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拾われる

「……んん……?」

 自分の部屋にしてはずいぶんと天井が高い。無機質な壁紙でもなく、木目が見える。

 ここはどこだ。

「よかった。気がついたみたいだね」

 覗き込んでくる両目。垂れる髪の毛は金色に輝いている。窓から差し込む光が逆光となってどこか神聖な雰囲気をただよわせている。

 美しい。うまい言葉を見つけようにも、まず見入ってしまって思考が働かない。人と相対しているというよりはゲーム画面を見ている感覚に陥る。

「? どうした、人の顔をそんなに見つめて」

 くすっと笑みがこぼれる。それだけでひまわりがこちらを向きそうな、太陽のように暖かい空気が一瞬にして生まれる。いやらしいところなどひとつもない。

「なにやら顔が赤くなっているようだが、熱が出たのか……?」

「い、いあ! だいだい、大丈夫、っす!」

 彼女の手がこちらに伸びてきていた。見ているだけでこんなになっているというのに触られでもしたら……。

「おお、本当に大丈夫みたいだな」

 素敵な笑みがいっそう濃くなって、もう見ていられないくらいだ。

「あ、あの……ここどこ……?」

 コミュニケーションになっていないかもしれないが、いまはこれが精一杯だった。

「ん? ああ、ここは西国の首都、ニシカタだ。もっというと私の私室だな」

 私室。ということはこのベットは、彼女の……。

「うーん、やっぱり顔が赤いな。それにふらついているようだが」

「そそ、それは! その……女の子の部屋初めてで」

 横目で盗み見た彼女の表情は先ほどとはうって変わって、見開かれた瞳は驚きの色をしていた。

「驚いた。言葉遣いには気をつけているつもりなんだが、一目でばれるとは思わなかった」

 心底驚いた、と言葉が表情が伝えてくる。こんなに綺麗なのにわからないほうがどうかしてる。まあ男でも綺麗な顔立ちの人はいるが、彼女の笑みは女性特有のやわらかさがあったように見受けられる。

「ん……そうだ、まだ自己紹介もしていなかったな。私はアキラ。首都防衛軍総大将を務めている。もっとも大将なんて名ばかりで、実際は書類の捺印が主な仕事だがな」

 自嘲ぎみな笑み。

 ニシカタなどという街も西国なんて地域も知らないが、軍はたぶん男社会だろう。その中で総大将という地位にいる彼女には、俺なんかが理解できるはずもない苦労があるのではないか。

「きみのことも教えてくれないか。私を知らないのもそうだし、なによりあんな場所で倒れていたのはどうしてだい? あの森は滅多に人が立ち入らない場所なんだが」

 あえて確認していなっかたが、アキラが俺を助けてくれた本人みたいだ。細腕で男一人担いで移動するなんて、なかなかの怪力。

どうして倒れていた、といわれても。俺にだってわからない。

「えっと……名前は」

 少しためらう。俺は自分の名前を知ってからというもの、常にコンプレックスとして抱えて生きてきた。友人知人いわく、忍者みたいとか武将みたいとか刀の名前かなんかか? とか。

「と……トラ。うん、俺はトラって名前、です」

 いい名前が浮かんでこなくて、結局ただのあだ名みたいになってしまった……。

「トラ……うん、いい名前だ」

 うんうんとうなずくアキラ。所作がいちいちかわいらしくて、きっと俺の頬は赤くなりっぱなしなんだろうな。

「えっとその……森で倒れてたのは自分でもどうしてかわからなくて」

 自分の部屋からこっち、覚えている限りのことを話してみる。PCの話題になるとアキラは疑問符を率直に出してきたので、そのあたりは適当にごまかした。きっとここにはPCがないんだろう、知らないものをうまく説明できる自信はない。

「なるほど……なにものかに殴打され、連れてこられた。ここがどこだかもわからないし、地名にもなじみがない、と」

 要約するとそういうことになる。小さめの女の子に殴られたって部分は多少の見栄で隠してしまったが、大したことではないだろう。

「誘拐の意図はよくわからないが、犯人はトラの生死に頓着していなかったようだな」

 え。それってどういう……。

「あの森は危険なんだ。凶暴な狼もいるし、なにより毒を持った植物がたくさん自生している。それに底なしの沼もあって知らない人間が入り込める場所ではないんだ」

 そんなに危ないなんて聞いてない。あのバット女、なんてことしてくれたんだ。

「……うん。おおかた納得した。安心したよ、君が魔物の類ではなくて」

 胸をなでおろす、アキラの言葉に淀みはない。

 魔物、だって? どうやら本格的に異世界みたいだな……。

 そろりと立ち上がろうとするが、視界がぐるっと回る感覚に襲われる。

「ああ無理はいけない。意識が戻ったとはいえ衰弱しているんだ、今日一日はゆっくり休まないと」

 アキラの声色はすごく優しい。

 死に掛けだったとはいえ赤の他人にここまで優しくなれるものだろうか。少なくとも俺には無理だ。ご近所どころか隣家に誰が住んでるかすら把握していないし、したくもないぐらいだからな。

 ……いまは、この状況に甘えよう。

「それじゃあ、その、お言葉に甘えて」


――

第*話 王家に残されし勇者の遺産


 うっそうと茂る人の手入れが届かない巨木たち。どこからか知れない獣の奇声、飛び去る小鳥や羽虫。森の生物競争は今日も続いている。

「こんなところにあるのかよ。大事なものならもうすこし丁寧に扱えよな」

 いつの時代か定かではないが、いまより昔にも魔王が現れたことがあるらしい。そのとき初めて勇者も現れたそうだ。

 俺がわざわざこんなへんぴなとこにきたのも、その都市伝説みたいな勇者の装備が置いてあるっていうからだ。

 かったるいぜ。いますぐにでも殴りにいきたいのに、その勇者装備がないといけないんだそうだ。

 途中何度か白い大きな狼と遭遇した。素手の人間に殴り倒されるってのはどんな気分なんだろうな。

「うーん……? おっ、あれかな」

 両手を広げてもまだ余るほどの大きな岩。その岩に杭のように打ち込まれたこの世ならざる雰囲気を醸しだす一振りの刀剣。

 鞘に納まったまま岩を貫いているあたり、なるほど勇者の聖剣という気がしなくもない。

 なんというか、お仕置きに岩でつぶされた孫悟空みたいな構図だな、力が強いってのも同じだし。

「よっと。へえ、やたら長いのかと思ったが、なかなか手頃な長さだな」

 しっかりと重さを伝えてくるが、決して重くはない。振れば心強い威力を発揮してくれそうな、本当に手頃な武器だ。

「よっしゃ。これで一気に進めそうだぜ」

 剣を抜いた後、どことなく森の雰囲気が変わった気がする。もしかしたらこの剣が森を支えていたのかも。

「わりいな、全部終わったら返しにくるからよ」

 そう。どうせ魔王なんてあっという間に倒せるのだから。

――

男装美少女っていいよね

名称が安直なのはいちおう伏線みたいなものだったりします

決してネーミングセンスが絶望的なわけでは……ありますん

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