表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/89

「すごいな。これが花見か。」

 満開の桜の下には人が集う。屋台もちらほらと出ていて、そのにぎやかな様子にウメを肩に乗せたクロは目を丸くした。

「迷子になるなよ。」

 片方の手のひらを、寄り添って歩くサクラと重ね合わせる。 桜並木は薄い春色の花をその上にちらちらと降らせた。

 人ごみに紛れそうに小さな声で、サクラが呟く。

「この花が散る頃には……」

「ああ。あの島に、俺は帰る。」

 それは、驚くほど気安い返事だった。

「あと少しだけ、待っていてくれるか?」

「!」

「ドクターに頼んで国籍と、身分証明と……ああ、仕事も探さなくちゃなのか。」

 立ち止まって見上げれば、クロの瞳はサクラを映している。

「ちゃんと『人間』になってくる。だから、俺をお前の夫にしてくれ。」

「桜が散るまで?」

「俺の人生最後の桜が散るまで、だ。」

 肩の上ではしゃぐ幼子を押さえながら、クロの声は真っ直ぐにサクラだけを求めていた。

「……順序は大分狂ってしまったが……プロポーズってやつだ。」

 重ねあわせた手のひらに、ぎゅっと力がこもる。

「私も……人生最期の桜は、クロと見たい!」

 南からの風に、クロの表情がさくらのようにほころんだ。

「サクラ、キス……してもいいか?」

「えええ? だって、人も居るし……ウメだって……」

「そんなことか?」

 クロは、サクラをひときわ大きな桜の根元へと誘った。

「ウメ、綺麗なことが起きるぞ。上を向いていろ。」

 言い置いてからクロは、滑らかな幹肌に唇を滑らせる。

「俺たちを……祝福してくれ。」

 もしかしてそれは、あの島に残した桜への別れと贖罪だったのかも知れない。

 ゴツと拳が幹を揺らし、震える枝先からザッと花びらが降り注いだ。

「お花、きれい!」

 ころころと甲高い子供の声が弾む。

……そっと重なり合った唇を隠すように、花吹雪は静かに降り注いだ.



まだまだいくよ~♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ