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……サクラは花のようだ。
俺の全てを受け入れてくれたカラダは微かに上気して、快楽の後の浅いまどろみに沈んでいる。
せめて服を着せてやりたいのだが……不器用な肉球を見て俺は苦笑した。
(人間のようには……)
大きく頭を振って言葉を振り払う。もうこれ以上、そんなことで悩むつもりは無い。
……サクラは獣ではなく、まして人間でもない……『俺』を選んでくれた。
ならば、彼女が選んでくれた『俺』の愛情を一片も残すことなく捧げよう。
少しでも多く肌を隠すように洋服をかけ置いてやると、サクラが夢の中から微笑む。
「クロ……」
この顔だ! 俺がどうしても見たいと願っていた、幸せな笑顔……
「サクラ……」
ぬくもりを分けるように寄り添い、上を見上げる。風に揺らされた葉が音を立てながらまだらに陽光を落とした。
(桜……か)
……花が咲く頃には……
俺は……いや、俺たちはどうなっているだろう。
ドクターはここを出た後のことを話してはくれない。ぬかりない彼女のことだから、何らかの計画はあるのだろう。
だが、それがサクラと共にいるためのものとは限らない。
「サクラ……」
俺は、彼女の夢の中に落とし込むようにささやいた。
「一緒に花見に行こう。来年……いや、この先ずっと」
。。。。。。。。。。。。。。。第二部 完




