〜プロローグ〜とある死人の臨死体験
気がつけば私は暗闇の中にいた。
私はなぜか自分が死んだのだと何をするでもなく認識していて、それを納得していた。すると頭の中に断片的な記憶が浮かんでは消えた。
………山道……雨…車………回るハンドル…回る、体が回る……………血……傾いた、視界……
瞳に黒と赤のペンキが塗られたみたいだ。景色が歪んで見える。
思い出した。
私は事故で死んだんだった。
でも、腑に落ちないことがある。
私は、なぜ山道を走っていたのだろう?
私は、何をしに走っていたのだろう?
私は、どこから走ってきたのだろう?
私は、いくつで死んだろう?
私には、妻や子供がいたのか?
そもそも
私は誰なのだ?
わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。・・・・・・・・。
『お前には成すべきことがあった。そうだろう?』
ふと、声が聞こえた。
そうだ、そんな気がする。
私はなにかしなければならない事があった。
でも、それが何であったか全く思い出せない。
ただ、思い出せるのは、それが私にとって、とても大切なことで、何があろうとも成し遂げなければならなかったということ。
それだけであった。
『やり直したいか?』声は囁く。
そう。やり直したい。たとえどんな対価を支払うとしても。
でも駄目なのだ。私はもう……死んでしまったのだから、どうすることもできない。
『普通なら、そうだ。ーーーしかし、お前は運がいい。』
どういうことだ?
『私は、神だ。お前が私の頼みを聞くのなら、私はお前の願いを、なんでも一つだけ叶えてやろう。』
私はそう言われると、なぜかあっさりと納得し彼がそうなんだと理解していた。
「どんなことでもしましょう。」
私は即答していた。
きっと仮に、相手が自らを悪魔や魔王と名乗ったところで、答えは変わらなかっただろう。私は死んでしまって、本来なら何もできやしないのだ。ならば、話に乗ったところで損はない。
『そうか、では君には君が元いた世界とは別の世界に行ってもらおう。君がしなければならないことや、世界のことは案内人に聞くとよい。君の願いが叶うかどうかは君次第だ。』
そう相手が言うと、私の意識が暗闇に溶けていく。
揺らいでゆっくりと遠くなっていく。
微かな意識の中、私は何かを考えていた。