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 それは、結婚式と呼ぶにはあまりにも破天荒なものだった。

 参列者は、チンパンジーとシャチ。誓いの立会人を勤めるドクターは、一升瓶を抱えている。

「誓いの言葉ぁ? 神父もいないんだから、適当でいいのよ。あんた、やりなさいよ。」「ええ、俺が? むちゃくちゃだな。」

 それでもクロは、息子を抱いた自分の花嫁に畏まって向き直った。

「サクラ、これからの俺の毎日には、お前がいて欲しい。」

「ウメもー。」

「そっか、ウメもだな。」

 おばちゃんが気を利かせてウメを抱きうける。

「俺と一緒にいてくれ。」

「はい。」

「ずっと俺の隣で笑っていてくれ。」

 次の言葉を待たず、性急な誓いのキスは花嫁の唇を塞いだ。

「あんた、花嫁の返事を待ちなさいよっ!」

「適当で良いって言ったじゃないか。」

 薄桃色に頬染める花嫁から唇を離して、彼はプフンと鼻を鳴らす。

「まあ、いいわ。そのぐらいがっついてくれたほうが、期待できるものね。」

 ドクターの手の中で、ルームキーがきらりと光った。

「私からの結婚祝いよ。大いに盛り上がって頂戴。」

 おばちゃんとハチは、ニヤニヤと祝福の笑みを浮かべている。ウメだけは飛び切りの純真さで、明るい声をあげた。

「ウメ、きょおだい、欲しいの。」

「くっそ、仕込みやがったな……」


 部屋は取り立てて変わったものではなかったが、ドクターの小粋な計らいでサクラの格好はすばらしいものだった。

 薄明かりのベッドに、純白のドレスをつけた女が座っている。それだけでも十分に扇情的だというのに、彼女はたったの今さっき、永久とわの誓いを交し合った相手だ。

(どんなプレイだよ、これは。)

 そのまま、ただ静かに美しい姿を眺めていたい思いと、今すぐにでも、ドレスから覘くデコルテに口寄せて、引き裂くように愛してしまいたい獣性とがせめぎあい、欲望の器を満たしてゆく。

「サクラ……」

 ドレスに気を使いながら身を寄せれば、花嫁はあごを上げてキスをねだる。そっと唇を預ければ、彼女は軽い欲情の吐息を吹き込んだ。

「貸衣装だから、汚すなって。」

「解っている。」

 名実共に自分の妻になった女。これからの長い日々を俺に捧げてくれた大事な伴侶。そして哀れな黒犬だった俺に全てをゆるしてくれる……サクラ。

 ドレスにかかる指先が、喜びに震えた。


 欲情のままに抱き散らかしたその体を、クロは黒い被毛に覆われた胸の中に優しく抱きこんだ。徒に臍周りをくるりとなぞり、クスリと幸せをこぼす。

「ウメみたいに可愛い子供なら、あと4,5人は居てもいいな。」

 激しく求め合った後に彼がくれる、ただ甘いだけの瞬間。それは今も、サクラにとって何よりも大切な時間だ。

「子供は……多いほうがいい。賑やかに騒ぐ子供達の真ん中にお前がいて、怒ったり、泣いたり、笑ったり……そんな何気ない毎日が俺の宝物になるんだ。」

 激しい欲情よりもなお強く、劣情よりも深くへとオトコを満たす……愛情。

「そんな幸せを俺に与えてくれ、サクラ。」

 今や妻となった美しい笑顔が、彼の唇に近づいた。

「俺はもっと幸せになりたい。だから、お前の幸せを守り続けるんだ。」

 これから訪れる何気ない日々のように……ごく当たり前に、柔らかに、二つの唇は重なった。


もう一つ、おまけもいっちゃうよ~

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