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「あんた、また大きくなったわね。」
『診察』を受けに来たクロの体を見て、ドクターは眉をしかめた。もともと超大型犬の体躯を持つ彼ではあるが、元の体から比べても二周りほど明らかに大きくなっている。
「肉体強化の実験を受けているんだからな。当たり前だろう」
筋肉は隆々と盛り上がり、もはや彼がただの犬ではなく『兵器』として完成しつつあることを物語っていた。
ドクターは鎧のような体を撫で、悲しそうにため息をつく。
「こんなに変わってしまって……サクラちゃんもさぞかし心配しているでしょう?」
その名前を聞くと、クロは目を細めた。
「ああ、ウチのは心配性だからな」
「うっわ、むかつく! 何そのダンナ気取り発言! まさか、カラダが大きくなったのをいいことに、あの子を好き勝手にしてるんじゃないでしょうね?」
「馬鹿言え! このカラダでそんなことをしたら、サクラが壊れてしまう。俺がどれだけ手加減していると思ってるんだ」
「ソッチのことを聞いたわけじゃないんだけど? やあねぇ、新婚さんはエロくって」
「う……」
からかわれたクロは真っ赤になった耳をクシュクシュとかきむしる。
「……俺は、サクラの事が何よりも大事だ。人間のオトコのようなことはしてやれない代わりに、ただひたすらに甘やかしてやりたいと思っている」
「中身はヘタレ王子のままなのね。安心したわ」
ドクターは優しくその頭を叩いた。
「大事にされてるのはあなたの方よ。それを忘れないようにね」
診察を終えて帰って来たクロに、サクラが子犬のように駆け寄る。
「どうした、寂しかったのか?」
「ふざけてないで、体はどうだったの」
「ああ、疾病も異常も無し。いたって健康だそうだ」
「体が大きくなったのも?」
「今のところ特に問題は無いそうだ」
……イマノトコロ……
その言葉にサクラは泣きそうになった。
「……一日も早く、ここから出たい」
「大丈夫だ。あせらなくても、今の俺ならお前を守ってやれる」
「そうじゃなくて、クロが……」
涙混じりの抱擁にクロの尻尾が揺れる。サクラの髪に鼻先を埋めてさらりと撫で下ろす。
(確かに大事にされているのは俺のほうだ)
彼女の流す涙の、その一滴さえもがクロにとってはいとおしい宝物だ。
……サクラ……大事な大事な、俺のサクラ。
「外側は少し大きくなったかもしれないが、中身は俺だ。それじゃダメか? サクラ」
甘い熱をこめて、耳たぶを食むようにささやく。
「間違いなく、中身が俺だということを確かめてくれ」
唇を柔らかく吸われながら、サクラの体は軽い欲情の香りを立ち上らせた。




