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 クロとサクラを『検査』に呼び出したドクターは大爆笑だ。

「……で、すん止めされたわけ?」

 サクラの着替えを待つクロは、しょぼんと背中を丸めて座っている。

 二人をここまで連れてきたアフガンハウンドは、すぐには退室せず、ドクターのすぐ隣に胸張って座っていた。彼の唇が形良く歪み、呆れきった溜息が漏れる。

「あの人間が来てからのあなたは、少々おかしいですよ」

「別に、おかしくは無いだろう」

「いえ、おかしい。まず第一に、単独での脱出計画。しかも、ご自分の命と引き換えになど、ずさん極まりない! おまけに、私のことまで騙しましたよね?」

「それは……すまなかった」

「第二に、生殖実験。とり合えずカタチだけでも、やつらの言う通りにすればよいでしょう。せっかく隠し通していたご自分の能力まで晒して、何を考えているんですか」

「……カタチだけ……か」

 オトコとして、力ずくなやり方も知ってはいる。サクラを前にして無理やりな気持ちに苦しんだことだって、一度や二度ではない。

 それでも彼女を奪わなかった理由を上手く説明することは、出来そうにも無かった。

「上位のものに意見すべきではないと言うことも、重々承知しています。だけど言わずにはいられない! あんな、ひ弱な人間に執着して、犬としてのプライドまで捨てるつもりですか!」

 下位の者に怒鳴られた事がクロの犬としての心を尖らせた。実に獣らしい怒号が辺りに響く。

「プライドまで捨てたつもりは無い! 何でお前に怒られなくちゃならんのだ!」

 吼えあうような大声にドクターは耳を塞ぐ。

 サクラが検査室のドアを蹴るようにして飛び出してきた。

「クロ、心配してくれているんだよ! 心配だから腹を立てているんだよ!」

 その声がクロの心を一瞬にして『人間』に引き戻す。

「そうか、心配……してくれたのか。ありがとう」

 サクラに聞こえないようアフガンの耳元にぐっと近づいて、クロはさらに言葉を継いだ。

「だが、サクラは俺にとって、『ひ弱な人間』じゃないんだ」

 優しげな声がアフガンから離れる。

 その様子を見たサクラは、無防備な笑顔を浮かべた。

「仲直りできて良かったね。ちゃーちゃん」

 ぶほっとむせ返るクロ。その両肩は小刻みに揺れていた。

「私を呼ぶなら、コード126と……」

「そんな数字、覚えられないよ」

 黒い尻尾がこらえた笑いでゆさゆさと揺れる。

「ちなみに、なぜ『ちゃーちゃん』なのか、聞いても?」

「全体的に茶色いから?」

 堪えきれず、クロは肩を大きく震わせて尻尾で床を強く叩いた。

 だが、ドクターの眉尻は不快そうにあがる。

「検査を始めるわよ」

 クロの鼻先にダンボールが投げ出された。

「好きなのを使っていいわよ。使い方は解る?」

 鼻先でふたを押し開けたクロは、微かにうめく。

「……ネットで……見たことがある」

「何、それ?」

「う。たいしたものじゃない」

 黒い体が覆いかぶさるようにして、サクラの目から箱の中身を隠した。

 ドクターがけらけらと笑う。

「一人遊びの『お道具』よ。あいつらに疑われないように不妊検査をするの」

「ドクター、サクラに変なことを教え無いでくれ」

「それともあなたが、手とか、口でしてあげる? やり方、教えるわよ」

「ドクター! これ、これでいいから! それ以上余計なことは言うな!」

 クロはろくに選びもしなかった。無造作に取り出したそれを、サクラから隠すように確認すると……

「随分とマニアックなチョイスね」

「いや、間違えた! もう一回、選びなおしを……」

「だめ。それでしてらっしゃい。じゃないと、彼女にコレを説明するわよ」

「う……でも、そういう趣味は……」

 ドクターは、満面の笑みでサクラを振り返る。

「コレねえ、電極で……」

「コレで結構です。大急ぎで採ってきます。だから、余計なことを言わないでください」

 懇願しながら、クロはそれを咥えあげて処置室へと駆け込んだ。

「さて、あなたも出て行ってくれるかしら。私はこの子と女だけの話があるの」

 ドクターはアフガンを押し出すように放り出し、部屋のドアをばたんと閉めた。


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