ナイス!オヤジ!
武器屋と”ギルド”
最初にどちらに行くか迷ったが、俺は武器屋に行くことにした。
理由は3つある。
最初の理由はいたって簡単な理由だが、近いからだ。
麗華は話の中ではこの町についてのこともあった。だから、この町の地図も頭の中にある。よって、多くの武器屋が、この近くの通りにあることがわかる。
次に、この世界でのルールはおそらくだが、非常にゆるいと思われる。
地図には警察署にあたる建物や監獄にあたる建物は無く、ギルドもそのような機能があるとは聞いていない。
これは深刻なことである。
さすがに……人目が多い所や大通りでは俺を襲って金品を奪ったりはしないだろうが護身用の武器を何かしら持っておきたい。……もっとも持っていても使いこなせないだろうから、 単なる御守りに過ぎないのだが。
最後に、今の俺の格好は目立つ上に一目見ただけでこの世界に来て日が浅いことが丸わかりだ。武器屋の近くには服屋もあるからそこで適当な服も買わなくてはならない。
とにかく俺は大通りへと向かった。
大通りにつくと、先程は遠目に見ていた人々の姿が自然と目に付く。
路上でアクセサリーやアイテムなどを売る浅黒の肌の男
雪のように白い肌を大胆に晒している美しい女
ニコニコと笑顔を振りまく片腕の東洋系の男
それぞれ異なった肌の色をした男達が集まっている一団
2人連れで楽しそうにおしゃべりをしている金髪と銀髪の2人の少女
商人だけでも、いろいろな種類の商人がいる。
馬車に売り物を乗せて、自らは馬車をおり、身振り手振りを使って客寄せをしている者
鮮やかな色の絨毯を地面に敷いて、どしりと座って笑顔で客を呼び込む者
ちゃんとした建物の店の中で客のまち、暇そうに店の手入れをしている者
俺はしばらく、いろいろな店に顔を出したのち、大通りから少し外れた所にある、こじんまりとしていながらも、しっかりした作りの店を見つけた。
店には”武器専門店やまあらし”と日本語で書かれている(どうやら、書いてある文字は意味は直接伝わるが書いてある文字はそのままのようだ。英語やフランス語などが書いてある店やこの世界の元からの住人である人々が使うらしい聖者文字が書いてある店もあった。)
俺は武器屋”やまあらし”の扉を開き、中へ入った。
店の左右の壁には様々な種類の武器がかけてあった。刀剣や槍、斧やメイスはもちろんのこと杖や盾まであった。
杖は多分魔法の補助の武器であろうが、盾が謎である、はたして武器なのか?武器専門店と書いてあるからには盾は武器扱いになるのだろう。
また入り口付近には壺の中に剣や槍などが無造作に突っ込んである。
そして、カウンターの奥の壁には、素人目に見ても迫力のある武器が幾つかかけてあった。その前のカウンターには、少し厳つい、ふっさりとした髭をたくわえた30代後半くらいの見かけの男がいた。
「この店に”始まりの剣”はありますか?」
”始まりの〜”シリーズは名前に通りこの世界に初めてやって来た人用の武器だ。”武器を装備する”とは武器を単に手でもって使うというわけではなく、冒険者情報の装備欄に武器を取り込むことで装備したことになるのだが、武器が強いものになるほど、この時に強い抵抗感があり、装備してもすぐにはうまく使いこなせないのだ。その練習用の武器が”始まりの〜”シリーズである。もちろん戦いにも使用できる。
ちなみに、1度装備した武器や防具は冒険者情報を開かなくても任意でしまったり、取り出したりできる。
武器屋の主人はこちらをジロリとにらみ
「そこの壺にささってる赤い奴だ。」
とぶっきらぼうに言った。
俺は壺から1本の赤い剣を手に取る。
「いくらでしょう?」
「3,000Gだ。」
俺は冒険者情報から5,000Gを取り出すとカウンターに置いた。
「俺は3,000Gといったが?」
「取っておいてください。チップのようなものです。」
主人がお金を受け取ったことを確認して、俺は”始まりの剣”を冒険者情報に押し込んだ。わずかな抵抗感とともに剣が冒険者情報に取り込まれた。
そして、出てこい、と思うと先ほど買った赤い剣が、手元に出現した。
そして剣をしまうと俺は店長を見て、カウンターにさらに20,000Gをのせ、先程考え付いた自分の名前を彼に告げる。
「私の名前は佐藤真治と申します。お分かりでしょうが、私はこの世界に初めて来ました。もし、よろしければこの町やこの世界についていろいろ教えてください。」
俺がこの武器屋の主人にこの世界についていろいろ聞こうと思ったのには理由がある。
まず、俺と同じ世界から来た人から、元の世界とこの世界の違いを聞きたかったのが1つ目の理由である。
そして2つ目の理由であるが、武器屋の主人の人柄だ。
俺が初めて入った武器屋の主人に、「うちは強い武器をオーダーメイドでしか作らない、だから”始まりの剣”は売ってない」と言われたのだ。その時、俺は主人に”始まりの剣”の相場を尋ねると3,000G程だといわれたのである。ここで嘘を言っても彼の得にはならないだろうし、きっと真実であろう。
しかし、”始まりの剣”を持っている店を尋ね歩いたが、どこの店も1万Gや2万Gであると言っていた。
……おそらく、新しくやってきた剣の価値も知らない新人から金を巻き上げよう、という魂胆なのだろう。
しかし、この店主は値段をごまかそうとはしなかった。それに店を持つ程儲けているのだ。別に”始まりの剣”を作る必要はあるまい、他のもっと価値の高い武器を作って売ればよいのだ。なのに彼の店には”始まりの剣”がある。初心者のために数本作っているのだろう。彼は誠実で気の優しい人なのだ。
俺はこの店主と長く付き合っていきたいと思い、少しばかり多めにお金使う渡し、情報料に、とさらに2万G渡したのだ。
その後、俺は武器屋の主人、もとい藤田総一郎さんと世間話を交えつつ、いろいろな話を聞いた。
彼はぶっきらぼうに見えて、やはり気のいい人で、この町の安い宿屋や、安いわりに美味い飯屋、気のいい店主がやっている服屋のような日常生活に役立つ話、町の周辺にいるモンスターの弱点や倒し方のコツのような実戦で役立つ話、凄まじい飢餓感は感じるものの、食事をしなくても死ぬことはないことなどの元の世界とこの世界の違いも教えてくれた。
だが1番気になった話はこの世界は元の世界と物理法則がどうも異なる所があるらしいのだ、例えば、この世界には銃があるが相手に与えるダメージや破壊力は剣や槍などのほうが高いらしい。
なぜかというと、この世界の武器には、使用者の魔力が溜まっていき攻撃力が強化されていくのだが、銃は銃身も弾丸も強化されていくのは同じなのだが、銃弾は使い捨てであり、使用者の魔力があまりたまらないから、だそうだ。
だったら一気に魔力を武器に込めればいいじゃないかと言うかもしれない。
だが、強引に魔力を込めると爆破する。だから長い時間魔力を武器に込めていくのが一般的である。
よって武器は同じ物を長く使っていたほうが強くなる。これは防具も同じだ。
この世界での強い武器とは、硬い鉱物を素材とした物ではなく、魔力の吸収速度が速い素材でできた武器なのだ。
ちなみに、銃についてであるが
この世界では、人間は神からの加護で守られており防御力は高い、モンスターは言うまでもない。
よって、銃ではヘッドショットで一撃で仕留めるどころか、ヘッドショットでも殺すには何発も撃たなければならない。
銃はこの世界では元の世界のような強さはない、とのことであった。
もちろん、攻撃距離が長い、攻撃スピードが速い等の利点はあり、銃を使う者も少なくはないが。
「今日はありがとう、総一郎さん。また来るよ。」
そう言うと、俺は出口に向かって歩き出した。出口の上には普通の時計があり二本の針は重なって上を指している。
「おっと、まちな。これをもっていきな。」
俺が振り返ると同時に総一郎さんは俺にポーチを投げてよこした。慌ててつかみとる。
「餞別だ。それ買いに今からギルド行っても遅いぞ。多分売り切れてらぁ。もし買いにいきたいなら、9時30分から30分くらいギルドの前でまってな。それからこの町は初心者にゃちっとばかし酷だ。町の近くで狩りをするにしても1人では狩るな。」
中を見ると青い液体が入ったプラスチックのような容器が8つある。ラベルには回復薬とある。
「なにからなにまで、本当にありがとう。また来るよ。」
俺がそう言うと総一郎さんは手をひらひらと振りながら店の奥へと行ってしまった。
俺も店を出て、藤田さんから聞いた安いわりにしっかりとした防具を売っている店へと向かった。