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……朝から熱っぽい。
作業を終えて部屋に帰ったサクラは昼食を残した。軽い吐き気もある。
(クロに言わなくちゃ……)
数日前から予感はあった。
ベッドに横たわったけだるい体に不安が染み込む。
(それでも……言わなくちゃ)
鬱々と時計の音を数えていると不意に扉が開かれた。
(クロ?)
……いや、違う!
ひたひたと鳴るはだしの足音は『人間』のものだ。
サクラは飛び起きて侵入者を見据える。
「!」
身構えるサクラを、その男は表情一つ変えないで見下ろしていた。
「交配相手を確認」
「ノーネーム!」
逃げ出そうとするサクラの腕をノーネームの骨ばった指が捉える。
「やだ! はなしてっ!」
振り回そうとする腕を押さえつける力は加減も容赦もなく、指先までびりびりとした痺れが走った。
そのままベッドに引き倒されるその瞬間、
(だめ! ここにはクロの……)
腹をかばったサクラの腕に男の爪が食い込み、血が流れる。
「やだ、絶対嫌だ! クロ、クロぉ!」
悲鳴混じりに泣き叫ぶサクラの口にノーネームの形良い唇が覆いかぶさった。
ぴったりと形良く寄り添う、『人間』のキス……
……クロは形の合わない唇で、不器用な躊躇いを含んで触れる。軽い微熱を与えてくれるあの唇とは違い、このキスは……冷たい!
暴れるサクラの唇にノーネームの前歯が当たる。血錆びた不快感だけがサクラの口中を犯した。
やっと唇を離した男は全く無表情のまま、ばさりと上着を脱ぐ。
「味覚を確認」
その上着が、サクラの口にねじ込まれた。
「口呼吸を制御。鼻呼吸を確保」
金茶の毛並みがサクラの鼻先に近づく。
「嗅覚による接触を開始」
拒絶のために顔を背けたサクラの首筋に、乾いた『人間』の鼻先が押し当てられた。




