土曜日のお買い物
今回は短編っぽい感じです。
清々しい春の朝。
太陽はまだ東の空の方向にあり、トーストの焼ける匂いが僕の鼻をくすぐった。
チンっというオーブンの終わりのベルが鳴り、先に用意していたベーコンエッグと一緒に食べる。
これがなかなか贅沢な朝食だと思うのは僕だけだろうか。
今日は隣の結城さんとデート(自分の願望が生んだ言葉)があるのだ。
彼女はどこに行くつもりなのだろうか。
実はまだ行く場所を聞いていない。
でも部屋が隣だから待ち合わせなんていうことをしなくてもいいのだ。
今は8時。約束は10時からなので今から支度しても十分間に合うだろう。
僕は着替え、洗顔、歯磨き等を済ませ、空いた時間をテレビのニュースで埋めていた。
ピンポーン
ん?まだ時間には早いけどもう来たのかな?
まあ僕も支度は終わってるし別にいいけど……
「あれ?雲母どうしたの?」
玄関の前にいたのはオシャレしていた雲母だった。
「おはよう。今日はたまたま暇だったから私も連れて行ってもらえる?」
「え、僕は全然構わないよ?結城さんも別にいいんじゃないかな?」
(全然よくはないわよねえ……こいつはたぶん気付いてないけど。でも2人きりってのも気になるしここは少し大胆にね)
「10時からだから上がってまってなよ」
「おじゃましまーす。相変わらず広いわねー。一人暮らしなのがもったいない」
「掃除が大変なんだけどね」
まあ一人暮らしというのも、こんな豪華な部屋というのも親のおかげだし、感謝しているけど。
ー
雲母とどうでもいい話をしているといつも間にか10時ちょっと前になっていた。
「さてそろそろ行こうか。ユキはどうする?」
「オレは眠いからパスだご主人」
「分かったよ。んじゃ行ってくる」
まあ隣だけど。
ピンポーン
「え!?結城のお家って隣なの!?」
「え?ああそういえば言ってなかったね。このまえ引っ越してきたんだよ、たまたま隣に」
「へ、へー……(なによそのフラグは!)」
「おはようございます迦具土くん。あれ?雲母ちゃん?」
「おはよう結城さん。急なんだけど雲母も暇らしいから一緒にいいかな?」
「え、あ、もちろんですよ。(もしかして雲母ちゃんも宮くんのこと……)」
「結城ごめんね。急に」
「たくさん人がいた方が楽しいですから」
「ところで結城さん、今日はどこに?」
「えっと、ちょうど見たい映画があるのですが1人では行きにくくて……」
あれ?このまえ荷物持ちって言ってなかったっけ?
映画の後行くのかな。
「いいよ。ところで何の映画?」
「えっとそれはですね……」
ー
最悪だ。
僕は少しホラーが苦手だが今はホラー映画の方が全然マシだぞ。
まさか結城さんが見たがっていたのが恋愛映画、まあそれは理解できる。
だけどまさか内容が1人の男性がでさまざまな恋に撃沈するけど最後には報われるという、彼女のできない人が心の支えにすると評判な映画だなんて。
もちろん周りは1人×席数。
そして僕の両隣には……
怖い!視線が怖いよ!
みなさんこの2人は彼女じゃないんですよおぅ。
ー
やっと終わった……
帰り際にやたらと多くの人とぶつかったけどあれってまさか……ね?
「ほわあ〜。感動しました。やっぱり恋はロマンチックがいいですね雲母ちゃん」
「そうね〜。ラストの告白なんて胸がキュンとしちゃったよ!」
2人が恋物語に頬を火照らせてる中、僕の顔はスルメのようにカッピカピだ。
「でも確かに評判的に女の子1人では行きにくいね」
「そうなんですよ。だから迦具土くんに頼んだんです」
「あはは、そっか〜(2人でも視線は怖かっただろうな……)」
「これからどうします?」
「小腹が減ったしお昼にしよっか」
「さんせ〜い!」
そうして僕たちはフードコートへ向かった。
2人はそれぞれ好きなものを買いに行ったようだ。
僕はなんにしようかな。
朝トーストだしお米がいいかな。
あ、やっぱりあのうどんにしよっと。
1番安いただのうどんを買って席に帰ると2人はもう先に食べていた。
「質素な食事ね……」
「これが結構美味しいんだよ!?」
しょうがないじゃないか。
このまえ新作のゲーム買っちゃったんだから。
「どうせまたゲーム買って今月のお金少ないんでしょ?」
「うぐっ、なぜ分かった」
「いつものことじゃない」
「あ、なら私お弁当作ってきましょうか?」
「え?本当?なら遠慮なくお願いいたします!」
やった!
結城さんの手料理が食べられるなんて!
(結城ったら料理なんてずるい……)
「あれ?なんで雲母はむすっとしてるの?」
「ないでもない!」
?よくわからないな。
「あ、次お洋服見てもいいですか?」
「もちろんだよ。じゃあ食べたら行こっか。」
数分後。
「ごちそうさま。じゃあ僕はどこの店か分からないから案内よろしく」
「あ、このデパートのすぐそこですよ」
歩いて数分のところに女の子が来そうな洋服屋があった。
「こういうとこ入ったことないや……」
「女の子と来たことないんですか?」
「宮に女の子と出かけることあるわけないじゃない」
「ひどい!! 事実だけど!」
店内にはピンク色ばかりでふりふり可愛いものや少し大人っぽいものまで色々あった。
「あ、これ可愛いですね。試着してみますね」
結城さんが手に取ったのは白いワンピースだ。
「私もこれ着てみよっと」
雲母は黄色のスカートに上は……なんだろう分かんない……
ふわっとした感じの半袖の白いシャツ?だ。
こういうとき服とかの知識がほしいのか。
「どうですか?」
「おお!似合ってるよ。なんていうか結城さんのイメージにぴったりだね」
「あ、ありがとうございます」
なんか照れてるみたいだ。
「宮ー、どうかな?」
「雲母も似合ってるよ。流石って感じ」
「どういうことそれ?」
アイドル並みの可愛さだが本人自覚ないからなあ。
美少女が2人揃うとやっぱすごいな。
店員さんがすごくこっち見てるのに2人とも気付いてないな。
「……」
「どうしたの?雲母」
「なんか宮に女装させたら似合うような気がしてきた」
「!? 冗談じゃない! 着ないからね!?」
「そう言われると余計にねえ」
「結城さんもなんか言ってやってよ!」
「確かに似合いそうですね」
逃げ場がないだと!?
てか目がキラキラしてるよ!
「さあこれ着てみなさい」
「迦具土くん、はい」
「う、うわあぁぁ」
ー
「すっごい似合ってますよ! 迦具土くん可愛いです!」
「似合いすぎて笑えないわね……」
結局2人に言い寄られて着せられてしまった……
しかも似合うなんて……
もう僕お婿に行けない。
というかこれ男が着てもいいのかな?
お店の人に怒られたりして……
「お客さん!」
や、やっぱり!
「うわ! ごめんなさい! すぐ脱ぎますので……」
「こちらもご試着ください!」
え、ええ!?
「次こっちお願いいたします!」
ええ!!?
どんどん店員さんから注文入るんだけど!?
すっごい目がキラキラしてるんだけど!?
「ちょっ!そんな……もういやあぁぁぁ!」
「あ、逃げた」
「「「お客さまを捕まえるんだ!」」」
ー
疲れた……
結局捕まってあんな格好やこんな格好までさせられてしまった。
もう僕お婿に行けない(本日二回目)。
「いやあ、楽しかったね! 宮の着せ替え人形」
「僕は楽しくないよ……むしろ心の傷を負ったよ」
「でも本当に似合ってましたよ? こんどみんなにも見せてあげたいですね!」
「それは本当に勘弁……」
「あ、それなら写真撮っといたわよ?」
「!!?」
「ほらっ」
「うわああ!! いつのまに!」
「あとで送ってください!」
「うぎゃあぁぁ!!」
この写真のせいでしばらく2人の言いなりになったのでした。
一応一章はこれで終了かな?