11
全ての作業を終えてクロが部屋に戻ったのは、明け方も近くなってからだった。
ベッドからサクラが、もそりと体を起こす。
「起きていたのか」
するりと布団に潜り込んで、不器用な前足が温かな体を抱き寄せた。
「眠らないと、体によくないぞ」
「だって、起きたらクロがいないから……」
黒犬は愛情に任せてさらに抱きしめる。
「俺だって、いつでもお前の隣に居てやりたい」
ふと視線を下に向けた彼は、この上なく幸せそうに鼻を鳴らした。
「お前『たち』だったな」
長い口吻が甘くサクラの頬に触れる。
「ここから出たら、三人でどこかへ出かけたいな」
両腕を広げた女が、黒い毛に覆われた胸元に沈んだ。
「どこに行きたい?」
「そうだな、俺は犬だから行ける場所なんて限られている。……海、とかいいな」
「そうだね、マックをテイクアウトして」
「芋もつけてくれよ」
くすくすと笑いながら二人は身を摺り寄せあう。
……お互いの熱情を分け合うのも悪くないが……
クロは寧ろ、サクラのぬくもりを腕の中に感じるこの瞬間が好きだ。そしてサクラも、黒犬が与えてくれる、ただ甘いだけの時間を何よりも大切にしていた。
「ここから出たら……」
どれほどの苦労が待っているのか、解らないほどに子供ではない。
だがこの一瞬だけは幸せな夢だけを分け合って……
(サクラ……放したくない)
この世でたった一つの『マモリタイモノ』。それが間違いなく腕の中にある喜びに、黒犬は暖かく満たされるのを感じていた。




