ケモノと転校生
2話目です!
1日後にもう投稿できるとは!
ケモノテストってタイトルなのに全然ケモノでてこないし唯一のユキも全然喋らないのですが、まあそこは見て見ぬ振りをしてください(笑)
富田先生による地獄ツアーをなんとか乗り越えて僕たちは、自分のクラスを探すべく、クラス発表されている掲示板へと向かった。
「えーと……僕の名前は……あった! 何々? 2-9クラス?」
「学年で最下位の奴がなんで自分のクラスを探してんだよ……」
「あ、隼人おはよう」
いきなり話しかけてきたこいつは1年のときから仲が良い東野 隼人だ。実は隼人は東野先生の実の弟なのだが顔は先生に似て結構かっこいい……いや認めないブサイクだ不細工。ちなみに顔に似合わず性格が捻くれててついでに暴力的だ。
あれ? なんで隼人は僕がクラスを探してたのを不審がってたんだ。
「この学園は2年から成績でクラスが別れるんだよ。というか入学のときも終業式のときも説明されてただろうが」
ふ、そんな過去のことはとっくに忘れたぜ。現実問題1年のときの入学式はほとんど寝てたからなあ……
「ちなみに隼人のクラスは?」
「…………2-9だよ」
「なんだ、僕と大して変わらないじゃないか。隼人も結構馬鹿なんだね……イタイイタイ」
「貴様の口をリアルに縫ってやろう。」
「ごぺんなはい」
「おまえ口つねられて『ぺ』なんて発音よくできるな……」
危うく口がまつり縫いされるのを防ぎながら、僕らは2-9クラスへと向かっていった。
「そういえばさっきからおまえの頭に乗ってるちっこいのってもしかして……」
「そう、僕の相棒の白ねずみのユキさ!」
僕はケモノがねずみになるぐらい召喚テストが悪いかったことを悟られないようオーバーリアクションでとびきりの笑顔で答えた。
「召喚テスト散々だったんだな」
あっさり見破られた……
「おいおい、あんまりねずみを馬鹿にしちゃいけないぜ?」
ユキ……もうこれ以上僕の傷をえぐらないで。
「うお!? こいつ喋れるのか!?」
当然の反応だろう。ねずみが喋る日常なんて普通はない。ジェ○ーだってほとんど喋らないんだぞ。
「ふむ……喋るのか。これは色々使えそうだ」
「使うとは失礼な! あまり人をバカにするなよ!」
「いやユキはねずみでしょ……」
正直、僕は口うるさいだけだと思う。役に立つなら、それは非常食ぐらいか。
「……いや、止めておこう。お腹壊しそうだ」
「ご主人? なんとなく考えてること分かったからな?」
顎に手を当てながら考えたが、閃いた途端ユキに看破された。
「ははっおまえら気が合いそうだな。やっぱり2人とも「「バカにしてんじゃねえぞ!」」バカだか……いや、まだ何も言ってなかったんだが……おまえらが自分を卑下したいなら止めないが」
それくらい言われなくても分かる。なんせさっき言われたからね。
「そういえば宮、なんか顔が疲れているな」
「ああ、うん……ちょっとね……」
「なんかあったのか?」
「生活指導室に……」
「あーそれ以上言うな。嫌な気持ちになる」
まだほとんど何も言ってないのに隼人はもう察しがついたようだ。ユキは思い出したのか、また顔を青く染めている。
「しかしよく抜け出せたな……まさかヤったのか……?」
「隼人が僕をどういう目でみているかがよく分かったよ。残念ながらヤツはまだ生きている……いや鬼って点で言えば生きているのかも定かじゃないよ」
「おいおい不死身ってことか? 不死身のアル○ックとか手に負えねえだろ……」
流石にそれは冗談だが、足腰の強さは尋常じゃない。なんせ、この世の階段という物を根本から否定した動きをするのだから。
「実際あれは冤罪だしね。許されなきゃ理不尽だよ」
「まあ今までの行いだな」
隼人まで僕を赤点常習犯と言いたいのか。
「言っとくけどいつもギリギリ回避してるからね?」
「いやまて、何言ってるか全然分からん。それは何か? 先生の目をか?」
隼人は何を言っているのだろう。僕は理解できずに首を傾げた。
「あーもういいよ、そういう時のおまえは大抵変なこと考えてるからな」
「変なこととは失礼な……僕だってしっかりしたいろんなこと考えてるよ?」
「ほおー、じゃあ例えばなんだ?」
「世界平和」
「……うん、立派だけど普段生活でそんなこと考えてるおまえはやっぱ変だよ……」
立派なことなのに哀れられた。きっと隼人は傍若無人だから平和のことについて考えられないのだろう。
「……この人で無しめ!!」
「おまえの頭の回路は何にたどり着いたんだ!!?」
お、くだらない話をしてる間に着いたな。ここが2-9……これから僕が青春をおくる場所か。ここは一発目が肝心だ。入って元気よく「おはよう!」って言えばみんなから一目おかれ注目されるはずだ!
そう信じて扉をガラリと勢いよく開ける。
「おはよう!」
「「「あ゛ぁ゛ん!?」」」
………………最悪だ。ここは不良の巣窟か……?てか怖いめっちゃ見てくる……いやそう願ったけどさ?もっとこう明るいものを想像してたよ?少なくとも死んだ魚のような目は求めてなかったよ……
「バーカ」
そういう隼人はむしろ目を逸らされてるな。やっぱり暴力的なやつにはそれ相応のオーラがあるものなのか。
しかしよく見てみれば不良ばかりでもないな。半分くらいは縮こまってるし。女子の数も全然少ない……これ本当に青春をおくれるのか……
「あ! 隼人とその他おはよう!」
「まって! 隼人の他には僕しかいないよ!? なのにその他扱いなの!?」
この登場一発目に酷い発言をしてきたのは僕の幼馴染みの柊 雲母だ。これで[きらら]と読むのだから最初は僕も驚いたものだ。
ちなみに容姿は完璧だ。アイドルにスカウトされたこともあるらしい……そんなやつと幼馴染みなもんだから僕は周りの男達によくすごい剣幕で睨まるのだ。僕なんもしてないのに……
しかし雲母もこのクラスなのか。容姿は完璧でも頭は底辺だな。
「あんたに言われたくないわよ」
「うお!? 心読んできた!?」
「あ、まって。容姿が完璧は否定させて」
「そんな詳細に!? というか悪態!!?」
雲母が人の心を読める奴だとは知らなかった。案外人の知らない一面ってあるんだな。
「そんなことより宮の頭に乗ってる白いねずみ可愛いね! どうしたの?」
「僕の相棒の白ねずみのユキさ!」
僕はケモノがねずみになるぐらい召喚テストが悪いかったことを悟られないようオーバーリアクションでーー
「召喚テスト散々だったんだね……」
ーーあれ?なんか目に涙が……
「オレの名前はユキ!よろしくな」
「うええ!? 喋るの? やだなに余計可愛い!」
雲母は可愛い物好きだ。しかもかなり広い範囲に可愛いと言う。これが女の子の特性なら仕方が無いが、たまに見るゲテモノまで可愛いというのは、正直理解できない。
「あはは、雲母の可愛い好きは相変わらずだね。……相変わらずゲテモノも可愛いと言うなんて」
「ご主人? 今サラッとオレをゲテモノ扱いにしなかったか?」
ユキは何を言っているんだろう。僕には全く理解できないなあ。
「さあ? ケモノと聞き間違えたんじゃない?」
「騙されないぞ! まず文字数が違った!!」
「ユキ、うるさい。宮のゲテモノ加減に比べたらおまえのなんてまだマシだぞ」
「貴様はサラッと本読みながら毒吐くな! ……この腐れ外道め!!」
「ならおまえも腐れ外道だよ、このゾンビ野郎」
「酷い! ゾンビだって生きてるんだぞ!」
「おまえよりゾンビが優遇されてるぞ……てかゾンビは生きてねえよ……」
「やーいゾンビゾンビー」
「「ユキは餓鬼か!」」
最初は僕がユキを窘めていたのに、横で本を読んでる隼人に逸らされた。
その更に横では雲母がとてつもなく苦笑している。
「あははっ3人とも仲が良いわね。やっぱりみんな「「「バカにしないで(するな)よ!!」」」気が合……うん?」
しまった。勢いで生き急いでしまった。隣を見ると隼人もバツが悪いような顔をしている。
「おーい、そろそろSHR始めてもいいか?」
あ、東野先生だ。去年にひきつづき今年も東野先生が担任みたいだな。
「えーと、今日は始業式だけやって終わりだな。あとこの春から転校してきた生徒がいるからみんな仲良くしてやってくれ。入ってきて!」
東野先生のその声に応じたかのように、静かに扉が開く。花……そこから現れた物を形容するにはそれがぴったりのように思えた。
「「おお!!」」
男どもから野太い歓声が上がる。僕もその子に目が釘付けになってしまった。それもそのはず……めっちゃくちゃ可愛いのだ。雲母に勝るとも劣らない容姿だろう。
あの全く女に興味を示さない隼人でさえ、目を見開いていた。
「は、はじめまして。ゆ、結城 月です。これからよろしくお願いします」
結城さんかあ、ちょっとおどおどしてるとこも可愛いなあ。まあでもこの不良の巣窟ならたじろいでもしょうがないか。
「それじゃあ結城は柊の隣にしようか」
「私は柊 雲母。よろしくね! 結城さん!」
「は、はい。よろしくお願いします。えーと柊さん」
おお、美女二人が並ぶとピカピカ光って眩しいよ……
「結城は去年の学年末テストを受けていないからとりあえずここのクラスに入った。だから成績がどんなもんか先生も知らん」
「そ、そんなすごくはないです」
なんか結城さんシュンとなってしまった。先生気をつけろよな。
「ただお前たちより頭が良いのは確かだ!!」
先生が絶対確実という気迫で叫んでいた。
「そんな! 先生僕たちそこまで酷くないですよ!」
「そうだそうだ!」
2-9に入れられたのにみんなは納得していないようだ。確実と言われたのが癪に障ったのか、まあプライドが高いというのは負けず嫌いという良い一面にも繋がるし良いことか。でもやっぱりクラスの大半は言ってないしこれからの纏まりが心配だ。
「最悪、確実なのは宮くらいだ!」
「「「そうだそうだ!」」」
誰かの一言により、クラス全員の声が、まるで一寸の狂いもない和音のように木霊した。
「ってそんなまとまりかた嫌じゃー!!!」
僕にとってはただの不協和音だ……というか満場一致なの……? ちょっと涙が出てきそう。
「それじゃあクラスも新しくなったことだしとりあえず自己紹介しとくか。それじゃあそっちから」
そう言いつつ、東野先生は窓側の前の人からというように促した。
自己紹介か……さっきのおはようでは挫かれたが次こそはバッチリ決めてやる。ここは結城さんに良い印象をもってもらう好青年風に……おっと僕の番か。
「迦具土 宮です。好きなことは読書と音楽鑑賞で、嫌いなことは不真面目さです。皆さんとは仲良くしたいと思ってます。今年一年どうぞよろしく」
決まった。これは完璧すぎる。隼人と雲母がものすごい目を向けてきて、東野先生に至っては呆れてるけどもうこの際知らないぞ。
「オレの名前はユキ。さっきここの学年成績最下位でネーミングセンス0、さらにはいいかっこ見せようとして空回ってるご主人に名付けられた哀れなねずみです」
沈黙が走った。とりあえず今日の晩飯はねずみのシチューにしようかな。それとも鍋か……
ところですごく気まずい。とりあえず僕は座った。
「私の名前は柊 雲母です。さっきそこの迦具土くんと喋りましたが、ただの知り合いで友達ではないです。というか付きまとわれててうんざりしてました」
「俺の名前は東野隼人だ。さっきそこの迦具土と一緒に教室に入ったが、たまたま一緒の時間に来ただけだ。誤解は招かないでくれ」
さらに追い討ち……だと? もはや名前ですら呼んでもらえないのか。べ、別に泣いてなんかないぞ!
あーあ、結城さんも呆れてるんだろうな……
「さてこれで全員自己紹介終わったかな?」
「あの、すみません。彼がまだなんですが……」
「え? あ? す、すまん忘れてた。というか気づかなかった」
「……佐伯 悠太」
お、あれは悠太じゃないか。相変わらず影薄いなあ。
悠太は隼人同様1年のときから仲が良いのだが僕と隼人でさえも時々見えなくなるほど影が薄いのだ。顔は誰も見たことがない、なぜならいつも前髪で目が隠れているからだ。一部では貞夫とか囁かれているけど、本物じゃないことを信じよう。
「いつの間にいたんだろうね?」
「何言ってるんだ? ずっとご主人たちの横にいたぞ?」
「!!?」
恐ろしい、もうそこまでの域に達しているというのか……
「よし、今度こそ全員終わったな。じゃあ体育館に30分後集合な」
30分後か……何をするにも微妙な時間だな。さてどうしようか。
「あ、あの。迦具土くん」
ん? 誰か僕を呼んだか?
「って結城さん!? ど、どうしたの?」
「いえ、その……以前どこかでお会いしたことは……?」
「んー、ないと思うけどなあ」
あったら忘れないだろうし。
「そうですか…… (覚えてないですよね……それにさっきのも)ボソッ」
「こんなバカに結城みたいな美人さんが知り合いがいるわけないでしょ」
もう雲母は呼び捨てにしてるのか。というか雲母がまさにその美人さんと知り合いの人なんだけど……まあ本人も自分が可愛いと自覚してないみたいだし、そんなもんか。
「ところでさ、宮はどうしてユキちゃんを連れているの?」
「ん、ああなんか帰りたくないみたいでね……土に」
「ご主人どんだけオレを煙たがってるの!?」
雲母はああなるほど、という顔をしている。土にと言ったのに、察して納得してくれるあたりありがたい。
「あ、結城さんには改めて自己紹介、迦具土 宮です。よろしく!」
僕は精一杯はにかんだ。すると結城さんもそれに応えてくれるようで。
「結城 月です。こちらこそよろしくお願いします」
同級生に対してもこの敬語使い。丁寧で綺麗で可愛いくて大和撫子なんて、なんて完璧なんだろう。
「コホン……(何ニヤニヤしてんのよ、なんだか結城は危ないわ……)ボソッ」
「オレはユキだ!」
「はい、ユキちゃんもよろしくお願いします」
ユキを見て結城さんがニコニコしている。ねずみは苦手ではないようだ。動物とかが好きだったりするのだろうか。
「ええと、あとそちらが東野くんに佐伯くんですよね?」
「あ、ああ。覚えててくれたのか」
「……嬉しい」
隼人は意外だというような顔をしている。悠太はめずらしくとても嬉しそうだ。それが見つけてくれてなのか、覚えててくれてなのかは分からないが……
「しっかしこれは予想以上に酷いな」
隼人が周りの惨状を見て呟いた。周りというとくらすめいとのことか、それともクラス自体のことなのか。周りを見てみると……
男女男男男男男。
……なぜだろう、僕の知っている有名な歌はこうじゃなかったばず……共学の『共』の字も感じられない。
「他にも見てみろ」
寝、寝、寝、携帯、寝、寝、漫画。
どうしよう……『学』の字の方も怪しくなってきた……こんな中じゃ真面目な結城さんが可哀想な気がする。
「うーむ、やっぱり男子は馬鹿ばっかりということか?」
「まあ今の僕らにはそれを否定できないよね…」
隼人が冷静に分析するのを、僕は苦笑で返すしかなかった。見たところ結城さんと雲母以外にも女子は一応は居る。けど、なんていうか…その……むさい男にかき消されている……
「そもそも不良が律儀に登校するとはな」
「隼人だって似たようなものじゃないか」
「いやいや、俺はそこまで喧嘩とかしねえよ?」
以外だ、これはよく言うギャップ萌え、とかいうやつなんじゃないか?普段は怖い顔しているけど、いざとなると優しいとかいうあれ。
「俺は一方的な虐殺しかしない」
うん、分かってた。隼人がそんな優しいなんてことはこの世の理的にありえない。
「ご主人ご主人」
「何? ユキ」
「すごく居づらい」
ふと下を見るとユキが何かに怯えている。別に助ける義理はないが、少し気になってユキの視線の先を見ると。
「ユ、ユキちゃん……ハァハァハァ……」
すごく顔の紅葉した雲母がいた。しかもすごく息が荒い。間違えて通報しそうなぐらい。
「ユキ……」
「ガクガクガクガク」
「僕にはどうすることも……」
「あきらめないでええぇぇ!!」
そんなユキの悲痛の叫びも虚しく、ユキは雲母に頬擦りされていた。別に嫌がることじゃないと思う……むしろ羨ましい。
「んな! あの白ねずみが柊に頬擦りを!?」
「いいなあ、俺も白ねずみになりたい」
「でも宮がご主人だぜ?」
「「「ああ……それは嫌……」」」
クラスメイトは一生溝で暮らしたいそうだ折角だし沈めてあげようかな。
それにしても摩擦で火花が飛びそうな勢いの頬擦りだ。頭からなんか白い物が見えるけど、あれはウルトラなソウルじゃなくて煙だと信じてる。
「まあまあ雲母その辺にしてあげて……?」
「そうです! 次は私の番です!」
「ユキ……僕にはもうどうすることも」
「後生だご主人!! 助けてくれ!!!」
なんとかユキを引き上げたら(結城さんは辛そうな顔をしていた)ユキは大層怯えていた。
「ご主人……あれもう焼けるレベル」
「そしたらおいしくいただくよ」
「ネズミオイシクナイ!!」
さてこれは冗談だ。いくら僕でもねずみを食す趣味はない。しかし焼けるレベルとは、首の筋肉はどうなっているんだろう……
「そういえば悠太はさっきから何を読んでいるの?」
「……話し方についての本」
「うん……頑張って」
悠太はこう見えて、いやまさにこの通り引っ込み思案だ。特に異性なんかだと、いつもの影の薄さが倍くらいになる。
「そんな気負わなくてもいいんだよ?ほら笑って!」
「ニヤァ」
悠太は前髪で目が隠れて見えないため、口元だけが三日月のように曲がり……これは……その……怖い。
「……分かったか、これが現実」
「……もう笑えなんて言わないよ」
悠太のある意味デリケートな部分に触れてしまい、なんとも申し訳ない気分だ。それに嫌な空気。こんなときこそユキの出番。
「いててててて!! 痛い痛いって!!」
「あ、ごめん。空気を変えようと思って」
「清々しい程悪意しかねえ!?」
僕は気がついたらユキを握りしめていた。可哀想だが、無意識なのだからしょうがない。気付けば始業式まで残り10分というところだ。そろそろ移動した方が良いだろう。それに、結城さんと折角の機会に仲良くなりたいし。
「あ、あのもし良かったら体育館一緒に行かない?」
僕は結構な勇気を出して言った。それはもう清水の舞台から楕円状に回転しながら飛ぶ勢いの。
「あ、はい良いですよ」
おっしゃー!!!これで思い残すことはない!
「ああ、俺たちも一緒に行くわ」
「……ついてく」
こいつら……僕が3ヶ月分くらいの勇気を振り絞ったというのにこんなにあっさりと……まあいいか。
早速移動を始める僕たち。ふと歩いていると、今年になって気付くこともある。例えばこの校舎、異様な程に広い。
「なんでこんなに広いんだろう」
「お前の心は狭いと思うが?」
「僕の心の広さの話じゃないよ!! 校舎だよ校舎!」
「ああ、それなら単純な話だろう。要するにケモノテストするのに、狭ければ何かを壊されそうで怖いからな」
ケモノテスト……普通の高校にはまずないだろうシステム。テストの結果に反映されて強くなるケモノ。
楽しみなような不安なような、微妙な気分だ。
「ちなみに、パソコン室の自分の端末を見れば自分のステータスとかも見れるみたいよ?」
「ほわあ、すごいですね」
結城さんがすごく感心している。確かに転向先の学校にこんな物があったら、驚きもすればすごいとも思うだろう。
「ああ、ちなみに詳細な設定なしなら携帯でも見れる。まあ放課後まで使えないがな」
「なるほどね、じゃあ終わったらユキのも確認しておこうかな」
「その必要はない」
「? なんでさ隼人」
「どうせレベル1のスライムくらいだからな」
「んだと!!? どうせ隼人も栗坊がいいとこだろ!」
「ああ!? ならいっちょ試してみるか!?」
「底辺の争いね」
「……不毛」
やめなさいと雲母が制してくれた。拾った命をせいぜい大事にするんだな!
「というか散々バカにされてるのオレじゃね……?」
「まあ、ねずみだしなあ」
「ひど!?」
「何言ってるの! ユキちゃんは可愛いくて正義なのよ! 正義は強い、強いから正義なのよ!」
「それはそれで怖いぞ……?」
ユキが庇われているはずなのに怯えている。これはもう愛もクソもないな。
「あ! そうだ!」
「うわわ! 何するんだよユキ」
何かを閃いたのかと思ったら急に足をよじ登ってきた。正直くすぐったい。
「ここなら安全」
「いやまあそうかもだけど」
頭に乗ることはないんじゃないかな? ねずみを頭に乗っけてる高校生……言い訳できない程浮いている。
「くすくす、かーわいい」
案の定、通りすがりの見ず知らずの人に、小声で笑われてしまった。
それにさりげなく隼人と悠太が距離を置いている。
「……」
そっと近づいてみる。
「「ササっ……」」
うんなんて分かりやすいんだろう。
「……」
もう一度近づいてみる。
「宮、臭いから離れてくれ」
「……くさや」
「まって!? 恥ずかしいのは見た目でしょ!? なんで他のところがでてくるの!?」
「「なんでも何も宮の存在が恥ずかしい」」
くそ! なんて澄んだ目で毒を吐くんだ!正直に言いましたみたいな顔してんじゃないよ!!
「ご主人、ここ景色が良いな!」
「まあそりゃ僕より目線が高い訳だしね」
「体の比率的にもこの高さは感動するんでしょうね。私も乗ってみたいなあ」
結城さんが、横からユキを覗き込んで言った。多分その願いが叶えれるのは、強人すぎる首を持つ雲母だけだろう。
「ユキのサイズが十数センチだとすると宮はだいたい165くらいか?」
「うん、そうだよ」
「そうすると簡単にしても15倍くらいはありますね。迦具土くんから見て」
「……僕から見て高度50キロメートル?」
「「「成層圏を越した!!?」」」
「ああ、単位を間違えちゃったよ」
「どうしたら2つほど単位を飛び越せるんだ……」
隼人が呆れ顔で見ている。そんな、僕だってたまにはミスするよ!
「答えはだいたい25メートルくらいですね」
「うーん、25メートルって言われてもなんか実感できないなあ」
「そうですね、だいたい6階建ての建物と考えれば……」
「ユキ! 危ない降りるんだ!!」
「グゲエェェ!!」
僕は速攻でユキを鷲掴みにした。少々力が強かったかもしれない。
「迦具土くん!? あくまで比率でも体感なのでユキちゃんはそこから落ちても平気ですよ!?」
「え、そうなの?」
ベチャンっ
「グギャアアァ!!! ……だからって地面に叩きつけるかあ!?」
「だって大丈夫って聞いたら安心して」
「安心したなら元に戻せよ!!」
大丈夫そうでなによりだ。なんだかんだで無事ならそれでいい。
「宮、おまえは絶対いつか呪われる……」
「そこはいい返させてもらうよ隼人」
よれよれとそれでも懲りずにユキは頭に登ってきた。
「はあ、散々な目に遭った」
「まあまあ、これくらいどうってことないよ」
「じゃあご主人も6階からとび降りろよ?」
「大丈夫かいユキ! 可哀想に……誰にこんなことを」
「おまえだよ!!」
もう寝る! と言ってユキはふて寝をし始めた。
「やれやれ……あんた達は本当見てて飽きないわよ」
「そういう雲母も見てて飽きないよ」
(うえ!? 何それ……私のこと見ててくれたの?)
なんだか急に雲母がもじもじし始めた。トイレだろうか。
「ほおー?」
「柊ちゃん……」
隼人はなんだか目付きがニヤニヤしてて気持ち悪い。結城さんは少し元気がなさそうだ。
「ほ、ほら! そんなことより、体育館が見えてきたわよ!」
なんだか雲母が焦っている。
「雲母! トイレならそこに……グケバ!」
問答無用有無を言わさず殴られた……いったい僕が何をしたんだろう。
(ま、そんなことだろうと思ってたわよ)
白い目をした雲母に、肩をぶつけられながら通られ、隼人は必死に笑いを堪えて、結城さんは苦笑している。本当になんだかよく分からないが、僕も黙って体育館に入っていった。
頑張りたいですが、1日おきは結構キツイ…かも?まあ今回楽しんでいただけたら光栄です!




