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語り

「すまないな。ろくにもてなしもできないままで」

 謝ってもらうほどのことじゃない。そもそもこの部屋に置いてもらっているだけでも贅沢みたいなものなんだから。

 物々しい発令のおかげで、街中は大混乱。魔物に対する組織は一応編成されているのだが、実際に有事が起こったためしがないらしい。アキラも総大将という地位ながら実戦経験はないといっていた。

 軍でさえその有様なのだから、平和になれきった群衆に統率された動きを求めるほうが困難だ。

 図書館へ向かう道で見かけた、活気ある笑顔はもうない。焦燥と不安、そこからくる苛立ちばかりが目立つ。一部では乱闘騒ぎもあるとか。アキラの部屋は城内にあるので、ここまで騒ぎがおよぶことはないが……。

「魔物が出たってのは聞いたけど……どういうことなんだ? 魔王はもういないはずだろ?」

 俺の言葉にキョトンとした表情を浮かべるアキラ。

「魔王の話なんていつしたかな? ……ああ、図書館で見たのか」

 アキラに話してみようか。図書館で見た、俺の小説とこの世界のことについて。

「俺は……俺は、この世界を最初から知っていたみたいなんだ」



 この世界と俺の小説のつながり。

 俺はネーミングというやつが苦手だった。小説を書くとき一番時間をかけるのは内容より名称設定だったりするほどに。

 新作でもあいかわらずで、どうしてもいい名前が浮かばず悩んだ俺は、苦肉の策でそこらへんにありそうな名前をかたっぱしからつけていった。タロウとかジロウみたいな感じだ。

 人はまだこれでなんとかなった。困ったのは街や大陸の名前。ユーラシアやオーストラリアなんて実名をつけるわけにもいかず、かといってめぼしい名前を思いつくわけでもない。最終的に“中つ国”だの“中央都市”だのといったものになってしまった。知恵熱出してまで作ったものがそれだったので、最終的には設定だけで実際の文章に反映させなかった覚えがある。

 図書館で小説を見つけて、この国の名前がなんであるか思い出したとき。背中を芋虫に這われたようなおぞましい感覚が襲ってきた。“西国の首都ニシカタ”、まんま俺がネーミングしたみたいじゃないか。

 言葉にしてもそうだ。異世界に召喚された主人公と街の人々は普通に会話していた。いつだったかそのあたりにつっこみをいれられて、困った俺は『この異世界の公用語は日本語』という設定を付け加えたんだ。平行世界で微妙にシンクロしている部分があり、言語体系がそっくりとかなんとか書いてた。

 歴史書が百年ほどしか作られていないのもそう。作られていないんじゃなくてそれ以前が存在しないということだ。俺が書いた時点で世界はできたのだから、それより前なんかあるはずがない。俺が書いた勇者の物語から百年以上たったのがいま、ということになる。

 なによりも。ここに俺の小説が、この世界の概念ではありえない形で存在していること。これで関係がないと切り捨てるのはあまりにも暴論だ。

 ……もしかしたら俺が図書館へ向かったことも、もっといえばアキラに助けられここにいることすらも予定調和なのかもしれない。

 バット女の目的も理由もわからないが、ここがそういう世界だということ、そういう世界に俺がまぎれこんでしまったことはわかった。


「……それが事実なら……いや。トラのいうとおりなのだろう。ここに描かれている話は英雄譚として語り継がれているよ。もっともこの小説のように勇者の心理を描いているわけじゃないけどね」

 意外にすんなりと理解してくれたアキラ。

「うん。本来ならとてもじゃないけど信じられないだろうね。でも私は信じるよ」

 私は変わり者だからね、と自嘲気味にいうアキラ。

「私はねトラ。この魔王を倒した勇者の、子孫というやつにあたるんだ」

 さらっといってのける。付き合いは長くないが、それがアキラという人物だというのは承知しているつもりだ。でもさすがにいまのはどうなんだ。

「総大将というご立派な名義もこれのためさ。代々我が家は重役についてきたし、それが当たり前だと世間も理解している。長男は軍に、長女は王家に嫁いで。でもね、私の代でそれが崩れてしまったんだ」

 とつとつと語るアキラはどんな気持ちでいるのだろう。

 こうしているあいだにも、魔物は迫ってきている。明日にはその第一波が襲ってくるだろうと予想されていて、アキラとこうやって話せるのもいまだけになるかもしれないのだ。

「母は生まれつき体が弱くてね。私を身篭った時点でそう長くないといわれていた。それで、私が生まれたすぐ後に亡くなってしまったんだ。……父は本当に母を愛していた。本来なら息子を作らないといけない立場なのに、父はかたくなに拒んだ」

 一筋の光が床へとこぼれ落ちる。アキラは気づいているのだろうか。

「父の苦悩を、母への愛を知る私は、男として生きていくことにしたんだ。……まさか私の代で再び魔物に遭遇するとは思わなかったけど、責務は果たすつもりだよ」

 乾いた笑みは、状況が決して良くないことを表しているよう。

「さっきの質問の答えがまだだったね。たしかに魔王はいなくなった。でもね、ある預言者が不吉な言葉を残していったんだ」

 観測点と予言、そんなものがあったのか。どういったものなのかわからない以上なんともいえないが、少なくとも俺はそんなもの作った覚えはない。

 なにか、俺の小説とは別の力が働いているのだろう。そこまでの大きな力となるとやはり魔王の存在を意識してしまう。

「どうだろうね。すくなくとも敵の動きは一貫していると報告が入っている。野放図に広がっていっているわけじゃないことだけは確かだ。それと気になる報告があった。魔物たちの群れの中に人影が見えたかもしれない、というものだ。会議ではあるはずないの一言で片付けられてしまったが、私にはそう思えないんだ」

 敵の正体へと近づくわずかな手がかり。

 異形の魔物を率いているのは人かもしれない。もしくは人の形をしたなにか。

「もしかしたら、そこに」

 俺をこの世界へといざなった女、もしくは彼女の上に立つものがいるかもしれない。漠然とだがそんなふうに考える。

 ここまでの出来事すべて意味があるとすれば、そこに元の世界へのヒントがある。そうに違いない。


 ……なにをしようと時間は過ぎていく。まもなく、戦争が始まる。

たいして練りもせず見切り発車した結果がこれなのかと

そろそろ終わりにしたいけどうまいこと進まないもんですね…

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