしつこさにあるのか、それとも悠太の指示を信頼しているからなのか。


「……もういい」


 悠太は蛇を心配したのか、撤退の命令をした。

 実際これ以上続けてたら、HPが底を尽きるどころの話じゃない。

 ユキを見て分かるように、ケモノだって生きている。

 怪我は簡単に治せても、命までは無理だ。


「今ので3分は稼げたぞ!」


 隼人の言う通り、悠太による影からの刺客は鳳凰相手に充分なほどの時間を稼いでくれた。


「今度こそっ」


 鳥居くんの言葉と共に無数の羽がユキを襲った。


「「ぐあぁ!」」


 ギリギリユキは避けたため、大ダメージは無いものの衝撃波で数メートルも飛ばされた。

 痛みも共有してるため僕も数メートル吹き飛ばされるほどの痛みが襲った。


「っ! 宮! 大丈夫か?」


「うん……なんとか……」


「はあ、迦具土くん……避けちゃだめじゃないか……」


 すんごく怖い!

 鳥居くんキャラ変わりすぎ!?



「!? あいつは……俺にいい考えがある!これを装着しろ!」


 装着?

 新しいアイテムか何かかな?


「ってこれ女子生徒の服とウィッグじゃん!?」


「ああ、というか着てから気付くなよ……」


「何がいい考えだ! 今ふざけてるときじゃないよ!?」


「大丈夫だその内分かる」


 よく分からないが、隼人は相当の自信のようだ。


「迦具土くん! すごくキュートだ!」


 うん?

 なんか鳥居くんに言われると寒気が……


 鳥居くんはすごく荒く息をしている。

 心なしか顔も赤い。

 きっと鳳凰を扱うには相当な精神力を使うんだろう。


「(たぶん今こいつはものすごい勘違いをしているんだろうな……)」


「おい……」


 ん?

 何か聞いたことのある声がした。


「というかこの声!?」


「てめえ何してやがんだあぁぁぁ!!!」


 その人とも思えぬ咆哮は、よく聞いたことのある声で、だけど 今は絶対会いたくない声だった。

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