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異世界冒険にチートとかいらないんで(仮)  作者: happy キノコ
虚構の理想ルート
7/10

異世界の日常

ピピピピピピピピピピピピ


いつも通り、いつもと同じ時間を知らせる簡素な音が頭に直接響き、目をあける。


まだ薄い太陽の光を浴びながら、するりとベッドから降り、伸びを一つする。それから、おもむろに身体を一直線に伸ばして部屋の床に両手をつき、両つま先をたて、体重を支える。後は身体が床に着かないように注意しながらゆっくりと肘関節を曲げたり伸ばしたりする。それをしばらく繰り返す。


腕立て伏せが終わったらスクワット、腹筋運動、背筋運動と慣れた様子で続けていく。


それらが終わったら宿屋を出て、宿屋のすぐ隣にある広場に行く。そこでも、軽く準備運動をしそこからようやく本題が始まる。剣術と魔法の稽古である。


"剣術書"や"魔法書"というものがある。これは作者が自身の記憶の1部を"録画"したものであり、"読んだ"者に作者自身の記憶の一部を映し出すことができる道具である。ただし"録画"をできる時間が短かったりや"録画"できる環境が限定されており、用途がかなり限定される。


俺の剣術の修業ではこれを使う。修業法はいたって単純である。"剣術書"の作者の動きを何度も同じ動きでなぞらう。ただそれだけである。ただし飽きるくらいそれをこなす。毎日毎日、根気良く。


魔法の修業も多少違うが同じようなものだ。……特に根気がいるという点では。


そうしてそれから宿屋の部屋に戻り、風呂で汗を流して、冒険者プレイヤー情報プレートから取り出したスカスカのパンを食べる。


これら一連の行動は初めてこの世界に来てから5年間、欠かさず続いている。



ーーー5年。



俺がこの世界に来てからもうそんなに経っていた。


剣の持ち方一つ満足にできなかった頃と比べると今の自分は成長した、と思う。


レベルもこの間500レベル代に上がったし、最近では実戦用の魔法はほとんど無詠唱で出来るようにもなった。


しかし、だ。


ここでは武器を構えれるのは当たり前であるし、無詠唱で魔法が使えるのは中級者の最低ラインである。


ましてや、テレビゲームをプレイしたことのある人からすれば、大層なものであるように聞こえるレベル500という数字であったって、ここではたいした事はないのだ。


どういうことかと言えば


この世界では1レベル上がってもHP以外の(、、、、、)ステータスは(、、、、、、)上がらない(、、、、、)


レベルアップでHP以外のステータスが上がるのは多少の例外を除き、500レベルに一回(、、、、、、、、、)なのだ。


500の倍数になる毎に100のボーナスが貰え、それを自分のステータスに好きに割り振れる。


そのようになっている。


詰まる所、普通のRPGのゲームで例えるならば俺はまだレベル2なのである。


付け加えると、ここではレベル1000やレベル2000などはごろごろいる。


一般に高レベル者と言われるのは5000以上の者である。


また前世の剣の経験を除いても、剣を振って10年20年などもざらだ。


所詮、俺なんて初心者に毛が生えた程度なのである。


冒険者プレイヤー情報プレートから赤く輝く綺麗な玉を取り出す。


これは俺の成長の証であり、5年間で得られた成果が形となった唯一の証明でもある。


7つ集めると神が願いを叶えてくれるという宝玉の一つ


「あと6つで願いが叶う……か。」


願いが叶う。


実に甘美な響きである。


花の蜜に誘われる虫のように、幾人かの冒険者達はふらふらとその響きに釣られて戦いへと向かうのだ。


実際、俺などは口に出した自分の言葉が耳から入ってくると、自分がどんな願いを叶えたいのかも知らぬくせに、高い山の中腹まで登りつめたかのような達成感と、旅行で初めて異国に来た時のような気分の高揚を感じてしまうのだ。



どんな願いかも分からぬ自分の願いを叶えるため、日々努力をする。


その様は他人から見たらまさしく馬鹿らしいことだろうしおかしなことなのだろう。


けれども、自分は不思議と可笑おかしなこととは思えなかった。


ギュッ


知らず強く宝玉を握っていたことに気付き、力を緩め、冒険者プレイヤー情報プレートにしまう。


そして冒険者プレイヤー情報プレートを閉じる前にぽつりと呟く。


「俺の願いは、何だろうな……」


だがいくら優秀な辞書、けんナビゲーターである冒険者プレイヤー情報プレートであっても、自分が知らぬことを映すことは出来ない。


冒険者プレイヤー情報プレートの余白に新しく文字がつむぎ出されることはなかった。


ふぅと息を吐き出し、冒険者プレイヤー情報プレートの上の名前のらんに視線を滑らせる。


名前:(佐藤真治)


括弧は偽名だから付いているのだろう。


結局この5年間、名前どころか生前の自分のことなど1つも思い出さなかった。最近ではもう思い出さないだろうと半ば諦めている。


(どうにもならないことをいつまでも考えていてもしょうがないな。)


そう、頭を切り替えることにする。そういえば、今日は陽菜ハルナ海斗カイトのやつと朝からやる大安売りの市に行く予定だったな。集合時間は9:00だ。少し早くつきそうだがもう行った方が良いだろう。なんせ、陽菜ハルナのやつは自分も遅れることがあるくせして俺や海斗が遅れるとすぐ怒る。


ぷんぷんという擬音が聞こえて来そうな陽菜ハルナの顔を思い出し、喉を鳴らしてくくっと笑ってしまう。


今日も愉快な日々になりそうだと感じ、期待と共に部屋の戸を開け待ち合わせ場所へと向かった。


----------------



果たして真治が朝想像した顔で、少女が怒っていた。


「もぉ~、2人のせいだよ~!遅刻したの!!」


少女の名前は佐倉サクラ陽菜ハルナ。俺よりも顔1.5個分ほど小さく、また目が若干釣り目であることから子猫のように見えるやつだった。実際性格も気まぐれなところもあるので、子猫という例えは我ながら的確だ。


「わりぃ、わりぃ、許してちょー。」


そう言って、ぜんぜん悪びれた様子もなく言葉を返す、茶髪の男は久我クガ海斗カイトといって名前の硬い響きとは反対におちゃらけていて、お気楽な奴だ。


「いやさぁー、こっちに着くちっと前にさぁ、え~れ~かわいい女の子がいてさー、こりぁナンパしなきゃ相手に失礼だなーってさ。」


だがちゃらんぽらんな奴な癖に時折こういった的を得たことを言う。


大概の場合、女は男などより試行錯誤し、時間をかけ着飾きかざっているものだ。可愛い女がいるというならば、確かに褒めなくては失礼というものだ。


「そうだな、可愛い女がいたら褒めるのは男の義務だ。」


「さっすが相棒!お前、やっぱり話が分かるぜーー!」


そう言いながら海斗は、顔をにこにことさせながら俺に肩を組んでくる。


「はいはい、馬鹿な話はやめにして、早く行きましょうねー」


それに対し、やれやれといった風に陽菜が言い、遠くに見える人ごみへと歩いていってしまう。


「おい、おーい、まてよー。なに腐ってんだよー」


「腐ってなんかないし!カイトの目が腐ってるんじゃない?」


それに海斗が付いて行き、俺も2人を追いかけるのだった。



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