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いくら女好きとはいえ、エルザは自分の顔を―――自分で言っていて悲しくなるが―――よく言えば中の中、悪く言えばその辺にいくらでも生えている雑草のような、よくある十人並の顔つきだと考えていて、自分にお声などかかるはずがないとタカをくくっていた。


自分の顔に対し自己評価が低いとも思えるが、エルザは自分の身分をわきまえていたし、どんなに綺麗に着飾っても、普通の顔の自分は普通以上になれないという自負までしていた。



それに多くの貴族は、よほど懇意な関係でもない限り、大勢いる中の一人の侍女に、目をかけることなど少ない。

特に多くの使用人を雇っている貴族ならば、それは尚更だ。


それの証拠に、さきほどのキース侯爵など、まるで路傍の石ころのように、他の屋敷の使用人などどうでもいいのか、エルザに視線さえ送ることはなかった。


だからこそ余計に、ロベルトがエルザに意識を向けてくるなど想定外だった。



だが実際はどうだろうか。

とんでもないことに、ものすごく熱く凝視をされ、はたまた腕をとられて名前を聞かれる始末。


自己評価が低いあまりに、ロベルトは女という生物だったらなんでもいい人間なんじゃないかとさえ思え、エルザの中でロベルトの評価は急降下していった。



評価がジェットコースター並に急降下しているとは知る由もないロベルトは、あくまで紳士的に腕を掴んでいた手を手首に滑らせると、恭しく持ち上げた。

そのままエルザの手の甲に、ロベルトの唇が近づいていく。


そんな2人の姿を見てマーガレットはぽっと頬を紅く染め、その頬に両手を添えて、「まぁ!」なんて感嘆の声を上げていた。



できることなら私が、マーガレット様の腕をとる見合い相手の姿を見て、「まぁ!」と言っていたかったです!



引きつった顔でロベルトの熱い接吻を阻止すべく掴まれた手首を思い切り引こうとしたが、思いのほかその力は強く、ままならなかった。



エルザがやむなく手の甲への口づけを受け入れてしまうと、ロベルトはそのまま穏やかな微笑みを浮かべた。


イケメンにそんな風に笑顔を向けられたら、大抵の女性はぽっとなってしまうだろう。


だが、ロベルトに対して評価が地にめり込むほど低下していたエルザにとっては、その笑顔の力も8割減だった。


頬を赤らめるどころか眉間に筋が走り、眉は逆八の字になっていく。

発した言葉にも、明らかに不快だと言いたげな険が混じっていた。



「すみませんが、手を離していただけませんか?マーガレット様に紅茶をお出ししませんと…。」


「君が質問に答えてくれたら、離すのを考えてあげてもいい。」



エルザの明らかに嫌がっている様子にちっとも堪えた様子はなく、ひるむこともなく、ロベルトは笑顔を浮かべたままさらりとそうのたまった。



『考えてあげてもいい(イコール)考えるだけで離してくれるとは限らない』ということじゃないか!



教えたらどうなるのかと恐怖を感じ、エルザは青ざめた顔で必死に拒否をこめて頭を左右に振った。



そんな拒絶行動もむなしく、2人の様子を静かに見守っていたマーガレットが口を開いた。



「彼女はエルザです。私が幼い頃から、まるで本当の姉妹のように過ごして来た大事な存在です。」



マーガレットが口を開いた事で、失礼にもようやくマーガレットの存在を思い出したようで、ロベルトの視線がエルザからマーガレットへと移動した。

相変わらず、手はしっかりとエルザの手首を持ったままだが。




「エルザ…エルザと言うのか……素敵な名前だね。」



どういう経緯かは知らないが、『エルザ』という名前は、知る人ぞ知ると言われる---いわゆる、あまり人気のない---冒険物語の登場人物からとったらしいという事だけ、母から聞いていた。



あまりの人気の無さ故か、その小説はエルザが産まれてすぐに絶版になっており、処分してしまったとかで家にも置いておらず、エルザ自身も実際に読んだ事はなかった。




なぜそんな不人気小説から名前をとったのかエルザ自身もいささか疑問に思ってはいたが、母に何度となく聞いても明確な答えは返って来なかった。

もしマーガレットが腕を掴まれてる姿を見たら、エルザは「まぁ」どころか絶叫してたと思います。

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