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チョモッとしたこぼればなしです。

 犬飼という姓をもらい、『人間』となったクロは無事に就職することが出来た。営業職として入ったそこは小さい会社ではあったが、それゆえに人間関係は暖かく、新人歓迎の飲み会は、小さな居酒屋で大いに盛り上がっていた。

「犬飼くん、犬飼くん。」

 程よく出来上がったオヤジはジョッキ片手にご機嫌だ。

「このあと、女性陣は帰して、オトコの二次会に行かんかね?」

「オトコの……ですか?」

「奥さん、妊娠中って聞いたよ。溜まってンだろォ?」

 元乙女である女性陣からブーイングが飛んだ。

「もー、小池さん、新婚さんをいじめないの!」

「一番ラブラブな頃なんだから、早く帰りたいわよねぇ。」

 男性陣から反駁が上がる。

「息抜きってやつだよ。これも家庭生活を円満に回すコツだよ!」

「俺たちがアリバイを作ってやるから、ぜってーバレないよ。行っちゃえ、行っちゃえ!」

 騒ぎの中心で、クロが静かに口を開いた。

「ありがとうございます。俺の歓迎会なんだから、本当は有難くご一緒しないと、シラけるものだってのは解っています。でも、俺はソッチだけはあいつを裏切らないって決めてるんです。」

 女性陣がほうと溜息をついた。

「家は色々事情があって、あいつを何年も待たせてしまって……いや、俺も心のどこかで、あいつに会うのを待っていたんだと思う。そうやって、焦がれて、やっとの思いで手に入れた女だから……」

 しらけきった男性陣から、ふんと鼻で笑う声が聞こえた。

「それに、昼間は騒々しいウメが静かに眠っていて、添い寝しているあいつも油断しきった寝顔で……おまけにその腹に俺の子供が入っているんだと思うと、もう、どうしようもなく大切で、幸せで……」

 かりっと気立っていた男性陣も、いつのまにかふわっと緩んだ表情を浮かべている。

「あ、でも、酒の席なら二次会もご一緒します。それは付き合いだって、ちゃんと家のにも……」

「黙れ新人!」

 小池が立ち上がった。

「お前のせいですっかりシラけた! 罰として、ここの手羽唐を持って、今すぐ帰れ!」

「すいません。気分を害したのなら……」

「うるせえな。こんなつまらない飲み会なんかやってられっかよ! 俺も家に帰って、たまには母ちゃんの乳でも揉んでやっかな。」

「大丈夫よ。小池さんは口だけセクハラ大魔王だけど、本当は未だに奥さんラヴだから。」

 こそっとクロに囁く声を耳ざとく聞きつけて、そのオヤジが赤くなった。

「ばかっ!バラしてんじゃねぇよっ!」

……なんだか、このオヤジとは上手くやっていけそうな気がする。

 クロは『人間』になれた幸せを改めて感じた。 

これでクロのお話は終わりです。でも、二人の幸せな日々はこの先も続いてゆくのです。

その幸せを切り取って、また皆様にお見せする日が来るかもしれません。

でも、とりあえずしばらくは、そっとしておいてやりたいですね。

おつかれ!クロ。 そしてありがとう!読んでくださった方。

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