第47話 砂海を裂く者と、残された“同じ紋様”
――砂の国、深層遺構。
静寂が、重く沈んでいた。
先ほどまで響いていた戦闘音は消え、
残っているのは、崩れた石と、
砂に埋もれた魔物の残骸だけ。
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槍の男は、倒れていた。
白銀の騎士によって砕かれた鎧。
蒼光を失った長槍。
それでもなお、地面を掴もうとする指。
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「……なぜだ……」
かすれた声。
「この力は……
あの方に与えられた……完璧な……」
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最後まで、言葉にならない。
意識が途切れ、
男の手が静かに落ちた。
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沈黙。
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レインは、何も言わずに立っていた。
勝利の実感はない。
ただ――
確信だけが残っている。
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(これは……ただの支配じゃない)
(誰かが、意図して力を配っている)
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そのときだった。
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――ズン……
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深層のさらに奥。
砂の下で、
巨大な何かが脈打った。
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空気が変わる。
冷たい。
重い。
まるで――
ダンジョンそのものが呼吸しているような感覚。
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崩れた石柱の陰。
鎖に繋がれていた囚人たちが、顔を上げた。
その瞳に浮かぶのは――
理解ではなく、絶望。
「……来た……」
誰かが、掠れた声で呟く。
「終わりだ……
あれが出たら……もう……」
震える少女が、必死に首を振る。
「だめ……逃げて……」
その視線は、レインへ向けられていた。
「あなたでも……無理……」
「ここにいたら……
みんな……死ぬ……」
――死を覚悟した声だった。
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視聴者:5,284
【今の音なに】
【まだ終わってない?】
【ボス残ってる系?】
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レインは静かに目を細める。
「……来るか」
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次の瞬間。
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砂海が――割れた。
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地面ではない。
空間ごと裂けたような歪み。
そこから現れたのは、
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砂の竜。
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都市を呑める巨体。
鱗ではなく、流動する砂の装甲。
眼光は、赤ではない。
――無機質な白。
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視聴者:5,361
【デカすぎて草】
【これ無理ゲー】
【さっきのより格上】
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竜が咆哮する。
音ではない。
圧力。
遺構の壁が砕け、
天井が崩れ、
世界そのものが沈み込む。
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だが。
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レインは、動かない。
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静かに――
指を下ろした。
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紋様が広がる。
ひとつ。
ふたつ。
幾重にも重なる円環。
既存の遺構を侵食し、
構造そのものを書き替えていく。
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【来た来た来た】
【主人公ターン】
【ここから本番】
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床が反転する。
壁が再構築される。
重力の向きすら変わる。
深層遺構は――
一瞬で、レインの生成ダンジョンへ組み替えられた。
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竜が突進する。
その進路に、
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奈落が開いた。
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落下。
数百メートル。
だが竜は、空中を泳ぐように浮上する。
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【飛ぶの反則】
【どうすんのこれ】
【詰みでは?】
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次の瞬間。
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奈落の壁面すべてが――
牙に変わった。
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生成された無数の捕食獣。
同時に噛みつく。
砂装甲が砕け、
巨体が止まる。
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そこへ。
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白銀の騎士、落下。
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重力加速。
極限の一閃。
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――断裂。
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竜の首が、
静かにずれた。
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一拍遅れて。
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崩壊。
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砂の巨体は形を保てず、
渦を巻きながら奈落へ沈む。
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視聴者ה者:5,742
【勝ったあああ】
【爽快すぎる】
【今の何回見ても気持ちいい】
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静寂が戻る。
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完全な勝利。
――のはずだった。
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レインの視線は、
奈落の底ではなく、
竜が現れた裂け目へ向いている。
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「……違うな」
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近づく。
砂の奥、
空間の歪みの中心。
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そこにあったのは――
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紋様。
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見覚えがある。
忘れるはずがない。
それは、
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自分の生成ダンジョンと、同系統の構造。
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だが。
決定的に違う。
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歪んでいる。
侵食的。
まるで――
奪うための生成。
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視聴者:5,913
【なんか模様ある】
【ダンジョンの核?】
【嫌な予感しかしない】
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レインは触れない。
ただ、静かに見つめる。
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(……いるな)
(俺と同じ力を持つ誰かが)
(しかも――敵側に)
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砂が崩れ、
紋様はゆっくりと消えていく。
証拠を残さないように。
まるで最初から、
観測されないことを前提に作られていたかのように。
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レインは小さく息を吐いた。
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「……面白くなってきた」
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視聴者:6,084
【その台詞つよ】
【絶対ヤバい敵いる】
【続きはよ】
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崩れた遺構の上。
レインは振り返らず、歩き出す。
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砂の国の夜は、まだ深い。
だが――
物語は確実に、
次の段階へ進み始めていた。
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(第47話・完)




