彼女が嫌われる理由
スカッとはしません。モヤっとするお話です。
「大変、大変申し訳ございませんでしたぁ!!」
中村江美里は真っ白な空間で、目の前の光景に困惑していた。
女神と名乗った神々しい見た目の美女が、頭を擦り付けて謝罪しているのだ。
要は土下座である。
「えっと……何事ですか?」
目の前が突然真っ白な空間になり、女神が土下座をして必死に謝罪している。
これで戸惑わない人間がいるのだろうか?
江美里は何が起こったのか全く分からなかった。
「中村江美里さん、私のミスで……貴女の人生を終了させてしまいました! 本っ当に申し訳ございません!」
女神はまだ地面に頭を擦り付けている。
「えっと、とりあえず女神……様、頭を上げてください」
状況を確認したいが、このまま女神に土下座されたままでは話が進まない。
女神は江美里に言われるがまま顔を上げた。
江美里の目の前に、神々しく眩し過ぎるほど整った顔が現れる。
江美里が見た中で一番の美人であることは確かだ。
「じゃあ、さっきの言葉通りに捉えると、私は死んだってことですか?」
「はい……」
江美里の問いに、女神はとても申し訳なさそうに頷いた。
江美里はこの真っ白な空間に来る前のことを思い出してみる。
高校二年生の江美里は朝、いつものように高校に向かっていたら、信号無視をしたトラックに突っ込まれたのだ。
痛みを感じた記憶がないので恐らく即死だったのだろうと江美里は考える。
「本来なら貴女の世界のあの場所で事故は起きない予定でした。ですが、私が他の世界のトラブル対処に追われていた時にそちらの世界のちょっとした異変に気付くことが出来ず、結果として貴女が命を落としてしまうことに……。大変申し訳ございません!」
「ああ、もう土下座とかは良いですから」
再び土下座をしそうな勢いの女神だったので、江美里はそれを止めた。
「ていうか、女神様、他の世界も担当……? しているのですね」
「はい。江美里さんの世界だけでなく、合計十個の世界に何か異常がないか確認しております」
「女神様一人で?」
「はい」
「ワンオペ大変ですね」
江美里は女神の事情を知り、同情した。
「他の女神はまだ未熟だったり、好き放題する女神だったりするので、私がやるしかないのです」
「うわぁ……。というか、女神様って複数いるんですね」
てっきり女神は一人だけだと思っていたので意外に思う江美里である。
「私の話はさておき、江美里さん、貴女にはまだまだ長い人生がありました。それを私のミスで終わらせてしまいましたので、転生させようと思います」
「あ、ラノベとかWeb小説であるやつですね。異世界転生とか」
江美里はライトノベルやWeb小説を読むことが趣味だった。異世界転生系は読み漁っていたのだ。
「はい、そうです。それで、転生に関して何か希望はありますか? 普通はランダムに転生させるのですが、江美里さんの場合は私のミスによるものですので、貴女の希望をなるべく通そうと思います。あ、でも世界を支配したいとか大それたものは不可能ですが……」
「あ、身の丈に合わない希望を持つと身を滅ぼす感じのやつですね。ラノベやWeb小説でも読みました。男爵令嬢が王太子妃の座を欲してざまぁされるやつ。私そういうのは望んでいませんし」
王族になることは色々と大変そうなので興味はない江美里だ。
「それなら安心ですね。私がトラブル対応していた世界はまさにそのようなことが起こっていましたので。それで、希望の世界などはありますか?」
「うーん……。せっかくだしラノベやWeb小説でよくある中世ヨーロッパ風の異世界とかは可能ですか?」
今まで生きた世界とは別の世界を生きてみたいと思う江美里だ。
「ええ、もちろん。容姿や身分はどうします?」
「そうですね……」
江美里は考える。
身分が高すぎても大変そうであるが、逆に身分が低すぎても虐げられるのことがありそうなので大変そうだ。
「伯爵令嬢とかが丁度良いかも。見た目は……美人な方が嬉しいです。それと、前世の記憶はあるパターンで。知識チートとか出来そうですし」
「かしこまりました。その他に希望は?」
「後は……」
江美里は再び考える。
今までの人生を思い出しているのだ。
「……誰からも嫌われないことですね。私、校則とかルールとかを守ったり、親や先生から言われたことは素直に聞いて、それなりに勉強も頑張ったりして、数学のワークとか提出物もちゃんと期限内に提出して、自分なりに真面目に生きて来ました。人の悪口もそんなに言わなかったですし。でも、何故か友達だと思っていた子達から嫌われたり、悪口を言われたり、距離を置かれたしして……。私は特にその子たちに何か悪いことをした覚えはないのに……。それに、何か問題が起こった時、私なりに考えて頑張って動いたのに周りから怒られたりして……」
江美里は表情を暗くしながら女神に対してそう言った。
「それは……辛いですね」
「はい……。だから、次の人生では、絶対にそんな風に嫌われたり疎まれたり悪口を言われたくないんです。とにかく、不快な思いをしたくないんです。みんなから優しくされたい。王太子妃になって贅沢がしたいとかは願いませんから」
江美里はそう女神に懇願した。
「分かりました。江美里さん、貴女のその願い、次の人生で叶えましょう」
江美里の今までの人生に同情した女神は、江美里の願いを叶えることにした。
こうして、江美里は異世界転生し、新たな人生を始めるのであった。
◇◇◇◇
中村江美里が転生し、伯爵令嬢エミリー・ミドルソンとして生きてかなりの年数が経過した。もう江美里として生きた年数を超えている。
女神は江美里改めエミリーの様子を観察し、頭を抱えていた。
「私、もしかしてとんでもないモンスターの願いを叶えてしまったのかもしれないわ……」
女神はエミリーがどんな状況にあるのか定期的に彼女の様子を確認していた。
伯爵令嬢で容姿端麗、前世の記憶あり。そして、誰からも嫌われず不快な思いをしない。女神はエミリーが望んだことを叶えていた。
しかし、エミリーの周囲にその皺寄せが来たのだ。
確かにエミリーは人の悪口を言ったり嫌がらせをするなど故意に人は傷付けない。困っている人がいたら助ける善性を持っている。
しかし、無自覚なところで問題があったのだ。
エミリーは周囲の者達の精神的な余裕を無自覚に奪っていくタイプの人間だったのだ。
他人と会話をする時、エミリーは話題を提供せず話題は相手に提供してもらう。その癖、時々自分の話にすり替えて会話泥棒をする。
他人の話題で求められていないのに自分の意見はこうであると押し付ける。
自分が面白いと思ったものは皆面白いと感じると思い、相手の好みを無視しておすすめの本を読んでみてと押し付け感想を聞き出す。
相手の都合を無視して自分がやりたい前世の知識を用いた発明に協力してもらったり、相手の好みを無視して自分が好きなことを進めようとしたり、主催するのが面倒なので自分興味のあるお茶会やサロンを相手に開催させて自分は楽しむだけだったりする。
何かトラブルが起こった時に、自分なりに考えてはいるが見当違いの行動をしてしまう。
気を遣うことが苦手なようで、仲間同士でお互いに気を遣い合って出来た居心地の良さにタダ乗りをしている。
要するに、エミリーは無自覚な隠れテイカーだったのだ。
これは前世からそうである。
前世はそのせいで周囲から嫌われたり疎まれたりしたのだ。
エミリーとして生きる今世では、女神の計らいでエミリーは決して不快な思いをせずに済むようになっている。
それは、女神の力で皆エミリーへの不満や悪口を言えなくなっていたのだ。
いくらエミリーに不満があってもそれを口に出来ない。
エミリーを拒否することは出来ない。
エミリーへの嫌がらせなど言語道断。
周囲はエミリーに対するストレスを内側に抱え込むしか出来ない。
そして、エミリーに対するストレスが溜まりに溜まり、精神を壊してしまう者が多発したのだ。
精神を壊してしまった者達の中には、自殺者も少なくない。
それでも女神の力が働き、エミリーには優しくしないといけないし離れようとしても離れることが出来ない。
おまけに優しく注意したらエミリーはきちんと謝ってそれなりに聞いてくれるので余計にタチが悪い。
「エミリーさんの寿命はまだ長いし、また勝手にエミリーさんの人生を終わらせてしまうと色々と歪みが出てしまう……。ここで私の力を解除してもエミリーさんとの契約違反になって、世界は悪い方向に歪んでしまうわ……。どうしたら良いのかしら……?」
女神は盛大なため息をつき、再び頭を抱えるのであった。
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隠れテイカー、厄介ですよね。
距離を取れるのであれば取りたいですし、自分もそうならないように注意しなければ。




