獣修決戦2
そろそろ獣修決戦編も終盤です。
長くてぐだぐだですがもうちょっとお付き合いください。
バコンっ!
教室のドアが盛大な音を立てて吹き飛んだ。
特に使われていない空き教室のせいか、
埃が舞い散っている。
「み〜つけた〜」
あえて抑揚をつけているのか、滑らかなソプラノの声が、また、蹴り飛ばしてまだ宙に浮いている片足が、学生ズボンじゃないところに確信を得て、女子生徒だと分かった。
誰も使っていないせいか、外観こそ古びて見えるが、まだ新しいと言えるこの学園は、基本丈夫だ。
そんな教室のドアを蹴り飛ばせるのだから、女子にしては大した脚力だ。
「さあ、楽しい戦争を始めましょうかあ」
ニヤッと、その女子生徒は、見たもの全てをを凍りつかせるような顔を浮かべた。
ところで……
「教室のドアを蹴り飛ばすなんて謹慎処分レベルだけどいいの?」
凍りついたのは、彼女の方だった。
「うぇ!? そんなに重いの!? せいぜい怒られる程度だと思ったのに!」
雰囲気も何もぶち壊しである。
さてはこの子、結構アホだな?
「宮と似たものを感じるわね……」
「僕もここまでじゃないよ……」
雲母が思っている、程僕は変じゃないぞ?
「そうね、宮はアホじゃなくてバカだからね」
「うん、そんな変わってないからね?」
そんな僕たちのやりとりに呆気を取られていたのか、口をポカンとしていた女子生徒は、自分のことをさりげなくアホ呼ばわりしていることに気づいて、口を動かした。
「ちょっと! 勝手に人のこと話さないでくれる!? 私は8組代表の朝霧 美咲!君たちを倒しに来たのよ!」
「わざわざ倒されるべき代表者が先陣切って、さらに自分が代表だとばらすとはな……」
隼人の呆れた呟きに朝霧さんは、はっとなって顔を真っ赤にした。
「と・に・か・く! 9組のおバカさん達をめっためたにしてあげるわ!」
「めっためたとか現実で聞いたことないぞ……それに8組じゃそんなに9組と大差ないし……」
最後の返しが特に効いたのか、いよいよ涙目だ。
「ぐすっ、いいよもう……みんなやっちゃえー!」
「いや、そんな雰囲気じゃないですよ代表……」
8クラスの男子が1人慰めにかかった。
なんかもうぐだぐだである。
「いいか宮、できれば9組戦まで結城を温存しておきたい。そのためには1人 囮を用意してその間に一気に代表をみんなで叩く」
隼人がひそひそと僕に話しかけてきた。
「そんな簡単に行くかなあ?」
「大丈夫だ、俺に考えがある。それにあっちはぐだぐだだ。そんな状態で代表者がひょっこり前に突っ込んでみろ?絶好のチャンスじゃないか」
ふむ。
確かにいい作戦かもしれない。
「8組のみんな、聞いてくれ!」
うん?
いや待てよ……
今代表者って……
「ここにいるうちのクラスの代表者である、迦具土 宮がおまえらを「代表者があんなにアホなんだからきっと他のもアホだな、なんだただのカスかよ」って言ってたぞ」
「あぁん!?」
!!?
8組の人たちは、さっきのしょんぼりした雰囲気からうって変わって僕を睨み殺そうとしている。
「ちょっと待って!? 僕が行くなんて聞いてない!てかあんな中に飛び込むとか死……」
「昨日の友も今は知らんキーック」
隼人の容赦のない蹴りが、僕の後頭部をまるでボールのように吹っ飛ばした。
「うみぎゃあぁぁぁ!!」
そして痛みに悶える隙も見せずに、8組の袋叩きが始まった。
「今だみんな! 宮のまあまあ尊い犠牲を無駄にしないよう代表者を撃つんだ!!」
「ああ! 迦具土のまあまあ尊い犠牲を無駄にするものか!」
「そうだ! まあまあ頑張ってんだ!」
「「「うおぉぉぉ!!!」」」
クラスメイトのみんながなにやら酷いことを言ってるようだが、それどころではない。
「うえ!? きゃあ!!」
みんなの総攻撃が朝霧さんのケモノを一斉攻撃した。
途中、気づいた8組生徒が何人かの9組のケモノを倒したが、時すでに遅し。
朝霧さんのケモノのHPはどんどん減っていき、そして……
「8組失格です!」
どこから見てたのか、先生がアナウンスで発表した。
「「「おっしゃあ!」」」
9組の生徒たちは、みんな歓喜に溢れた。
「まあまあお疲れなさい、宮」
「うむ、まあまあ上出来だ」
雲母や隼人が口々にまあまあと言った。
「袋叩きにされててまあまあって! あれめっちや辛いんだよ!?」
僕は身体中をアザだらけに、挙句に目は腫れながら叫んだが、まあまあの評価は変わらないようだ。
「まあケモノじゃないからHP減らないんだしいいんじゃないか? ご主人?」
ユキは先ほど言われたことを、根に持っていたのか、そんなことを言ってきた。
「迦具土くん大丈夫ですか!?」
戦力温存の為にか、遠くで避難していた結城さんが駆けつけてくれた。
「心配してくれるのは結城さんだけだよ……」
僕は涙ながらに呟いた。
「ちょっと待っててください! 今薬を……」
結城さんが薬を探して、バックを漁っている。
「あ、ありました!」
「ありがとう! 結城さ……」
僕は固まってしまった。
なぜかと言うと結城さんの持っている者に塩化ナトリウムと書いてあるのを見てしまったからだ。
(なぜだ!? あれは食事にしか入っていないはず!?)
いや本来は食事にも入っていないんだけどなあ、とユキは心の中で呟いた。
「ゆ、結城サン。大したことないから大丈夫だよ?」
「大したことあります! 強がらないでください!」
僕が真っ青になりながら拒否をしても、優しい結城さんは止まる気配がない。
普段は嬉しいその優しさも、今は狂気にしか見えない。
「さあ! 迦具土くん!!」
「え、いや! ちょ……」
隼人とユキに助けを求めようと顔を向けると。
「いやあ、まさか棒銀でくるなんて!」
「まだまだこれからだぞ?」
将棋をやっていた。
しかもなんか本格的だ。
(いつかあいつらがピンチの時も絶対助けてやんない!)
「えい!」
その余所見を隙と見たのか、結城さんは可愛らしい(宮から聞いたら死神の)掛け声とともに、僕はぶっかけられた。
「ウギミャアアアァァァ!」
僕の本日二度目の叫びは、学校全体に響き渡ったという。
ー
僕たちは走っていた。
なんかデジャブである。
なんで走っているかというと……
「ったく! お前の絶叫のおかげであそこにいることがばれちまったじゃねえか!」
「しょうがないでしょ!? 塩化ナトリウムぶっかけられたら普通叫ぶよ!」
「まず普通塩化ナトリウムをぶっかけられねえよ!」
結城さんの所業による僕の大絶賛があったあと、また他のクラスが9組を潰そうと迫ってきたのである。
「しかしあそこに来たのが8組で助かったね! 2組3組だったら、総攻撃でも倒せたかどうか……」
それだけ上位クラスの点数は高いのである。
正直僕たち9組とは、雲泥の差だ。
「んあ? あそこに8組を招いたのは俺だぞ?」
「え!?」
隼人の、そんなの当たり前だろ?
という顔に僕は目を剥いた。
「お前さっきから悠太がいないことに気づいてないのか?」
「あ! そういえば忘れてた」
さすがは影がすんごく薄いだけはある。
「悠太には、敵に悟られずに情報を流してもらっている。だからあそこには、1番倒しやすい8組が来たんだ」
なるほど、悠太の影の薄さはこんなことにも使えるのか。
「また追っ手が来るわよ!?」
前方にいる雲母が叫んだ。
「しょうがない。また防衛戦に入るぞ!次は各々散って隠れるんだ!」
隼人にしては投げやりな作戦である。
さては万策尽きたな?
「宮と雲母、結城はこっちへ来い!」
僕たち4人は、隼人の指示により体育倉庫に隠れた。
「なんでまたこんな狭いところに隠れるんだよ!」
「ここが1番適任なんだよ!」
狭いと言っても、4人が入るスペースは十分にある。
しかし、敵がきたときの逃げ場がないのだ。
「雲母、この前言ったの頼むぞ」
「ええ、本当にやるのー?」
これは多分いつだったか、作戦会議で話したことだろうか。
「ほら! 来たぞ!」
「もう……しょうがないなあ……」
雲母は一瞬チラッとこっちを見たが、すぐぷいっとそっぽを向いてしまった。
(え、なんか僕したかな?)
少し心配になってどうしたのか聞こうとしたが、そこで隼人が言う通り誰か来たので、しょうがなく隼人と結城さんの隠れている所に一緒になった。
「見つけたぞ! 9組の柊だ!」
足音と声の様子からして、複数人で全員男子だろう。
「きゃ!あ、あ……」
雲母は抜群の演技力でその場に尻餅をついて、涙目になった。
「ぐっ……」
そんな雲母を襲うような真似をしたくないのか、男子達は手を出せないでいる。
「ひっ! ごめんなさい、助けてください……」
ここにきてのこの一言である。
完全に男子達は悪役にしか見えない。
「ねえあそこ見て?」
「うわあ、あんな大勢で女の子に……」
近くを歩いていた女子達がこそこそ話している。
「うっ! 他をさがそう!」
そう言い残して男子達は去っていった。
「ナイスだ雲母! もうしばらくこのままで頼む!」
「雲母ちゃんすごいです!」
隼人と結城さんは雲母に賞賛の声をあげた。
(ううっ! これじゃすごくあざとい女みたいじゃない! 宮にそんな風に思われたくないのに……)
そんな雲母の意志に気づけない宮は、ただ素直に感心していた。
(雲母ってこんなに演技上手だったのか!)
そんなとき。
ピンポーンっ
「4組、5組、6組、7組失格!」
先生のアナウンスが響いた。
戦況は大きく動いた。
今回は、少し早めに投稿できました。
まあ前々回が遅すぎたのですが…
そんなこんなで今回も楽しんで貰えたら嬉しいです。