表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/89

22

 島の南端の崖は特に高く切り立っている。海へと大きくせり出し、その先端に立つことすらはばかられるほどだ。

 クロはそんな崖の上に居た。

 彼が考える人間と動物の大きな違いは『自殺』だ。

 どれだけ人間としての知性を埋め込まれようとも、動物の体を持つ彼らは本能的に死を避ける。まして自ら命を絶つなんてことは絶対にない。

……ならば、それを逆手に取ればいい。

「ここなら……」

 死体があがらなくても不審には思われないであろう。

 ふと、サクラの思い出が彼の脳裏をくすぐる。

 だが、それが彼にもたらしたのは、灼けつくような劣情ではなかった。

……他愛なく二人抱き合って、同じベッドで眠った、あの瞬間のような幸せなぬくもり。

 あのぬくもりの中で、彼女は言った。「待っている」と……

「すまん、サクラ。もう……」

 二度と会うことは叶わないだろう。

 人間の中に戻れば、出会いはいくらでもある。こんなおれではなく、きちんとした人間の男を選んでくれればいい。ただ幸せにしてくれる、いい男と……

「俺のことは、早く忘れてくれ」

 哀しい想いを胸に、クロは助走を始めた。

 さっくりと切り取られた大地の終点が見る見る近づく。

「!」

 強く踏み切ると、彼の体は青空に放り出され、世界がぐるりと回った。

 視界の端に島から飛び立つヘリが映る。

「……幸せになれよ」

 最後の言葉は、空のように青く、いとおしいひとのように両手を広げた海へと、ただ飲み込まれていった。



                  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。第一部 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ