加護なし
僕、ペトロはいらない子であるらしい。
僕は幼い頃から近所の子達にいじめられてきた。なんでかと言うと、僕が、加護なしだからだ。
加護なしって言うのは生まれてきた時に神様からもらえるお祝いがもらえなかった人のことだ。
どんな人でも神様からお祝いをもらえれる。
だから、加護なしの人は、神様のお祝いを捨てた『悪魔の子』なのだ。
父も母もそんな僕をいつも守ってくれていた。
父にも母にも苦労をかけた不肖な子供だったと思う。でも……父や母と過ごしたささやかな日々は幸せだった。
しかし、そんな日々も終わりを告げた。父も母も、僕が9つの時に死んでしまったのだ。
僕は、1人に、なった。
町の外へ魔物狩りに行こうと思っても、僕はSTRの加護がない。それに攻撃魔法もろくなものを覚えていない。
だから、仲間に入れてくれる人はいなかったし、1人で魔物に挑むなんて無理な話だった。
仕事も、僕を雇ってくれるようなものなんかなかった。
僕は毎日、腹を空かせていた。たまに、僕のことを哀れんで、少しばかり金をくれる人もいた。
だが、そんな人達であっても僕を仲間に入れてはくれなかった。
しかし、それは当たり前のことなのだ。
”外から来た人達”は僕ら”聖地人”とは違いずっと強い。
それに、僕は加護なしの『悪魔』なのだからしょうがないことなのだ。
(だけど、だからといって諦めたりはしないけど)
この街の人は僕がいなくても上手くやっているし、これからもそうだろう。
でも納得できない。
父や母はこんな加護なしの僕でも育ててくれた。こんなところでただ死んじゃったら父や母の生きていた頃の努力をむだにしてしまう。
(絶対に成り上がってみせる!)
心意気はしっかりとしているつもりだったが、それだけじゃそうそう上手く仕事は見つからない。なんせ仕事を求めようにも人によっては顔を合わせたとたん顔をしかめられるのだ。
僕は日中は仕事を探し歩き、夜は路上で眠る生活を続けていた。
そんな日々が長らく続いた。
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レンガでできた家が乱雑に立ち並び、路地は入り組み迷路のようになっている町、それがこの小都市ファランデールの特徴だ。おまけに行き止まりも多いため、この町に初めてきた者はすぐに道に迷ってしまう。そんな行き止まりの1つでは不穏な空気が漂っていた。
その場には、4人の人物がいた。
1人は赤髪の目つきの悪い男、その男に付きそって立っているひょりとはしているが目がギラついたヘビの様な男、小太りの気の弱そうな男、そして赤髪の男の視線の先にいる、行きどまりの壁に寄りかかり地べたに座っている憔悴した様子の銀髪の少年。
銀髪の少年はぼろ切れから顔だけ出しているような格好であり、身体に纏った”加護”も殆ど無色と言える程かき消えそうな薄い緑色をしている。だが、銀髪の少年の目にはまだ、強い意志が灯っているように見えた。
赤髪の男、コ・ラインはそれが気に食わなかった。
「路上暮らしは快適か?ペトロ。」
「ライン、君の家で召使いになるよりはいい暮らしだよ。」
銀髪の少年、ペトロはそう、挑発的に言う。
それにまた苛立ちを覚えたラインはペトロに言う。
「そうかい、ところで食事はどうしているんだい?食べてないのかい?それとも、もしかして、余所者から恵んで貰っているのかい?君みたいな加護なしぐらいになると、野蛮人に餌付けされるのかい?くっくくくっくははははっ、君には聖地人としての誇りはないのかい?これはとんだ笑い草だよ。あはははははっ。」
ラインが後ろを振り返り笑うとヘビの様な男と小太りの男は笑い出す。
「くくっはっ、ちげえねぇ。」
「余所者に餌付けとか、おまえはいつの間に魔物と同じになったんだよぉ」
しばらくの間3人の嘲笑が響く。だがしばらくして、ペトロはさして怒りもせず一言だけぽつりと洩らす。
「君の家は聖人に尻尾を振るのが上手らしいけどね。」
その瞬間、ラインの手がペトロの首を掴み、引きづり上げる。
「なんだと!この悪魔が!」
だが、首を絞められているにもかかわらず、ペトロの目にはそれでも尚、強い意志があった。それがラインを一層怒らせた。
「ぐっ」
ラインはペトロを地面に叩きつける。その時ペトロの身に纏っていた緑の光が散る。
「これは、仕置をしないといけないなぁ。」
「これ以上はあぶないよぉ、ライン。こいつもうHP0だよぉ。」
「ははははは、ライン、やっちまぇ!」
小太りはおろおろとし、ヘビ男は囃し立てたが、ラインは2人の言うことなどもう聞いていないようだった。
「天にまします我らが神よ」
魔法の1小節が唱えられると、ペトロの強気な目にも、恐怖の感情が混じる。ラインはそれを見て口元を歪に歪め次節を唱える。
「我に貴方様の高貴なる水の力をお貸しください、ウォーターケージ。」
ラインが呪文を唱え終えると、突然現れた水がペトロを包み込む。
ペトロは必死に水から逃れようと試みるが、うまくいかず、手足の動きは次第に鈍くなる。何か小太りの男が言ったり、ヘビの様な男が高笑いをしているが、聞こえない。
意識が、朦朧と、して、くる。
瞼がゆっくりと閉まっていく。その時に、青い”加護”を身にまとった男を見たような気がした。