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いつものと同じで、違う景色

作者: 津賀

誤字脱字の連絡、感想等ありましたらよろしくお願いします

部活の帰り道で、僕は事故にあった。


事故の原因はまぁ、よくある運転手の前方不注意だ。

ちょっと見通しの悪い交差点で横断歩道を渡っていたら、右折してきた軽トラックにはねられてしまった。

幸い、相手はひき逃げせずに救急車を呼んでくれたので、僕は命に関わるような怪我はなかった。


しかし、下半身の神経をちょっとやってしまっていたので、歩けるようにはなるけれど、長距離マラソンなどはできなくなってしまった。

何よりもキツイのは、部活もうできないなーとか抜糸痛いんだろうなーとかいうことではなく、この ”長距離を走れなくなった” ということだ。

何を隠そう僕は、長い距離を走ることが大好きなのだ。


医者からこのことを聞いた時、おもわず医者に突っかかりそうになった。

しかし、ベッドに固定されていたのでそれもできなかった。

そうして落ち込んでいると

(何を落ち込んでいるんだい?少年)

と直接頭に響くような声が聞こえてきた。

驚いて首だけであたりを見回すと、右の方にぼんやりと白い光りが見える。

(お、首は動かせるんだね)

声は光のほうから聞こえてくる。

「ゆ・・・ゆうr(おっと静かに、今は夜中だよ)」

思わず叫びそうになったけれど、すんでのところでとどまった。

しかし、幽霊?マジでいたんだなオイ。

(どうやら君に憑いてしまったようだ。まぁ、短い間だと思うけど、よろしく。)

『え?なにいってんの?』

と心の中で軽く抗議したものの、聞き入れてくれなさそうだ・・・


これが僕と彼(彼女?)の出会いだった。

でもなんであんな衝撃的なことなのに随分あっさりと対応できたんだろうか、僕は。

まぁ、きっと色々あって精神的に参っていたんだろう。深く気にしないことにした。


それから2日くらいは、ほとんど幽霊さんとしゃべっていた。もちろん心の中で。

なんと伝えたい内容を考えるだけで、その内容がそのまま幽霊さんに伝わるのだ。こちらが伝えたくない内容とかは伝わっていないようだ。

『病院て退屈なとこだな』

(まぁ、君はまだ安静にしていないとダメだしね)

『お前は看護師かよ』

(なんなら、かわりに私が病院の散策に行ってこようか?)

『おい、そりゃ僕に対するいやがらせか?』

(はっはっは、冗談だよ)

『それに、お前がいなくなったら僕はどうやって暇を潰せばいいんだよ』

(んー、そこはほら健全な男子の妄想力でだな・・・)

『おいおい、僕はそこまで妄想力高くない・・・ぞ?』

他の人がどのような塩梅なのかわからないので、語尾が変な感じになってしまったじゃないか。

『しかし、なんで出会った時に“短い間”っていってたんだ?お前は僕に憑いたんじゃないのか?』

(私は地縛霊だからね、ここから離れられないんだよ)

『そうなのか。あれ?地縛霊って土地に縛られるものだと思ってたんだけど・・・』

(どうやら私は人にも憑けるみたいだぞ?よくわからないけど)

『自分でもわからないのかよ』

(うむ、わからん)

さっぱりしてんなぁ。

『とにかく、お前とは僕が退院するまでの仲ということはわかった』

(そのとおりだ、では改めて)

(短い間だけど、よろしく)

『こちらこそ、よろしく』


(それにしても暇だな、何かイベント的なことはないのかい?)

『んなこといわれたってなぁ・・・あ!』

(ん?まさか本当にイベントがあるのか?)

『今日は母さんが僕の撮った写真のアルバムを持ってきてくれるんだった!』

(ほうほう、君は写真を撮るのが好きなのか)

『気に入った風景の写真を撮ることが好きなんだ』

-コンコン


お、噂をすれば

「こんにちわ、それともおはようかしら?」

「こんにちわ、だよ母さん。さすがにこんな時間までは寝てないって」

「それもそうね。寝てたら叩き起こしてたわよ」

び、病人に対しても容赦無いな、母さん・・・

「で、早速なんだけど頼まれてたもの持ってきたわよ」

「っしゃあ!ありがと母さん!」

僕は母さんからそこそこ分厚いアルバムを受け取った。たしかに、これは僕が頼んだもので間違いない。

「アルバム何冊もあったからわかりにくかったのよ?とりあえず目についたのを持ってきたけど・・・」

「え?ちゃんとシールはってあるでしょ・・・ほら、ここに」

僕は同じアルバムを何冊も使っている。だからパッと見はなかなかわかりにくいのだ。

「・・・シール小さすぎない?」

「えー」

アルバムの表装を汚したくないし、普段は僕しか見ないからそのへんはまったく考慮してなかった・・・


そのあと母さんは僕とちょっと喋ったら用事があるといって出ていった。

ちょいと薄情じゃないかい?母よ


(それが君の撮った写真のアルバムかい?)

母さんが居たときは静かにしていたようだが、写真には興味津々みたいだな。

パラパラとアルバムのページをめくる。

(ほほう、色々なところに行ってるんだね)

まぁ、趣味だからね。

『一家全員、旅行が好きだからしょっちゅういろんな所にいってたんだ』

(なんとも贅沢な趣味だね)

『うっせ、普段の生活は慎ましいんだぞ』

そこからリハビリを開始するまでの間、僕はうるさい幽霊の相手をしつつ、のんびりとアルバムを眺めて時間を潰すという日々を過ごしていた。


ある日、僕がいつものようにアルバムを見ていると、なんとなく視線を感じた。

顔を上げて辺りを見回すと、僕のアルバムを見つめる一人の少女を見つけた。

あの子は確か、つい最近この病室に来た子だな。

などと考えていると、僕の視線に気づいたらしいその子が顔をあげた。

そして、なにか決意をしたような顔で口を開いた。

「あの・・・そのアルバム・・・見せてもらってもいいですか?」

どうやら、アルバムが気になるようだ。

「うん、いいよ」

僕の返答にその子は笑顔になる。

かわいいなぁ・・・

「悪いんだけど、僕はまだ歩けないから、取りに来てもらってもいいかな」

「はいっ、ありがとうございます」

その子は僕のベッドの近くまで歩いてくると、机においてあるアルバムを1冊手に取る。

ちょっとの間アルバムを持ったままなにか迷った感じだったが、何を思ったのか僕のベッドの隣にあるパイプ椅子に腰を下ろす。

「・・・?」

僕が首を傾げていると、その子はわたわたと理由を話してくれた。

「し、写真のことで聞きたいことがあるかもしれないから、ち、近くで見ようかなって・・・」

なるほど、たしかにどこの風景かとか聞きたくなるかもしれないな。


その子は椅子に座ると早速アルバムを開いて写真を眺めはじめた。

「わぁ・・・・」

開いたページには山の上から撮った風景写真が貼られていた。

その子はページをめくるたびに目を輝かせて写真に魅入っていた。

僕の写真でこんな反応をしてくれる子もいるんだ・・・と心のなかで歓喜しつつ、写真を撮った場所についてその子に説明していくことにした。


1冊のアルバムを見終わった頃、その子は診察があるらしく両親とともに病室を出ていった。

あんなに喜んでもらえるとは思ってなかったなぁ・・・

(よかったじゃないか)

『あぁ、今度アルバムを持ってきてくれた母さんにも改めてお礼を言っておこう』

(突然お礼とか言われたらキョトンとするんじゃないかい?)

『まぁ、それでもいいさ』

その日は、あの子が帰ってきた後、また二人でアルバムを眺めて過ごした。


次の日、その子はしっかりした瞳で僕を見つめ、

「写真、見せてくれてありがとう。じゃあ、また会えたらいっぱいお話しましょ」

別れを告げた。

どうやら病室を移動するらしい。

こんなにポンポン病室って変わるものだっけ?


別れを告げられてからちょっとして、あの子の両親が急な病室移動について説明してくれた。

どうやら、昨日僕とあの子が話しているのを見て仲がいいと思ったようだ。

話によると、あの子は長らく手術するのを怖がっていたらしい。

手術をしなくても死ぬことはないけれど、長い時間歩いたりすることは出来ない状態だったそうだ。

だが、昨日の診察の時に今までとは全く違う様子で、手術を受けたいと先生に告げたそうだ。

なんでも、「いろんな場所にいってみたくなったの!」だそうだ。

僕の写真が原因だと思うのはきっとうぬぼれじゃないだろう。


あの子の両親はあの子の荷物を片付けると退室していった。

『なぁ』

(ん?何?)

『僕、本気でリハビリ受けることにするよ』

(どーしたのさ、急に。昨日まである程度まで動けるようになったらいいかなとか言ってたのに)

『うん・・・もっといろんな場所に行って写真を撮りたくなったんだ』

『その時に、脚が原因でいきたい場所に行けませんでしたっていうのが嫌だなって思ってね』

(君もあの子に影響されたわけだ)

『・・・まぁね』

(照れること無いじゃないか。目標があるというのはいいことだよ。私も応援するからさ)

『ありがとう』


リハビリが始まるときに、リハビリテーション科近くの病室に移された。

僕は全てのリハビリメニューに全力で取り組んだ。

1日の殆どをリハビリに集中していたので、幽霊さんとの会話も必然的に少なくなってしまった。

それでも、僕が挫けそうになった時に励ましたりしてくれたり、頑張る僕をずっと見守っていてくれた。

きついリハビリをしていた甲斐もあり、普通に小走りくらいならできるようになった。

まぁ、全力で走ったり長時間負担をかけるようなことは難しかったりするけれど、常人の倍くらいの時間をかけるのであれば山も登っていいと医者に言ってもらえた。


そして、退院の日

僕は病室で荷造りをしていた。

「大きいものは父さんや母さんに持って帰ってもらってるから、後は細かいものを・・・」

数分で荷造りを終える。

(もう行っちゃうのか・・・)

幽霊さんが寂しそうな声を出している。

これから先のリハビリは家の近くの病院ですることになったので、僕はこの病院に来ることはなくなってしまった。

『あぁ、父さんや母さんを待たせちゃってるからね』

『そういえば、僕がここから離れたら君はどうなるの?』

(さぁ・・・どうしようかな。また誰かに憑くとしましょうかね。ヒヒッ)

最後の笑いは何なんだオイ

『まぁ、でも』

(うん?)

『今まで、ありがとうな』

(こちらこそ、ありがとう)

『名残惜しいけど、僕は行くとするよ』

(二度と帰ってくるんじゃないよ?)

『それは確かにゴメンだ』


それから、僕は振り返ることなく病院を後にした。


数ヶ月たったある日、リハビリがいつもより早く終わったので、近所にある小高い丘に行く事にした。

「やっぱ、しんどいな・・・」

息を切らせながら何とか丘を登り切ると、前に来た時と変わらない光景が目の前に飛び込んできた。

「うん、やっぱここはいいな」

辺りを見ていると、ちょっと遠くに人影が見えた。

「あれ?先客か?」

ここは公園にもなっていないので、普段人がいることはあまりない。

珍しいので、人影の方に少し歩みをすすめる。

ちょっと近づいたところでどこかで見たことある女の子であることに気づく。

「あれ・・・?君は・・・」

僕の声に反応して振り返ったその子も驚いた顔をしていた。

でも、以前抱いたちょっと頼りないような印象はすっかりなくなっていた。

なんというか、キリっとした感じになっていたのだ。


我に返ったのは彼女のほうが早かった。

「お久しぶりです」

「あ、あぁ、ひさしぶりだね」

まだ少し驚いていた僕は変にどもってしまった。

「あの時は名前も言わずにすいませんでした。私は---」


この日はいつもと同じ風景が、ちょっと違って見えた。


読んでいただきありがとうございます。

連載でも行けそうな感じなのですが、短編として書き上げました。


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