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ちょろちょろとうるさい人間どもをなぎ倒し、サクラの為に道を作る。
暴れていた獣たちが手を止めて何かを叫んだようだが、今はそれに応える余裕が無い。
俺はサクラを連れて前島の実験室に飛び込んだ。
棚に並んだ様々な薬品が、茶色い瓶の中で淀んでいる。
「サクラ、その瓶を片っ端からここに並べてくれ!」
泣きそうになりながら棚から床へとビンを移すサクラは、明らかに青ざめていた。
部屋の奥にある前島のパソコンを立ち上げる。
トップページに置かれたファイル名に、俺は鼻先で天を仰いだ。
「くそっ! やられた」
……『D』超長期投与実験……
おそらくその中には、俺の素体番号が記されているのだろう。低濃度での長期投与の、披験体として……
だが俺が欲しいのはコレじゃない。ぎりぎりと割れそうなほどに奥歯をかみながら、次々とファイルを開いていく。
……『D』に関する全てを……
『変化』の影響だろうか、膜を張ったように思考が重い。
それでも俺は必死で『理論』を組み立てる。
過去の実験例、同時投与された薬品、『変化』のパターン……
考えろ、導き出すんだ……俺の『幸せ』を守る、最善の一手を!
パソコンの前に座っていた黒犬がぶるぶるっと震えて椅子から滑り落ちた。
肩の皮膚は筋肉の変化についていけず、小さく裂けて血を滲ませる。
「クロっ!」
悲鳴混じりに呼ばれたクロは、サクラを見上げた。
「まだ大丈夫だ。薬は?」
「並べ終わったよ」
「よし」
黒犬はその一本一本に鼻を近づけ、中身を探る。
……嗅覚はかつて無いほどに冴えわたっているというのに……
(これは……? ダメだ! 思い出せない)
逃げようとする『知識』に必死で追いすがりながら、クロは三本の瓶を選び出した。
「開けてくれ」
「三本も? 何の薬なの、コレ」
「いいから、早く頼む」
コト、コトと目の前に並ぶ瓶を見ながら、クロはあきらかな苦笑を浮かべる。
(理論の裏づけもない。おまけに目分量……)
クイ、クイ、クイッと瓶の中身をあおって、クロは一人ごちた。
「前島……『奇跡』ってのを見せてやるよ」




